ジオラマセカイ
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何をするにしたって休息は必要だ。ずっと集中できないし体力も無限じゃない。適度な休息を挟むことで、結果的に成果に繋がるのだ。だから、みんなでパレスを探索するときもテスト勉強するときも、そうやってモチベーションを維持してきた。疲れたね、休憩しよって声をかけて、もうひと頑張りだよって励ましあう。そういう関係性が理想であり、私の世界でのあたりまえだった。
「さて、休息場所を確保できたし情報を共有しよう。まずは僕から。この船は会員制で場所によっては会員証が必要になる。…はずだけど、どうやら」
「まってまって。休憩させてよ」
「は?今してるだろ」
「してないじゃん」
休憩っていうのは何もしてない状態を指すの。休みの日にバイトのこと考えてたら休みじゃないの。仕事なの。そう言うと、ゲーミングマスクは呆れたように首を振った。
「君さ、一刻も早くここから出たくないの?」
「出たいよ」
「なら、そんなこと言ってる場合じゃないだろ。それに休憩中に作戦を練れば、体力を回復できるし計画を立てられる、一石二鳥だ」
「むり。回復しない。あんたが一緒だから」
「そうかい。気の毒に」
それで続きだけど、と話を本筋に戻そうとするゲーミングマスクは、さっきのやり取りがなかったみたいに説明を続けた。みんなで他愛ない話をして、しっかり休息を取って、気力も体力も回復させてから腰を上げていたあの頃が懐かしい。早くみんなに会いたい。そのためにはコイツの話を聞くしかないんだろうな、と半ば投げやりになりつつゲーミングマスクを見つめた。
「……………つまり、あの扉は君にしか開けられない可能性がある」
「ごめんぜんぜん聞いてなかった」
「………いい度胸だな、こんな状況じゃなきゃとっくに殺してるよ」
淡々とそう告げたゲーミングマスクは、口調はさておき妙に落ち着いていた。仮面のせいで相変わらず表情はうかがえないけれど、さっきのような乱暴さや感情的な側面は見られない。ただ、あたりまえのことのように『死』を扱っている、そんな気がした。
「死んだとか殺すとか、よく軽々しく口にするよね。なんでそんなに物騒なの?」
「質問に答える義理はないよ」
「出た出た。心閉ざし系男子。どうして人を遠ざけるの?ヤなことあったん?」
「無神経に人の領域を踏み荒らさないほうがいい。迷惑だ」
「だってそっちが閉じちゃうから。こじ開けないと。オープンユアハート」
「それが迷惑だって言ってるんだよ」
テーブルを挟んで向かい合う私たちは、手を伸ばせば届く距離にいる。…のに、話せば話すほど遠のいていく。きっと、彼にとって親密さは煩わしいものでしかないんだろう。その理由が何なのか、本人が喋りたがらないから私にはさっぱりわからない。わかってほしいとも思ってないことだけが、痛いほどわかった。
「私は己刮学園2年のみょうじなまえ。コードネームはアノン。趣味は絵を描くこと。絵を描くのが好きで、絵を描くのが大嫌い。よろしく」
だから、なおさら後に引けなくなった。
「何の真似だ?」
握手を求めた手はゲーミングマスクが立ち上がったせいで目的を見失った。素早く身構えたかと思えば、どこからともなくブレードを取り出すんだから物騒極まりない。バーカ。ビビり。ただの握手だし。うっかり口からこぼれたそれはもちろん無視されたし、ゲーミングマスクの警戒心はより一層強くなった。
「いい加減その絵の具取ってあげるよ。これでゲーミングマスク卒業だね」
だからさ、と続けながら手のひらに力を込めた。
「私のこと信用できないだろうし迷惑かもしんないけどさ、名前くらい教えてよ」
色とりどりのキャンバスに水をかけるイメージをする。絵の具が溶けて混ざり合い、さらさらと地面へ流れていく。頭の中に真っ白なキャンバスを思い浮かべると、目の前のゲーミングマスクは黒い仮面に戻っていた。
「それに、協力して脱出する相手に名乗らないとか不便だって。バトンタッチするときなんて呼んだらいいの?やっちゃって!ゲーミングマスク!じゃ言いにくいって」
もう一度、彼に向かって手を差し出す。私たちは互いのことを何も知らないし、片方は話したがらないときた。
ひとりの力で何かを成し遂げるのは限界がある。少なくとも私は、仲間がいてくれたから今がある。みんながいなかったらあいつに欲望を奪われて、生きる気力もなくして、今ごろ家に引きこもってSNSに呪詛でも書き込んでいたかもしれない。そんな人生が見えたってワンダーが言ってた気がする。
けど、彼はそうじゃない。彼はたったひとりでシャドウを捻り潰していた。まだまだ見せてない力があって、私に言えないような目的があるはずだ。その強い意志は、キャトルの言葉を借りれば素晴らしい欲望なんだろう。
そして、彼はペルソナを覚醒させている。彼の欲望は木内や宮澤と違って歪んでいない、私はそう判断した。
「……君の言い分にも一理ある。いいだろう、取引だ。君の力を借りるかわりに、僕の情報も開示する。これで異論はないね?」
私がこくりと頷くと、彼がおもむろに黒い仮面へ手をかける。ゆっくり引き上げられた仮面から覗いたのは栗色の毛先と赤褐色の瞳。中性的な顔立ちをしたそいつは、怪しく口端をつりあげた。
「明智吾郎。コードネームはクロウだ。怪盗団を追っている探偵……なんて、今更君の前で取り繕っても無駄か」
僕は怪盗団に、あいつに引導を渡すんだ。この手で葬ってやる。
明智と名乗った男は、不敵に笑ってそう言った。
彼の欲望が歪んでいるのかいないのか、私にはわからなかった。
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