ゆめうつつ
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夢を見た。夢の中のわたしはさながらハリーポッターのごとく箒を使いこなし、自由に大空を飛び回ることができる。空を飛びながら、指で作った輪の中から世界を見る。小さな円におさまった世界はちっぽけだ。ちっぽけな世界で人々は何度も同じ過ちを繰り返し、壊して、また再生する。そのことをわたしは知っていた。知っている。…気がした。
場面が切り替わると、今度は目の前に大口を開けた怪物がいた。怪物と呼べる生き物はアニメや映画でしか見たことがないからやけにリアルなCGだな、なんてのんきな感想が浮かんだ。それくらいわたしには馴染みのない存在で、何回見ても現実味がなかった。そのはずなのに、初めて見た気がしないのは何でだろう。
そして、わたしはいつも怪物に殺される。眼前に迫る牙に月の光が反射して、ほんの一瞬目が眩む。次いで耳元で鈍い音がして、目の前が赤と黒に明滅して、誰かの声がして、それで──。
キーーッ、と耳をつんざく音がした。強烈な目眩の後で、一気に意識が引き戻される感覚がした。気づけばわたしは横断歩道のど真ん中に突っ立っていて、苛立ちと焦りが滲むトラックの運転手と目が合った。急いで対面の歩道に出ると、乱雑にアクセルを踏み込んだトラックが去っていった。
ふう、と息をついて、夢の内容を反芻する。この夢は初めてじゃない。何度も何度も同じ内容の夢を見て、最後にわたしは死ぬ。何かが思い出せそうで出てこない。誰かとすごく大事な約束をしていた気がするけど、肝心の誰かはわからない。夢を見た日はこの調子で、時おりぼーっと意識が遠のく感覚がする。さっきのも例に漏れずそれだけど、運転手からしたらたまったもんじゃないだろう。気をつけよう、と誰に言うでもなく思った。
「…転生」
ふいに出てきた二文字。結局行き着いたのはそこだ。何回も同じ夢を見て、夢の中のわたしが死んで、今のわたしが生きている。この現象を転生と呼ばずに何と呼ぶのか。でも、残念ながらわたしにはくり返し同じ夢を見る以外の能力はないらしい。転生して異世界で人生イージーモード!なんてことは起こらず、地道な努力を積み重ねて生きている。将来に必要な知識を得るために学校に通い、都会の洗礼『満員電車』に揉まれつつ、生活費を稼ぐためにバイトをする。
要するに、よくいる人だ。
「ねぇ」
だから自分に特別感を持ったことは一度もなかった。頻繁に夢を見るだけの、普通の人のはずだった。
「おい、僕を無視するなよ」
ぐいと腕が引っ張られて、声の主と目が合う。
銀色の髪が風に靡く。隙間から茜色の瞳がのぞいていた。
「なんで………」
なんで?勝手に出てきた言葉に首を傾げた。なんでって何?自問したところで答えが返ってくるはずもなく、胸の中でぐるりと何かが渦巻いた。
「ふん……どうせ、おまえにはわからないよ」
見つめあったままの青年が顔をぐしゃりと歪ませた意味も、もやもやの正体も、わたしには何もわからない。
わかってることはただひとつ──バイトの時間が迫ってきてる。
「あの、急いでるのでこの辺で…」
「は?嘘だろ」
「嘘じゃなくて本当に急いでて」
「そうじゃない」
「知ってます?交差点の先のケーキ屋。そこでバイトしてるんです」
「ケーキ」
「ケーキです」
「ふうん……」
ぱっと掴まれたままだった腕が解放された。微妙な面持ちの青年は「獣の腸とどろどろの血が混ざったやつ」と物騒なことを言っていたけれど、たぶん納得してくれたに違いない。そう思いたい。
青年の意識がこっちに向く前にそれではわたしはこれで、と身を翻した。何が目的か知らないけどあの男に見覚えはない、やたら整った顔立ちにすらっと長い足の知り合いもいない。ただの人違いなんだろう。声かけられて悪い気はしなかったけども。ちょっとだけね。ちょっとだけ。なんて意味のない言い訳をして、今度こそ交差点を抜けた。
2024.11.29
