戦争
「まあ、お戯れを!!・・・
わたくし、これでも世間からは『婦徳と貞淑の鑑』との
お褒めの言葉をいただいておりますのよ。
どうか軽々しいお振る舞いは・・・」
宮殿の廊下を渡っていたとき
柱の陰から聞こえてきた女の声に
近衛連隊長とその副官は、足を止め顔を見合わせた。
「貞淑!!
ああ・・・久しぶりに金のような言葉を
耳にいたしました」
男の声のほうは、近衛連隊長にとって馴染みのある
ものだった。
「あら!?」
「そして、今、わたくしは悟りました!!
あなたこそ『貞淑』の真の理解者であり
また、実践者です」
「あら、それは皮肉ですの?」
「いいえ、とんでもございません。
奥様、よろしいですか?
修道院に入る後家を貞淑などと世間は誉め称えはいたしません。
奥様は、このフランス宮廷において貞淑という孤高を守って
いらっしゃたのですね。
そのお美しさは、内面の美徳がお姿に輝き出て
いらっしゃったものだったのです!!
ああ・・・わたくしの無礼はその輝きに目が眩んだ
未熟者の仕業とあわれにお思いになって
どうか、慈悲の心でお許し下さい・・・」
近衛連隊長は副官に向って
『何事も、ないようだな』
とでも言いたげに苦笑して見せてから
「コホン・・・」
と、小さな咳を落とした。
「ああ・・・人が来ました。
奥様の名誉のために世間の注視は、このわたくしめが
一身に引き受けましょう。
奥様は、そのまま、お立ち去り下さい」
柱の陰から、薔薇や乳香や麝香の香りと共に
豪華な金色の綴れの衣装を纏った貫禄のある貴婦人が
黒いレースを張った扇で、顔を覆いながら姿を現した。
そして、目を伏せ、胸に手を当て
礼を尽くして立っている男たちの前を
いかにも高位の貴婦人らしく、高く髪を結い上げた頭を上げ
胸を張り、孔雀のように悠然とした足取りで
通り過ぎて行った。
その長い藻裾が廊下の角の向こうにすっかり見えなく
なってしまってから、近衛連隊長が口を開いた。
「少しは時と場所を弁えられよ
陸軍連隊長殿」
わたくし、これでも世間からは『婦徳と貞淑の鑑』との
お褒めの言葉をいただいておりますのよ。
どうか軽々しいお振る舞いは・・・」
宮殿の廊下を渡っていたとき
柱の陰から聞こえてきた女の声に
近衛連隊長とその副官は、足を止め顔を見合わせた。
「貞淑!!
ああ・・・久しぶりに金のような言葉を
耳にいたしました」
男の声のほうは、近衛連隊長にとって馴染みのある
ものだった。
「あら!?」
「そして、今、わたくしは悟りました!!
あなたこそ『貞淑』の真の理解者であり
また、実践者です」
「あら、それは皮肉ですの?」
「いいえ、とんでもございません。
奥様、よろしいですか?
修道院に入る後家を貞淑などと世間は誉め称えはいたしません。
奥様は、このフランス宮廷において貞淑という孤高を守って
いらっしゃたのですね。
そのお美しさは、内面の美徳がお姿に輝き出て
いらっしゃったものだったのです!!
ああ・・・わたくしの無礼はその輝きに目が眩んだ
未熟者の仕業とあわれにお思いになって
どうか、慈悲の心でお許し下さい・・・」
近衛連隊長は副官に向って
『何事も、ないようだな』
とでも言いたげに苦笑して見せてから
「コホン・・・」
と、小さな咳を落とした。
「ああ・・・人が来ました。
奥様の名誉のために世間の注視は、このわたくしめが
一身に引き受けましょう。
奥様は、そのまま、お立ち去り下さい」
柱の陰から、薔薇や乳香や麝香の香りと共に
豪華な金色の綴れの衣装を纏った貫禄のある貴婦人が
黒いレースを張った扇で、顔を覆いながら姿を現した。
そして、目を伏せ、胸に手を当て
礼を尽くして立っている男たちの前を
いかにも高位の貴婦人らしく、高く髪を結い上げた頭を上げ
胸を張り、孔雀のように悠然とした足取りで
通り過ぎて行った。
その長い藻裾が廊下の角の向こうにすっかり見えなく
なってしまってから、近衛連隊長が口を開いた。
「少しは時と場所を弁えられよ
陸軍連隊長殿」
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