5 ワタシノメガクロイウチハ
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実習での力仕事はいつもクラスメイトに手伝ってもらってるから、後片付けは率先してやるようにしている。これぐらいはやらせてほしい。
でも、八班分の片付けを一人でやるのは流石に骨が折れる。今日の実験は使用する器具がいつもより多かった。クラスメイトのほとんどはホームルームに戻ったようだ。
休み時間に入るチャイムが鳴る頃、ようやく全ての器具の洗浄が終わった。後は一気にすすぎだ。
「これ、端から拭いてったらいい?」
振り返ると小首を傾げて立花さんが立っている。
「あ、うん。お願いします」
「敬語じゃなくていーよ。クラスメイトなんだし」
「うん……」
置いてある布巾をつまみ上げて彼女はビーカーの水気を吸い取らせていく。
『敬語使わなくていいよ』は私にとってちょっと困る。慣れてくれば勝手に取れるんだけど、意識して取るとわざとらしくなってしまう。
そういえば、少し前にも二口くんに言われた。その時も外し方がおかしくて、二口くんに直されたっけ。
「結城さん、さ、二口には敬語使うのやめたよね」
「え」
「二口に言われた?」
考えていたことを読んでいたかのように言葉を続ける立花さんにぎょっとする。
二口くんに敬語を使わなくなったのは、そうしないとメガネを返してくれなかったからだ。最初はそう言われたから無理に直したけど、その後は自然に外れていった気がする。
二口くんに私が慣れてきたってことなんだろうか。
「うん……」
その後のやり取りを思い出し、最低限に肯定しておく。なんとなく、その時のことを人に話すのはイヤだった。だからといって他の話題はない。
話を広げない私に不満だったのか、立花さんは一つため息をつくと、
「最近二口と仲いいよね。何がきっかけ?」
と、さらに聞いてくる。……探りを入れられている感じが少し嫌だ。
「メガネを拾ってもらっただけで……、仲がいいわけじゃないよ」
敬語にならないよう気をつけながら話す。
心の中がもやもやする。こんなこと言わなくちゃいけないのかな。言ってしまった後で隠しておけば良かったと後悔した。
立花さんは、納得したように口角を上げてうなずく。
「そっか。いつもの気まぐれか。結城さん浮いてるし自分から話しかけるってタイプじゃないもんね」
「……」
棘のある言葉だった。明らかに私へ敵意が向けられている。
鈍い私でもさすがにわかる。これは二口くんへの私に対しての牽制だ。
でも私は、二口くんの行動を気まぐれと言われたことよりも『浮いている』という評価に傷ついた。自分なりに、授業や実習では溶け込もうと努力しているけれど、他人からはそうは見えないのか。男子の中の少ない女子だから仕方ない、と自分の中で言い訳している部分を突かれた気がした。
私がダメージを受けているのが目に見えたのか、彼女の口元が嬉しさを隠せない形に歪む。
「二口は誰にでもそうだから、勘違いしない方がいーよ」
「勘違い?」
「そ。自分のこと好きかもとか、そういうの」
「ああ」
見当違いの追撃に一瞬戸惑う。
そういうことか。そういう勘違いはしていない。私はまだ、二口くんのことよりも自分のことを優先しているみたいだ。
でも『誰にでもそう』ってことを私にやってくれるまでは仲良くなれた、という風には思っていいのかもしれない。
それなら、それでいいか。
「それは大丈夫」
私がへこんだのはそっちではないから。
「そう?」
念を押す彼女に笑顔を見せると、立花さんはわけがわからないという顔をした。
ふと疑問がわいた。私と二口くんのことを、私より二口くんと仲のいい立花さんはどう思ったんだろう。
「そうだけど……立花さんはそう思ったの?」
疑問をそのまま告げると彼女は一瞬言葉をのんだ。
「私は……っていうより、二口と仲良くなった女子、皆ヤツを好きになるからさ、忠告?」
作り笑いを浮かべて彼女は言う。
それは……。立花さんはそこに自分自身が含まれていることに気づいてるんだろうか。
でも確かに。稲光を私に見せないようにしてくれた二口くんは優しかったし、ドキドキもした。好きになるきっかけになるかもしれない。
「そうなんだ。……優しいからね、二口くんは」
思いつくままにそう言うと、立花さんはびっくりした顔をしていた。
何が彼女を驚かせたのかわからなくて首をかしげると、すっと視線を逸らされる。
「……『くん』はつけるんだね、変なの」
そう言ったきり、立花さんは無言でビーカーを拭き続けた。
でも、八班分の片付けを一人でやるのは流石に骨が折れる。今日の実験は使用する器具がいつもより多かった。クラスメイトのほとんどはホームルームに戻ったようだ。
休み時間に入るチャイムが鳴る頃、ようやく全ての器具の洗浄が終わった。後は一気にすすぎだ。
「これ、端から拭いてったらいい?」
振り返ると小首を傾げて立花さんが立っている。
「あ、うん。お願いします」
「敬語じゃなくていーよ。クラスメイトなんだし」
「うん……」
置いてある布巾をつまみ上げて彼女はビーカーの水気を吸い取らせていく。
『敬語使わなくていいよ』は私にとってちょっと困る。慣れてくれば勝手に取れるんだけど、意識して取るとわざとらしくなってしまう。
そういえば、少し前にも二口くんに言われた。その時も外し方がおかしくて、二口くんに直されたっけ。
「結城さん、さ、二口には敬語使うのやめたよね」
「え」
「二口に言われた?」
考えていたことを読んでいたかのように言葉を続ける立花さんにぎょっとする。
二口くんに敬語を使わなくなったのは、そうしないとメガネを返してくれなかったからだ。最初はそう言われたから無理に直したけど、その後は自然に外れていった気がする。
二口くんに私が慣れてきたってことなんだろうか。
「うん……」
その後のやり取りを思い出し、最低限に肯定しておく。なんとなく、その時のことを人に話すのはイヤだった。だからといって他の話題はない。
話を広げない私に不満だったのか、立花さんは一つため息をつくと、
「最近二口と仲いいよね。何がきっかけ?」
と、さらに聞いてくる。……探りを入れられている感じが少し嫌だ。
「メガネを拾ってもらっただけで……、仲がいいわけじゃないよ」
敬語にならないよう気をつけながら話す。
心の中がもやもやする。こんなこと言わなくちゃいけないのかな。言ってしまった後で隠しておけば良かったと後悔した。
立花さんは、納得したように口角を上げてうなずく。
「そっか。いつもの気まぐれか。結城さん浮いてるし自分から話しかけるってタイプじゃないもんね」
「……」
棘のある言葉だった。明らかに私へ敵意が向けられている。
鈍い私でもさすがにわかる。これは二口くんへの私に対しての牽制だ。
でも私は、二口くんの行動を気まぐれと言われたことよりも『浮いている』という評価に傷ついた。自分なりに、授業や実習では溶け込もうと努力しているけれど、他人からはそうは見えないのか。男子の中の少ない女子だから仕方ない、と自分の中で言い訳している部分を突かれた気がした。
私がダメージを受けているのが目に見えたのか、彼女の口元が嬉しさを隠せない形に歪む。
「二口は誰にでもそうだから、勘違いしない方がいーよ」
「勘違い?」
「そ。自分のこと好きかもとか、そういうの」
「ああ」
見当違いの追撃に一瞬戸惑う。
そういうことか。そういう勘違いはしていない。私はまだ、二口くんのことよりも自分のことを優先しているみたいだ。
でも『誰にでもそう』ってことを私にやってくれるまでは仲良くなれた、という風には思っていいのかもしれない。
それなら、それでいいか。
「それは大丈夫」
私がへこんだのはそっちではないから。
「そう?」
念を押す彼女に笑顔を見せると、立花さんはわけがわからないという顔をした。
ふと疑問がわいた。私と二口くんのことを、私より二口くんと仲のいい立花さんはどう思ったんだろう。
「そうだけど……立花さんはそう思ったの?」
疑問をそのまま告げると彼女は一瞬言葉をのんだ。
「私は……っていうより、二口と仲良くなった女子、皆ヤツを好きになるからさ、忠告?」
作り笑いを浮かべて彼女は言う。
それは……。立花さんはそこに自分自身が含まれていることに気づいてるんだろうか。
でも確かに。稲光を私に見せないようにしてくれた二口くんは優しかったし、ドキドキもした。好きになるきっかけになるかもしれない。
「そうなんだ。……優しいからね、二口くんは」
思いつくままにそう言うと、立花さんはびっくりした顔をしていた。
何が彼女を驚かせたのかわからなくて首をかしげると、すっと視線を逸らされる。
「……『くん』はつけるんだね、変なの」
そう言ったきり、立花さんは無言でビーカーを拭き続けた。