きみとふたり、夢の中で
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静けさの戻った空を見上げてふう、と息を吐いた。白く色づいたそれは、ほどなくして空の青に溶けていく。終わった。頭に浮かんだ一文は「無事に終わりましたね」そのまま私の口から出ていった。
「大きな被害や怪我もなくて本当によかったです」
靴を滑らせたり足踏みしたりして、地面の感触をたしかめてみる。焦げ跡だとか雪が不自然に溶けているだとか、ところどころ痕跡は残っているけど地面は割れてない。山や森の面積も減ってない。当たり前が当たり前のように存在して初めて『被害はなかった』、この顔触れではそう思えてしまうほど記憶の中にある光景はひどいものだった。山が真っ二つになって地面に大穴があいている。なんてことはざらで、調査に来る前より状況が悪化している気がしなくもない。というか気のせいじゃないし、例の三人が怒られている光景だって珍しくない。何はともあれ今回は最小限にとどめてくれたみたいだし、そこは身構えなくてもよさそうだ。ほっと胸を撫で下ろした私は、次なる心配事へと目を向ける。
「まあ、ほとんど俺がやったようなものですから当然です」
最初に食いついてきたのは案の定というか何というか。ふてぶてしい態度を隠そうともしないミスラだった。手慣れた様子で水晶のドクロを弄んでいるミスラこそ、トラブルを引き起こしている元凶である。どこ吹く風といった調子で怒りを煽るミスラと、売り言葉に買い言葉で乗っかっていく他二名。北の魔法使いの魔法がぶつかって弾け飛ぶんだから、そりゃあ穴のひとつやふたつくらいあいちゃって当然だろう。お願いだから今日はもう何も起こりませんように。平和に魔法舎に帰れますように。心の中で切実に訴えたそれはもちろん届くわけがなかった。
「は?僕が9割やったの間違いだろ」
「今回の獲物は俺様が98%やったようなもんだし、残りの2%くらいはお前らに譲ってやるよ」
即座に反応を示したオーエンに続いて、たぶん悪気はないんだろうブラッドリーが割り込んでくる。まずい、そう思った時には私たちの間の空気は重苦しいものへと変わっていた。
「じゃあ全員殺れば俺が100になりますね」
「その言葉、そのまま返してやるよ」
薄く笑みを浮かべていたオーエンからすっと表情が消える。雪のように白くて透明な肌と同じ、冷たくて何の感情も読み取れない瞳がミスラを見据えていた。ふたりから距離を取ったブラッドリーが銃を構えると、重く張りつめていた空気が刺すような痛みに変わっていく。この世界に来てから何度も体験したその痛み。あの夜、もしも私が賢者に選ばれていなかったとしたら、きっと無縁だったんだろうそれに息をのむ。殺気だ。びり、と痺れに似た感覚に襲われて、私の足は地面に縫いつけられたみたいに動かなくなる。〈大いなる厄災〉に向けて共同生活をしている仲間なのに、ってミスラたちに言っても無駄なんだけど。仲間じゃないって突っぱねられちゃうだろうけど。ミスラはともかくオーエンとブラッドリーが心配だし、私たちだって無傷じゃ済まないかもしれない。どうしよう、とにかく止めないと。でもどうやって。焦る気持ちが行ったり来たりして答えを出せないでいると、追いうちのようにミスラが水晶を掲げるのが見えた。
「落ち着くのじゃオーエン!ブラッドリー!」
「ミスラちゃんも魔導具しまって!」
賢者ちゃん!ふたりから同時に呼ばれた私は、いつの間にかミスラに向かって手を伸ばしていた。
「っ、危ないな…。あなた死にたいんですか?」
「ミミミミスラ!とどめの一撃見てましたよ!まさに能ある鷹は爪を隠すですね!」
「何ですか、それ」
「本当に強い人はここぞという時に力を発揮する、力があるものを鷹にたとえたことわざです。ミスラはだらっとしてるように見えますけど、爪を隠していたんですね」
咄嗟にミスラの腕にしがみついて、思いつくままそんなことを言った。もうなりふり構っていられなくて、半分くらい何を言ってるのか私にもわからなかった。なんだっていいからミスラの気を惹きたい。ルチルの言う『ぼんやりさん』を私も信じたい。頭をフル回転させながら、私は無我夢中で口を動かしていた。
「……まあ、タカなので」
やや間があって、魔導具を消したミスラが面倒そうに呟いた。ところでタカって何ですか。美味いですか。すっかり興味が移ったらしいミスラに「鳥類ですよ」と答えながら安堵の息を吐いた。何だかよくわからないけど戦闘は避けられたらしい。これ以上誰も傷つかずに済む、北の魔法使いが悪者呼ばわりされずに済む。そう思うだけで全身から力が抜けるようだった。じゃあ捕まえて食ってみます。ダメです。なんて他愛ないやり取りをして、さっきまでのが嘘みたいに嬉しくなる。
「馬鹿だろ、あいつ」
その後方で、色々と興醒めしたんだろうオーエンのそれは、誰が拾うでもなく消えていった。
「大きな被害や怪我もなくて本当によかったです」
靴を滑らせたり足踏みしたりして、地面の感触をたしかめてみる。焦げ跡だとか雪が不自然に溶けているだとか、ところどころ痕跡は残っているけど地面は割れてない。山や森の面積も減ってない。当たり前が当たり前のように存在して初めて『被害はなかった』、この顔触れではそう思えてしまうほど記憶の中にある光景はひどいものだった。山が真っ二つになって地面に大穴があいている。なんてことはざらで、調査に来る前より状況が悪化している気がしなくもない。というか気のせいじゃないし、例の三人が怒られている光景だって珍しくない。何はともあれ今回は最小限にとどめてくれたみたいだし、そこは身構えなくてもよさそうだ。ほっと胸を撫で下ろした私は、次なる心配事へと目を向ける。
「まあ、ほとんど俺がやったようなものですから当然です」
最初に食いついてきたのは案の定というか何というか。ふてぶてしい態度を隠そうともしないミスラだった。手慣れた様子で水晶のドクロを弄んでいるミスラこそ、トラブルを引き起こしている元凶である。どこ吹く風といった調子で怒りを煽るミスラと、売り言葉に買い言葉で乗っかっていく他二名。北の魔法使いの魔法がぶつかって弾け飛ぶんだから、そりゃあ穴のひとつやふたつくらいあいちゃって当然だろう。お願いだから今日はもう何も起こりませんように。平和に魔法舎に帰れますように。心の中で切実に訴えたそれはもちろん届くわけがなかった。
「は?僕が9割やったの間違いだろ」
「今回の獲物は俺様が98%やったようなもんだし、残りの2%くらいはお前らに譲ってやるよ」
即座に反応を示したオーエンに続いて、たぶん悪気はないんだろうブラッドリーが割り込んでくる。まずい、そう思った時には私たちの間の空気は重苦しいものへと変わっていた。
「じゃあ全員殺れば俺が100になりますね」
「その言葉、そのまま返してやるよ」
薄く笑みを浮かべていたオーエンからすっと表情が消える。雪のように白くて透明な肌と同じ、冷たくて何の感情も読み取れない瞳がミスラを見据えていた。ふたりから距離を取ったブラッドリーが銃を構えると、重く張りつめていた空気が刺すような痛みに変わっていく。この世界に来てから何度も体験したその痛み。あの夜、もしも私が賢者に選ばれていなかったとしたら、きっと無縁だったんだろうそれに息をのむ。殺気だ。びり、と痺れに似た感覚に襲われて、私の足は地面に縫いつけられたみたいに動かなくなる。〈大いなる厄災〉に向けて共同生活をしている仲間なのに、ってミスラたちに言っても無駄なんだけど。仲間じゃないって突っぱねられちゃうだろうけど。ミスラはともかくオーエンとブラッドリーが心配だし、私たちだって無傷じゃ済まないかもしれない。どうしよう、とにかく止めないと。でもどうやって。焦る気持ちが行ったり来たりして答えを出せないでいると、追いうちのようにミスラが水晶を掲げるのが見えた。
「落ち着くのじゃオーエン!ブラッドリー!」
「ミスラちゃんも魔導具しまって!」
賢者ちゃん!ふたりから同時に呼ばれた私は、いつの間にかミスラに向かって手を伸ばしていた。
「っ、危ないな…。あなた死にたいんですか?」
「ミミミミスラ!とどめの一撃見てましたよ!まさに能ある鷹は爪を隠すですね!」
「何ですか、それ」
「本当に強い人はここぞという時に力を発揮する、力があるものを鷹にたとえたことわざです。ミスラはだらっとしてるように見えますけど、爪を隠していたんですね」
咄嗟にミスラの腕にしがみついて、思いつくままそんなことを言った。もうなりふり構っていられなくて、半分くらい何を言ってるのか私にもわからなかった。なんだっていいからミスラの気を惹きたい。ルチルの言う『ぼんやりさん』を私も信じたい。頭をフル回転させながら、私は無我夢中で口を動かしていた。
「……まあ、タカなので」
やや間があって、魔導具を消したミスラが面倒そうに呟いた。ところでタカって何ですか。美味いですか。すっかり興味が移ったらしいミスラに「鳥類ですよ」と答えながら安堵の息を吐いた。何だかよくわからないけど戦闘は避けられたらしい。これ以上誰も傷つかずに済む、北の魔法使いが悪者呼ばわりされずに済む。そう思うだけで全身から力が抜けるようだった。じゃあ捕まえて食ってみます。ダメです。なんて他愛ないやり取りをして、さっきまでのが嘘みたいに嬉しくなる。
「馬鹿だろ、あいつ」
その後方で、色々と興醒めしたんだろうオーエンのそれは、誰が拾うでもなく消えていった。
