DRCR2025 チョコにまつわるエトセトラ
「バレンタイン、です」
帰ってきて開口一番。いや、さきに「おかえり」を言ったけど。
ずいと紙袋を渡した。
「……クソ菌殺してから」
勝己は靴を脱いで洗面所に向かっていった。勝己のいつものルーティンを邪魔してしまっていた。
クソ菌を殺す――手洗いうがいをすませると、勝己はソファーに座った。
「まだ10日だろ」
今日の日付は2月10日。バレンタインは4日後だ。
「砂藤くんの日程が合わなくてねーシュガーマンこの時期大忙しだから」
A組女子でのバレンタイン準備会〜砂藤くんといっしょ〜は各々の仕事の忙しさもあり、本日10日に繰り上げ。集まったメンバーも数名だった。
「都合がついたのが、お茶子ちゃんと梅雨ちゃん…芦戸ちゃんも来る予定だったんだけど、要請かかっちゃったんだよね」
ということで生徒3人と砂藤先生によるバレンタイン準備会。毎年お世話になっている砂藤くんにもお礼を渡した。
「今年はお茶子ちゃん、出久に贈るからってはりきっててね……」
顔を赤くしては個性を暴発させかけて台所はてんやわんやではあった。
出久の好きそうな味ってことで色々聞かれたが、あいつはお茶子ちゃんが作ったものならなんでも好んで食べるだろう。
「オイ待て、このチョコ出久と同じなんか……」
勝己が受け取った紙袋を見る。
多分なんか屈辱的なんだろう。まったく。砂藤大先生の言葉を借りるなら、「変われよ」だ。
「出久と同じチョコなわけないでしょ。勝己のは毎年、ビターチョコにしてんだから」
辛いものを好む勝己に合わせて、バレンタインチョコはいつもビターチョコの特別苦いものだ。
特別苦すぎていつも私だけ別メニューで作るくらいだ。
どちらかと言えば子供舌の出久に渡されるチョコと同じになるわけないのだ。
「さぁ、不安要素はないでしょ?ほら食べて!」
顔に似合わず、丁寧に包装をはがしていく。赤系でまとめられたラッピングは一切破かれることがなく箱の横に畳まれた。
あの顔で器用だし、やることが丁寧だなぁと箱を開ける勝己を眺める。
シュガーマン特別レシピのビターチョコ。一かけらを手に取って、食べた。
「どう?おいしい?」
「……悪かねェな」
「よし!」
手ごたえアリ。好感触だ。
「コーヒー淹れてくんね。私も自分用に作ったの食べよー」
2個目に手を出した勝己を確認して立ち上がる。
特別苦いチョコを食べているのにコーヒーも飲むんだから、勝己の舌はどうなっているのやら、と考える。
「奏」
「はーい。砂糖ナシのミルクナシでしょー――?」
コーヒーの催促かと振り返る。
まったく予想していなかったからしかたなかった。腕を引っ張られ、倒れ込むようにソファーの、勝己の隣に座る。
「なにすん――」
危ないじゃないかという抗議の声は口の中へと消えて行った。
口の中と言っても、私ではなく勝己の。
塞がれた口の中、舌がなにやら動く。ころりと口の中に入ってきた。
「にっっっっっっが!!!!」
口の中で転がしてすぐに広がった苦み。チョコを作っているときに味見をしたときに味わった苦みと同じ。
「悪かねぇだろ」
「味見してんだからわかってるわ!」
うげぇと顔をしかめると、勝己は軽く笑う。笑うと言っても意地の悪い方だ。コノヤロウ。
「あーまだ口の中苦い…コーヒーやめてココアにしよ…もー」
なんならジュースにしたかったけど、生憎我が家の冷蔵庫にはなかった。
「奏、なんなら口直ししてやろーか」
マグカップを持ってもう一度立ち上がって振り返る。意地悪そうに薄ら笑いを浮かべた勝己の口の隙間からちらりと赤い舌が覗く。
「いっ……」
悔しいが勝己の色気に当てられて言葉が出てこない。私よりあるぞ、この男は。
「い、いらない!!」
帰ってきて開口一番。いや、さきに「おかえり」を言ったけど。
ずいと紙袋を渡した。
「……クソ菌殺してから」
勝己は靴を脱いで洗面所に向かっていった。勝己のいつものルーティンを邪魔してしまっていた。
クソ菌を殺す――手洗いうがいをすませると、勝己はソファーに座った。
「まだ10日だろ」
今日の日付は2月10日。バレンタインは4日後だ。
「砂藤くんの日程が合わなくてねーシュガーマンこの時期大忙しだから」
A組女子でのバレンタイン準備会〜砂藤くんといっしょ〜は各々の仕事の忙しさもあり、本日10日に繰り上げ。集まったメンバーも数名だった。
「都合がついたのが、お茶子ちゃんと梅雨ちゃん…芦戸ちゃんも来る予定だったんだけど、要請かかっちゃったんだよね」
ということで生徒3人と砂藤先生によるバレンタイン準備会。毎年お世話になっている砂藤くんにもお礼を渡した。
「今年はお茶子ちゃん、出久に贈るからってはりきっててね……」
顔を赤くしては個性を暴発させかけて台所はてんやわんやではあった。
出久の好きそうな味ってことで色々聞かれたが、あいつはお茶子ちゃんが作ったものならなんでも好んで食べるだろう。
「オイ待て、このチョコ出久と同じなんか……」
勝己が受け取った紙袋を見る。
多分なんか屈辱的なんだろう。まったく。砂藤大先生の言葉を借りるなら、「変われよ」だ。
「出久と同じチョコなわけないでしょ。勝己のは毎年、ビターチョコにしてんだから」
辛いものを好む勝己に合わせて、バレンタインチョコはいつもビターチョコの特別苦いものだ。
特別苦すぎていつも私だけ別メニューで作るくらいだ。
どちらかと言えば子供舌の出久に渡されるチョコと同じになるわけないのだ。
「さぁ、不安要素はないでしょ?ほら食べて!」
顔に似合わず、丁寧に包装をはがしていく。赤系でまとめられたラッピングは一切破かれることがなく箱の横に畳まれた。
あの顔で器用だし、やることが丁寧だなぁと箱を開ける勝己を眺める。
シュガーマン特別レシピのビターチョコ。一かけらを手に取って、食べた。
「どう?おいしい?」
「……悪かねェな」
「よし!」
手ごたえアリ。好感触だ。
「コーヒー淹れてくんね。私も自分用に作ったの食べよー」
2個目に手を出した勝己を確認して立ち上がる。
特別苦いチョコを食べているのにコーヒーも飲むんだから、勝己の舌はどうなっているのやら、と考える。
「奏」
「はーい。砂糖ナシのミルクナシでしょー――?」
コーヒーの催促かと振り返る。
まったく予想していなかったからしかたなかった。腕を引っ張られ、倒れ込むようにソファーの、勝己の隣に座る。
「なにすん――」
危ないじゃないかという抗議の声は口の中へと消えて行った。
口の中と言っても、私ではなく勝己の。
塞がれた口の中、舌がなにやら動く。ころりと口の中に入ってきた。
「にっっっっっっが!!!!」
口の中で転がしてすぐに広がった苦み。チョコを作っているときに味見をしたときに味わった苦みと同じ。
「悪かねぇだろ」
「味見してんだからわかってるわ!」
うげぇと顔をしかめると、勝己は軽く笑う。笑うと言っても意地の悪い方だ。コノヤロウ。
「あーまだ口の中苦い…コーヒーやめてココアにしよ…もー」
なんならジュースにしたかったけど、生憎我が家の冷蔵庫にはなかった。
「奏、なんなら口直ししてやろーか」
マグカップを持ってもう一度立ち上がって振り返る。意地悪そうに薄ら笑いを浮かべた勝己の口の隙間からちらりと赤い舌が覗く。
「いっ……」
悔しいが勝己の色気に当てられて言葉が出てこない。私よりあるぞ、この男は。
「い、いらない!!」
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