きみとふたり、夢の中で
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やわらかい日差しが差しこみ、噴水の飛沫に当たって反射する。時おり視界の隅できらきら光るそれや、ゆるく頬を撫でる風に乗って聞こえる鳥の声。ついさっきまで訓練をしていた魔法使いたちの姿はなくて、午後の中庭におだやかな時間が流れていた。やけに平和だなあ。いつもだったらもっとこう……と記憶をたどりかけて、手のひらから伝わるあたたかい感触に納得する。
「…………いい感じです、賢者様」
今日はミスラがおとなしいからだ、と。
このところ祝祭やら調査の依頼やらと、賢者の仕事に追われる日々が続いていた。当然ミスラの入眠を手伝う暇もなくて、日に日に疲弊していくミスラの姿に罪悪感で胸が痛んだ。私がもっと頑張らなくちゃ。私を必要としてくれているみんなのためにも、もっとしっかりしなくっちゃ。…なんて焦る気持ちはみんなにバレバレだったらしい。気負いすぎるなとサポートしてくれて、今回も無事に仕事を終えることができた。揺れる木々を眺めながらみんなにお礼しなくちゃなあ、と思いを馳せていたところでミスラに見つかり、有無を言わさず中庭まで連れられて今に至る。連れられてっていうか首根っこ掴まれて、だけど。それでも、今日まで眠れていなかった分、睡眠が少しでもとれるならと喜んでミスラに手を差し出した。
「もう一息なんで、何か歌ってみてください」
「…あはは」
隣で長身を寝転ばせているミスラを見やり、私は笑みをこぼした。いつもは傍若無人に振る舞うミスラも睡魔には敵わないらしい。背中を丸めて身を縮ませる姿が、家の近所で丸まっていた猫たちと重なる。こうしていると本当に猫みたいだ。猫というよりパンダに近いかも。この世界にパンダが存在するのか、いつミスラの気が変わるかもわからないから胸の内に留めておく。なんかむらむらしてきたな。そうだ、オズ殺そう。くらいのノリで喧嘩を売りに行かれたら大変だし、なるべくミスラの機嫌を損ねたくなかった。
「あの、ミスラ」
「何ですか」
理由は明快。午後に予定が入っている私はミスラと交渉し、イエスをもらわなくちゃいけないからだ。
「魔法舎周辺の森で採取してこようかなあ………と、か、思ったりしちゃったり、なんて」
いい淀みながらちらっとミスラの様子をうかがってみる。赤髪からのぞく眉がぴく、と動いたのを私は見逃さなかった。
「そうですか。お気をつけて」
「はい。…手を離してもらえませんか」
「置いていってください。あなたの腕は俺が死守します」
「無理です」
苦笑いをして首を振ると、「魔法で切断します」ミスラの本気か冗談かわからないあれが返っていた。マイペースで気分屋なミスラは、ぼーっとしていたかと思えば攻撃的になったりと言動に一貫性がない。前の賢者様がミスラをケダモノ扱いしていたけれど、あながち間違ってないって思えちゃうくらい、本能のままに生きているように見えた。さっきのあれだって、ミスラの気分次第でどっちにも転んじゃうんだろう。さすがに腕がないと困るし、かといってこのまま昼寝をするわけにもいかず、私は言い聞かせるように頷いた。大丈夫、ミスラだって話せばきっとわかってくれる、はず。……わかってくれるといいな。わかってくれなかったらどうしよう。願望から焦りに傾きかけたとき、むくりと起きあがったミスラがはあ、と気の抜ける息を吐いた。
「仕方ないな。早く準備してくださいよ」
「え?」
「行くんでしょう?採取。あなたに何かあると双子がうるさいので、俺がついていってやりますよ」
そういってあくびをしたミスラは、眠たげな瞳に私を映した。珍しく協力的なミスラに驚く反面、頑張るとはりきっていたふたりが過って首を振る。ミスラはああいってくれてるけど、先に約束したのはミチルとリケだ。なにより魔法を人助けに使うふたりに嬉しくなって、私は大袈裟に胸をそらせてみせた。
「ふふん。実はミチルとリケが護衛するっていってくれたんです」
「弱いくせに守るだなんて、笑えますよ。犬死するの間違いじゃないですか?」
「ちょっとミスラ、言っていいことと悪いことがあ」
「≪アルシム≫」
「ります。ミチルとリケだって毎日がんばって訓練を…………、ギャアッ!」
もちろんミスラには一蹴された。し、子供みたいにひょいと抱えられてしまった。逃げようにも足は浮いてるし、ミスラは私を無視して空間の扉を開けている。このまま連れ去られたら、みんなに余計な心配をかけかねない。せめてミチルとリケにひとこと断ってから行きたい。ミスラの腕から逃れようともがいていたら、みぞおちを圧迫されて「ウッ」変な声が出た。
「まずは北の国からでいいですよね。というか北の国だけでいいですよ、面倒なので。いいですよね賢者様」
「待ってくださいミスラ!心の準備、が、!」
有無を言わさぬ口調で押しきったミスラは、扉が開くと同時に私を放り投げた。あっという間に扉をくぐり抜けた身体は、突き刺すような寒さに包襲われる。ミチル、リケ、ごめんなさい。頭の中のふたりにそういって、やってくるであろう衝撃に目をつむる。ぼす、と軽い音がして、私の視界は白い塊でいっぱいになった。
「何でしたっけ、それ。頭隠して…………し、シリ滅裂?」
「尻隠さずです!つめた!」
「あはは。顔、赤いですよ」
しゃがみこんだミスラの手が私の両頬を包みこむ。感覚の鈍ったそこに、じんわりとした暖かさがやってくる。帰ったらみんなにお礼とお詫び、それとミスラを寝かせてあげなくちゃ。ぱっぱと雪を払ってくれたミスラを見て、そんなことを思った。
「…………いい感じです、賢者様」
今日はミスラがおとなしいからだ、と。
このところ祝祭やら調査の依頼やらと、賢者の仕事に追われる日々が続いていた。当然ミスラの入眠を手伝う暇もなくて、日に日に疲弊していくミスラの姿に罪悪感で胸が痛んだ。私がもっと頑張らなくちゃ。私を必要としてくれているみんなのためにも、もっとしっかりしなくっちゃ。…なんて焦る気持ちはみんなにバレバレだったらしい。気負いすぎるなとサポートしてくれて、今回も無事に仕事を終えることができた。揺れる木々を眺めながらみんなにお礼しなくちゃなあ、と思いを馳せていたところでミスラに見つかり、有無を言わさず中庭まで連れられて今に至る。連れられてっていうか首根っこ掴まれて、だけど。それでも、今日まで眠れていなかった分、睡眠が少しでもとれるならと喜んでミスラに手を差し出した。
「もう一息なんで、何か歌ってみてください」
「…あはは」
隣で長身を寝転ばせているミスラを見やり、私は笑みをこぼした。いつもは傍若無人に振る舞うミスラも睡魔には敵わないらしい。背中を丸めて身を縮ませる姿が、家の近所で丸まっていた猫たちと重なる。こうしていると本当に猫みたいだ。猫というよりパンダに近いかも。この世界にパンダが存在するのか、いつミスラの気が変わるかもわからないから胸の内に留めておく。なんかむらむらしてきたな。そうだ、オズ殺そう。くらいのノリで喧嘩を売りに行かれたら大変だし、なるべくミスラの機嫌を損ねたくなかった。
「あの、ミスラ」
「何ですか」
理由は明快。午後に予定が入っている私はミスラと交渉し、イエスをもらわなくちゃいけないからだ。
「魔法舎周辺の森で採取してこようかなあ………と、か、思ったりしちゃったり、なんて」
いい淀みながらちらっとミスラの様子をうかがってみる。赤髪からのぞく眉がぴく、と動いたのを私は見逃さなかった。
「そうですか。お気をつけて」
「はい。…手を離してもらえませんか」
「置いていってください。あなたの腕は俺が死守します」
「無理です」
苦笑いをして首を振ると、「魔法で切断します」ミスラの本気か冗談かわからないあれが返っていた。マイペースで気分屋なミスラは、ぼーっとしていたかと思えば攻撃的になったりと言動に一貫性がない。前の賢者様がミスラをケダモノ扱いしていたけれど、あながち間違ってないって思えちゃうくらい、本能のままに生きているように見えた。さっきのあれだって、ミスラの気分次第でどっちにも転んじゃうんだろう。さすがに腕がないと困るし、かといってこのまま昼寝をするわけにもいかず、私は言い聞かせるように頷いた。大丈夫、ミスラだって話せばきっとわかってくれる、はず。……わかってくれるといいな。わかってくれなかったらどうしよう。願望から焦りに傾きかけたとき、むくりと起きあがったミスラがはあ、と気の抜ける息を吐いた。
「仕方ないな。早く準備してくださいよ」
「え?」
「行くんでしょう?採取。あなたに何かあると双子がうるさいので、俺がついていってやりますよ」
そういってあくびをしたミスラは、眠たげな瞳に私を映した。珍しく協力的なミスラに驚く反面、頑張るとはりきっていたふたりが過って首を振る。ミスラはああいってくれてるけど、先に約束したのはミチルとリケだ。なにより魔法を人助けに使うふたりに嬉しくなって、私は大袈裟に胸をそらせてみせた。
「ふふん。実はミチルとリケが護衛するっていってくれたんです」
「弱いくせに守るだなんて、笑えますよ。犬死するの間違いじゃないですか?」
「ちょっとミスラ、言っていいことと悪いことがあ」
「≪アルシム≫」
「ります。ミチルとリケだって毎日がんばって訓練を…………、ギャアッ!」
もちろんミスラには一蹴された。し、子供みたいにひょいと抱えられてしまった。逃げようにも足は浮いてるし、ミスラは私を無視して空間の扉を開けている。このまま連れ去られたら、みんなに余計な心配をかけかねない。せめてミチルとリケにひとこと断ってから行きたい。ミスラの腕から逃れようともがいていたら、みぞおちを圧迫されて「ウッ」変な声が出た。
「まずは北の国からでいいですよね。というか北の国だけでいいですよ、面倒なので。いいですよね賢者様」
「待ってくださいミスラ!心の準備、が、!」
有無を言わさぬ口調で押しきったミスラは、扉が開くと同時に私を放り投げた。あっという間に扉をくぐり抜けた身体は、突き刺すような寒さに包襲われる。ミチル、リケ、ごめんなさい。頭の中のふたりにそういって、やってくるであろう衝撃に目をつむる。ぼす、と軽い音がして、私の視界は白い塊でいっぱいになった。
「何でしたっけ、それ。頭隠して…………し、シリ滅裂?」
「尻隠さずです!つめた!」
「あはは。顔、赤いですよ」
しゃがみこんだミスラの手が私の両頬を包みこむ。感覚の鈍ったそこに、じんわりとした暖かさがやってくる。帰ったらみんなにお礼とお詫び、それとミスラを寝かせてあげなくちゃ。ぱっぱと雪を払ってくれたミスラを見て、そんなことを思った。
