忍 足 謙 也
お好きな「名前」を入力してください
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ー 笑 顔 が い ち ば んー
あたしは今日、どんなに好きでも叶わない恋もあるのだということを知った。
「あたし先生のこと…」
人生で初めて好きになった相手は、学校の先生やった。
ずっと、ずーっと前からオサムちゃんだけやった。
なのに…
「あかり、それ以上言うたらアカンで。俺は教師でお前は生徒。それ以上でも以下でもないんや」
たったそれだけの理由なん…?
そんなん、納得できひん。
なんで…あたしじゃアカンの?
「…諦められへん」
「はぁ…。最後まで言わんと分からんか?」
オサムちゃんの目つきが変わる。
「ならはっきり言ったる。俺はこの先も、お前を選ぶことはない」
聞いたことない、耳に残る低い声。
心に深く突き刺さる、ずっしりと重い言葉。
心臓がジーンと痛くなって、苦しい。
息が上手くできない。
鼻の奥がツーンと痛みだすと同時に、視界がだんだんぼやけていく。
声が出てしまいそうになるのを、あたしは必死で抑える。
「…気ぃつけて帰り」
オサムちゃんはそう言うと、帽子を深く被り直して教室を出て行った。
_____そんなわけで
『好き』というたった2文字の言葉さえ伝えられずに、2年間のあたしの片想いはあっけなく終わりを告げた。
*
「ブッサイクな顔やな…」
こりゃフラれるわけや…。
次の日、学校に行く途中でガラスに映った自分を見て、あたしはげんなりしていた。
目はふっくり赤く腫れ、寝不足のせいで顔も浮腫みまくり。
こんな顔みんなに見られたらいろいろ聞かれそうやなあ…。
あたしがオサムちゃんを好きなことは誰も知らない。
冷やかされんのも嫌やし。
それに、あのアホ謙也になんてバレてみ?
もう絶対イジられるの目に見えてるやろ?
はぁぁ…。
深いため息をつきながら、重たい身体をなんとか動かして、あたしはなるべくゆっくり学校へ向かった。
「おはようさん!あかり ❤︎」
校門を通り過ぎてすぐ、聞きなれた声が聞こえてきた。
「はいはい。謙也おはよう」
「なんや元気ないな。どっか痛いんか?あ、もしかして…」
真剣な顔して近づいてきたと思ったら。
小声で『生理か?』って。
「は〜ぁっ?!アホちゃうか自分?!デリカシーなさすぎやろっ!」
一瞬びっくりした。
泣いたんがバレたかと思って。
意外と謙也、勘鋭いから。
「何やねん、ただのジョークやん。そない大袈裟な反応するっちゅーことはまさか図星か?」
ニタニタと笑う謙也に腹が立って、後ろから思いっきり突き飛ばすと、案の定バランスを崩して盛大に転げた。
「いっっったああぁ〜っ!!何すんねんっ!?」
「謙也のどアホ!マヌケ!お前の母ちゃんでべそ!!」
ふんっ!もう知らん!!
…でも、ちょっと安心。
いつもみたいに『どないしたん?』なんて聞かれたら、きっと泣いてしまってただろうから。
『…思ったより元気そうやん』
「ん?今なんか言った?」
「んー?お前は笑顔がいちばんっちゅー話や」
☆ ★ ☆
ー 謙 也 s i d e ー
俺には好きな子がおる。
でもその子には他に好きな人がおる。
そんなの、もうとっくの昔に知っとった。
『渡邊オサム』
俺らテニス部の顧問。
オサムちゃんのことはめちゃくちゃ尊敬してる。
テニス部をここまで強くしたんは、紛れもなくオサムちゃんや。
いつもはあんなんで、やる気ない感じに見えがちやけど、ちゃんと生徒一人一人大事に見てくれてるんのも知っとる。
だから俺は『あいつが幸せならそれでええか』って思ってた。
やけど…。
「ならはっきり言ったるわ。俺はこの先も、お前を選ぶことはない」
オサムちゃんが出てった後、あかりはぺたんとその場に座り込んで、何時間も泣きじゃくって、最後にはふらふらになって帰って行って。
そんなあかりに声をかけることも、抱きしめてやることもできんくて。
ただただ、何もせんで見守るだけの自分にめっちゃ腹立った。
あん時のあかりの顔、思い出すんだけでもしんどいわ…。
なんで泣き顔なんか見なアカンねん。
あかりは笑顔がいちばんやのに。
今だって、全然元気ないくせに、無理に作り笑いして。
何のためやねん、誰のためやねん。
目もあんなに赤く腫らして。
声も…枯れるまで泣いて。
何も聞くなって顔して。
もうこいつ、俺のこと好きになればええのに。
あー、アカン。なんか腹立ってきたわ。
「俺は将来有望なんやで?」
「…は?何の話なん?」
「忍足家っちゅーんはな、代々医者の家系やねん。俺のオトンも開業医やし」
「へーぇ、それはすごいなあ」
「俺、こう見えてごっつ頭ええやん?」
「え、ホンマになんなん?自慢話なら他いき!」
「せやから…」
「……?」
「せやから、俺と結婚すれば、医者の奥さんになれんで!それに俺、結構男前やん?イケメンで医者でテニスもごっつ上手い。な?そんな男俺しかおらへんやろ?」
「それ自分で言うんか?ってか、ホンマに何の話?意味わからん」
「まあええわ。今は分からんくても」
お前はいつもみたいに、そうやってただ笑っとけばええねん。
「なぁあかり、どっちが早く教室に着くか勝負せえへん?」
「誰に勝負挑んでるん?浪速のスピードスターなめたらアカンで?」
「ちょっ!それ俺のセリフや!!」
ケラケラと笑うあかりが、どうしようもなく可愛くて、愛おしい。
しゃーないから、俺がずっと隣で笑わしたるわ!!
ー F i n ー
1/1ページ