たった一人の人
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「…俺の顔になにか付いてるか?」
「…え?」
「お前の視線で俺の顔に穴が空きそうなんだが」
「…すっ、すみませんっ…」
「今日だけじゃねぇ。出会った時からずっとだ。…どうしてお前は、いつも泣きそうなツラで俺の顔を見るんだ?」
「…っ!!」
「そういや、はじめで会った時、お前、俺を誰かと勘違いしてたよな?
俺の顔が……誰かと似てんのか?」
「っ……」
“ゆい…”
せんせー、
せんせー…
「…!
な、んで、泣くんだよ」
「っ…、わ、わたし…
好きな人がいたんですっ…」
誰にも…
あの人のことを話すつもりはなかった…
あの人に…あの頃の思い出に、
踏み込まれたくなかったから…
過去のことみたいに…
もう終わったことみたいに言いたく無かったから…
なのに…なぜだろう…
言葉が勝手に出てくる…
「誰より愛してた…
その人と結婚してっ……私はずっとずっと幸せになるんだって…そう思ってたっ…」
「……」
「だけどっ…だけどっ…!
かっ、彼はっ……」
「……」
「し、死んだのっ…」
「……!」
涙が溢れて溢れて止まらなかった。
ついに言ってしまった。
“死”という言葉。
それを言ってしまったら…
認めたことになってしまう。
だから、口が裂けても言うまいと思っていた言葉なのに…
どうしてこの人の前で…
それを言ってしまったのだろう…
****
高杉せんせー…。
あなたは今…どこでなにをしていますか?
ほんとだったら、私たちは結婚して…
きっとせんせーはすっごい豪華なウエディングドレスを私に着させてくれたよね…
あなたそっくりの可愛い子供も出来てたりして…
幸せで幸せでしょうがなかったはず…
せんせー…
私は、今、
あなたに瓜二つのこの人の前で…
“あなたが死んだ”って…
泣きながら言ったよ。
いまだに頭のどこかで、
あなたと家庭を持つ暖かい夢を見ながら…。
どうして私は
こんなに苦しい冷たい言葉を言わなくちゃいけないの?
ひどいよ、せんせー…
「ソイツが…俺に、似てんのか?」
そう言った時の目の動きや口の動かし方まで似ている…悔しいくらいに…
「…いいえ、違います…」
「違わねぇだろ」
「違います」
「ならなんで俺から目を逸らさねぇ」
「…!」
「今だけ…俺がソイツの代わりになってやるよ」
「?!…っ!!」
そう言って、突然抱き締められた。
「ちょ?!離してくだっ…
「今だけ…
今だけ俺を…お前の愛しい男だと思え…」
「…!」
「ソイツの名は…なんつーんだ?」
「…い、言いたくないです…」
「いいから」
誰にも…誰にもあの人のことに触れて欲しくなかった…
なのに…
「た、高杉…せ、んせー…」
そう呼ぶ私の声は震えていて…
涙で視界が滲む。
2度と呼べない。呼ぶことはないと思っていたその名前。
「ふっ…名前まで俺に似てんのかよ…。まぁいい…
俺は…高杉だ。
お前の今目の前にいんのは、お前の愛しい男だ。だから…言いたいこと…我慢せずに言っちまえ…」
「…!」
頬へと次から次へと流れる涙を
指で拭う仕草も…まるであの人だ。
この人はあの人じゃない。
そんなことは分かってる。
だけど…だけど、涙が止まらない。
たとえ嘘やまやかしでも…
私はあなたに会いたい。
会いたくて堪らないの…
「高…杉…せん、せー」
「あぁ…」
せんせー…私、
もう一度あなたに会えたなら…
言いたかったことがあるの…
「…高杉、せんせ…
私っ…私っ…」
「なんだ?」
「私はっ…、せんせーがっ、
好きっ…
大好きっ……」
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