焼けぼっくい全焼事件
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「久しいななまえ。またこうして共に食卓を囲むことができるとは夢にも思わなんだ。なァエリザベス」
『そうですね桂さん。月日が経つのは早くていけねーや。人の顔なんてすぐ忘れちゃいますよ』
「特に女子はみな派手に着飾る。見分けがつかんのだ。なんだっけアレ、乃森坂46だっけ。美人が集合するとほぼ同一個体にしか見えぬからな」
『それは歳だよ桂さん』
「その点なまえは相も変わらず素朴な身なりをしていてすぐにピンときた。アレ?これなまえじゃね?ってなったもん俺」
「うるさいよヅラ斬るよ桂」
「ヅラじゃない桂だ。いや違う俺が桂でこれは地毛」
「お願いだから黙ってて。長いんだよ。ここまで会話文しかないんだよ。そこの白い物体は知り合いみたいな空気出さないで。初対面だから」
自分の黒髪を引っ張ってみせたヅラに人さし指を突きつける。どうだっていいんだよそんなこと。知ってるし。ていうかいい加減その長髪何とかして。続けざまに文句を投げたところでどこ吹く風、目の前の馬鹿には一切通用しない。ヅラは昔から真面目とマイペースをミックスした性格で、厄介者に拍車をかけたような存在だった。今やそんなヅラと肩を並べている奴が謎の生物だなんて。狂乱の貴公子の名は伊達じゃなかったのかもしれない。
「どうしたエリザベス、食わんのか。腹が減っては攘夷ができぬぞ。いつ何時事が起こると知れぬ身、常に万全の状態でおらねば足元をすくわれるぞ」
そして、今のモノローグは絶対必要ない。
「なまえも遠慮せず食べるといい。今日は俺の奢りだ」
なぜならこいつはマジでただの馬鹿だからだ。
エリザベスのくちばしだと思われる部分が開き、にゅっと肌色が伸びてくる。そばを皿ごと体の中にしまいこんだエリザベスは、体内からずるずると音を立てて食べ始めた。一連の流れを見ていないヅラは、同じくずるずるとそばを啜っている。彼曰くこの生き物はペットらしいのだけど、何をどう間違えたらこれをペットだと言い張れるのだろう。白い布からのぞく足に生えそろったすね毛は隠す気がないらしい。味がしないそばを口に詰めこみながら、私はまた不毛なモノローグを垂れ流す。幸い客は私たちだけのようで、隣の椅子に置いた私物を睨みながらはぁぁとため息をついた。
晋助に密偵を言い渡され、ヅラと再会したのも神の悪戯に過ぎないんだろう。そうでなきゃ運命とやらを呪いたくなる。密偵というかほとんど追い出されてるけど。厄介払いってかコラ。
数時間とちょっと前、晋助から渡された紙切れ片手に、土地勘のない街並みを歩き続けていた。手書きオブ手抜きで簡素化されまくった地図が、一昔前のカーナビよりも役立たずなのは一目瞭然。怪しげな歓楽街に入りこみ、攘夷浪士の姿を見かけてたときに確信する、完全に迷った。ていうか迷うに決まってる。目的地がパッとしない地図を回転させ始めたころには、自分が来た道さえわからなくなっていた。方向音痴と言われたらぐうの音も出ないけど、書いた側にも問題があると思う。
恥を忍んで道行く同志に声をかけようとした矢先、目に止まる白い化け物。
「お兄さんうちの店寄ってって~このクーポン見せれば10%割引価格になるよお得だよ~」
『この人はジュリア派らしいですお兄さん』
「何を言うかエリザベス!こんなふしだらな店で働く女子に興味などないわ!ただし未亡人は別。よって俺はマリナ派だお兄さん」
と、面影が残りすぎているバカ。
「何してんのヅラ」
「ヅラじゃないマリナだ。気安くその名で呼ぶな。ここは
「攘夷志士が働くところでもないよね」
「貴様何故それを……おのれ幕府の手の者か!この手で始末してくれよう」
道のど真ん中で大声を上げたヅラは、本気と書いてガチと読む古いタイプの目をしていた。髪を下ろす以外の変化が見られない外見に、馴染みしか知らないであろうニックネーム。加えていちいちクソ真面目な反応を示すあたり、桂小太郎本人に間違いないだろう。何十年と見てきた顔を見間違うわけがない。穏健派に移行したと小耳に挟んだけれど、目の前の長髪バカは懐から物騒な獲物を取り出していた。私に気付いていないヅラを放置すればロクなことにならないのは目に見えてる。往来の激しい場所で目立ったりしたら、迷子を通り越して不審者扱いされること山の如し。晋助の真意はともかく、密偵などと呑気なことを言ってる場合じゃなくなる。ここは誤解をとくのが先だ。
敵意がないことをアピールするべく、私は持っていた荷物ごと両手を上げた。
「待って待って!私だよ私!わかんないの?」
「戯けが!今度は私私詐欺で誤魔化すつもりか!俺がその程度の愚策に引っ掛かるとでも」
「ちょっとヅラ、なまえだってば!」
「………なまえ、だと?」
ヅラの手から円形の何かが滑り落ち、私の足元にころころと転がってくる。かつ、と音を立てて止まったそれは、目まぐるしくカウントダウンを始めた。徐々に数字が減っていくそれが何なのか。頭で理解するより先に、後方へ足を引いていた。
「なまえ……、みょうじなまえか!生きておっ」
「ドライブシュートォォォ!!!!!」
ヅラの顔面で跳ね返った時限爆弾は、そのままヅラの頭上で見事に爆ぜた。爆発の余波を浴びたヅラの髪型がアフロに変わり、今度は私の手から荷物が滑り落ちた。
「何でそーなるの」
「原理は知らぬがアニメ漫画等で被爆したキャラクターはこうなる運命なのだ」
「あ、そう。なんかごめん」
「この騒ぎ、いつ真選組が来てもおかしくない。こうしてはおれん。逃げるぞなまえ、エリザベス!」
「えええっ!?やめ、私あんまり目立ちたくないっていうか」
私の荷物を引っつかんだヅラを追いかけようとして宙に浮く体。目を点にして瞬かせた視界に入りこんだ白い布。…布?布なのかアレ。布っぽい腕に抱え込まれた私は、あれよあれよという間にテロリスト共に連れ去られてしまった。私もテロリストだけど。文句を言おうにも上下に揺れる視界に気力を削がれ、どうにでもなれと投げやりに目を瞑った。
それからなんやかんやあって冒頭に戻る、というわけである。
「時になまえ、髪を伸ばしたのだな」
ヅラの声に意識を引き戻される。「そうだよ」止めていた箸を動かしながら答えると「失恋でもしたか」斜め上の感想が返ってきた。
「違うし。それ逆でしょ普通」
「そうか。見違えたぞ。ずいぶんと雰囲気が変わって見える。理由でもあるのか」
「別にないよ。大体何年会ってないと思ってんの?そりゃ嫌でも変わるでしょ……色々」
「てっきり俺は彼奴のことを気にしているのだとばかり」
含みを持たせたような台詞に、心当たりがある私の心臓は大きく跳ねた。紛らすようにつまみ上げたそばをめんつゆへ沈ませると、ゆらゆら揺れる自分の瞳と目があった。動揺しています、と書いてあるそれに苦笑いする。晋助にしろヅラにしろ、何だって人の傷口を抉るようなことばかりしたがるのか。
「彼奴って?」
「銀時だ」
ど直球。どストレート。邪気のない真っ直ぐなそれにいたたまれなくなって目を逸らした。
「銀時か……懐かしい。それこそいつの話してんの」
「む。どういう意味だ」
どういう意味も何もない。戦場ではぐれて以来顔を見ていない、文字通りの消息不明なのだから。すぐに再会した晋助が名前を出すわけがなく、耳にするのは同じく攘夷活動を続けるヅラや同志の話ばかりだった。世界をぶっ壊すという思想の元に集まったのだから当然のこと、私だってそこに不満はない。こんな狂った世界がどうなろうと知ったことじゃない。し、晋助の手助けになれるならそれでよかった。
それでも。時たま後ろ髪を引かれるというか何というか、ふっと頭を過る瞬間がある。生きてるかなとか。どこにいるんだろうとか。そういう物思いに耽ってしまう瞬間がないと言えば嘘になる。明確な終わりを迎えたわけじゃない私たちの関係は、未練として残り続けるには充分すぎるものだった。ふらふらとだらしないアイツのことだから、どこぞで元気にやっているだろうし、未練がましく面影を追い続けているのは私だけだろうけど。
だから別に、わざわざヅラに伝えるほどのことじゃない。なんでもないよ、とぼかして返すと「そうか」と簡素な相づちを打たれた。ヅラなりに私を気遣って…くれたかどうかは微妙だけど、意図がどうであれ話題転換するための間ができた。すぐさま乗っかってやろうと箸を置き、手荷物から例の紙切れを取り出した。
「そんなことよりヅラぁ、これ見てよ」
「何だこれは」
「私も攘夷活動続けてるんだよ。晋助のトコで」
「何、高杉だと?なぜ高杉の名が出てくる」
「それはおいおい話すとして、晋助に密偵頼まれたはいいんだけど場所が全然わからなくてさ。ヅラのほうが土地勘ありそうだし、手抜き地図の解読もできるかな~って」
「この場所、まさか」
え、なになに、わかるの。身を乗り出してヅラに紙切れを向ける私は、続けられた言葉に絶句した。
「万事屋銀ちゃん。彼奴が──銀時が営む何でも屋だ」
これだから運命なんて大嫌いだ。
2020.11.26
2025.3.2
加筆修正
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