ジオラマセカイ
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仲悪いわけじゃないけどそこまで心を開いてるわけでもない。そんな相手と行動するときは、何となく真横を避けて、近くも遠くもない絶妙な距離感を保ってしまう。一度会話が途切れたが最後、どちらかが気を回すなり話題を見つけるなりしない限り、無言のまま並んで歩くことになってしまう。
ゲーミングマスクと私の間にも、例外なく気まずい沈黙が…
「ところで君、ジョーカーとはいつ知り合いに?僕の高校では一度も見かけていないし、秀尽学園の生徒でもなさそうだね。となると…洸星高校か?まさか、この僕が怪盗団のメンバーを見落としていたなんてね」
流れていたらよかったのに。
一方的に喋り続けているゲーミングマスクさんは、僕としたことが油断したよ、と額があるであろう部分に手を当てていた。絵の具でベタベタの仮面に覆われているせいでその顔色はうかがえない。言動を見るに相当自分に自信があるんだろう、自尊心キリマンジャロか。むかつく。
「ジョーカーって誰?」
「庇っているのかい?君の身元を特定する方法はいくらでもある、逃げられると思わないことだね」
「そんなこと言われてもなぁ…シュージン?コーセイ?なんて聞いたことないし」
「……はぁ?」
「己刮学園って知らない?下北沢にあるんだけど」
毎朝渋谷で乗り換えて通ってるんだよ、そこに。そういえば最近ぶつかり男いたよね。ニュースになってたやつ。うちの生徒も被害にあっててさ。色々あってワンダーたちが改心させたんだけど、あ、これ言っちゃダメなやつかな?でもあんたもペルソナ使いだし…うーん、私たちが怪盗やってるのは内緒ってことで!
今度は私が一方的に話していた。し、余計なことも言ってしまった。絶対キャトルに怒られるやつ。
話を聞いてるのか聞いてないのか、ゲーミングマスクさんは思案するように顎らしき部分をさすっている。いい加減仮面を外せばいいのにとは思うものの、私がつけているドミノマスクも顔を半分以上覆っている。片方だけ素顔を晒すのはフェアじゃないし、信用しきれていない相手に個人情報を渡したくもない。そりゃ外さないか、とひとり納得した。
「鴨志田卓という名前に聞き覚えは?怪盗団が狙った一人目のターゲットは鴨志田のはずだ」
「誰それ?木内じゃないの?」
「……雨宮蓮は?」
「知らない」
「ザ・ファントムは?」
「ファントム?磨我痛神の?」
「マガツウシン…?」
絶妙に噛み合っていない会話にどちらともなく口をつぐむ。何かがおかしい、おかしいということはわかるのに、肝心の何がおかしいのかわからない。形容しがたい違和感が私たちの間にあった。
「…よほどの情弱じゃない限りザ・ファントムを知らないわけがない」
「だから知ってるって!磨我痛神のマガツカミが公式ファントム認定するんだよ」
「デタラメにしてはやけに具体的だし、嘘を言ってるとも考えにくい」
「デタラメ!?あの磨我痛神だよ!?情弱はあんたのほうじゃん」
「はは、あらゆるSNSを網羅しているこの僕が?それこそありえない」
「自信満々に言うことじゃないよ」
これはあくまで推察だけど、と前置きしたゲーミングマスクは、どこからともなく紙切れを取り出し、私に突きつけてきた。
「僕たちは、違う『現実』を生きているのかもしれない」
反射的に受け取ったそれは赤と黒の禍々しいデザインをしていた。間違いない、私たちが出した予告状だ。そう確信してひっくり返すと、「色欲」のクソ野郎鴨志田卓殿という名前と、切り抜き文字で作られたやや拙い文章が並んでいた。
「え……嘘、木内は……?」
何回見返してもひっくり返しても、予告状にはポップなロゴと記憶にない予告文が書いてあるだけ。ゲーミングマスクが言った『違う現実』の意味なんてぜんぜんわからない、わかりたくもない、のに。目の前に突きつけられた予告状は、見間違うほど私たちの予告状と酷似している。こんな物を突きつけられて、見て見ぬふりなんてできるわけがなかった。
「つまり、つまりさ、……私たちの世界がパラレルワールドって言うつもり?」
「もしくは僕がいる世界がね。そう考えると辻褄が合う」
「そんな………」
「パレス自体が異世界なんだから、今更驚くことでもないだろ」
「ワンダーたちまで巻き込まれてないか心配なだけ。ま、友達いない人には縁のない話だったね」
「仲間ごっこに興味はないよ。それに、他人の前に自分の心配をしたほうがいい」
これ以上の問答は無駄だと言わんばかりに踵を返すゲーミングマスク。さっさと歩き始めたかと思えば「目下の課題について作戦を練ろう」と言い放ち、認知の歪みが弱い部屋へ入ってしまった。
協調性ゼロ。共感力ゼロ。謙虚さも気遣いもナシ。合理性と問題解決能力だけ飛び抜けて高いのは苦労の賜物なんだろうなぁ、誰にも頼れない環境で生きてきたんだろうなぁ、と思わなくもない。けれども、私は正論だけがすべてじゃないと知っている。正しさが時に人の欲望を奪うことだってある。だから、絶対謝らせてやる。特に絶望的な配色センスのところ。絶望的って個性的ってことだから、個性がなきゃアーティストになれないから、つまり私はアーティストってこと。
よし、と気を引き締め、すっかり見えなくなってしまった背を追いかけた。