Persona
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
来栖暁固定
主人公が完全に自キャラ
誰が誰をどう思うか、なんて興味がなかった。仲間内ならなおさらそうだ。今さら気を遣うような仲ではないし、一言で表すなら気の置けない間柄だ。必要以上に勘繰ることもなければ、自分も信頼してもらえていると自負している。
一名を除けば、の話だが。
年始。肌を突き刺すような冷気の中、利害一致で取引をした相手の視線は一点へと注がれていた。再度現実と異世界が融合しようとしている状況でぶっ通しで探索するわけにもいかず、何度か休息を挟むことになった。一線置きたがるそいつは「じゃあ僕はこれで」と我先にと帰っていくのだと思っていたけれど、予想を大きく裏切ってきた。やれやれ、とでも言いたげに首を振るそいつの視線が誰に向いていたか。気付いてしまったのは随分前のことかもしれない。別に気付きたくなかったし、知ったところで俺にメリットがほぼない。というか皆無だ。
ファーストフード店の一角を大人数で占領する俺たちは中々に人目を引くのだろう。周囲から向けられる視線は「学生集まってんな」という冷ややかなものだ。声量を落とそうが目立つものは目立つ。それすらお構い無しといった様子で隣を見つめ続ける対面のそいつ──明智を一瞥して、くわえたストローから液体を吸い上げた。
「できた…………。では明智くん、問題です。これはなんでしょう」
「鶴」
「ピンポンピンポーン!見事正解したあなたにはお鶴さまをしんぜよう」
「羽広げないでよ」
ハンバーガーの包み紙でせっせと折り紙をしていたなまえは、できあがったそれを明智へ手渡した。ひょいとつまみ上げた明智は、広げられた羽を丁寧に折り畳んでいた。羽の有無なんてどっちでもいいだろ。
さっきの視線といい、どうも明智はなまえに甘い傾向がある。以上が最近察知したことだ。仮に明智がなまえのことを好きだったとして、何が悲しくて野郎の恋路を見守ってやらなきゃならんのだと。状況理解できてんのかと。この“現実”を否定するんじゃなかったのかと。指摘する予定のない小言を募らせていると、明智が鶴から俺へと視線を移した。
「……で?暁はさっきからなに?気持ち悪いんだけど」
眉を吊り上げて怪訝な顔を作った明智を見て思う。気持ち悪いのはお前だろ!なまえのことばっか見てよく人のこと言えたな!好きならさっさと告れよ!喉まで出かけた不満を「誰がお前のことなんか見るか」で済ませた俺の寛大さを褒めてほしい。言ったところでとばっちりを食うのはなまえだ。明智はともかくなまえは仲間だし、ここは黙っておくのが得策だと判断したまでだ。だから鼻で笑う明智に負けたわけじゃない。
未だ物言いたげに睨みをきかせる明智を遮るように「あ、」となまえが声を上げた。即座になまえへ視線を戻した明智のほうが、俺は気持ち悪いと思います。
「暁くんも鶴欲しかったとか?」
自分の折った鶴を見ていたと斜め上の判断をしたなまえに、助け船が来たと乗っかることにする。明智を凝視していたと誤解されるよりマシだ。
「欲しい。それくれよ。いらないだろどうせ」
「いらないなんて言ってないだろ」
妙に張り合ってくる明智に、後に引けなくなった俺も利き手を前に出す。正直いらない。包み紙で折った鶴を巡って勝負とか馬鹿かよ。折り紙の鶴でも千羽鶴以外の使い道ねぇよ。鶴に可能性を見出だそうと知恵を絞っていると、不意に横から伸びてきた腕。天井へ向けた手のひらに異物感がのし掛かり、目線を落とした。
「暁………う、ぷ、手伝ってくれ………」
そう呟くなり、竜司は机に突っ伏してしまった。手の上に乗る異物、もとい箱の中には誰が頼んだかわからないナゲットが入っていた。すでに卓上を大量の揚げ物が陣取っている、過剰に注文しすぎなことは明白だろう。ちらと横目で見た女性陣は会話に花を咲かせており、人知れず戦死した竜司は眼中にないらしい。
お前の意思は俺が継ぐ。残飯マンとハイタッチを交わしたところではたと気付く。残飯処理を引き受けるために出した手じゃない、と。
「へぇ、さすがだね。それじゃあよろしく」
「暁くんの胃袋は宇宙なんでしょ?モナが言ってたよ。頑張れ!」
親指を立てて眩しい笑顔を見せるなまえと、こっそり鶴をポケットへしまう明智。邪魔者が失せたとほくそ笑む明智は、なまえに口直しの提案をしていた。鶴の話題なんて忘却の彼方へ飛んでいったらしいなまえに復活する熱視線。お前も残飯処理手伝え。やめろとは言わないが余所でやれ。なまえもちょっとは気にしろ。その様子をしり目に、渋々揚げ物へ手を伸ばした。
▽
「明智くんを騙しながらパレス攻略、か」
「不安か?」
「不安っていうか…なんか、残念だなって」
ほら、明智くん格好いいからさ。あ、もちろん暁くんがどうなってもいいわけじゃないよ。作戦通りにやるから。慌てて否定したなまえを見るなり、その場にいた全員の頭上に疑問符が浮かんだのが見えた。心底理解しがたいといった様子で「なまえ、正気か」とツッコミを入れた祐介は、今年一冴えていたと言っても過言じゃない。
思い返せば前から明智くん明智くんうるさかったな、と記憶を辿る。テレビ局で邂逅したときは、直接拝めると人一倍喜んでいた。その歓喜が一ファンとしてなのか、個人としてなのか不明なあたりなまえらしい。メジエドの一件で明智が炎上したときも、口にはしなかったが落胆していた。そして今回の発言だ。こちらとしては命懸けの正念場なだけに、素直に頷けるものじゃない。なまえが明智から送られたスパイ、という可能性はあの真がバッサリと切り捨てた。用心深い彼女ですら「なまえは、まぁ、そういうところあるから」と困惑するほど、なまえの言動は掴みどころがなかった。
そしてこれも、振り返ってみれば、の話だけど。
新島冴のパレス攻略を済ませ、溜まっていた改心リクエストを消化するべくメメントスへ赴いたとき。前衛向きの戦闘スタイルではないなまえが負傷し、真とモルガナに治癒術をかけてもらっている最中、かけられた声。
「なまえ、大丈夫?僕が前に出るから下がってなよ」
「ありがと」
「いやちげーだろ。コードネームで呼べよ。ここ異世界だぞ」
至極真っ当なツッコミをいれたモルガナへ、すまないと軽く謝罪を入れた明智。悪びれる素振りもなく、何なら数回は同様のやり取りをしている。へらへらと笑い合うなまえと明智の緊張感の無さにこっちの気が削がれそうになり、呆れたモルガナは車へ変身した。しれっとした様子でモルガナカーへ乗車を促した明智は、当然のようになまえの隣を陣取った。
なまえを見つめる視線に籠められた意味が、そう、今にして思えば。
「なまえ、ちょっといいかい」
「なに?」
「動きに無駄がありすぎる。隙だらけだ」
「う、」
「君の尻拭いをさせられるのは僕たちだってわかってる?」
「ごめんなさい…」
「率直に言うと足手まといだ。後衛と交代してくれ」
回想に耽っていた意識を戻すと、厳しい口調で批難する明智がいて、対象であるなまえは悄然としていた。取り立てて言うほど重大なミスをしたわけでもないだろうに、と擁護しようと前に出たところで「てめぇ!言い方ってモンがあんだろ!」竜司が声を荒らげる。
「事実を言ったまでだよ」
「ちょっと腕が立つからって調子乗んなよ。そんなに気に入らねぇならオメーが後衛行きゃいいだろ」
「つーかそれ決めんのジョーカーな」
今にも火蓋が切られようとしているふたりを仲裁したのは双葉だった。無論、こちらへやってくる視線。ふと頭に過ったのは先ほど回想していた情景で、誰も指摘しないのならばと咳払いをする。
「クロウ、コードネームで呼べ。ここは異世界だ」
「そこじゃねぇだろ!」
「模範ツッコミおもんな」
「今さらコードネームに意味があるなんて思えないけど」
「取引に応じた以上、ルールは守ってもらうから」
真から諫言を受けた明智は君たちに従うよ、と了承を出した。その言葉が向けられた先は、おそらく俺と真だ。
薄々感じていたが、明智は自分が認めた人間以外に興味を示さない。俺は好敵手として、真は作戦参謀として、それなりにあてにされているのだろう。したがってコードネームはともかく、名前で呼ぶ人間は極限られている。
その中で、だ。これといって特徴もなく、どちらかといえばぼんやりとした印象を受けるなまえを、異世界にも関わらず、なぜ、コードネームで呼ばないのか。王子キャラの面が剥がれ、態度こそ辛辣だけども注意深く見ていれば違和感はある。おまけに名前で呼びたがるときた。
「ジョーカー、どうする?」
俺へ向けられた仲間たちの視線は静かに決断を待っている。正直なところなまえに対する不満はない。それは仲間たちも同様なんだろう。要するに、明智のクソどうでもいい個人的感情が練り込まれているだけなのだ。王子キャラの面と共に素直に心配することも捨て去ってしまったらしい。いい迷惑だ、となまえへ同情する。
とはいえ、このままなまえを前衛に加え続けるとどうなるか。考えるまでもなく、また粗を探してはネチネチと小言が始まるのだろう。仕方ない、と短く息を吸う。
「なまえは後衛でサポートを頼む」
「…わかった」
「適切な判断だね。さすがはジョーカーだ」
「ジョーカーがそう言うなら……」
不服そうに口を尖らせる竜司に内心で謝罪をしておく。これもなまえのためだ。反比例の如く上機嫌になった明智をしり目に、俺はそっとなまえに耳打ちする。
「まぁ、あんまり気にすんなよ」
「……え?」
「本当に関心がないやつにごちゃごちゃ言わないだろ、普通」
明智のやってることは小学生男子の恋愛と大差ない。好きなくせに嫌がることばっかりして、相手の気を引いて、突き放しての繰り返し。そんな恋愛してたら今に嫌われるぞ、と嫌味のひとつでも言ってやろうとして「なに」と明智に鋭く睨まれる。ほら、だから、そういうところだって。俺となまえの間に割って入ってくる体は正直すぎて、口でも言えばいいのにと独りごちた。
▽
PENGUIN SNIPERから出るなり、あちこちの照明が飛び込んできて目が眩んだ。何度か瞬きをして目を慣らすと、外気を取り込んだ肺が冷えて身震いをした。俺より少し前を平然と歩く明智を見て、ふと質問をしてみようと思い立つ。理由は至って単純で、端的に言えば何となくだった。
「明智」
「…なに」
「なまえのこと好きだろ」
両手を擦り合わせ、微弱な摩擦熱で暖を取る俺へ視線を寄越した明智は、真顔のまま口を開いた。
「好きだよ」
「あ、そ………ウデスヨネ~」
「そっちが聞いてきたんだろ」
存外あっさりと返答されたものに、こっちが気まずくなって目を逸らした。じゃああれか。なまえを贔屓したり、やたら視線を送り続けていたりしたことも隠す気がなかったわけだ。そこまで思考を巡らせて納得する。確かにこいつならやりかねない。足は止めずに、バレバレすぎるだろと揶揄してみる。
「仮に暁が言うようにバレバレだったとして、なまえは気づいてると思う?」
「さぁ……あいつの口癖“アケチクンカッコイイ”だからよくわからない」
「だろうね。だからこれくらいでちょうどいいんだよ」
「なんだそれ」
「理解してもらわなくて結構だ」
繁華街を抜け、打ってかわって静まり返っている路地へ入っていく。喧騒にかき消されそうだった明智の声は、今度は鮮明に聞き取ることができた。同時に寒さで身体が小震えだして「まさか寒いの?さっきまでダーツやってただろ」と鼻で笑われた。代謝の良さで一歩リードしたからと得意げにならないでもらいたいものだ。筋トレなら俺だってやってる。
閑話休題。
歩を進めていく明智に並行するべく足を早めた。
「なまえに言わないのか」
「………答える義理はない」
「誰かが恋愛はノリとタイミングが重要だって、言ってたような言わなかったような」
「つまり君はノリで女性とお付き合いしている、でいいかな。軽蔑するよ」
「お前が言うなお前が」
「悪いけど、僕は無責任な恋愛はするつもりないから。……なまえを、縛りつけたくない」
唐突に立ち止まった明智は、こちらを見据えて口元を引き結んだ。あまり掘り返すのもどうかと思うが犯罪者に軽蔑される筋合いはない。
どんな事情があったにしろ、明智の犯した罪は消えない。獅童のパレスからどう生き延びたか口を割らないこいつの言う“無責任”は、あるいはそこからきているのかもしれない。
しかしだ。今の台詞は両思い前提すぎやしないか。どっからその自信湧いてくるんだよ。俯いて拳を握りしめた明智が哀愁を漂わせてくるものだから、俺の笑いのツボがぶっ壊れそうになる。なまえが明智に何の感情も抱いていなかったとしたら、無責任だろうが気にも留めないだろう。結論、やっぱりこいつは頭が沸いている。そんでもって脳内が年中お花見日和だ。
「フーン。もたもたしてるうちに誰かに取られないといいな」
「そのためにわかりやすく牽制してやってるんだよ。主に君に向けて」
「なまえは大事な仲間だ」
「不愉快だ。やめてくれ」
「仲間も駄目とか?や~い束縛男、付き合ってもないくせに」
「違う、君の顔が」
「おい」
くだらない、と一蹴して歩き出す明智の後ろ姿を眺める。まぁ、どうせなまえもそうなんだろう。根拠はないが、明智に干渉されて満更でもなさそうな辺りどちらも桜が満開そうで何よりだ。脳内で。
そしてこれは、ただの気の迷いに過ぎないけれど。例えば明智がもっと早くなまえと出会えていたらとか。無責任な恋愛がどうのこうのと考えずに、なまえの手を取れていたのかとか。あいつに言ったら全力で否定されそうなことが頭を掠める。
「帰るんだろ。置いてくよ」
「今行く」
あの日、決闘の証を受け取った日から、いや、それよりも前。明智と、何より自分のためにも曲げない。そう誓ったのだから、やっぱりこれはただの気の迷いであってほしい。なんて不毛な自問自答を繰り返しながら、明智の背を追いかけた。
▽
俺は自分を曲げなかった。俺よりも頑固なあいつは、最後の最後まで口を割らなかった。対等な立場だと認められて、信頼から与えられた選択肢に、それを選んだことに、ためらいがなかったと言えば嘘になる。
「そ、か。明智くんは、もういないんだ」
俺が、俺たちが選んだ道に後悔はない。
「大丈夫、何かさ、都合がいい気はしてたから。………全部、夢だったんだね」
新しい朝!と伸びをしたなまえは、楽しい夢だったと呟いた。真や春から心配の言葉をかけられている間もなまえはずっと笑っていた。
丸喜が明智を蘇らせた理由のひとつが俺であり、もうひとつがなまえのためだったと知ったのは決戦前夜のことだ。なまえがカウンセリングに来ると決まって明智を話題に上げていたらしい。人の感情に敏感な丸喜にはなまえの気持ちが筒抜けだったんだろう。だからこそ、気丈に振る舞うなまえに胸の奥が痛んだ。
「なぁ暁、オマエの故郷までどれくらいかかるんだ?」
「……めっちゃかかる」
「ざっくりしすぎだろ」
不意にモルガナからかけられた声に意識を戻すと、窓ガラスに反射する自分が目に入った。頬杖をつき、瞳を虚ろにさせている間抜けな面から目を逸らす。保護観察の身から解放され、やっと故郷に戻れる……という奴からかけ離れている表情だ。それもそうだ。仲間たちと離れるのは当然寂しくもある。永遠の別れじゃないにしたって、そばにいることができないのがもどかしい。明智に一生会うことができなくなったなまえはもっと辛いのだろうか、脳裏を掠めるのはそればかりだ。
明智は想いを告げていないのだろうし、なまえは何も知らないままだ。結局、俺も言えなかった。明智の想いを知らないほうがいいのか、知っていたほうがいいのか、別れの日まで結論が出ることはなかった。
窓枠の突出部分に肘をつき、もう一度ホームへ目をやる。次の電車を待つ人。乗り換える人。往来を視界に入れながら、返事がくるはずもないのにぽつりと問いかける。
明智は、本当にこれでよかったのか?
──瞬間、横切っていく人影が誰かに似ていたような気がした。
そんなわけがない、と目を見開く。無意識に口角が上がっていたらしい、モルガナから「ニヤニヤして気持ち悪いぞ」と罵られた。咄嗟にうるせぇと返しておく。
これでよかった。俺は、そう思う。
2020.7.27
何も始まらないまま終わる、かもしれない
2023.10.25
加筆修正
主人公が完全に自キャラ
誰が誰をどう思うか、なんて興味がなかった。仲間内ならなおさらそうだ。今さら気を遣うような仲ではないし、一言で表すなら気の置けない間柄だ。必要以上に勘繰ることもなければ、自分も信頼してもらえていると自負している。
一名を除けば、の話だが。
年始。肌を突き刺すような冷気の中、利害一致で取引をした相手の視線は一点へと注がれていた。再度現実と異世界が融合しようとしている状況でぶっ通しで探索するわけにもいかず、何度か休息を挟むことになった。一線置きたがるそいつは「じゃあ僕はこれで」と我先にと帰っていくのだと思っていたけれど、予想を大きく裏切ってきた。やれやれ、とでも言いたげに首を振るそいつの視線が誰に向いていたか。気付いてしまったのは随分前のことかもしれない。別に気付きたくなかったし、知ったところで俺にメリットがほぼない。というか皆無だ。
ファーストフード店の一角を大人数で占領する俺たちは中々に人目を引くのだろう。周囲から向けられる視線は「学生集まってんな」という冷ややかなものだ。声量を落とそうが目立つものは目立つ。それすらお構い無しといった様子で隣を見つめ続ける対面のそいつ──明智を一瞥して、くわえたストローから液体を吸い上げた。
「できた…………。では明智くん、問題です。これはなんでしょう」
「鶴」
「ピンポンピンポーン!見事正解したあなたにはお鶴さまをしんぜよう」
「羽広げないでよ」
ハンバーガーの包み紙でせっせと折り紙をしていたなまえは、できあがったそれを明智へ手渡した。ひょいとつまみ上げた明智は、広げられた羽を丁寧に折り畳んでいた。羽の有無なんてどっちでもいいだろ。
さっきの視線といい、どうも明智はなまえに甘い傾向がある。以上が最近察知したことだ。仮に明智がなまえのことを好きだったとして、何が悲しくて野郎の恋路を見守ってやらなきゃならんのだと。状況理解できてんのかと。この“現実”を否定するんじゃなかったのかと。指摘する予定のない小言を募らせていると、明智が鶴から俺へと視線を移した。
「……で?暁はさっきからなに?気持ち悪いんだけど」
眉を吊り上げて怪訝な顔を作った明智を見て思う。気持ち悪いのはお前だろ!なまえのことばっか見てよく人のこと言えたな!好きならさっさと告れよ!喉まで出かけた不満を「誰がお前のことなんか見るか」で済ませた俺の寛大さを褒めてほしい。言ったところでとばっちりを食うのはなまえだ。明智はともかくなまえは仲間だし、ここは黙っておくのが得策だと判断したまでだ。だから鼻で笑う明智に負けたわけじゃない。
未だ物言いたげに睨みをきかせる明智を遮るように「あ、」となまえが声を上げた。即座になまえへ視線を戻した明智のほうが、俺は気持ち悪いと思います。
「暁くんも鶴欲しかったとか?」
自分の折った鶴を見ていたと斜め上の判断をしたなまえに、助け船が来たと乗っかることにする。明智を凝視していたと誤解されるよりマシだ。
「欲しい。それくれよ。いらないだろどうせ」
「いらないなんて言ってないだろ」
妙に張り合ってくる明智に、後に引けなくなった俺も利き手を前に出す。正直いらない。包み紙で折った鶴を巡って勝負とか馬鹿かよ。折り紙の鶴でも千羽鶴以外の使い道ねぇよ。鶴に可能性を見出だそうと知恵を絞っていると、不意に横から伸びてきた腕。天井へ向けた手のひらに異物感がのし掛かり、目線を落とした。
「暁………う、ぷ、手伝ってくれ………」
そう呟くなり、竜司は机に突っ伏してしまった。手の上に乗る異物、もとい箱の中には誰が頼んだかわからないナゲットが入っていた。すでに卓上を大量の揚げ物が陣取っている、過剰に注文しすぎなことは明白だろう。ちらと横目で見た女性陣は会話に花を咲かせており、人知れず戦死した竜司は眼中にないらしい。
お前の意思は俺が継ぐ。残飯マンとハイタッチを交わしたところではたと気付く。残飯処理を引き受けるために出した手じゃない、と。
「へぇ、さすがだね。それじゃあよろしく」
「暁くんの胃袋は宇宙なんでしょ?モナが言ってたよ。頑張れ!」
親指を立てて眩しい笑顔を見せるなまえと、こっそり鶴をポケットへしまう明智。邪魔者が失せたとほくそ笑む明智は、なまえに口直しの提案をしていた。鶴の話題なんて忘却の彼方へ飛んでいったらしいなまえに復活する熱視線。お前も残飯処理手伝え。やめろとは言わないが余所でやれ。なまえもちょっとは気にしろ。その様子をしり目に、渋々揚げ物へ手を伸ばした。
▽
「明智くんを騙しながらパレス攻略、か」
「不安か?」
「不安っていうか…なんか、残念だなって」
ほら、明智くん格好いいからさ。あ、もちろん暁くんがどうなってもいいわけじゃないよ。作戦通りにやるから。慌てて否定したなまえを見るなり、その場にいた全員の頭上に疑問符が浮かんだのが見えた。心底理解しがたいといった様子で「なまえ、正気か」とツッコミを入れた祐介は、今年一冴えていたと言っても過言じゃない。
思い返せば前から明智くん明智くんうるさかったな、と記憶を辿る。テレビ局で邂逅したときは、直接拝めると人一倍喜んでいた。その歓喜が一ファンとしてなのか、個人としてなのか不明なあたりなまえらしい。メジエドの一件で明智が炎上したときも、口にはしなかったが落胆していた。そして今回の発言だ。こちらとしては命懸けの正念場なだけに、素直に頷けるものじゃない。なまえが明智から送られたスパイ、という可能性はあの真がバッサリと切り捨てた。用心深い彼女ですら「なまえは、まぁ、そういうところあるから」と困惑するほど、なまえの言動は掴みどころがなかった。
そしてこれも、振り返ってみれば、の話だけど。
新島冴のパレス攻略を済ませ、溜まっていた改心リクエストを消化するべくメメントスへ赴いたとき。前衛向きの戦闘スタイルではないなまえが負傷し、真とモルガナに治癒術をかけてもらっている最中、かけられた声。
「なまえ、大丈夫?僕が前に出るから下がってなよ」
「ありがと」
「いやちげーだろ。コードネームで呼べよ。ここ異世界だぞ」
至極真っ当なツッコミをいれたモルガナへ、すまないと軽く謝罪を入れた明智。悪びれる素振りもなく、何なら数回は同様のやり取りをしている。へらへらと笑い合うなまえと明智の緊張感の無さにこっちの気が削がれそうになり、呆れたモルガナは車へ変身した。しれっとした様子でモルガナカーへ乗車を促した明智は、当然のようになまえの隣を陣取った。
なまえを見つめる視線に籠められた意味が、そう、今にして思えば。
「なまえ、ちょっといいかい」
「なに?」
「動きに無駄がありすぎる。隙だらけだ」
「う、」
「君の尻拭いをさせられるのは僕たちだってわかってる?」
「ごめんなさい…」
「率直に言うと足手まといだ。後衛と交代してくれ」
回想に耽っていた意識を戻すと、厳しい口調で批難する明智がいて、対象であるなまえは悄然としていた。取り立てて言うほど重大なミスをしたわけでもないだろうに、と擁護しようと前に出たところで「てめぇ!言い方ってモンがあんだろ!」竜司が声を荒らげる。
「事実を言ったまでだよ」
「ちょっと腕が立つからって調子乗んなよ。そんなに気に入らねぇならオメーが後衛行きゃいいだろ」
「つーかそれ決めんのジョーカーな」
今にも火蓋が切られようとしているふたりを仲裁したのは双葉だった。無論、こちらへやってくる視線。ふと頭に過ったのは先ほど回想していた情景で、誰も指摘しないのならばと咳払いをする。
「クロウ、コードネームで呼べ。ここは異世界だ」
「そこじゃねぇだろ!」
「模範ツッコミおもんな」
「今さらコードネームに意味があるなんて思えないけど」
「取引に応じた以上、ルールは守ってもらうから」
真から諫言を受けた明智は君たちに従うよ、と了承を出した。その言葉が向けられた先は、おそらく俺と真だ。
薄々感じていたが、明智は自分が認めた人間以外に興味を示さない。俺は好敵手として、真は作戦参謀として、それなりにあてにされているのだろう。したがってコードネームはともかく、名前で呼ぶ人間は極限られている。
その中で、だ。これといって特徴もなく、どちらかといえばぼんやりとした印象を受けるなまえを、異世界にも関わらず、なぜ、コードネームで呼ばないのか。王子キャラの面が剥がれ、態度こそ辛辣だけども注意深く見ていれば違和感はある。おまけに名前で呼びたがるときた。
「ジョーカー、どうする?」
俺へ向けられた仲間たちの視線は静かに決断を待っている。正直なところなまえに対する不満はない。それは仲間たちも同様なんだろう。要するに、明智のクソどうでもいい個人的感情が練り込まれているだけなのだ。王子キャラの面と共に素直に心配することも捨て去ってしまったらしい。いい迷惑だ、となまえへ同情する。
とはいえ、このままなまえを前衛に加え続けるとどうなるか。考えるまでもなく、また粗を探してはネチネチと小言が始まるのだろう。仕方ない、と短く息を吸う。
「なまえは後衛でサポートを頼む」
「…わかった」
「適切な判断だね。さすがはジョーカーだ」
「ジョーカーがそう言うなら……」
不服そうに口を尖らせる竜司に内心で謝罪をしておく。これもなまえのためだ。反比例の如く上機嫌になった明智をしり目に、俺はそっとなまえに耳打ちする。
「まぁ、あんまり気にすんなよ」
「……え?」
「本当に関心がないやつにごちゃごちゃ言わないだろ、普通」
明智のやってることは小学生男子の恋愛と大差ない。好きなくせに嫌がることばっかりして、相手の気を引いて、突き放しての繰り返し。そんな恋愛してたら今に嫌われるぞ、と嫌味のひとつでも言ってやろうとして「なに」と明智に鋭く睨まれる。ほら、だから、そういうところだって。俺となまえの間に割って入ってくる体は正直すぎて、口でも言えばいいのにと独りごちた。
▽
PENGUIN SNIPERから出るなり、あちこちの照明が飛び込んできて目が眩んだ。何度か瞬きをして目を慣らすと、外気を取り込んだ肺が冷えて身震いをした。俺より少し前を平然と歩く明智を見て、ふと質問をしてみようと思い立つ。理由は至って単純で、端的に言えば何となくだった。
「明智」
「…なに」
「なまえのこと好きだろ」
両手を擦り合わせ、微弱な摩擦熱で暖を取る俺へ視線を寄越した明智は、真顔のまま口を開いた。
「好きだよ」
「あ、そ………ウデスヨネ~」
「そっちが聞いてきたんだろ」
存外あっさりと返答されたものに、こっちが気まずくなって目を逸らした。じゃああれか。なまえを贔屓したり、やたら視線を送り続けていたりしたことも隠す気がなかったわけだ。そこまで思考を巡らせて納得する。確かにこいつならやりかねない。足は止めずに、バレバレすぎるだろと揶揄してみる。
「仮に暁が言うようにバレバレだったとして、なまえは気づいてると思う?」
「さぁ……あいつの口癖“アケチクンカッコイイ”だからよくわからない」
「だろうね。だからこれくらいでちょうどいいんだよ」
「なんだそれ」
「理解してもらわなくて結構だ」
繁華街を抜け、打ってかわって静まり返っている路地へ入っていく。喧騒にかき消されそうだった明智の声は、今度は鮮明に聞き取ることができた。同時に寒さで身体が小震えだして「まさか寒いの?さっきまでダーツやってただろ」と鼻で笑われた。代謝の良さで一歩リードしたからと得意げにならないでもらいたいものだ。筋トレなら俺だってやってる。
閑話休題。
歩を進めていく明智に並行するべく足を早めた。
「なまえに言わないのか」
「………答える義理はない」
「誰かが恋愛はノリとタイミングが重要だって、言ってたような言わなかったような」
「つまり君はノリで女性とお付き合いしている、でいいかな。軽蔑するよ」
「お前が言うなお前が」
「悪いけど、僕は無責任な恋愛はするつもりないから。……なまえを、縛りつけたくない」
唐突に立ち止まった明智は、こちらを見据えて口元を引き結んだ。あまり掘り返すのもどうかと思うが犯罪者に軽蔑される筋合いはない。
どんな事情があったにしろ、明智の犯した罪は消えない。獅童のパレスからどう生き延びたか口を割らないこいつの言う“無責任”は、あるいはそこからきているのかもしれない。
しかしだ。今の台詞は両思い前提すぎやしないか。どっからその自信湧いてくるんだよ。俯いて拳を握りしめた明智が哀愁を漂わせてくるものだから、俺の笑いのツボがぶっ壊れそうになる。なまえが明智に何の感情も抱いていなかったとしたら、無責任だろうが気にも留めないだろう。結論、やっぱりこいつは頭が沸いている。そんでもって脳内が年中お花見日和だ。
「フーン。もたもたしてるうちに誰かに取られないといいな」
「そのためにわかりやすく牽制してやってるんだよ。主に君に向けて」
「なまえは大事な仲間だ」
「不愉快だ。やめてくれ」
「仲間も駄目とか?や~い束縛男、付き合ってもないくせに」
「違う、君の顔が」
「おい」
くだらない、と一蹴して歩き出す明智の後ろ姿を眺める。まぁ、どうせなまえもそうなんだろう。根拠はないが、明智に干渉されて満更でもなさそうな辺りどちらも桜が満開そうで何よりだ。脳内で。
そしてこれは、ただの気の迷いに過ぎないけれど。例えば明智がもっと早くなまえと出会えていたらとか。無責任な恋愛がどうのこうのと考えずに、なまえの手を取れていたのかとか。あいつに言ったら全力で否定されそうなことが頭を掠める。
「帰るんだろ。置いてくよ」
「今行く」
あの日、決闘の証を受け取った日から、いや、それよりも前。明智と、何より自分のためにも曲げない。そう誓ったのだから、やっぱりこれはただの気の迷いであってほしい。なんて不毛な自問自答を繰り返しながら、明智の背を追いかけた。
▽
俺は自分を曲げなかった。俺よりも頑固なあいつは、最後の最後まで口を割らなかった。対等な立場だと認められて、信頼から与えられた選択肢に、それを選んだことに、ためらいがなかったと言えば嘘になる。
「そ、か。明智くんは、もういないんだ」
俺が、俺たちが選んだ道に後悔はない。
「大丈夫、何かさ、都合がいい気はしてたから。………全部、夢だったんだね」
新しい朝!と伸びをしたなまえは、楽しい夢だったと呟いた。真や春から心配の言葉をかけられている間もなまえはずっと笑っていた。
丸喜が明智を蘇らせた理由のひとつが俺であり、もうひとつがなまえのためだったと知ったのは決戦前夜のことだ。なまえがカウンセリングに来ると決まって明智を話題に上げていたらしい。人の感情に敏感な丸喜にはなまえの気持ちが筒抜けだったんだろう。だからこそ、気丈に振る舞うなまえに胸の奥が痛んだ。
「なぁ暁、オマエの故郷までどれくらいかかるんだ?」
「……めっちゃかかる」
「ざっくりしすぎだろ」
不意にモルガナからかけられた声に意識を戻すと、窓ガラスに反射する自分が目に入った。頬杖をつき、瞳を虚ろにさせている間抜けな面から目を逸らす。保護観察の身から解放され、やっと故郷に戻れる……という奴からかけ離れている表情だ。それもそうだ。仲間たちと離れるのは当然寂しくもある。永遠の別れじゃないにしたって、そばにいることができないのがもどかしい。明智に一生会うことができなくなったなまえはもっと辛いのだろうか、脳裏を掠めるのはそればかりだ。
明智は想いを告げていないのだろうし、なまえは何も知らないままだ。結局、俺も言えなかった。明智の想いを知らないほうがいいのか、知っていたほうがいいのか、別れの日まで結論が出ることはなかった。
窓枠の突出部分に肘をつき、もう一度ホームへ目をやる。次の電車を待つ人。乗り換える人。往来を視界に入れながら、返事がくるはずもないのにぽつりと問いかける。
明智は、本当にこれでよかったのか?
──瞬間、横切っていく人影が誰かに似ていたような気がした。
そんなわけがない、と目を見開く。無意識に口角が上がっていたらしい、モルガナから「ニヤニヤして気持ち悪いぞ」と罵られた。咄嗟にうるせぇと返しておく。
これでよかった。俺は、そう思う。
2020.7.27
何も始まらないまま終わる、かもしれない
2023.10.25
加筆修正
3/13ページ