Persona
name change
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来栖暁固定
主人公が完全に自キャラ
「私ね、この改心が終わったら、お母さんたちと向き合おうと思ってる」
そう切り出したのは昼下がり、ぼちぼち日も傾き始めるころだった。
渋谷のファミレスで昼食を取り、食休みも兼ねた他愛のないやり取りが途切れたときにできた空白の間。気まずかったとか、沈黙を埋めたかったわけじゃないけれど、何となく今言ってしまいたかった。タイミングがよかったのもある。帰り際にしたら深刻に受け取るかもしれないし、何気ない会話に混ぜて流してほしかったのも、ある。あえて彼に決意表明をすることで、自分自身を鼓舞したかった。きっとこっちが本音。
「…………え?」
正面に座る暁くんから間の抜けた返事が返ってきた。咥えていたストローが液体に沈んでいき、炭酸でふわりと浮き上がってくる。溶けて小さくなった氷がから、と音を立てて、グラスを握ったままの暁くんの手のひらに水滴が落ちた。モルガナは散歩に出掛けてしまったから、「おい、どうした?暁」って即座にかかる声は聞こえない。いつだって真っ先に反応するのはモルガナだ。相棒と呼ぶに相応しい存在だから、いないと暁くんはマイペースにぽやんとしてしまう。未だに口元で「え」を作っている暁くんがおかしくて、私は吹き出す寸前でストローから口を離した。
「間長いよ暁くん」
「いや、だって……なまえ、どうして急に」
「ん~、まぁ色々と考えたのですよ」
「辛くないのか?」
「………そりゃあ、辛いよ」
から、と今度は私のグラスから音がした。
店内の喧騒にかき消されてしまいそうな声は、暁くんの耳に届いたらしい。「だったら何で、」そういって暁くんが足を組みかえると、曲げられた背中は後方へ傾いた。眼鏡の奥で私を見据えている瞳は、照明の反射で見えなくなる。その声に含まれていたのは心配……、だけじゃないんだろう。いつもより低めのそれが曖昧にさせていた。
「暁くんは、獅童を改心させた後のこと考えてる?」
「それは………」
「私だけじゃなくて、みんなも心のどこかでけじめつけてると思うの」
シドウパレスを攻略している最中に、私がつけたけじめは家族のことだった。
お母さんとお父さん、ふたりの間に入った亀裂は、日に日に広がっていった。なまえを産んだせいで不幸になったとか、仕事で疲れてるから顔を見せるなとか、感情に任せた暴言を何度も何度も吐かれてきた。その度に言い聞かせた。私が我慢すればいい。本当のふたりは優しいから、私が余計なことをして苛立たせなければいい。毎日我慢して顔色を伺ってきた。日常的に言い合う二人から、目をそらし続けてきた。
あの日、蓋をしていた欲望はペルソナとして顕現して、私の本音が聞こえてきて、みんなと支えあって、理不尽と戦いながら正義を追い求めて今がある。誰かの助けが必要な人。安易に相談できない問題を抱えている人。悩んでる人々の力になりたいと、改心を繰り返してきた。
そうして行き着いたのは、私たちの行為もまた、独善的な正義に他ならなかった、ということ。
「本当はね、ずっとお母さんたちに変わってほしかった。いっそ改心できたら楽なのにって、思ってた。だけどみんなと怪盗を続けて、悪人たちを改心させてきて、それだけじゃ駄目なんだって気付いたの。向き合えるのは私しかいないんだって。だから、もう逃げるのはやめる。ちゃんと私が向き合って、正面からぶつかってみる」
最初は折を見て改心を依頼しようと思っていた。全会一致のルールがある以上、勝手に改心させるわけにはいかなかったし、やっぱり一人じゃ怖かったから。
奥村社長だけじゃない。他の悪人たちも同様に、世界中の誰もが改心を望む悪人か、私たちは知る由もない。ただ依頼されて、改心させて、一時の愉悦に浸るだけの独善的な正義だ。大人から疎まれてきた私たちは、誰かに望まれている事実が心地よかったのだと思う。忌々しいと感じていた悪人と大差なくて、身勝手な欲を満たしていただけ。お母さんとお父さんを改心させれば、夢に見た一家団欒が手に入るのだろう。……けど、それが幸福と呼べるものなのか。目を背けたまま悪心を盗んで、本当に後悔しないのか。
きっと後悔する。どんなに変わってしまっても、ふたりは私の両親だから。ふたりを変えた原因が私なら、他でもない私が向き合いたい。そう思った。
「……人を変えるのは容易じゃない。当人たちに変わる意志がないならなおさらそうだ」
「わかってる」
「なまえ………」
「長期戦は覚悟の上だよ。色々あるだろうし、嫌な思いもするかもしれない。でも、本当の意味で改心してほしいから」
だから、頑張る。
おおよそファミレスでするとは思えない宣言は、言い終えてから気恥ずかしさに襲われた。誤魔化すように呼び出しボタンに手を伸ばして、「デザート食べる?」と尋ねる。暁くんからの返答はなくて、こちらを見たまま微動だにしなかった。首を傾げつつ伸ばした手をメニュー表に移動させると、ようやく暁くんが口を開いた。
「そうか」
短くそれだけ告げられて、再び沈黙を守り始めてしまう。ワンテンポ遅れたそれに相変わらずぼんやりしてるね、なんて暢気に笑う私は、グラスを握る暁くんの手のひらが、震えていることに気付くわけがなかった。
▽
「……どうして、暁くん」
そう切り出したのは夕暮れ時。青空に夕陽が滲んで橙色に染まる時間帯。
彼に呼び出されて即座に赴いた理由はひとつ、今すぐ問い詰めたかったから。
壁面に取り付けられた大型ディスプレイからニュースキャスターの声が響く。
「改心されたのではと警察に届け出のあった数は既に100件を超えています」
淡々と読み上げる声が耳に入り、どく、と心臓が脈打つ。
知らない。何も聞いてない。身に覚えがない改心の数と、心当たりのない周囲の変化。全会一致のルールを破り、単独でメメントスに潜りこめる人物はひとりしか思いつかなかった。
「どうして……お母さんたちを改心させたの?」
群衆に紛れていた暁くんは緩慢な動作で振り返る。もさもさとした黒髪や、くいと眼鏡を押し上げる仕草。緩く上げられた口角だっていつもと同じはずなのに、眼鏡の奥で細められた瞳に恐怖を感じた。日が落ちればますます気温は下がるだろうと防寒対策に抜かりはない。明らかに気温とは違う理由で冷える身体は、小刻みに震えて止まらなかった。
「寒いよな。すぐに移動しよう」
「ねぇ、答えてよ……暁くん」
絞り出した声も弱々しく震えていた。おさえるように唇を噛み締める。人の隙間を縫うように歩いてきた暁くんは、当たり前みたいに私の手を取った。包み込まれた手のひらから伝わる人肌は、ちょうど同じくらいの温度で生あたたかく感じた。驚く暇もなく行われたそれに、「暁くん」もう一度名前を呼ぶ。
少し上にある彼の双眸は、真剣そのものだった。
ふざけてこんなことをしたんじゃない、暁くんは本気なんだ。
鼓膜の奥で、警鐘が鳴り響いている。
「なまえの両親を改心させたのは、サプライズみたいなやつ。みんなも納得して、一緒に手伝ってくれたよ」
「わざわざなまえがつらい思いをする必要ないだろ。だってなまえの両親が悪なんだから」
「それから呼び出した理由なんだけどさすがに日付見ればわかるか。来てくれたってことは、都合良く捉えていいんだよな」
細長いそれが指の間に滑りこんできて、ぎゅ、と優しく握られた。わずかに赤く染められた頬と耳から伝ってくる好意は、以前なら嬉しく感じたはずなのに、今は怖くて仕方なかった。
今日、何の前触れもなく、お母さんとお父さんは変わってしまった。
仲睦まじく談笑して、旅行の計画を立てるふたりは気味が悪かった。ほぼ会話も生まれず、互いの粗を見つけては喧嘩をしていたあのふたりが、何の脈絡もなく和解している。それどころか世間のイベントを一緒に楽しもうとしているんだから、気持ち悪いことこの上なかった。
向き合うと決心したばかりの私は何もしていない。改心させたのは怪盗団──暁くんで、私のためにしてくれて、良かれと思ってやってくれた。
暁くんが、私のためにしてくれた。今日を一緒に過ごそうとしてくれた。
けれど、どういうわけか身体の震えは止まってくれそうになかった。
「ずっと好きだった、なまえ。俺はこの力で、正義を貫いてなまえを守るよ」
そう言って穏やかに微笑む暁くんが正義なのか、私にはもう、わからなかった。
2020.10.18
恋なんていわばエゴとエゴのシーソーゲーム
2023.10.27
加筆修正/いつだって~君は曖昧なリアクション!
主人公が完全に自キャラ
「私ね、この改心が終わったら、お母さんたちと向き合おうと思ってる」
そう切り出したのは昼下がり、ぼちぼち日も傾き始めるころだった。
渋谷のファミレスで昼食を取り、食休みも兼ねた他愛のないやり取りが途切れたときにできた空白の間。気まずかったとか、沈黙を埋めたかったわけじゃないけれど、何となく今言ってしまいたかった。タイミングがよかったのもある。帰り際にしたら深刻に受け取るかもしれないし、何気ない会話に混ぜて流してほしかったのも、ある。あえて彼に決意表明をすることで、自分自身を鼓舞したかった。きっとこっちが本音。
「…………え?」
正面に座る暁くんから間の抜けた返事が返ってきた。咥えていたストローが液体に沈んでいき、炭酸でふわりと浮き上がってくる。溶けて小さくなった氷がから、と音を立てて、グラスを握ったままの暁くんの手のひらに水滴が落ちた。モルガナは散歩に出掛けてしまったから、「おい、どうした?暁」って即座にかかる声は聞こえない。いつだって真っ先に反応するのはモルガナだ。相棒と呼ぶに相応しい存在だから、いないと暁くんはマイペースにぽやんとしてしまう。未だに口元で「え」を作っている暁くんがおかしくて、私は吹き出す寸前でストローから口を離した。
「間長いよ暁くん」
「いや、だって……なまえ、どうして急に」
「ん~、まぁ色々と考えたのですよ」
「辛くないのか?」
「………そりゃあ、辛いよ」
から、と今度は私のグラスから音がした。
店内の喧騒にかき消されてしまいそうな声は、暁くんの耳に届いたらしい。「だったら何で、」そういって暁くんが足を組みかえると、曲げられた背中は後方へ傾いた。眼鏡の奥で私を見据えている瞳は、照明の反射で見えなくなる。その声に含まれていたのは心配……、だけじゃないんだろう。いつもより低めのそれが曖昧にさせていた。
「暁くんは、獅童を改心させた後のこと考えてる?」
「それは………」
「私だけじゃなくて、みんなも心のどこかでけじめつけてると思うの」
シドウパレスを攻略している最中に、私がつけたけじめは家族のことだった。
お母さんとお父さん、ふたりの間に入った亀裂は、日に日に広がっていった。なまえを産んだせいで不幸になったとか、仕事で疲れてるから顔を見せるなとか、感情に任せた暴言を何度も何度も吐かれてきた。その度に言い聞かせた。私が我慢すればいい。本当のふたりは優しいから、私が余計なことをして苛立たせなければいい。毎日我慢して顔色を伺ってきた。日常的に言い合う二人から、目をそらし続けてきた。
あの日、蓋をしていた欲望はペルソナとして顕現して、私の本音が聞こえてきて、みんなと支えあって、理不尽と戦いながら正義を追い求めて今がある。誰かの助けが必要な人。安易に相談できない問題を抱えている人。悩んでる人々の力になりたいと、改心を繰り返してきた。
そうして行き着いたのは、私たちの行為もまた、独善的な正義に他ならなかった、ということ。
「本当はね、ずっとお母さんたちに変わってほしかった。いっそ改心できたら楽なのにって、思ってた。だけどみんなと怪盗を続けて、悪人たちを改心させてきて、それだけじゃ駄目なんだって気付いたの。向き合えるのは私しかいないんだって。だから、もう逃げるのはやめる。ちゃんと私が向き合って、正面からぶつかってみる」
最初は折を見て改心を依頼しようと思っていた。全会一致のルールがある以上、勝手に改心させるわけにはいかなかったし、やっぱり一人じゃ怖かったから。
奥村社長だけじゃない。他の悪人たちも同様に、世界中の誰もが改心を望む悪人か、私たちは知る由もない。ただ依頼されて、改心させて、一時の愉悦に浸るだけの独善的な正義だ。大人から疎まれてきた私たちは、誰かに望まれている事実が心地よかったのだと思う。忌々しいと感じていた悪人と大差なくて、身勝手な欲を満たしていただけ。お母さんとお父さんを改心させれば、夢に見た一家団欒が手に入るのだろう。……けど、それが幸福と呼べるものなのか。目を背けたまま悪心を盗んで、本当に後悔しないのか。
きっと後悔する。どんなに変わってしまっても、ふたりは私の両親だから。ふたりを変えた原因が私なら、他でもない私が向き合いたい。そう思った。
「……人を変えるのは容易じゃない。当人たちに変わる意志がないならなおさらそうだ」
「わかってる」
「なまえ………」
「長期戦は覚悟の上だよ。色々あるだろうし、嫌な思いもするかもしれない。でも、本当の意味で改心してほしいから」
だから、頑張る。
おおよそファミレスでするとは思えない宣言は、言い終えてから気恥ずかしさに襲われた。誤魔化すように呼び出しボタンに手を伸ばして、「デザート食べる?」と尋ねる。暁くんからの返答はなくて、こちらを見たまま微動だにしなかった。首を傾げつつ伸ばした手をメニュー表に移動させると、ようやく暁くんが口を開いた。
「そうか」
短くそれだけ告げられて、再び沈黙を守り始めてしまう。ワンテンポ遅れたそれに相変わらずぼんやりしてるね、なんて暢気に笑う私は、グラスを握る暁くんの手のひらが、震えていることに気付くわけがなかった。
▽
「……どうして、暁くん」
そう切り出したのは夕暮れ時。青空に夕陽が滲んで橙色に染まる時間帯。
彼に呼び出されて即座に赴いた理由はひとつ、今すぐ問い詰めたかったから。
壁面に取り付けられた大型ディスプレイからニュースキャスターの声が響く。
「改心されたのではと警察に届け出のあった数は既に100件を超えています」
淡々と読み上げる声が耳に入り、どく、と心臓が脈打つ。
知らない。何も聞いてない。身に覚えがない改心の数と、心当たりのない周囲の変化。全会一致のルールを破り、単独でメメントスに潜りこめる人物はひとりしか思いつかなかった。
「どうして……お母さんたちを改心させたの?」
群衆に紛れていた暁くんは緩慢な動作で振り返る。もさもさとした黒髪や、くいと眼鏡を押し上げる仕草。緩く上げられた口角だっていつもと同じはずなのに、眼鏡の奥で細められた瞳に恐怖を感じた。日が落ちればますます気温は下がるだろうと防寒対策に抜かりはない。明らかに気温とは違う理由で冷える身体は、小刻みに震えて止まらなかった。
「寒いよな。すぐに移動しよう」
「ねぇ、答えてよ……暁くん」
絞り出した声も弱々しく震えていた。おさえるように唇を噛み締める。人の隙間を縫うように歩いてきた暁くんは、当たり前みたいに私の手を取った。包み込まれた手のひらから伝わる人肌は、ちょうど同じくらいの温度で生あたたかく感じた。驚く暇もなく行われたそれに、「暁くん」もう一度名前を呼ぶ。
少し上にある彼の双眸は、真剣そのものだった。
ふざけてこんなことをしたんじゃない、暁くんは本気なんだ。
鼓膜の奥で、警鐘が鳴り響いている。
「なまえの両親を改心させたのは、サプライズみたいなやつ。みんなも納得して、一緒に手伝ってくれたよ」
「わざわざなまえがつらい思いをする必要ないだろ。だってなまえの両親が悪なんだから」
「それから呼び出した理由なんだけどさすがに日付見ればわかるか。来てくれたってことは、都合良く捉えていいんだよな」
細長いそれが指の間に滑りこんできて、ぎゅ、と優しく握られた。わずかに赤く染められた頬と耳から伝ってくる好意は、以前なら嬉しく感じたはずなのに、今は怖くて仕方なかった。
今日、何の前触れもなく、お母さんとお父さんは変わってしまった。
仲睦まじく談笑して、旅行の計画を立てるふたりは気味が悪かった。ほぼ会話も生まれず、互いの粗を見つけては喧嘩をしていたあのふたりが、何の脈絡もなく和解している。それどころか世間のイベントを一緒に楽しもうとしているんだから、気持ち悪いことこの上なかった。
向き合うと決心したばかりの私は何もしていない。改心させたのは怪盗団──暁くんで、私のためにしてくれて、良かれと思ってやってくれた。
暁くんが、私のためにしてくれた。今日を一緒に過ごそうとしてくれた。
けれど、どういうわけか身体の震えは止まってくれそうになかった。
「ずっと好きだった、なまえ。俺はこの力で、正義を貫いてなまえを守るよ」
そう言って穏やかに微笑む暁くんが正義なのか、私にはもう、わからなかった。
2020.10.18
恋なんていわばエゴとエゴのシーソーゲーム
2023.10.27
加筆修正/いつだって~君は曖昧なリアクション!
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