きみとふたり、夢の中で
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「何か話してください、賢者様」
ベッドに寝そべっているミスラの手を握り、意識を集中させた瞬間かけられた言葉がそれだった。すぐに目を開けた私は「急ですね」とだけ返して苦笑いする。
ミスラの無茶振りは今に始まったことじゃない。やる気を出せ、手を寄越せ、今すぐ眠らせろ。みたいに、些細なことから手に負えないものまでねだられてきた。ちなみにミスラの提案はほぼ失敗して、その度にしっかりしてください賢者様と私が怒られている。理不尽だ。
それでも、今までの難題に比べたら話題を提供するくらい何てことない、はず。うーんと頭をひねること数分間、真っ先に思い浮かんだのは、最も無難であたりさわりないやつだった。
「ミスラ、今日は何してたんですか?」
世間話の定番といえばこれ。質問をするだけで会話が成り立つし、とりとめのない話をしてるうちに眠くなるはず。これぞ最適解。ゆっくり瞼をふせたミスラを見て、私は心の内でガッツポーズをした。
「今日…………特に何も。ああ、そういえば今朝、オーエンに腹が立ちました」
「え!?どうして…」
「さあ、覚えていません。そういえばオズの背後がガラ空きだったので、チャンスだなと思った気もします」
──けれど、ミスラから返ってきたのは予想外の言葉……といってもミスラにとっての日常はそっちなんだろう。『むらっときた』でオーエンやブラッドリーに襲いかかるんだから、当然といえば当然だ。もちろん私には縁も耐性もあるわけがなく、「ええっ!どっちともケンカしちゃったんですか!?」思わず声を荒らげると、ミスラは面倒そうな態度を隠さずため息をついていた。
「殺ってませんよ」
「…あれ?そうなんですか?」
「はあ?」
「え?」
「あなたが殺すなって言ったんでしょう?」
「そ……、うです!ありがとうございますミスラ!」
「存分に感謝してください」
もう一度ありがとうございます、と呟いてみる。やや間があって、おもむろに瞼を持ち上げたミスラと目があった。拗ねているのか呆れているのか、どちらも合っているようで違う翡翠を見つめ返しながら、私はミスラと繋いでいる方の手を握りなおした。
ミスラなりに私を気にかけてくれている。私だけじゃない、他の魔法使いたちへの態度もそうだ。魔法舎に来たばかりのミスラと比べれば、私たちに向けられていた冷たく尖る何かは鳴りをひそめた。と思う。
ミスラがその気になれば、ルチルとミチルを閉じこめることも、私の制止を振り切ってオズと争うことだってできる。もしもミスラから歩み寄ろうとしてくれなかったら、きっと今の関係は、ない。
北の魔法使いは誇り高い、いつだかオズはそんなことを言っていた。彼らが持つ矜持がどんなものか、私には想像することしかできない。そしてたぶん、本当の意味で理解することもできないんだろう。それをするには、人間の私に残された時間は短すぎる。悠久の時を生きる魔法使いと私じゃ、見えている世界があまりにも違う。
だから、だからこそ。
「………ミスラだから、我慢できるんですね」
限られた時間の中で、ほんの僅かでも彼らの一部に触れていたい。偶然でも運命でも構わない、他の誰でもない私が賢者に選ばれたことに、意味があると思いたい。時代を跨ぐ彼らの記憶に残るように、遥か未来で私を思い出してもらえるように、そっと手を握る。
「そうですよ。……ふふん、賢者様はようやく俺の偉大さが理解できたようですね。気分がいいのであなたの望みを叶えてやってもいいですよ。手始めに誰を消したいですか?」
得意げに笑うミスラから手を握りかえされる。物騒な言葉とは裏腹に、ミスラの声音は優しくてあたたかい。
「あはは………そういうのは大丈夫です」
「なら、なんです?」
こうやって少しずつでもミスラに近づけたらいいな。そう思いながら、私は。
「ミスラと寝たい、です」
めちゃくちゃなことを口走っていた。
しまったと口をつぐんだところでもう遅い。すぐそこにいるミスラが聞き逃してくれるはずもなく、ぐいと腕を引っ張られる感覚がした。
「お安い御用ですよ。さあ、早くこっちに来てください」
「ふ、ふふ普通に寝るだけですよ!!」
「うるさ……。それ以外に何があるんですか」
「う、そうですよね……あはは」
「しっかりしてください。俺が眠れるかどうかはあなたにかかってるんですから」
「はい…………」
賢者が交代しても、変わらずみんなが過ごせるように。もっとみんなのことを知って、たくさんの記録を残していきたい。そのためにまず、ミスラの望みを叶えたいです。それが私の望みです。……の言い間違いです!なんて今さら言えなくて項垂れる。まあいっか、ミスラが気にしてないなら。いいのか?いいってことにしよう。そこで思考を打ちきって、ミスラが捲り上げた布団に身体を滑りこませた。
「それで、何の話でしたっけ」
「うーん。何でしたっけ」
「忘れたのでまた最初から話してください。別にいいでしょう、あなたは俺と寝たいんですから」
欠伸を噛み殺しながらぼやくミスラにふふ、と笑い混じりの息がこぼれる。
まだまだ先は長そうだ。
ベッドに寝そべっているミスラの手を握り、意識を集中させた瞬間かけられた言葉がそれだった。すぐに目を開けた私は「急ですね」とだけ返して苦笑いする。
ミスラの無茶振りは今に始まったことじゃない。やる気を出せ、手を寄越せ、今すぐ眠らせろ。みたいに、些細なことから手に負えないものまでねだられてきた。ちなみにミスラの提案はほぼ失敗して、その度にしっかりしてください賢者様と私が怒られている。理不尽だ。
それでも、今までの難題に比べたら話題を提供するくらい何てことない、はず。うーんと頭をひねること数分間、真っ先に思い浮かんだのは、最も無難であたりさわりないやつだった。
「ミスラ、今日は何してたんですか?」
世間話の定番といえばこれ。質問をするだけで会話が成り立つし、とりとめのない話をしてるうちに眠くなるはず。これぞ最適解。ゆっくり瞼をふせたミスラを見て、私は心の内でガッツポーズをした。
「今日…………特に何も。ああ、そういえば今朝、オーエンに腹が立ちました」
「え!?どうして…」
「さあ、覚えていません。そういえばオズの背後がガラ空きだったので、チャンスだなと思った気もします」
──けれど、ミスラから返ってきたのは予想外の言葉……といってもミスラにとっての日常はそっちなんだろう。『むらっときた』でオーエンやブラッドリーに襲いかかるんだから、当然といえば当然だ。もちろん私には縁も耐性もあるわけがなく、「ええっ!どっちともケンカしちゃったんですか!?」思わず声を荒らげると、ミスラは面倒そうな態度を隠さずため息をついていた。
「殺ってませんよ」
「…あれ?そうなんですか?」
「はあ?」
「え?」
「あなたが殺すなって言ったんでしょう?」
「そ……、うです!ありがとうございますミスラ!」
「存分に感謝してください」
もう一度ありがとうございます、と呟いてみる。やや間があって、おもむろに瞼を持ち上げたミスラと目があった。拗ねているのか呆れているのか、どちらも合っているようで違う翡翠を見つめ返しながら、私はミスラと繋いでいる方の手を握りなおした。
ミスラなりに私を気にかけてくれている。私だけじゃない、他の魔法使いたちへの態度もそうだ。魔法舎に来たばかりのミスラと比べれば、私たちに向けられていた冷たく尖る何かは鳴りをひそめた。と思う。
ミスラがその気になれば、ルチルとミチルを閉じこめることも、私の制止を振り切ってオズと争うことだってできる。もしもミスラから歩み寄ろうとしてくれなかったら、きっと今の関係は、ない。
北の魔法使いは誇り高い、いつだかオズはそんなことを言っていた。彼らが持つ矜持がどんなものか、私には想像することしかできない。そしてたぶん、本当の意味で理解することもできないんだろう。それをするには、人間の私に残された時間は短すぎる。悠久の時を生きる魔法使いと私じゃ、見えている世界があまりにも違う。
だから、だからこそ。
「………ミスラだから、我慢できるんですね」
限られた時間の中で、ほんの僅かでも彼らの一部に触れていたい。偶然でも運命でも構わない、他の誰でもない私が賢者に選ばれたことに、意味があると思いたい。時代を跨ぐ彼らの記憶に残るように、遥か未来で私を思い出してもらえるように、そっと手を握る。
「そうですよ。……ふふん、賢者様はようやく俺の偉大さが理解できたようですね。気分がいいのであなたの望みを叶えてやってもいいですよ。手始めに誰を消したいですか?」
得意げに笑うミスラから手を握りかえされる。物騒な言葉とは裏腹に、ミスラの声音は優しくてあたたかい。
「あはは………そういうのは大丈夫です」
「なら、なんです?」
こうやって少しずつでもミスラに近づけたらいいな。そう思いながら、私は。
「ミスラと寝たい、です」
めちゃくちゃなことを口走っていた。
しまったと口をつぐんだところでもう遅い。すぐそこにいるミスラが聞き逃してくれるはずもなく、ぐいと腕を引っ張られる感覚がした。
「お安い御用ですよ。さあ、早くこっちに来てください」
「ふ、ふふ普通に寝るだけですよ!!」
「うるさ……。それ以外に何があるんですか」
「う、そうですよね……あはは」
「しっかりしてください。俺が眠れるかどうかはあなたにかかってるんですから」
「はい…………」
賢者が交代しても、変わらずみんなが過ごせるように。もっとみんなのことを知って、たくさんの記録を残していきたい。そのためにまず、ミスラの望みを叶えたいです。それが私の望みです。……の言い間違いです!なんて今さら言えなくて項垂れる。まあいっか、ミスラが気にしてないなら。いいのか?いいってことにしよう。そこで思考を打ちきって、ミスラが捲り上げた布団に身体を滑りこませた。
「それで、何の話でしたっけ」
「うーん。何でしたっけ」
「忘れたのでまた最初から話してください。別にいいでしょう、あなたは俺と寝たいんですから」
欠伸を噛み殺しながらぼやくミスラにふふ、と笑い混じりの息がこぼれる。
まだまだ先は長そうだ。
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