実成れば、花も咲く
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「・・・子どもが出来た」
私のその言葉に、まるで聞こえなかったみたいに
眉一つ動かさない彼。
しかし、聞こえないはずがない。
静閑とした小さな部屋に2人しかいないのだから。
部屋の窓際に腰掛けて、
さして綺麗でも珍しくもない曇天の空を見上げながら彼は煙管を吹かす。
しばらく沈黙が続いて、
彼が煙管を口から離し、煙を吐いた。
静かな小部屋に彼の息を吐く音がやけに響いた。
「・・俺は父親になる気はねぇ」
「・・・・。」
「それでもお前ェが産みてぇと言うなら、好きにしな。
ただし、俺はガキには会わねーし、名乗る気もねぇ。」
「・・・・。」
彼はそれだけ言うと、何事もなかったかのようにまた煙管を吹かし始めた。
何か気負う感じも、表情を曇らせる事もなく・・・
・・・・悲しくはなかった。
なぜなら、「子どもが出来た」と聞いた彼が喜ぶ姿など微塵も想像できなかったからだ。
それに私自信も、彼に父親になって欲しいなどとは思っていなかった。
むしろ嬉しかった。
なぜなら彼は「父親になる気はない」とは言ったが、「堕ろせ」とは言わなかったからだ。
私はただ、彼の子がを産んでもいいという了解が欲しかった。
ただそれだけのために彼に「子どもが出来た」と伝えた。
彼の子が産める。
それだけで、死ぬほど嬉しかった。
だから、初めて彼の子がお腹の中にいると分かった時もただただ嬉しかった。
彼とは、身体だけの関係。
俗にいう“セフレ”というやつに当たるだろうか・・・
とにかく恋人とは程遠く、
彼は私に対して特別な感情など微塵もなかった。
でも、私は彼を愛していた。心から。
彼の全てが好きだった。
どこがどんな風にと聞かれても困るほどに。
彼に抱かれることは、これ以上ない幸せだった。
たとえそこに愛はなくとも・・・
そう本気で思える程に、私は彼に毒されていた。
そんな彼との子どもが嬉しくないはずがない。
私が心から愛した彼と同じ遺伝子を持つ存在が今、私のお腹の中にる。
私と彼が共にいた記憶が形となって、永遠に残る。
それだけで・・・それ以上に何を望むだろうか。
外に出ると、雨がザーザーと音を立てて降っていた。
まるでこの音に紛れて今のうちに遠くへ行ってしまえとでも言うように。
私はまだ何の変化もないお腹に手を当てて
「どうかお元気で・・・」
と、何かと危険の多い彼の無事を祈って
ドシャ振りの雨の中を歩き出した。
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