短編(潔)
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放課後の校舎は、日中の喧騒とは一転してどこか浮世離れした静寂に包まれていた。
日が落ち、茜色から少しづつ群青へ変わりゆく空。2年生のフロアにはもうほとんど人影はなく、廊下に響く自分の足音だけが妙に大きく聞こえる。
家庭科部の活動を終えた私は、持ち帰る作品を忘れないよう、ロッカーに置くため教室の扉を開けた。
「……潔、くん?」
誰もいないと思っていた教室に、先客がいた。
窓際の席で、自分の机の中を必死に探っている背中。短い黒髪が、夕闇に溶け込みそうなほど深い影を落としている。
「あ……ミョウジさん。ごめん、驚かせた?」
潔くんは少し決まり悪そうに笑い、見つけたばかりの青いノートを私に見せた。
「これ、部室に持っていくの忘れちゃって。次の試合の作戦、詰めなきゃいけなかったのに、うっかりしてた」
「こんな時間にどうしたのかと思った。潔くんも、うっかりすることあるんだね」
思わず口をついて出た言葉に、彼は「まあ、俺も人間だからさ」と可笑しそうに肩をすくめた。
家庭科部の部室からはサッカー部の様子がよく見える。ずっと部室の窓の外から見ていた彼と、こうして二人きりで言葉を交わしている。その状況に心臓がうるさく波打つけれど、不思議と会話は途切れなかった。
「ミョウジさんは今帰り?」
「私は、部で作った作品を置きに来たの。結構溜まってきて、少しずつ持ち帰るから、教室に置いておこうと思って」
私は抱えていた籠の中身を、彼に見えるように少し傾けた。手編みのクッションカバーやマフラー、それから数々のぬいぐるみ。
「へぇ、それミョウジさんが編んでるの? すげえな、根気がいりそう」
「ふふ、意外と無心になれるから楽しいよ」
いつもは遠くから見つめるだけだった彼と、意外なほど自然に会話がつながっていく。その流れに背中を押されるように、私はずっと胸に秘めていた想いを、つい会話のなかに放ってしまった。
「……私ね。実はずっと、潔くんのこと見てたの」
潔くんがノートを鞄に入れようとした手が、ピタリと止まった。
「家庭科部の窓の横、いつもサッカー部が走るでしょ? その時の潔くんから目が離せなくて。……どんな人なのかなって、ずっと気になってたんだ」
同じクラスなのに、まだ話したことなかったでしょう?と言葉を続けると、沈黙が教室を支配した。
ど、どうしよう。変なこと言っちゃった…。
心臓の鼓動が耳まで聞こえてくるような感覚で我に返り、あまりの恥ずかしさに消えてしまいたくなる。
しかし、返ってきたのは、拒絶ではなく弾かれたような彼の声。
「! ……え、マジ……?」
恐る恐る顔を上げると、潔くんは片手で口元を覆い、少し顔を赤くしていた。
「………実は、俺も」
「えっ?」
「俺だって……走ってる時、窓際で何か作ってるミョウジさんのこと、気になってた。楽しそうに笑ってたり、友達と話してるところが、仲良くなりたいなって……」
照れくさそうに視線を逸らしながら髪の毛をいじる彼に、心臓が先ほどとは違うドキドキで忙しなくなる。
「…あー……、これから、教室で話しかけてもいい?」
潔くんは一度、深く息を吐き出すと、決意を固めたような熱い眼差しを私に向けた。
「……できれば、ミョウジさんからも話しかけてよ。俺のこと、見てるだけじゃなくてさ」
彼と見つめあう。真剣な表情が私を射抜く。
窓の外から聞こえる遠い部活の声が、今起きている出来事を現実だと教えてくれた。
「俺、もっと○○さんのこと知りたいんだ」
暗くなり始めた教室の中で、恋が始まる予感が静かに動き出した。
日が落ち、茜色から少しづつ群青へ変わりゆく空。2年生のフロアにはもうほとんど人影はなく、廊下に響く自分の足音だけが妙に大きく聞こえる。
家庭科部の活動を終えた私は、持ち帰る作品を忘れないよう、ロッカーに置くため教室の扉を開けた。
「……潔、くん?」
誰もいないと思っていた教室に、先客がいた。
窓際の席で、自分の机の中を必死に探っている背中。短い黒髪が、夕闇に溶け込みそうなほど深い影を落としている。
「あ……ミョウジさん。ごめん、驚かせた?」
潔くんは少し決まり悪そうに笑い、見つけたばかりの青いノートを私に見せた。
「これ、部室に持っていくの忘れちゃって。次の試合の作戦、詰めなきゃいけなかったのに、うっかりしてた」
「こんな時間にどうしたのかと思った。潔くんも、うっかりすることあるんだね」
思わず口をついて出た言葉に、彼は「まあ、俺も人間だからさ」と可笑しそうに肩をすくめた。
家庭科部の部室からはサッカー部の様子がよく見える。ずっと部室の窓の外から見ていた彼と、こうして二人きりで言葉を交わしている。その状況に心臓がうるさく波打つけれど、不思議と会話は途切れなかった。
「ミョウジさんは今帰り?」
「私は、部で作った作品を置きに来たの。結構溜まってきて、少しずつ持ち帰るから、教室に置いておこうと思って」
私は抱えていた籠の中身を、彼に見えるように少し傾けた。手編みのクッションカバーやマフラー、それから数々のぬいぐるみ。
「へぇ、それミョウジさんが編んでるの? すげえな、根気がいりそう」
「ふふ、意外と無心になれるから楽しいよ」
いつもは遠くから見つめるだけだった彼と、意外なほど自然に会話がつながっていく。その流れに背中を押されるように、私はずっと胸に秘めていた想いを、つい会話のなかに放ってしまった。
「……私ね。実はずっと、潔くんのこと見てたの」
潔くんがノートを鞄に入れようとした手が、ピタリと止まった。
「家庭科部の窓の横、いつもサッカー部が走るでしょ? その時の潔くんから目が離せなくて。……どんな人なのかなって、ずっと気になってたんだ」
同じクラスなのに、まだ話したことなかったでしょう?と言葉を続けると、沈黙が教室を支配した。
ど、どうしよう。変なこと言っちゃった…。
心臓の鼓動が耳まで聞こえてくるような感覚で我に返り、あまりの恥ずかしさに消えてしまいたくなる。
しかし、返ってきたのは、拒絶ではなく弾かれたような彼の声。
「! ……え、マジ……?」
恐る恐る顔を上げると、潔くんは片手で口元を覆い、少し顔を赤くしていた。
「………実は、俺も」
「えっ?」
「俺だって……走ってる時、窓際で何か作ってるミョウジさんのこと、気になってた。楽しそうに笑ってたり、友達と話してるところが、仲良くなりたいなって……」
照れくさそうに視線を逸らしながら髪の毛をいじる彼に、心臓が先ほどとは違うドキドキで忙しなくなる。
「…あー……、これから、教室で話しかけてもいい?」
潔くんは一度、深く息を吐き出すと、決意を固めたような熱い眼差しを私に向けた。
「……できれば、ミョウジさんからも話しかけてよ。俺のこと、見てるだけじゃなくてさ」
彼と見つめあう。真剣な表情が私を射抜く。
窓の外から聞こえる遠い部活の声が、今起きている出来事を現実だと教えてくれた。
「俺、もっと○○さんのこと知りたいんだ」
暗くなり始めた教室の中で、恋が始まる予感が静かに動き出した。