仮面舞踏会
侍女は彼女を鏡の前に坐らせると
墨で眉を濃く半月型に引き、目尻を強調して
頬や額に金褐色の粉を刷き、朱色の口紅を塗った。
吸い付くように細いズボン、模造ダイヤや真珠や金糸の刺繍で
飾り立てた象牙色の膨れ織の詰襟の上着、金色の細帯纏わせ
青い繻子のターバンで金髪を包み巻き上げ、額の上で
大きな梨型のダイヤを留めつけた。
そして赤い裏の象牙色の繻子のケープを肩に掛けさせた。
侍女は彼女に、百合の香りの香水を勧めた。
若いインドの藩王が出来上がった。
侍女は、自分の仕事に満足げに微笑むと
最後にベネチア製の
黒い繻子の、顔の上半分を覆う仮面を彼女に着けさせた。
控え目なファンファーレを伴った行進曲が繰り返し演奏され
招待客らが、露台から庭に伸びる照明灯で照らされた
石の階段を昇って来る。
仮面を着けた男女が明るい広間にの入り口に現われるたびに
仮面を着けてはいない女主人は、今夜はビザンチンの皇后の姿で
ひとりひとりを拍手で迎えた。
そして、正装の執事が捧げ持つ名簿帳にちらと目を通しては
大袈裟に感嘆の表情を浮かべて見せ、親しげにひとことふたこと
挨拶を交わしてから
「ああ、ごめんなさいね。では、また、後ほど・・・」
などと、早口で囁くのだった。
しかし、初老のフィレンツェの富豪の奥方の手を取って
階段を昇ってきたインドの藩王が
その前に立ったときには、ため息をついて
「わたくしの見立てに狂いはなかったわ」
と、満足げに微笑んだ後
「今夜は、楽しんでいらしてね」
と耳元に囁いた。
招待客が広間に揃ってしまうと
音楽は軽やかで陽気な舞踏の為のものに
変わった。
大きなターバンに錦の長い上着、白繻子のゆったりとしたズボンの
トルコの太守
龍を刺繍した、黄色いコートの中国の皇帝
羊の縫いぐるみを抱いた羊飼いの娘
造花の冠を被ったオフェーリア
フィレンツェの富豪の奥方
顔を黒く塗り、皮の胸当てをつけたオセロ
華やかな襤褸を纏い
幾重にも金の腕輪をつけたジプシー女
船頭や鍛冶屋、バイキングやコサック
アポロンやヘラなどの神々
着ぐるみの白い熊など
さまざまな仮装の男女が広間で踊り浮かれていた。
その中でも若いインドの藩王は、ひときわ優雅で快活で
誰に対しても礼儀正しく、愛想がよく
申し込まれれば、誰とでも踊った。
相手がオフェーリアでもジプシー女でも
フィレンッエの富豪の奥方でも
背の高いオセロとでも
太ったトルコの太守とでも
どんな相手であっても
その身のこなしは軽快で愛嬌たっぷりで
白い大きな熊を相手に
典雅なメヌエットを踊ったときには
人々の間から、笑いと感嘆と拍手が起こった。
踊りながら、藩王は柱に寄り添って立つ背の高い回教徒の貴婦人が
こちらを見ていることに、気がついた。
淡い緑色の繻子のカフタンを着て銀糸で模様を織り出した
薄い紫色の紗の足元まで届くような被り物を
宝石を散りばめた額飾りで押さえていた。
その貴婦人は、他のもののように仮面はつけてはいなかったが
かわりに目元からすぐ下を黒い紗のベールで覆っていた。
墨で眉を濃く半月型に引き、目尻を強調して
頬や額に金褐色の粉を刷き、朱色の口紅を塗った。
吸い付くように細いズボン、模造ダイヤや真珠や金糸の刺繍で
飾り立てた象牙色の膨れ織の詰襟の上着、金色の細帯纏わせ
青い繻子のターバンで金髪を包み巻き上げ、額の上で
大きな梨型のダイヤを留めつけた。
そして赤い裏の象牙色の繻子のケープを肩に掛けさせた。
侍女は彼女に、百合の香りの香水を勧めた。
若いインドの藩王が出来上がった。
侍女は、自分の仕事に満足げに微笑むと
最後にベネチア製の
黒い繻子の、顔の上半分を覆う仮面を彼女に着けさせた。
控え目なファンファーレを伴った行進曲が繰り返し演奏され
招待客らが、露台から庭に伸びる照明灯で照らされた
石の階段を昇って来る。
仮面を着けた男女が明るい広間にの入り口に現われるたびに
仮面を着けてはいない女主人は、今夜はビザンチンの皇后の姿で
ひとりひとりを拍手で迎えた。
そして、正装の執事が捧げ持つ名簿帳にちらと目を通しては
大袈裟に感嘆の表情を浮かべて見せ、親しげにひとことふたこと
挨拶を交わしてから
「ああ、ごめんなさいね。では、また、後ほど・・・」
などと、早口で囁くのだった。
しかし、初老のフィレンツェの富豪の奥方の手を取って
階段を昇ってきたインドの藩王が
その前に立ったときには、ため息をついて
「わたくしの見立てに狂いはなかったわ」
と、満足げに微笑んだ後
「今夜は、楽しんでいらしてね」
と耳元に囁いた。
招待客が広間に揃ってしまうと
音楽は軽やかで陽気な舞踏の為のものに
変わった。
大きなターバンに錦の長い上着、白繻子のゆったりとしたズボンの
トルコの太守
龍を刺繍した、黄色いコートの中国の皇帝
羊の縫いぐるみを抱いた羊飼いの娘
造花の冠を被ったオフェーリア
フィレンツェの富豪の奥方
顔を黒く塗り、皮の胸当てをつけたオセロ
華やかな襤褸を纏い
幾重にも金の腕輪をつけたジプシー女
船頭や鍛冶屋、バイキングやコサック
アポロンやヘラなどの神々
着ぐるみの白い熊など
さまざまな仮装の男女が広間で踊り浮かれていた。
その中でも若いインドの藩王は、ひときわ優雅で快活で
誰に対しても礼儀正しく、愛想がよく
申し込まれれば、誰とでも踊った。
相手がオフェーリアでもジプシー女でも
フィレンッエの富豪の奥方でも
背の高いオセロとでも
太ったトルコの太守とでも
どんな相手であっても
その身のこなしは軽快で愛嬌たっぷりで
白い大きな熊を相手に
典雅なメヌエットを踊ったときには
人々の間から、笑いと感嘆と拍手が起こった。
踊りながら、藩王は柱に寄り添って立つ背の高い回教徒の貴婦人が
こちらを見ていることに、気がついた。
淡い緑色の繻子のカフタンを着て銀糸で模様を織り出した
薄い紫色の紗の足元まで届くような被り物を
宝石を散りばめた額飾りで押さえていた。
その貴婦人は、他のもののように仮面はつけてはいなかったが
かわりに目元からすぐ下を黒い紗のベールで覆っていた。