焼けぼっくい全焼事件
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拝啓
幕府の犬どもが目を光らせる季節になりました。高杉様におかれましては、お変わりなくお過ごしのことと、心よりお慶び申し上げます的なカンジ。
このたび、依頼された案件につきまして、一言物申したく紙面にしたためた次第でございますコンニャロー。
なぜ、わざわざ、銀時のところで密偵なんてせにゃならんのですか。厄介払いに近い何かされたよね私。全然心当たりないんだけど何かした?アレかな、勝手にヤクルト飲んだのまだ怒ってんのかな。生きて腸に届くやつ買い直すって言ったじゃん。
それとも、江戸で祭りがあった日。やっぱり銀時に会って
「恋文の前文にしてはちと硬すぎるな」
「バッッッカなにナチュラルに入ってきてんの!?」
次の文字へと滑らせた筆は、突如かけられたヅラの声にギュインと方向転換した。書いたばかりの文字に黒いミミズが走る。衝動のまま紙をくしゃくしゃと丸めて「恋文じゃないし!」真横のヅラに投げつけた。アテがないからアジトに宿泊させてほしいと頼んだのは私だ。ムサイ男連中と寝床を共有する、という条件はもちろん呑んだ。金銭に物資と、最低限しか持ち出してないのにワガママを言ってられる状況じゃない。第一、仮にも侍の肩書きを背負う身。今さら男たちに囲まれることに抵抗はない。ないけども。ノックもなしに入室し、あげく人の手紙を盗み見るのは言語道断。
「プライバシーってもんがあるでしょーが!」
「水臭いぞなまえ。スィ~俺達はいつでもふたりでひとつだったろう」
「アンタとひとつになった覚えないんだけど。気持ち悪いからやめてくんない」
「女が合体したいなどとはしたないことをいうものではな」
「言ってねーよ」
秒速のツッコミとともに肘鉄をいれる。呪われたイヤホンどころじゃない。こいつがかけてるのは呪われたヘッドホンだ。バカな音色が音漏れしまくっているせいで周囲を苛立たせる。そうに違いない。私の肘を受け止めたヅラは、何食わぬ顔で紙を拾い上げた。
「高杉の狙いはわからんが、そう邪推せずとも良いのではないか」
ちゃっかり内容まで読んでくれちゃったらしく、皺だらけの紙を広げてそう呟いた。
当面の間は江戸に滞在するだろうから事情を隠すわけにもいかず、仕方なく経緯を話したらこれだ。密偵のどこを素直に受け取ったら邪推せずに済むんだろう。むしろ勘繰るだけ悪意が浮き彫りになった気がする。やっぱヤクルトか。ヤクルトのこと根に持ってんのか。身長と心の器が比例してやんの、なんて晋助に向かって言えるわけもなく、やり場のない不満だけが募っていく。この場にいたら陰湿な嫌がらせのひとつやふたつしてやれるのに、遥か上空を漂っているであろう奴には手が届かない、し。
それに。
万が一、いや億が一の可能性の話。晋助の僅かな同情心と気まぐれが生んだ決断だったとしたら、私は。
「考えていても仕方あるまい。ともかく銀時の元まで案内するぞ」
「……は、え?今?」
「うむ。下手の考え休むに似たり。案ずるより産むが易しだ」
むんずと掴まれた腕を引っ張られ、否が応でも腰が持ち上がる。ずるずると引きずられていくまま足を動かすと、桂一派なる者たちから奇異の目で見送られた。見てないで助けてほしい。すれ違ったヅラの愛玩動物(?)エリザベスは「いってらっしゃい」のプラカード片手に手を振っている。だから止めろ見送るな。まだここに来て数時間も経ってないんだよ。一派総出でこのバカを止めろ。
大体もっともらしい潜入文句も思いついてないのにどうしろと。銀時の情報に使い道があるのか皆目検討もつかないけど、一応は密偵的なことをするのだから、正面きって「久しぶり~元気?」だけは避けたい。もしかしたら私のことなんかキレイさっぱり忘れているかもしれないし、ていうか絶対そう。あ、いたわいたわそんな奴。何だっけ、佐藤さんだっけ。あらまァ大人になっちゃって~とか言うに決まってる。潜入自体は容易になるだろうけどそれはそれで釈然としない。要するに嫌なのだ。行きたくないのだ。顔も見たくないのだ。
「幕府の犬に嗅ぎつけられると面倒だ。屋根から行くぞ」
…や、語弊があった。顔はちょっと見たいかも。マジで少しだけね。三分の一くらい見れたら満足するから。理由は単純明快。銀時のことだから、持病の“放っておけない病”が悪化しまくってるに違いない。実際、あいつは万事屋を営んでいる。他人の厄介ごとに首突っ込んで、自分の犠牲なんて一切顧みなくて、いい歳こいてボロボロの体引きずって人助けしてるんでしょどうせ。
だから、ちょっと気になるだけ。元気でやってるのかなとか。ヤンチャしすぎてないかなとか。
「よし、そろそろ降りるぞなまえ」
新しい居場所を見つけたのかな、とか。
「……って、ヅラ!何してんの!?これ落ちるって」
「案ずるな。降りるだけだ」
小脇に抱えられた私の体にやってくる浮遊感。とう、のかけ声と一緒に跳躍したヅラは当たり前みたく着地の体勢を取っている。まもなく襲いかかってくるであろう衝撃に備えてぎゅっと目を瞑ると、同じく力んだヅラの腕が腹にめり込んだ。
「ッゥぐ……オ、あの、吐ぎぞぉ」
「目的は達成した。俺は先に帰る。ゆっくりしてくるといい」
当然のように私を地面へ落としたヅラは「バイビ~」と額にピースを掲げて去っていった。ふっる。ふっっっっる。即座に入れてやろうとしたツッコミは十二指腸あたりで止まった。ていうか今絶対変な音聞こえた。ギュンて。圧迫されて変形した絶対。暴行罪及びネタの古さがなんか癪に障ったの刑で即刻切腹しろ。
せめて移動だけでもしようと顔を持ち上げると、和風の玄関が目にとまる。そういえば地面だと思っていた床も木製で、人の手で造られた建物のようだった。
まさかここは。
「──あ、そうだ神楽。逃げるは恥だし役にも立たねぇキャッホーの再放送録画しといて」
「ウボっっっっ」
ガラガラと戸を引く音。足元なんて眼中にないらしい住人の踵は腹部にクリティカルヒット。追いうちをかけるようにやってきた激痛に、起こしかけた体は反射的に丸まった。最悪だ。どいつもこいつも私に何の恨みがあるってんだ。勝手に出ていった呻き声も含めて本当に最悪だ。
けど、もっと最悪なのは。
「あ?人んちの目の前で何してくれてんのネーチャン。仮にも女がウボはマズイでしょーよ。濁点取ったらウホだもの。ゴリラだもの」
今最も会いたくない人物に鉢合わせてくれちゃった運命のイタズラだ。
ふわふわと揺れる特徴的な銀髪は天然物のうねりを帯びている。がしがしと頭をかいてしゃがみこんだ男から伸びてきた腕。「おら、手ェ貸してやっから」気だるげな声と見慣れた仕草。どれもが懐かしくて、あの日から一度も色褪せることのなかった記憶と重なった。
見間違えるわけがない。この人は。この男は。この男、が、……銀時。今の、銀時。
「アレ、お前………っ、まさか」
銀時が目を見開いたのと、脳から指令が下るのはほぼ同時だった。やばい。バレる。何とか誤魔化さなきゃ。晋助から言い渡された「密偵」を律儀に遂行しようとしている私の頭が叩き出した最適解はこれだった。
「……初めまして万事屋さん。私、新垣結衣っていうんですけど」
背に腹は代えられないときもある。たぶんある。ごめんガッキー。勝手に名前拝借しといてアレだけどたぶん速攻でバレるよ。だから自信ないっていったのに。晋助のバカ。そんなことしなくたって、私の覚悟はとっくに決まってたのに。
「あ、そ……。新垣さんねハイハイ…………じゃねーだろォ!ガッキー!?エ?嘘?嘘だよね?嘘だと言ってよゲンホシノ!」
「よく見てヨ銀ちゃん。本物のガッキーはもっとシュとしてたネ。同姓同名の別人アル」
銀時の後ろからひょっこり顔を覗かせた少女は、私に指をさしてそういった。
「あ、ホントだ」
「ていうかお客さんじゃないアルカ?」
なぜかバレずに済んだらしい状況よりも、地べたに寝転がったまま会話が成立してることよりも、少女が見慣れない服装に身を包んでいることよりも、私の頭を占めたのはただひとつ。
このふたり、どういう関係?
2020.12.10
2025.3.2
加筆修正
5/16ページ
