たった一人の人
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「えぇ?!
断っちゃったの?営業部の〇〇さん・・・
あの人、秘書課でも結構人気あるのよ?」
そう言ったのはお妙ちゃん。
お妙ちゃんとは、大学こそ違うところに行ったが、
同じ会社に入り、
お妙ちゃんは秘書課。
私は庶務課で仕事をしている。
「え~?あれで人気あるの?
全然イケメンじゃないし・・・」
「えぇ?イケメンよ!」
「どこがよ。
なんか髭濃いし、ぬぼ~っとした顔してるし・・・」
「そりゃ芸能人じゃないんだから?
でも、一般素人の男性だったら、
あれでもイケメンってカテゴリーに入るわよ。」
「・・・え~・・・」
「・・・・あのね、
高杉先生はちょっと特別だったの。」
「・・・!!」
お妙ちゃんが出した”あの人”の名前に、
心臓が飛び跳ねる。
ドッドッ・・・と、
身体中の血液が逆流する。
「先生は一般素人なのに、
芸能人以上のルックスだったわ。
だけど、そんな人、普通は存在しな・・・
「あの人の名前を出さないで!!!!」
思わず私は怒鳴った。
周りにいた人もビックリしてこっちを見てる。
「そんな気安くあの人の名を口にしないで・・・
あの人を語らないで・・・」
「ご、ごめ・・・
そんなつもりじゃ・・・・」
私は耐えられなくなって、
その場を立ち去る。
お妙ちゃんには悪いけど・・・
たとえ誰であろうとも、
簡単にあの人のことを口にして欲しくない。
あの人は
あ~だったとか、こうだったとか、
まるで過去のことのように
あの人を語らないで・・・
今も私の瞼の裏には、
はっきりとあの人が写ってる。
”フッ・・・
ゆい、どうした?”
”なにがそんなに悲しいんだか・・・”
そう言って頭を撫でてくれた
あなたが目の前にいる。
なのに・・・
「うっ・・・ううっ・・・
せんせーー!!」
私は”あれから”、何度泣いたか分からない。
二度とお前を泣かせない・・・
そう言ってくれた時・・・
私は、嬉しくて、幸せで溜まらなくって泣くことはあっても、
悲しくて泣くことはもう二度と
なくなるんだって・・・
本気でそう思ってた・・・。
なのにせんせー・・・
私はどうして今こうして泣かないといけないの?
どうしてひとりぼっちで・・・
こんなところで泣いてるの?
「ゆい・・・!」
「・・・!!」
そう言って私の腕を掴んだのはお妙ちゃん。
「今まで、腫物に触るみたいに、
あなたに接してきたけど・・・
もうそんなのやめるわ。」
「・・・!」
「いつまでも先生の影にとらわれて・・・泣き続けて生きるあなたを・・・見てられない。親友として。」
「・・・っ。」
「先生のこと・・・
つらいのはよくわかる。
忘れなさいとは言わない。
だけど、もう・・・先生はいないの。」
「・・・!」
「どこにもいないの。」
「・・・・。」
「あれから・・・8年も経ってるのよ?
もう・・・解放されてもいいじゃない。
大事な思い出は心の奥に封印して・・・
今を生きていいのよ。
これからを生きていいのよ。
きっと先生もそれを望んで・・・」
「せんせーがそれを望んでる?
お妙ちゃんにどうしてそんなことが分かるの?
せんせーがそう言ったの?
俺のことはもう忘れてくれって?」
涙が止まらない。
お妙ちゃんを責めたって仕方がない。
だけど、言葉が溢れてくる。
「せんせーは、
暗い暗い海の底で・・・
私のこと待ってる。
私は解放されちゃいけないの。
せんせーはあの時のまま・・・
止まったままなのに・・・
どうして私だけが進まなくちゃいけないの?」
「ゆい・・・」
私の気迫につられるように、
お妙ちゃんも泣いている。
「ごめんね・・・お妙ちゃん。
キツイ言い方した・・・」
「ううん。いいの・・・私は・・・」
「ごめん、一人にして・・・」
私はそう言って、
私の腕を掴んだお妙ちゃんの手をほどいて、
歩き出した。
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