8 ヨワリメニタタリメ
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あくびをしながら靴を履き替える。寝不足だ。
一昨日、二口くんと別れてから、ずっと考えている。
あれは……。改めて考えてみたらデートそのものだ。二口くんが私にしてくれたことを思い出すと顔から火が出そうになる。
私は、何で、あんなに平静にいられたんだろう。今日二口くんと顔を合わせて普通でいられるんだろうか。全く自信が持てない。
恐る恐る教室に入る。二口くんの席は空いている。とりあえず彼がまだいないことにほっとして、小声で挨拶をして自分の席につく。
「うぃーっす」
前の入口から二口くんの声が聞こえる。
いつもなら、私はそっちに目線をやって、それに気づいてくれれば二口くんが笑顔で挨拶をしてくれる。
でも、すっかりルーティンになってしまったその『二口くんの方を見る』という行動すら私はできなかった。
どうしよう、思ったその時、
「二口~。駅前、一緒に歩いてたの誰だよ」
「そーだ、俺たち見たぞー」
登校した二口くんをクラスメイトが囲む。一瞬ドキっとした。私、土曜に駅前を二口くんと一緒に歩いていたから。
「そうそう、あのキレーなおねーさん!」
「は? 俺、姉さんいねーけど?」
恐る恐るそちらを見ると、二口くんがきょとんとしている。お姉さん?『誰だよ』って言われてるってことは、私じゃない人のことだ……。
「彼女かよ?」
クラスメイトのその言葉に胸がズキッとする。
でも、その言葉に二口くんは心当たりがあるようで「ああ、」と言うと口角を上げた。
「違うよ、今は」
「今はって!」
「あんな美人のおねーさん、どこで知り合うんだよ!」
「二口に聞いてもしょうがない、イケメンには逆ナンっていう飛び道具がある」
「くっそー! イケメンムカつく!」
「出会いを! 工業男子に出会いをーー!!」
両腕にまとわりついて嘆く二人をうるさ気な顔で見やると、二口くんは、
「ちげーよ」
と笑って言い放つ。そして突然、
「なー結城?」
と、私にふってきた。
「え……」
突然のフリにドキっとする。私に同意を求めるってことは私も知ってる? ……あの後二口くんは用事があるって言った。ってことは、あの後会った人のことか。まあまあな私とは違う。キレイなお姉さんとデートか……。
「うん……」
曖昧に笑って頷くと、二人はぽかんとしながら私と二口くんを交互に見た。
「何だよ、何がだよ二口」
「え? 結城も知ってんの?」
二口くんは自分の席につくと、机の上で手を組んで不敵に笑う。
「キレーなおねーさんは、自分で見つけるんだよ」
二人は一瞬あっけにとられた後、二口くんに掴みかかった。
「ンなの、どこで見つけんだよ!」
「部活か! バレー部行けば見つかるのか!」
「さあ? 意外と近くにいるんじゃねぇの?」
ニヤリと笑いながら二人とじゃれ合う二口くんにずきずき胸が痛む。その光景をこれ以上見ていられなくて、そっと立ち上がり教室を出る。別に取りに行くものはないけれど、ロッカーにでも行って授業開始まで時間をつぶそうかな、と思った。
◇◇◇
結城の名札がついた自分のロッカーの扉に額をつける。ひんやりとした金属の熱が自分のささくれた心を落ち着かせてくれるような気がする。
自分の中にこんな感情が生まれているのが驚きだった。
立花さんの『仲良くなった子、みんな二口を好きになるよ』という言葉が突き刺さってくる。
呪いのように。今さらになって。
『二口は誰にでもそうだから、勘違いしない方がいーよ』
……。私、勘違いしそうになっていたのかも。
軽く痛くない程度に頭をロッカーに打ちつける。ゴン、と乾いた音が静かな廊下に響いた。
「……何やってんだよ」
頭上から思いもよらぬ声。
びっくりして顔を上げると、いつの間にかそこにいた二口くんが呆れたような目で私を見ていた。
今いちばん会いたくない人。
「……ちょっと、ロッカーから……取りたいのがあって」
「手ぶらじゃん」
「………」
私の苦しい言い訳を見透かす二口くんから目を背ける。
ロッカーを後にして廊下に出る。後ろから足音がついてくる。どうしたらいいのかわからなくなって、教室と逆方向に曲がった。
「そっち、教室じゃねーよ」
「……知ってる」
そう言いながらも二口くんはそのまま私の後をついてくる。
始業のベルが鳴った。廊下にはもう誰も出ていない。このままだと私たちは1限サボりになってしまう。
でも、私は……。
「結城、俺のこと、避けてる?」
「……そ、んなことないよ」
図星をさされて、否定の声が震えているのがわかる。
「……どこ、行くんだよ」
私はそれには答えず無言のまま、人の気配のない体育館の方へ向かった。
一昨日、二口くんと別れてから、ずっと考えている。
あれは……。改めて考えてみたらデートそのものだ。二口くんが私にしてくれたことを思い出すと顔から火が出そうになる。
私は、何で、あんなに平静にいられたんだろう。今日二口くんと顔を合わせて普通でいられるんだろうか。全く自信が持てない。
恐る恐る教室に入る。二口くんの席は空いている。とりあえず彼がまだいないことにほっとして、小声で挨拶をして自分の席につく。
「うぃーっす」
前の入口から二口くんの声が聞こえる。
いつもなら、私はそっちに目線をやって、それに気づいてくれれば二口くんが笑顔で挨拶をしてくれる。
でも、すっかりルーティンになってしまったその『二口くんの方を見る』という行動すら私はできなかった。
どうしよう、思ったその時、
「二口~。駅前、一緒に歩いてたの誰だよ」
「そーだ、俺たち見たぞー」
登校した二口くんをクラスメイトが囲む。一瞬ドキっとした。私、土曜に駅前を二口くんと一緒に歩いていたから。
「そうそう、あのキレーなおねーさん!」
「は? 俺、姉さんいねーけど?」
恐る恐るそちらを見ると、二口くんがきょとんとしている。お姉さん?『誰だよ』って言われてるってことは、私じゃない人のことだ……。
「彼女かよ?」
クラスメイトのその言葉に胸がズキッとする。
でも、その言葉に二口くんは心当たりがあるようで「ああ、」と言うと口角を上げた。
「違うよ、今は」
「今はって!」
「あんな美人のおねーさん、どこで知り合うんだよ!」
「二口に聞いてもしょうがない、イケメンには逆ナンっていう飛び道具がある」
「くっそー! イケメンムカつく!」
「出会いを! 工業男子に出会いをーー!!」
両腕にまとわりついて嘆く二人をうるさ気な顔で見やると、二口くんは、
「ちげーよ」
と笑って言い放つ。そして突然、
「なー結城?」
と、私にふってきた。
「え……」
突然のフリにドキっとする。私に同意を求めるってことは私も知ってる? ……あの後二口くんは用事があるって言った。ってことは、あの後会った人のことか。まあまあな私とは違う。キレイなお姉さんとデートか……。
「うん……」
曖昧に笑って頷くと、二人はぽかんとしながら私と二口くんを交互に見た。
「何だよ、何がだよ二口」
「え? 結城も知ってんの?」
二口くんは自分の席につくと、机の上で手を組んで不敵に笑う。
「キレーなおねーさんは、自分で見つけるんだよ」
二人は一瞬あっけにとられた後、二口くんに掴みかかった。
「ンなの、どこで見つけんだよ!」
「部活か! バレー部行けば見つかるのか!」
「さあ? 意外と近くにいるんじゃねぇの?」
ニヤリと笑いながら二人とじゃれ合う二口くんにずきずき胸が痛む。その光景をこれ以上見ていられなくて、そっと立ち上がり教室を出る。別に取りに行くものはないけれど、ロッカーにでも行って授業開始まで時間をつぶそうかな、と思った。
◇◇◇
結城の名札がついた自分のロッカーの扉に額をつける。ひんやりとした金属の熱が自分のささくれた心を落ち着かせてくれるような気がする。
自分の中にこんな感情が生まれているのが驚きだった。
立花さんの『仲良くなった子、みんな二口を好きになるよ』という言葉が突き刺さってくる。
呪いのように。今さらになって。
『二口は誰にでもそうだから、勘違いしない方がいーよ』
……。私、勘違いしそうになっていたのかも。
軽く痛くない程度に頭をロッカーに打ちつける。ゴン、と乾いた音が静かな廊下に響いた。
「……何やってんだよ」
頭上から思いもよらぬ声。
びっくりして顔を上げると、いつの間にかそこにいた二口くんが呆れたような目で私を見ていた。
今いちばん会いたくない人。
「……ちょっと、ロッカーから……取りたいのがあって」
「手ぶらじゃん」
「………」
私の苦しい言い訳を見透かす二口くんから目を背ける。
ロッカーを後にして廊下に出る。後ろから足音がついてくる。どうしたらいいのかわからなくなって、教室と逆方向に曲がった。
「そっち、教室じゃねーよ」
「……知ってる」
そう言いながらも二口くんはそのまま私の後をついてくる。
始業のベルが鳴った。廊下にはもう誰も出ていない。このままだと私たちは1限サボりになってしまう。
でも、私は……。
「結城、俺のこと、避けてる?」
「……そ、んなことないよ」
図星をさされて、否定の声が震えているのがわかる。
「……どこ、行くんだよ」
私はそれには答えず無言のまま、人の気配のない体育館の方へ向かった。