【RKRN】梅に鶯
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私は、清水家が長女。清水小春。
先祖代々忍者の家系に生まれた跡取り娘。
夢は、一流のくノ一になることと、――忍者のお嫁さんになることだ。
先祖代々忍者の家にやっとのことで生まれた私は、跡取り娘として育てられた。
十になる年、かつての天才忍者・大川平次渦正が開いた忍術学園に入学した。全国津々浦々から忍者を目指す人間が集まる。――中には行儀見習いを目的とした者もいるらしいけれど。
入学前、母は言った。
「忍術学園で将来の旦那様を見つけるつもりでいなさい」
先祖代々、由緒正しい忍者の一家。跡取り娘である私の婿となる人も忍者であってほしいのが両親の願い。
忍術学園であれば、有象無象の中から私の婿を探し出すよりも、優秀な忍者を見つけることができるからだそうだ。
父は言った。
「忍術学園のくの一教室では、山本シナという優秀なくの一が教えている。存分に学んできなさい」
「わかりました。母上、父上」
入学金が詰められた巾着を持って、山奥への学園へと旅立った。
休みには学園のことを教えてね。と来年忍術学園に入るつもりの近所の男の子が言った。
くの一教室は一学年一組。男子の方はいろはに分けられて三組あるそうだ。
くの一教室は、忍術学園の広大な敷地の一角に設けられていた。
まさに女の園。男子禁制。
もし、男子の許可ない侵入があれば、容赦なく処断される――とかいう噂だ。
強い女の人ばかりだ。
それが私のくの一教室への第一印象。
きらびやかな人たちばかりだった。
同学年となる人たちも鮮やかな着物を着ていた。豪商の娘で、行儀見習いでここへ来たという。
対して私は質素な小袖だった。多分今まで頓着してこなかったものもあるのだろう。
くの一に憧れて、行儀見習いで、花嫁修業で。さまざまな理由でくの一教室にやって来た。
多分、忍者のお婿さんを探しにやって来た娘なんて、私くらいだったんだろう。
「ねえ、小春。髪結いの紐をもっと他のにしてみたら?」
仲の良くなった同級生たちに髪を弄り回されていた。
いつだったかに近所の神社で貰った元結をずっと使っていた。随分と長く使い込んでいたことになる。
同級生たちは色とりどりの結紐を使っていた。私は白一色。確かにくの一のたまごとしてはもう少し身の回りのものに気を遣った方がいいかもしれない。
「私は何色が似合うかな」
「そうねぇ、小春の髪色ならきっと明るい色が似合うんじゃない?」
ほら、蒲公英色とか。
友人が集めていた結紐の一つで結い上げられた。鮮やかな黄色だった。
「蒲公英って、春に咲くもんね。小春にぴったりだ」
「そう、かな」
「やけに詳しいわね、植物のこと」
「この前図書室に行ったから。ねぇねぇ、聞いて。図書室に同い年の忍たまがいてさ――」
鏡を貸してもらい、鏡の中の自分を見た。鮮やかな黄色がまるで咲いたようにあった。
私は飽きるまで頭の上に咲いた蒲公英を眺め続けていた。
一つ上の先輩が私たちと同級生の忍たまを弄んだらしい。
くの一教室のいわばお約束。年中行事みたいなものらしい。
入学したてのくノ一の恐ろしさを知らない一年生の忍たまをデートに誘って、それはもう弄ぶらしい。
「こうして忍たまたちに恐怖心を植え付けるのよ」
数が少ない上級生の先輩が面白おかしそうに教えてくれた。一年、ここで勉強すると、面白いくらいに男の子を手のひらで転がせるようになるから。なんて笑っていた。
「今年は随分手強いのがいたわ」
弄び終わった先輩たちが話していた。
「多分い組よね。随分と頭の固い子いたよね。当たった子かわいそーだったぁ」
「忍者の三禁とはぁー!って叫んでた子でしょ」
「あーいうのはもっと押しちゃえばクラっと行くもんよ」
どうやら今年は先輩たちが苦戦していたらしい。
「い組といえばぁ!めちゃくちゃ顔がかわいい子いたじゃん!髪の毛もサラサラでさぁ!くの一教室であれに勝てる髪質いたっけ?ってなるほどの」
「ろ組はホント、無難な奴らばっかりだったけど、何誘っても興味を示さない子とか体力馬鹿とかいて大変だったらしいよ」
「まあ、他はさておき……やっぱりは組よは組!」
「他と比べ物にならないレベルのいたよね!?」
「落とし穴に始まって、池のボートの底が抜けてたり、鳥の糞に家畜の糞……だっけ?」
「そう!」
「あの子保健委員会らしいよ」
「あー」
「保健委員会かぁ」
「そりゃ仕方ない」
「それと一緒に巻き込まれた子もいたじゃん?」
「いたいた」
「スマナイトメサブローって」
「同室じゃないかって言ってた」
「六年も一緒になるなんて、その子も不運ね」
どうやら私たちと同級生の忍たまは先輩たちを手こずらせる者たちがいたらしい。
私たちももし来年……と思ってしまうと少し気が重くなる。
初夏の頃、農繁期となって実家に帰った。
入学前、話を聞かせてくれとせがんできた近所の子に私は出来る限り話してやった。
くの一教室による忍たまの通過儀礼については、教えてやらなかった。この子だけに教えてあげるのもズルのような気がしたのと、その方が面白そうだからだ。
他に教えたことといえば、保健委員会は不運な生徒が集まること。あと生物委員会にはたくさんの動物がいることだった。
虫、動物に限らず、生き物全般が大好きなその子は、絶対に生物委員会に入る!なんて宣言していた。
夏になった。
私と彼の出会いは、土まみれだった。
一年は組にはそれはもう不運な忍たまがいる。
忍術学園中の検便をする保健委員会で、歩けば落とし穴、避ければ糞を踏む。
酷くついていない忍たまがいるそうな。と噂になった。
善法寺伊作。噂の忍たま。私は彼の姿を見たことはない。だっていつも穴の中にいた。
それと一緒に知ったのが、伊作と同室という彼――食満留三郎。
「すまない留三郎」
「気にするな、同室じゃないか」
と返すのがお約束らしい。
いつも穴に落ちた伊作を助けては泥だらけになる。
自分だって用具委員会の仕事がたくさんあるというのに、伊作を助けていた。自分のことは気にしない。いつだって他人の為に動いている。
「同室だから」という理由だけ。何一つ利益はない。
それなのに、その姿はどうにも眩しく見えた。
眩しいからいつも遠くからそれを眺めていた。
――その日は偶然だった。
周りには誰もいなかった。
伊作が穴に落っこちて、留三郎が助けに来た。伊作を引っ張り上げようとしたものの、どこか滑らせたのか、留三郎も穴に落っこちた。
周囲に誰もいなかった。二人が穴に落ちているのに気が付いたのは、私だけ。
「大丈夫?」と声をかけたことに多分、明確な理由はなかったと思うのだ。
二人を助けても意味なんて、自分に利益なんてないと思っていた。食満留三郎という男に出会って、世界は変わったのだろう。
俺にとっては鮮烈だったのだ。
同級生のくのたまの中で一番小柄。あと地味だった。
それが逆に俺は目を引いた。
努力している姿が目に映った。同級生とは思えないほどの努力をしていた。
そして、夏の日。土にまみれた俺に、春の陽だまりのような彼女が声をかけてくれたのだ。
先祖代々忍者の家系に生まれた跡取り娘。
夢は、一流のくノ一になることと、――忍者のお嫁さんになることだ。
先祖代々忍者の家にやっとのことで生まれた私は、跡取り娘として育てられた。
十になる年、かつての天才忍者・大川平次渦正が開いた忍術学園に入学した。全国津々浦々から忍者を目指す人間が集まる。――中には行儀見習いを目的とした者もいるらしいけれど。
入学前、母は言った。
「忍術学園で将来の旦那様を見つけるつもりでいなさい」
先祖代々、由緒正しい忍者の一家。跡取り娘である私の婿となる人も忍者であってほしいのが両親の願い。
忍術学園であれば、有象無象の中から私の婿を探し出すよりも、優秀な忍者を見つけることができるからだそうだ。
父は言った。
「忍術学園のくの一教室では、山本シナという優秀なくの一が教えている。存分に学んできなさい」
「わかりました。母上、父上」
入学金が詰められた巾着を持って、山奥への学園へと旅立った。
休みには学園のことを教えてね。と来年忍術学園に入るつもりの近所の男の子が言った。
くの一教室は一学年一組。男子の方はいろはに分けられて三組あるそうだ。
くの一教室は、忍術学園の広大な敷地の一角に設けられていた。
まさに女の園。男子禁制。
もし、男子の許可ない侵入があれば、容赦なく処断される――とかいう噂だ。
強い女の人ばかりだ。
それが私のくの一教室への第一印象。
きらびやかな人たちばかりだった。
同学年となる人たちも鮮やかな着物を着ていた。豪商の娘で、行儀見習いでここへ来たという。
対して私は質素な小袖だった。多分今まで頓着してこなかったものもあるのだろう。
くの一に憧れて、行儀見習いで、花嫁修業で。さまざまな理由でくの一教室にやって来た。
多分、忍者のお婿さんを探しにやって来た娘なんて、私くらいだったんだろう。
「ねえ、小春。髪結いの紐をもっと他のにしてみたら?」
仲の良くなった同級生たちに髪を弄り回されていた。
いつだったかに近所の神社で貰った元結をずっと使っていた。随分と長く使い込んでいたことになる。
同級生たちは色とりどりの結紐を使っていた。私は白一色。確かにくの一のたまごとしてはもう少し身の回りのものに気を遣った方がいいかもしれない。
「私は何色が似合うかな」
「そうねぇ、小春の髪色ならきっと明るい色が似合うんじゃない?」
ほら、蒲公英色とか。
友人が集めていた結紐の一つで結い上げられた。鮮やかな黄色だった。
「蒲公英って、春に咲くもんね。小春にぴったりだ」
「そう、かな」
「やけに詳しいわね、植物のこと」
「この前図書室に行ったから。ねぇねぇ、聞いて。図書室に同い年の忍たまがいてさ――」
鏡を貸してもらい、鏡の中の自分を見た。鮮やかな黄色がまるで咲いたようにあった。
私は飽きるまで頭の上に咲いた蒲公英を眺め続けていた。
一つ上の先輩が私たちと同級生の忍たまを弄んだらしい。
くの一教室のいわばお約束。年中行事みたいなものらしい。
入学したてのくノ一の恐ろしさを知らない一年生の忍たまをデートに誘って、それはもう弄ぶらしい。
「こうして忍たまたちに恐怖心を植え付けるのよ」
数が少ない上級生の先輩が面白おかしそうに教えてくれた。一年、ここで勉強すると、面白いくらいに男の子を手のひらで転がせるようになるから。なんて笑っていた。
「今年は随分手強いのがいたわ」
弄び終わった先輩たちが話していた。
「多分い組よね。随分と頭の固い子いたよね。当たった子かわいそーだったぁ」
「忍者の三禁とはぁー!って叫んでた子でしょ」
「あーいうのはもっと押しちゃえばクラっと行くもんよ」
どうやら今年は先輩たちが苦戦していたらしい。
「い組といえばぁ!めちゃくちゃ顔がかわいい子いたじゃん!髪の毛もサラサラでさぁ!くの一教室であれに勝てる髪質いたっけ?ってなるほどの」
「ろ組はホント、無難な奴らばっかりだったけど、何誘っても興味を示さない子とか体力馬鹿とかいて大変だったらしいよ」
「まあ、他はさておき……やっぱりは組よは組!」
「他と比べ物にならないレベルのいたよね!?」
「落とし穴に始まって、池のボートの底が抜けてたり、鳥の糞に家畜の糞……だっけ?」
「そう!」
「あの子保健委員会らしいよ」
「あー」
「保健委員会かぁ」
「そりゃ仕方ない」
「それと一緒に巻き込まれた子もいたじゃん?」
「いたいた」
「スマナイトメサブローって」
「同室じゃないかって言ってた」
「六年も一緒になるなんて、その子も不運ね」
どうやら私たちと同級生の忍たまは先輩たちを手こずらせる者たちがいたらしい。
私たちももし来年……と思ってしまうと少し気が重くなる。
初夏の頃、農繁期となって実家に帰った。
入学前、話を聞かせてくれとせがんできた近所の子に私は出来る限り話してやった。
くの一教室による忍たまの通過儀礼については、教えてやらなかった。この子だけに教えてあげるのもズルのような気がしたのと、その方が面白そうだからだ。
他に教えたことといえば、保健委員会は不運な生徒が集まること。あと生物委員会にはたくさんの動物がいることだった。
虫、動物に限らず、生き物全般が大好きなその子は、絶対に生物委員会に入る!なんて宣言していた。
夏になった。
私と彼の出会いは、土まみれだった。
一年は組にはそれはもう不運な忍たまがいる。
忍術学園中の検便をする保健委員会で、歩けば落とし穴、避ければ糞を踏む。
酷くついていない忍たまがいるそうな。と噂になった。
善法寺伊作。噂の忍たま。私は彼の姿を見たことはない。だっていつも穴の中にいた。
それと一緒に知ったのが、伊作と同室という彼――食満留三郎。
「すまない留三郎」
「気にするな、同室じゃないか」
と返すのがお約束らしい。
いつも穴に落ちた伊作を助けては泥だらけになる。
自分だって用具委員会の仕事がたくさんあるというのに、伊作を助けていた。自分のことは気にしない。いつだって他人の為に動いている。
「同室だから」という理由だけ。何一つ利益はない。
それなのに、その姿はどうにも眩しく見えた。
眩しいからいつも遠くからそれを眺めていた。
――その日は偶然だった。
周りには誰もいなかった。
伊作が穴に落っこちて、留三郎が助けに来た。伊作を引っ張り上げようとしたものの、どこか滑らせたのか、留三郎も穴に落っこちた。
周囲に誰もいなかった。二人が穴に落ちているのに気が付いたのは、私だけ。
「大丈夫?」と声をかけたことに多分、明確な理由はなかったと思うのだ。
二人を助けても意味なんて、自分に利益なんてないと思っていた。食満留三郎という男に出会って、世界は変わったのだろう。
俺にとっては鮮烈だったのだ。
同級生のくのたまの中で一番小柄。あと地味だった。
それが逆に俺は目を引いた。
努力している姿が目に映った。同級生とは思えないほどの努力をしていた。
そして、夏の日。土にまみれた俺に、春の陽だまりのような彼女が声をかけてくれたのだ。
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