ゴールデンカムイ
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会社帰りの人がごった返す電車内はなんだかいろんな思惑や危険思想が充満しているように思えて、もしここで後ろから刺されたらどうしようかとでも考えてしまいそうだった。顔も名前も知らない男や女や、もしかしたら殺人犯もいるかもしれない電車が動いては各駅で停車して、また窓の外の景色を置いてけぼりにしていく。電車内にも影が落ちはじめている。また一日が終わろうとしている。
いつもの駅に到着したら電車を降りて、だんだんと日が落ちて暗くなっていく道を早足で歩き、#(名前)#さんの待つ家へと急ぐ。
「ただいま。」
玄関でそう呼びかけても、#(名前)#さんの返事はなかった。いつも通り、病院みたいに静まりかえっている俺たちの家。でもそれはいつものことだから、別にこれがいけないことだとかは思わない。#(名前)#さんはあまり何かを話したりはしてくれないけれど、言葉を使わなくても俺たちは愛し合っているとわかるから、それでもいいと思う。
「………#(名前)#さん?」
リビングに入ると、血だまりのなかに#(名前)#さんがうずくまっているのが見えた。すぐそばにはナイフが落ちている。#(名前)#さんはまた自傷に走ったようだった。
「#(名前)#さん、大丈夫?」
吐きそうな声をあげて泣いている#(名前)#さんのそばに駆け寄る。#(名前)#さんの手首からはどくどくととめどなく血が溢れていて、かなり深く切ったみたいだった。今度こそ本気で死のうと思ったのだろうか。
「っご、ごめっ!ん、なさい…!ごめんなさいごめんなさい………」
「謝らなくていいよ」
俺が背中をさすると、#(名前)#さんは絶望したのかまた死にたくなったのか、さらに苦しそうな声で泣き始めた。
実際ここに閉じ込めてからというもの、#(名前)#さんは何度もこの部屋で死のうとしているけど、その度にすべて俺が阻止してきた。もし仮に#(名前)#さんが死んでしまうようなことが起こったとしたら俺は間違いなく後を追うだろうが、どうせ死ぬならふたり一緒に死ぬのがいいと思うからだ。俺は#(名前)#さんが「一緒に死のう」と言うまではひとりで死のうとするのを止めるし、死なせようともしないだろう。
「……傷、手当てしなきゃね。ほら、手首出して」
うつむいたままでいる#(名前)#さんの手首をとって、包帯を巻いてやる。傷だらけの腕に包帯を巻く手つきが以前より随分と手慣れてしまっている。ああ、…愛。この部屋で愛を育んできた日々を思い返すと脳内麻薬とでもいうべき多幸感があふれておかしくなりそうになる。戻れなくなりそうになる。この狂いそうな死にそうな蠱惑のような同棲生活で毒と愛の見分けがつかなくなっているんだもうとっくに。俺たちははじめからこうなるべきだったのかもしれない。たぶん、100年前から決まっていた。
「ううううう、ううっ、うう…………」
包帯を巻き終わって、泣いている#(名前)#さんをやさしく抱きしめる。悲しくなるほどに細い肢体を抱きすくめると、ときどき、このまま殺してしまわないかと不安になる。外なんかに出したら、花の首が落ちるくらいのあっけなさで死にそうだ。この人は俺がいないと死んでしまうし、反対に俺はこの人がいないと生きていけない。完璧で完全で、運命みたいに完成された恋人関係。
「もし前世とかあったらさあ、俺たちってそこでも恋人同士だったのかな。そうだったとしたら、俺、運命って本当にあるかもって思っちゃうかも」
#(名前)#さんとは前世から恋人で、そして現世でも愛の力とかそういう力で巡り合った運命の人。子供だましみたいな話だけれど、なんだかそれってロマンティックで感動的で、すごくすごく素敵だな。
俺はそんなことを思いながら、今日の夕ご飯のこととか明日のこととか、あとは未来のこととかもちょっぴり考えたりして、そうしているうちになんでもない夕暮れは終わっていった。