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第弐章・別れの贈り物

セレネを見つけたその日に、捜し物を見つけることはできなかった。
それも仕方ないことだ。
草木が生い茂る場所、よりにもよってそこは昼でも暗い。
結局アウグストゥスはセレネを保護し、一日だけ宿に泊めてやった。
翌日……セレネはいなくなっていた。

「……………………、、。」

アウグストゥスは長いため息をつくと、昨日セレネを見つけた場所に急いだ。

* * *

案の定、セレネは昨日の場所にいた。
手探りで必死に何かを探している。

「セレネさん。」

セレネが顔を上げた。
とことこと近づいてきてアウグストゥスを見上げる。
アウグストゥスはかがんで目線をあわせると、

「一緒に探しましょうと言ったでしょう?」

静かに言い聞かせる。
セレネは黙ってアウグストゥスの言葉を聞いていた。
一通り話し終えるとアウグストゥスはセレネと共に探した。
何故かセレネはなにを落としたのか聞いても教えてくれない。
アウグストゥスは手あたり次第に拾えるものを拾ってはセレネに確認をとった。
そうしてもう太陽が沈む。
今日も結局捜し物は見つからなかった。

「参りましたね。」

そうアウグストゥスがつぶやく同時にセレネのお腹の虫が鳴いた。
そちらに目を向けると、セレネが顔を真っ赤にしてうつむいていた。
小さくても女性は女性。
アウグストゥスは苦笑して、昨日露店の主人からもらった赤い果実を取りだしセレネに渡した。

「どうぞ。」

セレネはそれを受け取ると、服で軽く果実を拭いてかじりついた。
そして初めて笑った。
明るい、太陽をイメージさせるような優しい笑み。
気づけばアウグストゥスも笑っていた。
セレネが食べ終わったのを確認すると、アウグストゥスはまた探し始めた。
直後、

「髪飾り。」

「え?」

ぽつりとセレネがつぶやいた。
アウグストゥスは思わず聞き返す。
髪飾り……もしかしてあのゴロツキから取り返したものでは……。

「でも、もういいの。」

セレネはそういった。
瞬間アウグストゥスは殴られたような衝撃を受けた。
夜になっても必死に探していた大切なもの。
それを今あきらめると少女は言った。

「ダメですよ。」

アウグストゥスはとっさにそう言った。
セレネが今までとは全く違う、子供の愛くるしい瞳ではなく妙に大人びた瞳をアウグストゥスに向けた。

「諦めたらそこで終わってしまいます。諦めてはダメです。」

アウグストゥスは懐からあの髪飾りを取り出した。
そしてセレネに渡す。
直感が告げていた。
これは少女のものだと。
するとセレネの瞳が輝いた。
そこに大人びた雰囲気はない。
どうやら見間違いのようだ。

「これ、これ探してたの。」

セレネの声が弾む。
やはりこの髪飾りはセレネのだったのだ。

「すみません。先に確認しておけばよかったですね。」

アウグストゥスは頭をさげた。
その頭にポンとちいさな手が乗せられる。
そしてその手はアウグストゥスの頭をなでた。

「ありがとう。」

セレネは受け取った髪飾りを早速髪につけて森の中へと姿を消した。
思わず見送りそうになったアウグストゥスは、その森が立ち入り禁止だと思いだしあわてて少女を追いかけた。

* * *

数時間セレネをさがしたが結局行方不明。
このままだと自分の身も危ういためアウグストゥスは出口へと引き返した。
途中、

「……?」

ぼろぼろの神社を見つけた。
その中も一応確認するが誰もいない。
肩を落とすアウグストゥスはそのまま神社を出ようとし、ふと振り返り祭られている神に手を合わせた。

「どうか、あの子が無事でありますように……」

……カタン

背後で物音がした。
振り向き、同時に刀の柄に手を添えた。
だがそこには誰もいなかった。
ただ一つの小さな箱がおいてあった。
用心して近づき、それを拾いあげた。
軽い、振るとカタカタと音がする。
開けるとそこにはあの髪飾りがあった。

「これは……?」

アウグストゥスはふと、色が違うことに気づいた。
セレネが持っていたのは赤い蝶の髪飾り、いまここにあるのは青い蝶の髪飾り。
アウグストゥスは辺りをもう一度見回し、誰もいないことにすこし肩を落としてその髪飾りで藍色の髪を一つにまとめた。

『きれいだわ』

どこかであの少女がささやいた気がした。
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