ambivalence
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地面に四肢を投げ出すわたしの目の前には鉛色の空が広がっていた。陰鬱とした空は光ひとつ差し込まない。一筋の希望も見えない、まるでわたしの人生のようだ、と他人事のように思った。
「出ていけ」
数日前、
おそるおそる視線を落とすと足元で銃弾が燻っているのが見えた。
──殺される。
次の瞬間、わたしは着の身着のまま家を飛び出していた。痛みを訴える足に鞭を打ち、焼けそうなほど熱い肺を無視して、当てもなく夢中で走り続けた。
そうしてたどり着いたのは一面に緑が広がる山だか森だかの奧深く。鬱蒼と繁る木々の中で力尽き、目を覚ましたころには日没が始まっていた。前も後ろも自分が来た道すらもわからなくなって、すべてが闇に溶けていくのを見ていた。
橙と紫からくすんだ色へと変わる空を、ただ、見ていた。
「大丈夫?」
暗闇の中にぽつんと浮かぶ声。心配の言葉とは裏腹に抑揚のない声色だった。こんな時間に、まして山奥にひとがいるわけない。つまりこれは防衛本能が作り上げた幻聴だ。そう結論づけて瞼を閉じた。
思い返せば
閉ざされた視界の中で耳を澄ませると、木々のざわめきに混じって足音がした。
気のせいじゃない。誰かいる。
気配がする方に神経を向けながらゆっくり目を開けた。
「あ、起きた」
蓬髪を揺らす少年と目が合う。
拳銃だ。
家を飛び出す前に見たものに、とてもよく似ていた。
「助けてほしいかい?」
少年が立ち上がった気配がする。次いでカチカチカチと聞き覚えのある音がした。つられて向けた視線の先には退屈そうに拳銃を弄る少年がいた。
殺されると思った。けど、不思議と恐怖は感じなかった。遅かれ早かれわたしは死ぬ。万が一逃げ延びたところで居場所もない。どのみち待っているのは死だ。
「ひと思いにお願いします」
気付けばそんなことを口走っていた。わたしの願いを聞き届けたらしい少年が引き金に指を添える。死に際を選べるなんて贅沢だなぁ。頭に浮かんだ言葉と誰かの声が重なった。
パン。一発の銃声が鳴り響く。
少年は拳銃を放り投げるとわたしの隣にしゃがみこんだ。
「…はい。たった今、君という人間は死んだよ。そして今日から僕、太宰のモノになる」
「は?」
太宰と名乗った少年は、人当たりのいい笑みを浮かべてそんなことを云った。思わず飛び起きると硝煙を上げる拳銃が目に入った。
太宰はわざと銃弾を外した。そして、何故かわたしは生かされた。今判るのはそれだけだった。
「君は死を望み、僕は君を殺さない選択をした。君を生かしてこき使うことにしたんだよ。……中也が犬にならなかったし」
「話が見えないんですけど」
「つまり、もう衣食住の心配をする必要はないってこと」
「え」
「ただし僕が
「無理です」
「呼んだら三秒で来ること」
「無理です」
「あと死ねっていったら死ぬこと」
「だから無理、」
「残念だけど君に拒否権はない。何故なら他でもない君自身が僕に助けを求めて“モノ”になる道を選んだのだから」
パチンと軽快な音が鳴る。太宰が指を打ち鳴らした音だ、と遅れて気が付いた。ふと周囲に目を向けると黒服に身を包む男達がすぐそこまで来ていた。
「ようこそ、マフィアの世界へ」
太宰の声を合図に鈍い衝撃が走る。
そこで意識が途絶えた。
2023.2.11
朝霧カフカ先生の文体を真似したいけど無理でした
