Persona
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常々思う。世界は不公平、不平等だ。
生まれガチャとはよく言ったもので、お金持ちの家に生まれたらそれだけで順調なスタートダッシュを切れるだろう。では反対に、貧乏な家に生まれたらどうだ。愛だ何だと抜かしたところで結局世の中金だ。何をするにも必要になる。なければ惨めな思いをするのが世の常だろう。
かく言うわたしも、そんな惨めな家庭で生まれ育った哀れな人間のひとりである。
でもそれってさ。
「明智くんも一緒でしょ?」
「……何のつもり」
視点を合わせるために屈んで首を傾げてみる。けれども返ってきたのはこれでもかというほど敵意のこもった双眸のみだった。その身体は生傷だらけで、乾いてしまった血が黒くくすんでいる。傷口は塞がったのか出血は止まっているらしい。「よかったよかった」言いながら立ち上がると、くらりと目眩がしてよろけた。
「立ちくらみ~」
「何がよかっただ。僕たちを、僕を、裏切ったくせに……」
「裏切ってないよ」
「お前だけは、信じてたのに」
敵意の中に憂愁を滲ませている目が突き刺さり、さすがのわたしも少しばかり胸が痛む。素直にごめんね、と謝ってみる。だけど裏切ったわけじゃないからと念を押した。揺れ動く瞳はいまだ信じられないとでも言いたげだ。
裏切るなんて人聞きの悪い。これも全部明智くんの、ひいてはわたし自身のためなのに。釈明をするべくこほんと咳払いをひとつした。
「あのね、明智くん。わたしはずっと自分の生まれを憎んでたよ」
「どうしてみんなと違うんだろう。どうしてわたしのお母さんは優しくないんだろう。毎日そんなことばっかり考えてたよ」
「そんな気持ちをわかってくれたのは、わたしの世界ではたったふたりだけだったの。明智くんも、その中のひとりだよ」
そしてもうひとりは、わたしの神さま。
「………知ってるよ、そんなこと。馬鹿馬鹿しい。神なんているかよ」
「ううん。いるんだよ、明智くん」
その神さまは、わたしたちのような惨めで可哀想な人間に、やり直すチャンスをくれるんだよ。1から、いや、ゼロからやり直させてくれるの。都合の悪い生まれも劣悪な環境も全部なかったことにしてくれる。この人ともっと早く出会えていたらな、あの時ああしてれば、なんてお願いも全部聞いてくれる。明智くんが道を踏み外す前に、わたしから離れていかないようにしてくれるの。ね、素敵でしょ?
にっこり微笑んで同意を求めても、明智くんは首を縦に振ってくれなかった。時おり顔をしかめて傷口に手を当てる姿は痛々しい。塞がっているとはいえ、とてもじゃないけど見ていられないような状態だった。もう一度屈み、明智くんへと手を伸ばす。触れる直前で手を払われてしまい、少しだけ虚しくなった。そんな反応しなくたっていいじゃんか、と膨れてみせても効果はなかった。
「神さまだかなんだか知らない、けど、おかしくなるなら、勝手にッ、…ひとりでなってろ」
「痛いの?」
「…はは、当たり前だろ」
「でもだいじょーぶ!全部神さま、丸喜先生が治してくれるよ」
「その“神さま”にやられたんだよ」
「明智くんが言うこと聞いてくれないからでしょ?」
「なまえ」
「丸喜先生だって本当はここまでしたくなかったと思うよ?でも明智くんたちが抵抗するのがいけないんじゃん」
「…………なまえ、」
「なぁに?」
「……………どうして、よりにもよって、おまえが」
綺麗な顔立ちをぐしゃりと歪めて、我が目を疑うように瞬きを繰り返していて。ああ、と他人事のように思う。明智くんはまだわたしのこと信じてくれてるんだ、なんて。口ではああ言っていたけど、瞳の中に希望の色は残ってる。そこまで信頼してくれていたという事実が、ただ嬉しかった。と、同時に、それを申し訳なくも思うのだけど。
今にも泣き出しそうな顔をしている明智くんの頭を撫でてやる。今度は振り払われなかった。泣き出しそうとは言ったけれど、おそらく明智くんは弱味を見せたりしないのだろう。そうやってわたしたちみたいな弱者は強がって生きていくしかなかったんだから。
「昨日、全部話したろ。元の現実に帰るって。おまえも、納得したって、言ってただろ」
「………納得?できるわけないよ」
撫でていた手を止めて、きっと睨みつける。
「明智くん、あんなに頑張ってたじゃん。みんなに認めてもらうためにたくさん努力してたじゃん。お父さんを超える、ううん、本当はただ認めてほしかっただけなんだよね。そのために何だってしてきたじゃん。わたし、ちゃんと見てたよ」
「ちがう、僕は」
「復讐するんだっていう明智くんに協力もしたよ。でもそれも、全部終わったらわたしと一緒にいてくれるって約束してくれたからなんだよ」
「………知ったような口きくな」
「知ってるもん、全部。それがさ、復讐はできない。誰にも認めてもらえない。それではい終わり、なんておかしいじゃん。明智くんだって自分なりのやり方で頑張っただけじゃん。こんなのおかしいよね。わたしは、こんな世界やだ。いらない」
復讐は何も生まない、そんなものは詭弁だ。じゃあこのやりきれない感情はどうしたらいいの?自分の気持ちを誤魔化して生きていたら報われるの?いつか誰かわかってくれるの?両親ともに揃っている家庭の人間が、わたしの気持ちを理解してくれるの?そのいつかはいつなの?いつかがくれば明智くんもわたしも楽になれるの?そうやってたくさん悩んで悩んで、疲れた。
いつくるかもわからない「いつか」にすがって生きるくらいなら、今ここで、全部創りかえてもらう。そう決めた。
今度は目を逸らさずに立ち上がる。立ちくらみで明智くんの顔が見えなくなるのが嫌だったから。
「明智くんは、この道を自分で選んだって言ってたよね」
「…そうだよ」
「じゃあこれが、わたしの選んだ道だよ」
明智くんは一度大きく目を見開いて、諦めたように目を伏せてしまった。かすかに震えていた手も止まる。もう一度目が合ったときには一縷の望みも無くなっていて、空虚だけが映されていた。
後ろからこつ、と足音がして振り返る。白衣に身を包んだその姿は、わたしの思い描いていた神さまとはだいぶ違う。ほら、神さまは段差に躓いたりしないもん。
「おっと。ふぅ、危ない危ない」
「丸喜先生。相変わらずドジですね」
「なまえさんは冷たいなぁ」
形の崩れてしまった白衣を軽く手で整える。その様子を見守り、指をさした。
「せんせ、オールバック似合わない」
「酷い!」
こんな中身のない、だけど一番幸せであろうやり取りも、もうすぐみんななくなってしまう。
明智くんのほうへ目をやると、俯いたままで視線が絡むことはなかった。周りには明智くんの仲間ごっこに付き合ってくれたよくわからない人たちが倒れていた。まあ、死んじゃいないだろう。丸喜先生はそんな酷いことしない。
でもどうせ、死んだって1からやり直せばいいだけだもんね。
「もういいのかい?彼と話さなくて」
「うん。気は済んだ」
「もっとこう、熱く抱擁とかは」
「そんなの、先生が創りかえた世界でやればいいんだよ」
「……そうかい」
丸喜先生の背後から閃光が走り、たまらず目を瞑った。うすらと開けた視界には、さっき明智くんたちを痛めつけていた謎の生き物が蠢いていた。仕組みはよくわからないけれど、この生き物がわたしたちを救ってくれるらしい。
後光で顔に陰がかかって、丸喜先生の表情は見えなくなった。
「君がいなかったら、僕の計画は上手くいっていなかったかもしれない。本当に感謝してるよ」
「わたしも、先生が話聞いてくれなかったら、ここまで生きてこれなかったかもしれない、です」
「うん。なまえさん、よく頑張ったね。もういいんだよ」
「ありがと、ございます」
力が抜けるように膝から崩れ落ち、流れてくる涙を拭うことなくへらりと笑った。全部、終わった。もう悩まなくていいんだ。そんな多幸感に包まれながら、白く塗り替えられていく世界から意識を手放した。
***
都会の大通り、男はあてもなく歩いていた。視線を左右に泳がせながら歩くさまは、少々不審に思われるかもしれない。お目当てのものはここにもなかったようだ。車線を挟んだ反対側の歩道へ向かおうとして、男は立ち止まった。
「明智くん明智くん、あれ見て!おいしそうじゃない?」
「いつまでその“明智くん”呼びするつもり?一応付き合ってるって認識してるつもりなんだけど」
「何をいうか。この“アケチクン”はあだ名だよ。明智くんじゃないから。アケチクンだから」
「アケチクンくんってこと?」
「違うよ?」
「…頭が悪くなりそうだ」
「そんなことどーでもいいじゃん!ね、あれ食べよ」
ぐいぐいと腕を引っ張られた青年は、満更でもなさそうに頬をかいていた。その表情には一切の陰りもない。男は止めていた足を動かし、静かに微笑んだ。
「なまえさん、幸せになってね」
小さな呟きは雑踏に飲まれ、誰の耳に入ることなく消えていった。
2020.05.19
2023.10.23
加筆修正/Throw away your maskの歌詞好きすぎるんだよな
生まれガチャとはよく言ったもので、お金持ちの家に生まれたらそれだけで順調なスタートダッシュを切れるだろう。では反対に、貧乏な家に生まれたらどうだ。愛だ何だと抜かしたところで結局世の中金だ。何をするにも必要になる。なければ惨めな思いをするのが世の常だろう。
かく言うわたしも、そんな惨めな家庭で生まれ育った哀れな人間のひとりである。
でもそれってさ。
「明智くんも一緒でしょ?」
「……何のつもり」
視点を合わせるために屈んで首を傾げてみる。けれども返ってきたのはこれでもかというほど敵意のこもった双眸のみだった。その身体は生傷だらけで、乾いてしまった血が黒くくすんでいる。傷口は塞がったのか出血は止まっているらしい。「よかったよかった」言いながら立ち上がると、くらりと目眩がしてよろけた。
「立ちくらみ~」
「何がよかっただ。僕たちを、僕を、裏切ったくせに……」
「裏切ってないよ」
「お前だけは、信じてたのに」
敵意の中に憂愁を滲ませている目が突き刺さり、さすがのわたしも少しばかり胸が痛む。素直にごめんね、と謝ってみる。だけど裏切ったわけじゃないからと念を押した。揺れ動く瞳はいまだ信じられないとでも言いたげだ。
裏切るなんて人聞きの悪い。これも全部明智くんの、ひいてはわたし自身のためなのに。釈明をするべくこほんと咳払いをひとつした。
「あのね、明智くん。わたしはずっと自分の生まれを憎んでたよ」
「どうしてみんなと違うんだろう。どうしてわたしのお母さんは優しくないんだろう。毎日そんなことばっかり考えてたよ」
「そんな気持ちをわかってくれたのは、わたしの世界ではたったふたりだけだったの。明智くんも、その中のひとりだよ」
そしてもうひとりは、わたしの神さま。
「………知ってるよ、そんなこと。馬鹿馬鹿しい。神なんているかよ」
「ううん。いるんだよ、明智くん」
その神さまは、わたしたちのような惨めで可哀想な人間に、やり直すチャンスをくれるんだよ。1から、いや、ゼロからやり直させてくれるの。都合の悪い生まれも劣悪な環境も全部なかったことにしてくれる。この人ともっと早く出会えていたらな、あの時ああしてれば、なんてお願いも全部聞いてくれる。明智くんが道を踏み外す前に、わたしから離れていかないようにしてくれるの。ね、素敵でしょ?
にっこり微笑んで同意を求めても、明智くんは首を縦に振ってくれなかった。時おり顔をしかめて傷口に手を当てる姿は痛々しい。塞がっているとはいえ、とてもじゃないけど見ていられないような状態だった。もう一度屈み、明智くんへと手を伸ばす。触れる直前で手を払われてしまい、少しだけ虚しくなった。そんな反応しなくたっていいじゃんか、と膨れてみせても効果はなかった。
「神さまだかなんだか知らない、けど、おかしくなるなら、勝手にッ、…ひとりでなってろ」
「痛いの?」
「…はは、当たり前だろ」
「でもだいじょーぶ!全部神さま、丸喜先生が治してくれるよ」
「その“神さま”にやられたんだよ」
「明智くんが言うこと聞いてくれないからでしょ?」
「なまえ」
「丸喜先生だって本当はここまでしたくなかったと思うよ?でも明智くんたちが抵抗するのがいけないんじゃん」
「…………なまえ、」
「なぁに?」
「……………どうして、よりにもよって、おまえが」
綺麗な顔立ちをぐしゃりと歪めて、我が目を疑うように瞬きを繰り返していて。ああ、と他人事のように思う。明智くんはまだわたしのこと信じてくれてるんだ、なんて。口ではああ言っていたけど、瞳の中に希望の色は残ってる。そこまで信頼してくれていたという事実が、ただ嬉しかった。と、同時に、それを申し訳なくも思うのだけど。
今にも泣き出しそうな顔をしている明智くんの頭を撫でてやる。今度は振り払われなかった。泣き出しそうとは言ったけれど、おそらく明智くんは弱味を見せたりしないのだろう。そうやってわたしたちみたいな弱者は強がって生きていくしかなかったんだから。
「昨日、全部話したろ。元の現実に帰るって。おまえも、納得したって、言ってただろ」
「………納得?できるわけないよ」
撫でていた手を止めて、きっと睨みつける。
「明智くん、あんなに頑張ってたじゃん。みんなに認めてもらうためにたくさん努力してたじゃん。お父さんを超える、ううん、本当はただ認めてほしかっただけなんだよね。そのために何だってしてきたじゃん。わたし、ちゃんと見てたよ」
「ちがう、僕は」
「復讐するんだっていう明智くんに協力もしたよ。でもそれも、全部終わったらわたしと一緒にいてくれるって約束してくれたからなんだよ」
「………知ったような口きくな」
「知ってるもん、全部。それがさ、復讐はできない。誰にも認めてもらえない。それではい終わり、なんておかしいじゃん。明智くんだって自分なりのやり方で頑張っただけじゃん。こんなのおかしいよね。わたしは、こんな世界やだ。いらない」
復讐は何も生まない、そんなものは詭弁だ。じゃあこのやりきれない感情はどうしたらいいの?自分の気持ちを誤魔化して生きていたら報われるの?いつか誰かわかってくれるの?両親ともに揃っている家庭の人間が、わたしの気持ちを理解してくれるの?そのいつかはいつなの?いつかがくれば明智くんもわたしも楽になれるの?そうやってたくさん悩んで悩んで、疲れた。
いつくるかもわからない「いつか」にすがって生きるくらいなら、今ここで、全部創りかえてもらう。そう決めた。
今度は目を逸らさずに立ち上がる。立ちくらみで明智くんの顔が見えなくなるのが嫌だったから。
「明智くんは、この道を自分で選んだって言ってたよね」
「…そうだよ」
「じゃあこれが、わたしの選んだ道だよ」
明智くんは一度大きく目を見開いて、諦めたように目を伏せてしまった。かすかに震えていた手も止まる。もう一度目が合ったときには一縷の望みも無くなっていて、空虚だけが映されていた。
後ろからこつ、と足音がして振り返る。白衣に身を包んだその姿は、わたしの思い描いていた神さまとはだいぶ違う。ほら、神さまは段差に躓いたりしないもん。
「おっと。ふぅ、危ない危ない」
「丸喜先生。相変わらずドジですね」
「なまえさんは冷たいなぁ」
形の崩れてしまった白衣を軽く手で整える。その様子を見守り、指をさした。
「せんせ、オールバック似合わない」
「酷い!」
こんな中身のない、だけど一番幸せであろうやり取りも、もうすぐみんななくなってしまう。
明智くんのほうへ目をやると、俯いたままで視線が絡むことはなかった。周りには明智くんの仲間ごっこに付き合ってくれたよくわからない人たちが倒れていた。まあ、死んじゃいないだろう。丸喜先生はそんな酷いことしない。
でもどうせ、死んだって1からやり直せばいいだけだもんね。
「もういいのかい?彼と話さなくて」
「うん。気は済んだ」
「もっとこう、熱く抱擁とかは」
「そんなの、先生が創りかえた世界でやればいいんだよ」
「……そうかい」
丸喜先生の背後から閃光が走り、たまらず目を瞑った。うすらと開けた視界には、さっき明智くんたちを痛めつけていた謎の生き物が蠢いていた。仕組みはよくわからないけれど、この生き物がわたしたちを救ってくれるらしい。
後光で顔に陰がかかって、丸喜先生の表情は見えなくなった。
「君がいなかったら、僕の計画は上手くいっていなかったかもしれない。本当に感謝してるよ」
「わたしも、先生が話聞いてくれなかったら、ここまで生きてこれなかったかもしれない、です」
「うん。なまえさん、よく頑張ったね。もういいんだよ」
「ありがと、ございます」
力が抜けるように膝から崩れ落ち、流れてくる涙を拭うことなくへらりと笑った。全部、終わった。もう悩まなくていいんだ。そんな多幸感に包まれながら、白く塗り替えられていく世界から意識を手放した。
***
都会の大通り、男はあてもなく歩いていた。視線を左右に泳がせながら歩くさまは、少々不審に思われるかもしれない。お目当てのものはここにもなかったようだ。車線を挟んだ反対側の歩道へ向かおうとして、男は立ち止まった。
「明智くん明智くん、あれ見て!おいしそうじゃない?」
「いつまでその“明智くん”呼びするつもり?一応付き合ってるって認識してるつもりなんだけど」
「何をいうか。この“アケチクン”はあだ名だよ。明智くんじゃないから。アケチクンだから」
「アケチクンくんってこと?」
「違うよ?」
「…頭が悪くなりそうだ」
「そんなことどーでもいいじゃん!ね、あれ食べよ」
ぐいぐいと腕を引っ張られた青年は、満更でもなさそうに頬をかいていた。その表情には一切の陰りもない。男は止めていた足を動かし、静かに微笑んだ。
「なまえさん、幸せになってね」
小さな呟きは雑踏に飲まれ、誰の耳に入ることなく消えていった。
2020.05.19
2023.10.23
加筆修正/Throw away your maskの歌詞好きすぎるんだよな
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