Ep.1 銃使いの章
数日後。
ジェレマイアは一人で南エリアに来ていた。
記憶を頼りに道を行き、大通りから一本入って、小さなバーに辿り着く。一息吐いてから扉を開けると、先日と同じようにマスターがカウンターの奥で作業をしていた。ただ、あの日カウンター席に座っていたニュクスの姿は無かった。
「来たのか」
ジェレマイアの姿を見たマスターは、表情も変えずに短く声を掛けた。何をしに来たのか大凡見当がついているようで、注文を訊ねることはせず、ジェレマイアの言葉を待った。
「えっと、この間はありがとう御座いました」
礼の言葉と共に、ジェレマイアはその場で深々と頭を下げた。
ニュクスと共に仕事を完遂し、帳簿を取り戻した後。ジェレマイアはマスターに結果を報告し、その場で報酬金を受け取った。取り分に対しニュクスは少々ーー否、かなり不満気な様子だったが、マスターが上手く説得してくれた。
結果、あのぼったくり詐欺の店にしっかり支払いをする事が出来、友人たちは無事に解放された。数時間ぶりに会った友人たちは半泣きでジェレマイアに感謝し、今後軽い気持ちで南エリアに足を踏み入れるような真似はしないと皆で誓った。
「その、これからは気を付けます」
「また来るような事は起こすなよ。次も助けになれるかは分からんからな」
「は、はいっ……! 本当に、ありがとう御座いましたっ」
今回は何とか事なきを得たが、次はどうなるか分からない。同じような事態に遭遇して、無事で居られる保証は無い。マスターが言わんとしていることを理解し、ジェレマイアは何度も頷いた。
「それで……あの、あれからニュクスさんは大丈夫でしたか?」
「大丈夫、とは」
「怪我、してたじゃないですか。全身……色んなところに」
用件は済んだが、今この場に居ないニュクスの存在が気になり、ジェレマイアはマスターに訊ねた。
帳簿を取り返す際、ニュクスは組織のボスと思しき人物の魔術で負傷した。しかしニュクスは少し痛がるだけで自力で立ち上がって歩き、帰参した。全身に氷柱の攻撃を受け、出血もそれなりにあった筈なのに、だ。
あの時は色々必死で何も考えられなかったが、後になって彼は結構深刻な状況だったのではないかと。自分の為に苦痛を堪え、我慢して見せていたのではないかと。ジェレマイアはずっと気がかりだった。
「あいつなら問題無い。もう別の仕事を受けて出ている」
「それじゃあ、怪我はそこまで酷くなかったんですね?」
「……まあ、そういう事だ」
「ああ……良かった」
マスターの言葉を聞いてジェレマイアは安堵し、脱力する。ニュクス自身も大丈夫だとは言っていたが、目の前で血を流し痛そうにしている姿を見せられて、心配するなと言う方が無理な話だ。 既に別の仕事をしていると言うのなら、本当に問題無いのだろう。
「それじゃあ、僕はもう行きますね」
「気を付けて帰るんだな。そして二度と南エリア には近づかないことだ」
「はい……そうします」
言われずとも、理不尽な犯罪と暴力で溢れたこの地には、二度と近付かない。ジェレマイアの住む東エリアとは世界が違い過ぎる。あんな目に合うのはもうこりごりだ。友人たちとやらかしたあの夜のことは、黒歴史として葬ろう。無かったことにしよう。
ジェレマイアは胸の内で固く決意し、再度マスターに向けて頭を下げると、そのまま店内を後にした。
しかしそんな決意も虚しく。
数週間後には再び南エリアを訪れることになるとは。この時のジェレマイアは知る由も無かった。
ジェレマイアは一人で南エリアに来ていた。
記憶を頼りに道を行き、大通りから一本入って、小さなバーに辿り着く。一息吐いてから扉を開けると、先日と同じようにマスターがカウンターの奥で作業をしていた。ただ、あの日カウンター席に座っていたニュクスの姿は無かった。
「来たのか」
ジェレマイアの姿を見たマスターは、表情も変えずに短く声を掛けた。何をしに来たのか大凡見当がついているようで、注文を訊ねることはせず、ジェレマイアの言葉を待った。
「えっと、この間はありがとう御座いました」
礼の言葉と共に、ジェレマイアはその場で深々と頭を下げた。
ニュクスと共に仕事を完遂し、帳簿を取り戻した後。ジェレマイアはマスターに結果を報告し、その場で報酬金を受け取った。取り分に対しニュクスは少々ーー否、かなり不満気な様子だったが、マスターが上手く説得してくれた。
結果、あのぼったくり詐欺の店にしっかり支払いをする事が出来、友人たちは無事に解放された。数時間ぶりに会った友人たちは半泣きでジェレマイアに感謝し、今後軽い気持ちで南エリアに足を踏み入れるような真似はしないと皆で誓った。
「その、これからは気を付けます」
「また来るような事は起こすなよ。次も助けになれるかは分からんからな」
「は、はいっ……! 本当に、ありがとう御座いましたっ」
今回は何とか事なきを得たが、次はどうなるか分からない。同じような事態に遭遇して、無事で居られる保証は無い。マスターが言わんとしていることを理解し、ジェレマイアは何度も頷いた。
「それで……あの、あれからニュクスさんは大丈夫でしたか?」
「大丈夫、とは」
「怪我、してたじゃないですか。全身……色んなところに」
用件は済んだが、今この場に居ないニュクスの存在が気になり、ジェレマイアはマスターに訊ねた。
帳簿を取り返す際、ニュクスは組織のボスと思しき人物の魔術で負傷した。しかしニュクスは少し痛がるだけで自力で立ち上がって歩き、帰参した。全身に氷柱の攻撃を受け、出血もそれなりにあった筈なのに、だ。
あの時は色々必死で何も考えられなかったが、後になって彼は結構深刻な状況だったのではないかと。自分の為に苦痛を堪え、我慢して見せていたのではないかと。ジェレマイアはずっと気がかりだった。
「あいつなら問題無い。もう別の仕事を受けて出ている」
「それじゃあ、怪我はそこまで酷くなかったんですね?」
「……まあ、そういう事だ」
「ああ……良かった」
マスターの言葉を聞いてジェレマイアは安堵し、脱力する。ニュクス自身も大丈夫だとは言っていたが、目の前で血を流し痛そうにしている姿を見せられて、心配するなと言う方が無理な話だ。 既に別の仕事をしていると言うのなら、本当に問題無いのだろう。
「それじゃあ、僕はもう行きますね」
「気を付けて帰るんだな。そして二度と
「はい……そうします」
言われずとも、理不尽な犯罪と暴力で溢れたこの地には、二度と近付かない。ジェレマイアの住む東エリアとは世界が違い過ぎる。あんな目に合うのはもうこりごりだ。友人たちとやらかしたあの夜のことは、黒歴史として葬ろう。無かったことにしよう。
ジェレマイアは胸の内で固く決意し、再度マスターに向けて頭を下げると、そのまま店内を後にした。
しかしそんな決意も虚しく。
数週間後には再び南エリアを訪れることになるとは。この時のジェレマイアは知る由も無かった。
