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「ホント変わんないよねぇ」
思わずこぼれたそれにたいした意味はなかった。澄み渡る青い空。帝都を覆う結界魔導器。噴水の近くでひなたぼっこをするラピード。税金徴収に来た騎士団と揉めるあいつ。そういうのを全部ひっくるめて出た感想で、特段意味はなかったのだ。
「何がだよ」
「ユーリも変わんないよね。騎士団辞める前も後も」
「そういうナマエはちょい変わったよな、髪型が」
「見た目の話してないから」
下町は変わらない。退屈そうに欠伸をしたユーリも変わらない。いつだってそこに変わらない日常があって、変わらない毎日を生きていくんだろう。今までもこれから先もずっと。
「冗談だよ。…………んで、おまえは本気でそう思ってんの?」
頬杖をついたユーリはひとりごとのようにぽつりと呟いた。一瞬何のことかわからなかったけど、問の答えはすぐに見つかった。さっきと同じくたいした意味を持たせないまま変わらないよ、と繰り返した。
「今だってテッドがユーリのこと探してるのわかっててコソコソしてんでしょ」
「オレじゃ助けられそうもなくてな。いやぁ力になれないのが心苦しいぜ」
「その憎まれ口も変わんないね。ユーリのへそ曲がりはいつになったら治るのやら」
やれやれなんて呆れた風を装って、テーブルにぐったりと身体を預けるユーリを見る。少し長い前髪の隙間からやってくる気怠げな視線。突き放すようで受け入れてくれる不思議な距離感。いつもだったらそれが待っていて、やっぱユーリは素直じゃないなぁ、ほっとけ、なんて軽口を言いあってるはずだった。
「それ、ナマエがそう思いたいだけだろ」
けど、そこには何もかも見透かすような黒紫の瞳が並んでいた。からかってるわけでもふざけてるわけでもない。静かに私を見つめるユーリは、ぜんぜんいつものユーリじゃないみたいだった。
「なに、急に…怒ってるの?」
何となく落ち着かなくて、でも身長は結構伸びたよねーって茶化してみた。まだ私のノリに合わせてくれるんじゃないか。様子がおかしいって思うのも気のせいだったんじゃないか。…なんて甘い期待は、口をへの字に曲げたユーリを見るなり打ち砕かれてしまった。
「変わらないモンなんてねえよ。オレらが騎士団入っておまえが変わったように、オレだって変わるんだよ」
がたん、と鳴った音がユーリが身体を起こしたからだと気づいたときにはもう遅くて、距離を取る暇もなくユーリが目の前に立っていた。すらっと高い身長にしなやかな体躯、どこを取っても見慣れたユーリで、いつもより余裕がなさそうな表情だけが違った。
「変わった?私が…?」
突然ユーリの態度が変わった意味も、ユーリの言葉の意味も、今の私にはぜんぜんわからない。ふたりが騎士団に入る前から私は何も変わらない、変わらずずっと下町で暮らしていて、ふたりのように下町を支えている。あの頃から何も変わらない。変わらないはず、なのに。じっと見てくるユーリの目に、胸の奥がざわざわして落ち着かなかった。
「自覚ねえんだろうけどナマエは変わったよ。もちろんオレもな。………わからねえってんなら、わかるようにやるだけだ」
ひらひらと手を振ったユーリが離れていく。その背が記憶の中のユーリと重なった。身長は私と変わらなくて、髪だって肩くらいのころのユーリ。昔から先頭切って歩くのはユーリたちで、困っていれば手を差し伸べてくれて、他の誰よりも下町のことを考えていた。私もそうなりたかった。ふたりに頼りきりは嫌だった。ふたりがいなくなった下町で、ふたりの真似事のようなことをして、それで。
「…………変えたくないよ」
ふたりのいない下町が、怖かっただけだった。
◆
「だーから何度も言わせんなって。ナマエが好きだって言ってんだろ」
そんなセリフが聞こえてきたのは、箒星に入ってすぐのことだった。
「えー!?マジのガチ?」
「マジガチだよ。んなことで嘘ついてどうすんだっつの」
「いやー、まさかユーリがそこ狙うとは思わなくて」
「ま、そういうことだから。そこんとこよろしく」
なっ。
カウンター席で身をよじったユーリと目が合う。ばちっと視線が絡んだ瞬間、ユーリはにっと口端を上げた。さっきまで好き勝手な話し声が飛び交っていたのに、私を見るなりあちこちでヒュ〜と謎の歓声が上がる。ものすごく、あからさまに、私に見せつけるようなそれにムッとして、あいたカウンター席にどかっと腰を下ろした。
「ユーリはもっとわきまえてるタイプだと思ってたよ」
「わきまえる?オレじゃおまえにゃつり合わねえってか」
「あのねぇ……。イジっていい範囲というか、超えちゃいけないラインというか、そういう区別のつく大人だと思ってたってことだよ」
デリケートな話題を軽々しくネタにするの良くないよ。
いたって冷静に、淡々とそう伝える。ぽかんとした顔のユーリは、隣に座るジルドや女将さんと顔を見合わせてふるふると首を振った。
「誰が誰をネタにしたって?」
「だから、ユーリたちが私を」
「オレは本気だよ」
またそうやってユーリは。人の気も知らないで、度を超えた意地悪は最低だよ。そう言いかけて、言葉が喉の奥でほどけた。目の前のユーリの瞳が、思っていたよりずっと真剣だったから。賑やかなはずの店内で、皿のぶつかる音がやけに響いて聞こえる。
は、なんで、なんでそんな顔するの。だってこんなの冗談なのに。はい騙されたってイジられるだけなのに。ありえないのに。どうして。言いたいことは山ほどあったのに、何ひとつ言葉になってくれない。なんにも言えないままユーリから目が離せないでいると、ユーリはふっと表情を崩した。
「いいんだよ。おまえはおまえのペースで。オレも好きなようにやるさ」
「え…………」
どういう意味、と聞き返したかったのに「これが日頃の行いってやつだね」と笑い飛ばした女将さんに、すかさず「うっせ」と返すユーリにタイミングを見失った。そのまま振られてやんの。まだ振られてねえ。俺は最近振られた。ざまぁ。なんて話が脱線していく。やり場のない気持ちを持て余したままユーリの横顔を盗み見る。涼しい顔しちゃって、腹立つ。こっちの視線に気づいたのか、ユーリは何でもない風に「どうした?」なんて声をかけてきた。
「飯食いに来たんだろ?ナマエもなんか頼めって」
「……ん、そうだね」
すっと差し出されたメニュー表を反射的に受け取る。正直食べるものを選んでる場合じゃない。メニュー表に並んでる文字が文字じゃないみたいに読めなかった。けど、ユーリのペースに呑まれるのも何だか癪で、私も何でもない風に「マーボーカレーひとつ!」と注文をする。何がおかしいのかユーリは笑っていた。今まで見たことないくらい柔らかい笑み。それがどうにも落ち着かなくって、メニュー表を返すついでにユーリを小突いておいた。
やっぱりユーリは笑っていた。つられた私も笑い返していた。
◆
「ねぇナマエ!ユーリ見なかった?見かけたらお店来てって言って!」
開けっ放しの窓越しに聞こえる声。通りすがりにそう言うと、声の主はバタバタと慌ただしく去っていった。またユーリが意地悪してるんだろうなぁ、とどこぞでフラフラしてるであろうユーリの姿を思い浮かべながら、ちゃちゃっと身支度を整える。さっき直したばかりの扉に手をかけ、外へ出た…つもりだったけど、何かが邪魔をして開かなかった。
「ラピード、いるんでしょ?ちょっと通らせて」
「………………」
無視された。しぶしぶといった様子でラピードが立ち上がる気配がして、扉にかかる重圧も消える。少しズレて丸まったラピードにありがと、と伝えると、耳がちょこんと動いた。
「ついでにユーリ知らない?」
「…………フン」
今度はシッポをびたんとされた。知らないらしい。ユーリとラピードが一緒じゃないってことは、騎士団と揉めたんじゃないんだろう。そういうのを見過ごせるわけがない。…ま、ユーリのことだから、気分が乗らないとかオレには関係ないとか、そんな感じで突っぱねたんだろうけど。そんで裏で解決しようと奔走するんだ、どうせ。
「まったくユーリは…」
そうぼやいてみたけれど、どこかほっとした気持ちになるのはどうしてだろう。あんまり考えたくないと思うのは、考えてもどうせわからないことだし、箒星でのやり取りを思い出しそうで嫌だったから。あの日のユーリがおかしかったのもこの気持ちも、ぜんぶぜんぶ気のせいだ。気のせい。無理やりそう結論づけて頭の中から追い出した。
「あ、ナマエ。ちょうどいいところに。ちょいと手伝っておくれよ」
いつの間にか箒星まで来ていたらしい、コンテナを抱える女将さんが見えた。店先に積み重なったそれには酒瓶やら食材やらが詰まってるんだろう。たぶんユーリが探されてる理由はこれだ。何が裏で解決しようと奔走するだ、ぜんぜんしてないわ。いや今のはイマジナリーユーリだけども。
すぐにわかった、と返して、一番重そうなやつに手を伸ばした───
「よっと」
けど、何も掴めなかった。
「…ユーリ、何でここにいるの」
コンテナを奪ったそいつは、顔色ひとつ変えずに軽々と持ち上げてみせた。
「そういうおまえこそ、今までどこにいたんだよ」
ま、とりあえず店入ろうぜ。そう言うとユーリは先に行ってしまった。こういう役回りに慣れてたせいか、何となく手持ち無沙汰な気分になる。突然立場を奪われるとこんな気持ちなのかなぁ、とぼんやり思った。そりゃあユーリが来てくれて助かってるけど、なんか違うと言うか。落ち着かないというか。いつものユーリだし、だいたいこんな感じのはずなんだけど。
「ナマエ、何やってんだよ。早く来いって」
そうこうしてるうちにユーリは二往復目に入ったらしい。今度はコンテナをふたつ積んで持ち上げていた。さっきと同じく顔色を変えずに、ひょいと持ち上げられたコンテナからは重力が消えたみたいだった。私じゃきっとああはならない。多少は踏ん張りが必要で、持てる数にも限りがあって、ユーリより早く体力を消耗するのかもしれない。そういうのを考えると、何だかこう…
「どうした?疲れたのか?オレがやるから休んでろって」
…違う。前だったら『もうギブか?威勢の割にたいしたことなかったな』みたいなわざとらしい挑発をしてきたはずなのに。なのに、今のユーリはまるで。
「……大丈夫。ありがとう。持てるから一個ちょうだい」
「オレのをか?他にもあんだろ」
怪訝そうな顔のユーリに「ユーリのがいい」と指差した。見渡せば積み上げられたコンテナがあるのだから、めちゃくちゃなことを言ってる自覚はある。それでも結局ユーリが折れて「ほらよ」とひとつ分けてくれた。さっきのよりも軽い、だけどしっかりとした重量感があって、これをあともうひとつ積んで持ち上げれるかは考えるまでもなかった。
「ドア、直してから来たんだろ?あんまし無理すんなって」
「…何で知ってるの?」
「オレ、天才だから。ナマエのことなら何でもわかるんだよ」
「それ天才と関係ないし」
はは、と軽く受け流したユーリはラピードに聞いたんだよ、とすぐにネタばらしをした。そういえば、と遡るほどでもない記憶の中に思い当たるのがあった。考えてみればラピードはずっとあそこにいて、私が出てくるのを待っていたのかもしれない。それって、それってつまり、ユーリもラピードも私を気にかけてるってことで。ユーリは何だかんだみんなを気にかけてるけど、今回のはちょっと違くて、ユーリらしくないストレートな気遣いで、それってつまり。
「………なんだよ。緊張するからやめろって」
ふいと顔を背けたユーリの頬も耳も赤かった。そこではじめてじっと見ていたことに気がついて、思い出したように私の両頬も熱を帯びる。ユーリがあんな顔するなんて、絶対おかしい。いつものユーリじゃない。でも、そんなことよりも何かよくわかんないけど超恥ずかしい!
そう思いながらお店の扉を開けたら、女将さんに「なんだいふたりして!初々しいね!」とからかわれてしまった。
ちら、とユーリを見たら、同じように赤い顔で私を見ていて、余計恥ずかしくなった。
◆
あの日、ユーリとフレンが騎士団に入団した日、私はふたりの背中が見えなくなるまで眺めていた。まだそこにいる気がして、下町に帰ってからもふたりの気配を探していた。もういるはずがないってわかってても、ひょっこり顔を出してくれるじゃないか、なんて淡い期待をして町中歩き回った。やっと現実を噛みしめたのは、すっかり日が落ちて足が震えだしてからのことだった。とうとう歩けなくなって箒星に転がり込むと、女将さんは寂しそうに笑っていた。
ふたりはもういない。帝国を変えるために行ってしまった。これからは、ふたりがいない下町を生きていくんだ。
ずしんと重くのしかかってきた現実は、ちっぽけな私ごと押し潰しそうな勢いだった。
私は、ユーリとフレンに頼りきりだったのだと、気付かされてしまった。
「ナマエ……」
女将さんの顔がぐしゃりと歪む。頬をあたたかいものが伝っていく感覚がして、ああ…私が泣いたから歪んだんだ、と遅れて気がついた。いつも肝心なことに気づくのは後からだ。剣を取って騎士団に入団したふたりとは違う、変わってほしいと願いながら、本気で変える気なんてなかったんだ。泣く資格なんてないのに、止めようとすればするほど視界は霞むばかりだった。
「ナマエおねえちゃん。だいじょうぶ?」
「これあげるからなかないで?」
くい、と腕を引かれる感覚がして、ぐしゃぐしゃの顔のまま振り向いた。そこには、私よりもはるかに小さい子たちが、私よりもずっとずっと誰かを気遣おうとする姿があった。
「しゃがんで。トクベツにいいこいいこしてあげるね」
言われるがまましゃがみこむと、頭上でやわらかい手の感触がした。いいこいいこ、と優しく唱えるその子たちを、小さくて頼もしい身体を、負けじとぎゅうっと抱きしめる。
そして誓った。ふたりがいない下町じゃなくて、ふたりがいる下町を続けていく。変わらない毎日を私が作ってみせる。そのためにやることは決まっていた。
夜が明けて、最初にやったのは髪を切ることだった。身軽になりたかったのと、形から入った方が気分も乗りやすかったから。
「こりゃまた派手にイメチェンしたねぇ」
「あたままんまるになってる!」
周囲からの評価はこんなところだった。見た目ばかり変わったんじゃ意味がないから、今度はユーリとフレンが使い古した棒きれを手に取った。
「なんだぁ?そんなモン持ち出して、危ねぇぞ」
「ケガしたらどうすんだ?医者行く金なんてねぇぞ」
「いいなー!オレもオレも!」
みんなは口々にそんなことを言っていた。でもじっとしてられなかった。見よう見まねで棒きれを振り回したり叩きつけたりすると、前より疲れを感じにくくなった。少しくらいなら無茶もできそうだった。助けが必要そうならすぐに駆けつけて、荒事にも首を突っ込んでいく。
そうやって引き受けてるうちに、私が望む下町の光景がそこにあった。
「ナマエ!早く来て!窓が壊れちゃって開かないんだ!」
「ハンクスさんがぎっくり腰だって」
「うちの仕事も手伝ってよ〜」
少し外に出ればこんな調子で、あちこちから色んな声がかかった。腰にさした木刀をなぞりながら「わかった。今行くよ」と私はこたえる。この木刀はふたりの真似事。これがあればちょっとだけ強くなれた。…し、ふたりと一緒にいれるような気がした。
ふたりがいなくなっても、あの頃から何も変わらない日常がある。変わらない日常を守りたくて無我夢中だった。変わっていないと思いたかった。
けど、他の何よりも一番、私が変わっていたらしい。
“変わらないモンなんてねえよ。オレらが騎士団入ってお前が変わったように、オレだって変わるんだよ”
どこかからユーリの声がする。見えないように蓋をしていたのに、ユーリは容赦なくぶっ壊して現実を突きつけてくれちゃったのだ。
“だーから何度も言わせんなって。ナマエが好きだって言ってんだろ”
そうかと思えば、らしくない顔で似合わないセリフを言っていた。あのときは軽々しくネタにするな、なんて言ったけど、ユーリがそんな人じゃないことくらい私が一番わかってる。ただ、昔から素直じゃないとか、憎まれ役ばっかり買う不器用なとこがあるとか、そういう『変わらない一面』に私がしがみつきたかっただけなのかもしれない。
「……はぁぁぁ」
思わずこぼしたそれは、ユーリへのもやもやも自分の不甲斐なさも込めた重たいものだった。
「どうした。人生を憂うにはちょい早いんじゃねぇの?」
打って変わって軽い口調が返ってくる。相手はもちろんユーリで「せっかくの別嬪が台無しだぜ」とこれまたらしくないことを言っていた。思わずぶっ、と吹き出すと「やっぱおまえにゃ笑顔が似合ってるよ」なんて歯の浮くようなセリフがついてきた。こりゃ明日は雨と槍を通り越して、デコとボコの剣でも振ってくるな。とか、すました顔のユーリを見ながら思う。
「お世辞いらないから……って言ったら怒る?」
「怒らねぇけど盛大に拗ねる」
「またまたぁ」
「はい、傷付きました。むしゃくしゃすっからひと暴れしてくっか。手始めに貴族街の魔導器でも壊すとしますか」
「謝るからやめて」
でもきっと、雨も槍も剣も振ってこない。さっきのセリフをらしくないって思うのは、私が今のユーリを見れてないからだ。
「……そっかぁ。そうだよね」
もう一度、目の前のユーリを見る。ん、と首を傾げたユーリは、変わらず私を見てくれている。今だけじゃない、私が見ないように蓋をしていたときもずっと、ユーリは私を見てくれてたんだ。まっすぐすぎるユーリの目に、どうしようもなく苦しくて息が詰まりそうなのに、同じくらいあたたかい感じがした。この気持ちの正体を私は散々見てきた。見ないフリをしてきた。見なければ何も変わらないと思いたかったから。
「なーにひとりで納得してんだ」
「何でもない」
「そう言われると気になるな」
「じゃあ気にしてて」
「心配しなくても、オレはずっとナマエを気にしてるよ」
…でも、ユーリも私も、変わらない一面はそのままに変わっていく。少しずつでもいい、変わっていくユーリと自分を受け入れてみようと。
「……ありがとう」
やっとそう、思えた。
「私もさ、最近ずっとユーリのことばっかだよ。気のせいって思ってもぜんぜん気のせいになってくんないの。誰かさんのせいで。でも、………ユーリを好きな自分を、ユーリが好きでいてくれる自分を、受け入れようって思えたのは、ユーリのおかげだよ」
今度は目を逸らさないように、しっかりユーリの目を見ながら言う。ユーリはしばらく呆けた顔をして、顔を覆ったり空を見上げたりとせわしなく表情を変えたあと、笑った。
「はは、そっか。……そうだよなぁ」
「そう。そうだよ」
「オレにしちゃ待てたほうだと思わねぇ?」
「ユーリは短気だもんね」
「そそ。つーことで、健気なオレに褒美があってもよくね?」
いいよ。返事のかわりにユーリの頬へ手を添える。ユーリの顔が近くなるにつれて、私の顔もどんどん熱くなる。自分からやっといてなかなか恥ずかしいな、なんて思ってる間にもうすぐそこにあって、やってくるであろう柔らかい感触と気恥しさに耐えられなくて目を閉じようとした。
「……………ん、っ!?」
でも、唇が触れる瞬間、強い力でぐいっと引き寄せられて、ユーリの顔が目の前にあった。
目を、閉じられなかった。
「気のせいにされたらたまんねぇからな。ちゃんと見とけよ」
いつの間にか私の後ろ髪まで手が回されていて、はじめからこうする気だったなとか、もう気のせいにしないってばとか、言い返したい言葉が山のように浮かんでくる。けど、ぐしゃりとされた髪を梳かす手つきが優しくて、そんなことどうでもいっか、とも思う。ゆっくり目を閉じると、ユーリが喉の奥で笑うのが伝わってきて、じんわりと胸の奥があたたかくなるのを感じた。
「幸せかも、私」
「…………はぁ、おまえさ。ほんっとマジで。人の気も知らねぇで」
「それはユーリも同じじゃない?」
「同じじゃねぇ。目閉じんな。こっち見ろ」
「大丈夫だよ。もう気のせいじゃ済まないから」
ユーリの身体をぎゅっとすると、あーだのクソだの文句を言ったユーリから同じようにぎゅっとされる。変わっていく一面を受け入れることで、掴める人生もあるのだと。どくどくと鳴る心臓の音を聞きながら、腕の中の幸せを強く強く抱きしめた。
2025.11.10
つづき書くかも
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