ambivalence
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ひとは変われる、当人の意識次第で善にも悪にも転ぶことができる。でもそんなものは所詮、日向を生きる人間たちの綺麗事だ。一度でも黒く染まれば二度と光を見ることはない。永久に続く闇を彷徨いながら、死と絶望の淵で朽ち果てるのだろう。
わたしだけじゃない、組織から消えた太宰さんも例外なく、陰を往く運命なのだと思っていた。
「どこで油を売っていた包帯無駄遣い装置!俺の計画を乱すなと何度云えば判る!」
「マァ落ち着き給えよ国木田君。実は皆に紹介したい女性がいてね」
「またそれか。社の看板を汚すな。さっさとその女性を解放しろ」
「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿はまさに百合の花!そう、何を隠そうこの女性こそ我が
そう、思っていた。
探偵社一同の視線を受けたわたしは、胸を張る太宰さんを一瞥する。
違う。わたしの知ってる太宰さんはこんなじゃない。いやこんなだったけども。少なくともわたしの腰に手を当てて頬を染め、出鱈目を並べ立てるような男ではなかったはず。
「あの太宰さん」
「心配無用だよ。安心して私に身を委ねるといい」
優しい声音でそう告げた太宰さんの瞳は真剣そのものだった。この男、
「……みょうじなまえです。太宰さんの恋人じゃありません」
「彼女は
咄嗟に太宰さんの腕を捻り上げると、弾丸の如く放たれていた言葉が止んだ。何を云い出すかと思えば嘘に嘘を重ねた戯言の数々だった。一瞬でもこの男を信用したのが間違いだった。
「おめでとうございます」
「酔狂な奴もいたもンだねェ」
「私達に負けず劣らずお似合いですわね、お兄様」
「恥ずかしいってナオミ…」
「よし、そこの君。今日から君はお菓子購入係に任命する!」
太宰さんの言葉を間に受けてか、それとも端から相手にされていないのか、探偵社一同は皆笑顔で拍手を送ってくれた。たぶんここには莫迦しかいない。そして、数多の祝福にうふふと笑う太宰さんはとびきりの阿呆だ。
腰に回ったままの太宰さんの手を叩き落として周囲に目を向ける。太宰さんが『国木田』と呼んでいた男は比較的話が通じそうに見えた。きっとこの茶番を打ち切ってくれるはず。そう期待を込めて国木田さんに
「おい太宰!!………今の話は本当か?」
「殊経歴と恋愛遍歴に関して嘘はつかないと約束しよう」
「……………コホン。失礼した。俺の名は国木田だ。平素よりこの唐変木が大変お世話になり」
あ、駄目だ。そう思った瞬間、直角にお辞儀をした国木田さんの声が遠退いていった。
この人も太宰さんに弄ばれている人間のひとりだ。口角を上げた太宰さんの横顔を見てそう確信する。太宰さんは自分の
蜘蛛のようなひとだと、思った。
「どうだい、私達の新しい居場所は?」
正面を見据えた太宰さんが云う。
「太宰さんにとって探偵社もマフィアも大差ないでしょ」
だって貴方は世界に退屈しているのだから。わたしの異能でも貴方の孤独と絶望のすべてを体験できなかったから。理解者は『彼』だけだから。続けようとした言葉は喉の奥につっかえた。
太宰さんは空虚な瞳にわたしを映した。
「…
「──というわけで社長は不在だ。みょうじの処遇については後程伺う。ひとまずよろしく頼む」
太宰さんの静かな呟きがかき消される。丁寧な挨拶を終えたらしい国木田さんがわたしに手を差し出してきた。
ひとは変われるものである。太宰さんは確かに変わってしまった。でも本質は変えられない。太宰さんの化けの皮が剥がれた時、探偵社の人達は何を思うのだろう。
ちゃっかり外堀から埋めてくれちゃったのだから、どちらにせよわたしに逃げ道はないらしい。探偵社で新しい人生を始めた太宰さんがどうなるか。マフィアを不本意ながら抜け出したわたしはどうなるか。死のチキンレースのようなものまで計算済みなのか。問い質しているうちにきっとわたしの答えも出るはずだ。
「よろしくお願いします」
握手を交わそうとした手が横から伸びてきた手に掴まれる。
「国木田君、
「ただの握手だろうが!」
「手を握ると書いて握手、互いの掌を重ね合わせ握るのだよ。即ち手を繋ぐ事と同等の行為!見過ごすわけにはいかないね!“恋人”として!」
「お前は何を云ってるんだ!強調しすぎて逆に怪しいぞ!」
「やれやれモテない男の戯言は見苦しいねぇ」
矢っ張りこの人、何も変わってないかもしれない。
大体お前ははいつも。そういう国木田君こそ。いつの間にか口論に発展したそれに苦笑いをして、国木田さんの手を握った。
2022.12.21
告白させずに付き合わせるのがお家芸です
