未知との遭遇
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最初に飛ばされたビルから出てきてUSJ全体の様子を伺った。
出てすぐの広場で相澤先生が大勢を引きつけている。出入り口の様子までは遠くてわからない。
「入り口に向かっておまえをぶん投げる」
「はあっ⁉ それは無理でしょ! 着地できないって‼」
なんて恐ろしいことを言うんだ、この爆発男!
「怪我してもすぐ治るだろ」
「痛いもんは痛い!」
「投げられたくねぇならさっさと入り口行け!」
それはイヤだ! と言い合っていると広場を見ていた切島くんが声を上げた。
「――オールマイト‼」
広場に金髪の巨体。オールマイトがいる。
ということは、誰かが連絡に行ったってことだ。
「……これなら応援のヒーローがすぐに到着するんじゃない?」
「そうだな」
切島くんと安心していると、入り口の方に向かって動く人影が三人分。
「出久……と――相澤先生‼」
ぐったりしている。大変だ、怪我をしているんだ。
「私、先生の治癒してくる! モヤ、倒すんならお願いね‼」
「俺に指図すんな‼」
勝己の声を背に駆けだした。
少ししか見えなかったからわからなかったけど、オールマイトが対峙していたのは、オールマイト並みの巨体の敵。姿も異質だった。多分、相澤先生はそれと戦って大怪我したんだ。
「梅雨ちゃん‼」
更衣室で話しかけてくれた蛙吹梅雨ちゃん。同じ水中有利の個性だから少し交流があった。「梅雨ちゃんと呼んで」とも言われた。
「相澤先生は⁉」
「かなり、やられてしまったの」
梅雨ちゃんとブドウ頭の峰田くんが相澤先生の状態を見せてくれる。
頭からの出血。それに右腕の損傷が酷い。肘の状態なんて皮がボロボロになっている。
「――先生、口を開けてください……! 治癒します!」
戦闘服備え付けの道具入れからナイフを取り出す。刃先を腕に滑らし、傷をつけた。
「おいおいおいおいおい何してんだよ!」
自分を傷つける私を見て峰田くんが驚く。
傷口から出てきた血を一滴、二滴と相澤先生の口の中に落とす。飲み込まれたのを確認して口を閉じた。
「……これで少しは良くなる、と思う」
これだけの大怪我だ。一、二滴の血だけじゃ足りないかもしれない。応急処置としては、これ以外私は方法を知らない。あとは本当の医療従事者に任せるしかない。
「他に怪我した人は?」
「緑谷ちゃんが指を……でも、オールマイトの所に戻ってしまったの」
出久の指――ということは、“個性”の反動だ。
「私、出久の方行くね」
「おい、足手まといになっちまうぞ!」
オールマイトがいる。なら大丈夫だとは思うけど、万が一のため。怪我を治すくらいしか私にはできない。
それに――
「囮になら、なれる可能性あるから」
敵の狙いがオールマイトでも……私の血肉なら、どんな敵でも欲するはず。
広場に戻ってきた。
オールマイトと巨体の敵。モヤの敵。そして、手ばかりを付けた敵。
駆けつけていた生徒は出久と轟くん、勝己と切島くんだ。轟くんには怪我が見受けられない。一人で飛ばされたのかわからないけど、凄い人だ。
「出久!」
「奏ちゃん……!」
梅雨ちゃんから聞いた怪我をしているという出久に駆け寄る。本当に指を怪我していた。
「血! 飲め‼」
さっき傷を付けた腕を出久の前に出す。まだ傷は塞がっていなかった。
「これ、治りが遅いよ……骨がボロボロ……」
指が爆発したような怪我。“個性”の制御が本当に出来ていないんだ。
「ごめん、奏ちゃん……」
二度とやるなと言ってやりたい。でも、制御に慣れるまではこれを繰り返すしかないんだろうと思うと歯がゆくなる。
「出入り口を押さえられた……こりゃあ……ピンチだなあ……」
手だらけの敵が呟く。オールマイトがバックドロップをした巨体の敵は動けないし、モヤの敵は勝己に押さえつけられている。
「このウッカリヤローめ! やっぱ思った通りだ! モヤ状のワープゲートになれる箇所は限られてる! そのモヤゲートで実体部分を覆ってたんだろ⁉ そうだろ⁉ 全身モヤの物理無効人生なら、『危ない』っつー発想はねえもんああ‼」
本当に勝己はモヤの対策考えていたのか。そうか、服着てるわけだし触れる部分はあるのか。
「っと動くな‼ 『怪しい動きをした』と俺が判断したらすぐ爆破する‼」
「ヒーローらしからぬ言動……」
顔がヒーローしていない、この男……!
「攻略された上に全員ほぼ無傷……凄いなぁ最近の子供は……恥ずかしくなってくるぜ、敵連合……! 脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入り口の奪還だ」
脳無――そう呼ばれた巨体の敵が動き出す。轟くんの氷で凍らされた半身が崩れていく。こんなのほぼ致命傷の損傷なはずだ。
「身体が割れているのに……動いてる……⁉」
動き出す脳無。そして、割れた半身がみるみると再生していく。
「皆、下がれ‼ なんだ⁉ ショック吸収の『個性』じゃないのか⁉」
「別にそれだけとは言ってないだろう。これは『超再生』だな」
個性が二つあるという事か? そんな事ありえるのか?
「脳無はおまえの一〇〇パーセントにも耐えられるように改造された超高性能サンドバッグ人間さ」
ほとんど再生した脳無がモヤを押さえつけていた勝己に向かう。巨体のわりに動きが速い。
「勝己‼」
「かっちゃん‼」
脳無の拳が振りかぶられて、物凄い風圧を浴びる。吹き飛ばされてしまいそうになる。
「かっちゃん⁉」
振り返ると勝己がいた。脳無に吹き飛ばされていなかったようだけど、避けれたわけでは――
「よっ避けたの⁉ すごい……!」
「ちげえよ、黙れカス」
流れるような出久への罵倒を聞き流して土埃が晴れるのを待つ。
勝己のいた場所からオールマイトがモロに脳無の拳を受けていた。咄嗟にオールマイトが庇ったのか。
「ゴホッゲホ……加減を知らんのか……」
「――何が平和の象徴‼ 所詮抑圧の為の暴力装置だ、お前は! 暴力は暴力しか生まないのだとおまえを殺すこと世に知らしめるのさ!」
「滅茶苦茶だな。そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろ、嘘吐きめ」
「バレるの早……」
手だらけの敵が言っていることはちぐはぐだと指摘されると、にったりと笑った。
「三対六だ」
「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた……‼」
「とんでもねえ奴らだが俺らでサポートすりゃ……撃退できる‼」
轟くん、出久、切島くんが前に立つ。
「ダメだ‼ 逃げなさい」
「……さっきは俺がサポート入らなけりゃヤバかったでしょう」
「オールマイト、血……それに時間だってないはずじゃ……」
私が来る前にオールマイトは攻撃を受けていたし、さっきも勝己を庇ってダメージが入っている。
「私の血で回復を……」
ほとんど血の止まった腕をオールマイトに差し出した。
「それはそれだ轟少年‼ ありがとな‼ 魚住少女、気持ちはありがたいけど、生徒の血を飲むってちょっとよろしくないからね‼ しかし、大丈夫‼ プロの本気を見ていなさい‼」
「脳無、黒霧やれ。俺は子どもをあしらう。――ついでに、“不死の人魚姫”を頂いていこうか。クリアして帰ろう!」
手ばかりの敵が私を見た。
“不死の人魚姫”――敵界隈で呼ばれている私の名前。不死の妙薬となる人魚の肉を持つからそんな名がついたらしい。
また足がすくんだ。オールマイト狙いだった敵たちが、私も狙い始めた。皆を巻き込むわけにはいかない。どうにかして足を動かそうとした時、オールマイトが凄まじい威圧感を出した。
これが……平和の象徴……!
脳無というショック吸収の個性と超再生の個性を持った敵に対してすべて一〇〇パーセント以上で拳を撃ち込んでいる……!
そして、脳無をUSJの外に叩き飛ばした。
「……漫画かよ……ショックをないことにしちまった……究極の脳筋だぜ。デタラメな力だ……再生も間に合わねえ程のラッシュってことか……」
これが……プロの、実力……!
「さすがだ……俺たちの出る幕じゃねえみたいだな……」
「緑谷! ここは退いた方がいいぜ、もう。却って人質にされたらやべェし……」
「出久……?」
オールマイトの方を見て出久は動かない。
「主犯格はオールマイトがなんとかしてくれる! 俺たちは他の連中を助けに……」
「緑谷」
出久は飛び出した。オールマイトに向かって。
「な……緑谷⁉」
「オールマイトから離れろ‼」
「二度目はありませんよ‼」
飛び出した出久にモヤが襲いかかった。モヤから出てきた手だらけの敵の手に銃弾が撃ち込まれた。
「来たか‼」
「ごめんよ、皆。遅くなったね。すぐに動ける者をかき集めてきた」
「1-Aクラス委員長飯田天哉‼ ただいま戻りました‼」
飯田くんが先生たちを呼びに行ってくれていた。校長先生を筆頭に雄英にいる先生たち――プロヒーローが駆けつけた。
「あーあー来ちゃったな、ゲームオーバーだ。帰って出直すか、黒霧……」
敵たちは大勢のヒーローたちを見て撤退していった。
危険は去った。張りつめていた緊張が解けていった。
「奏ーー‼ 大丈夫かーー⁉」
「――お、お兄ちゃん⁉」
駆けつけた先生たちの後ろに兄がいた。学校に用があったのだろうか。
広場に兄が走ってくる。隣で兄の姿を見た勝己は心底嫌そうな顔をした。
「奏! 大丈夫か⁉ 何もされてないか⁉」
兄は私の身体に異常がないかあちこちを触る。
「腕ぇ‼」
「先生と出久を治癒するのに使っただけだから……もう塞がってるから大丈夫だよ」
「そ、そうか……? ――ん、おーおー勝己くんじゃないですかぁ?」
「どーも“オニイサン”」
勝己が顔に似合わない笑顔を浮かべる。
「てめえにお義兄さんと呼ばれる筋合いはねえよ‼」
「んだと⁉ 雪斗‼」
「お、お兄ちゃん……勝己…! やめなって‼」
昔から私の兄、魚住雪斗と勝己は仲が悪い。顔を合わせれば、今みたいにケンカ腰で会話をしてしまう。
「てめえみたいなチンピラクソガキにうちのかわいい妹はやれねえよ‼」
「てめえぶっ殺して奪ってやらァ‼」
いつものことだから慣れているんだけど、人前でこういうのはやめて欲しいんだけどなぁ……
ギャンギャンと周りの目を気にせず言い合いを続ける二人。この様子を初めて見る切島くんや轟くんが困ったようにこちらを見ている。
「二人とも……――やめろって言ってんだろーが‼」
私が起因となった言い合い。白い目で見てくる周りの人たち。激昂するほかなかった。
「奏ぇ……」
「やめろってのが聞こえなかったのか? クソ兄貴?」
「ご、ゴメンナサイ……」
「勝己も勝己! んなクソ兄貴の挑発にのってんじゃねえよ」
「――おい、素が出てんぞ。奏」
ここで私はやっと周りの困惑の目が、自分にも向けられているのだと気づいた。
「あーやってしまった」
一度キレると口が悪くなる。私の悪癖だ。
我に返って赤くなった顔を隠した。勝己の前だというのに、こんなことやってしまうとは。
その後、警察も到着して事態は終結した。出久の個性の反動による重傷を除いて、クラス全員無事。先生たちは重傷だったが、三人とも命に別状はないと聞かされた。
のちに繋がる大事件を知らないで、私たちは息をついた。
出てすぐの広場で相澤先生が大勢を引きつけている。出入り口の様子までは遠くてわからない。
「入り口に向かっておまえをぶん投げる」
「はあっ⁉ それは無理でしょ! 着地できないって‼」
なんて恐ろしいことを言うんだ、この爆発男!
「怪我してもすぐ治るだろ」
「痛いもんは痛い!」
「投げられたくねぇならさっさと入り口行け!」
それはイヤだ! と言い合っていると広場を見ていた切島くんが声を上げた。
「――オールマイト‼」
広場に金髪の巨体。オールマイトがいる。
ということは、誰かが連絡に行ったってことだ。
「……これなら応援のヒーローがすぐに到着するんじゃない?」
「そうだな」
切島くんと安心していると、入り口の方に向かって動く人影が三人分。
「出久……と――相澤先生‼」
ぐったりしている。大変だ、怪我をしているんだ。
「私、先生の治癒してくる! モヤ、倒すんならお願いね‼」
「俺に指図すんな‼」
勝己の声を背に駆けだした。
少ししか見えなかったからわからなかったけど、オールマイトが対峙していたのは、オールマイト並みの巨体の敵。姿も異質だった。多分、相澤先生はそれと戦って大怪我したんだ。
「梅雨ちゃん‼」
更衣室で話しかけてくれた蛙吹梅雨ちゃん。同じ水中有利の個性だから少し交流があった。「梅雨ちゃんと呼んで」とも言われた。
「相澤先生は⁉」
「かなり、やられてしまったの」
梅雨ちゃんとブドウ頭の峰田くんが相澤先生の状態を見せてくれる。
頭からの出血。それに右腕の損傷が酷い。肘の状態なんて皮がボロボロになっている。
「――先生、口を開けてください……! 治癒します!」
戦闘服備え付けの道具入れからナイフを取り出す。刃先を腕に滑らし、傷をつけた。
「おいおいおいおいおい何してんだよ!」
自分を傷つける私を見て峰田くんが驚く。
傷口から出てきた血を一滴、二滴と相澤先生の口の中に落とす。飲み込まれたのを確認して口を閉じた。
「……これで少しは良くなる、と思う」
これだけの大怪我だ。一、二滴の血だけじゃ足りないかもしれない。応急処置としては、これ以外私は方法を知らない。あとは本当の医療従事者に任せるしかない。
「他に怪我した人は?」
「緑谷ちゃんが指を……でも、オールマイトの所に戻ってしまったの」
出久の指――ということは、“個性”の反動だ。
「私、出久の方行くね」
「おい、足手まといになっちまうぞ!」
オールマイトがいる。なら大丈夫だとは思うけど、万が一のため。怪我を治すくらいしか私にはできない。
それに――
「囮になら、なれる可能性あるから」
敵の狙いがオールマイトでも……私の血肉なら、どんな敵でも欲するはず。
広場に戻ってきた。
オールマイトと巨体の敵。モヤの敵。そして、手ばかりを付けた敵。
駆けつけていた生徒は出久と轟くん、勝己と切島くんだ。轟くんには怪我が見受けられない。一人で飛ばされたのかわからないけど、凄い人だ。
「出久!」
「奏ちゃん……!」
梅雨ちゃんから聞いた怪我をしているという出久に駆け寄る。本当に指を怪我していた。
「血! 飲め‼」
さっき傷を付けた腕を出久の前に出す。まだ傷は塞がっていなかった。
「これ、治りが遅いよ……骨がボロボロ……」
指が爆発したような怪我。“個性”の制御が本当に出来ていないんだ。
「ごめん、奏ちゃん……」
二度とやるなと言ってやりたい。でも、制御に慣れるまではこれを繰り返すしかないんだろうと思うと歯がゆくなる。
「出入り口を押さえられた……こりゃあ……ピンチだなあ……」
手だらけの敵が呟く。オールマイトがバックドロップをした巨体の敵は動けないし、モヤの敵は勝己に押さえつけられている。
「このウッカリヤローめ! やっぱ思った通りだ! モヤ状のワープゲートになれる箇所は限られてる! そのモヤゲートで実体部分を覆ってたんだろ⁉ そうだろ⁉ 全身モヤの物理無効人生なら、『危ない』っつー発想はねえもんああ‼」
本当に勝己はモヤの対策考えていたのか。そうか、服着てるわけだし触れる部分はあるのか。
「っと動くな‼ 『怪しい動きをした』と俺が判断したらすぐ爆破する‼」
「ヒーローらしからぬ言動……」
顔がヒーローしていない、この男……!
「攻略された上に全員ほぼ無傷……凄いなぁ最近の子供は……恥ずかしくなってくるぜ、敵連合……! 脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入り口の奪還だ」
脳無――そう呼ばれた巨体の敵が動き出す。轟くんの氷で凍らされた半身が崩れていく。こんなのほぼ致命傷の損傷なはずだ。
「身体が割れているのに……動いてる……⁉」
動き出す脳無。そして、割れた半身がみるみると再生していく。
「皆、下がれ‼ なんだ⁉ ショック吸収の『個性』じゃないのか⁉」
「別にそれだけとは言ってないだろう。これは『超再生』だな」
個性が二つあるという事か? そんな事ありえるのか?
「脳無はおまえの一〇〇パーセントにも耐えられるように改造された超高性能サンドバッグ人間さ」
ほとんど再生した脳無がモヤを押さえつけていた勝己に向かう。巨体のわりに動きが速い。
「勝己‼」
「かっちゃん‼」
脳無の拳が振りかぶられて、物凄い風圧を浴びる。吹き飛ばされてしまいそうになる。
「かっちゃん⁉」
振り返ると勝己がいた。脳無に吹き飛ばされていなかったようだけど、避けれたわけでは――
「よっ避けたの⁉ すごい……!」
「ちげえよ、黙れカス」
流れるような出久への罵倒を聞き流して土埃が晴れるのを待つ。
勝己のいた場所からオールマイトがモロに脳無の拳を受けていた。咄嗟にオールマイトが庇ったのか。
「ゴホッゲホ……加減を知らんのか……」
「――何が平和の象徴‼ 所詮抑圧の為の暴力装置だ、お前は! 暴力は暴力しか生まないのだとおまえを殺すこと世に知らしめるのさ!」
「滅茶苦茶だな。そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろ、嘘吐きめ」
「バレるの早……」
手だらけの敵が言っていることはちぐはぐだと指摘されると、にったりと笑った。
「三対六だ」
「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた……‼」
「とんでもねえ奴らだが俺らでサポートすりゃ……撃退できる‼」
轟くん、出久、切島くんが前に立つ。
「ダメだ‼ 逃げなさい」
「……さっきは俺がサポート入らなけりゃヤバかったでしょう」
「オールマイト、血……それに時間だってないはずじゃ……」
私が来る前にオールマイトは攻撃を受けていたし、さっきも勝己を庇ってダメージが入っている。
「私の血で回復を……」
ほとんど血の止まった腕をオールマイトに差し出した。
「それはそれだ轟少年‼ ありがとな‼ 魚住少女、気持ちはありがたいけど、生徒の血を飲むってちょっとよろしくないからね‼ しかし、大丈夫‼ プロの本気を見ていなさい‼」
「脳無、黒霧やれ。俺は子どもをあしらう。――ついでに、“不死の人魚姫”を頂いていこうか。クリアして帰ろう!」
手ばかりの敵が私を見た。
“不死の人魚姫”――敵界隈で呼ばれている私の名前。不死の妙薬となる人魚の肉を持つからそんな名がついたらしい。
また足がすくんだ。オールマイト狙いだった敵たちが、私も狙い始めた。皆を巻き込むわけにはいかない。どうにかして足を動かそうとした時、オールマイトが凄まじい威圧感を出した。
これが……平和の象徴……!
脳無というショック吸収の個性と超再生の個性を持った敵に対してすべて一〇〇パーセント以上で拳を撃ち込んでいる……!
そして、脳無をUSJの外に叩き飛ばした。
「……漫画かよ……ショックをないことにしちまった……究極の脳筋だぜ。デタラメな力だ……再生も間に合わねえ程のラッシュってことか……」
これが……プロの、実力……!
「さすがだ……俺たちの出る幕じゃねえみたいだな……」
「緑谷! ここは退いた方がいいぜ、もう。却って人質にされたらやべェし……」
「出久……?」
オールマイトの方を見て出久は動かない。
「主犯格はオールマイトがなんとかしてくれる! 俺たちは他の連中を助けに……」
「緑谷」
出久は飛び出した。オールマイトに向かって。
「な……緑谷⁉」
「オールマイトから離れろ‼」
「二度目はありませんよ‼」
飛び出した出久にモヤが襲いかかった。モヤから出てきた手だらけの敵の手に銃弾が撃ち込まれた。
「来たか‼」
「ごめんよ、皆。遅くなったね。すぐに動ける者をかき集めてきた」
「1-Aクラス委員長飯田天哉‼ ただいま戻りました‼」
飯田くんが先生たちを呼びに行ってくれていた。校長先生を筆頭に雄英にいる先生たち――プロヒーローが駆けつけた。
「あーあー来ちゃったな、ゲームオーバーだ。帰って出直すか、黒霧……」
敵たちは大勢のヒーローたちを見て撤退していった。
危険は去った。張りつめていた緊張が解けていった。
「奏ーー‼ 大丈夫かーー⁉」
「――お、お兄ちゃん⁉」
駆けつけた先生たちの後ろに兄がいた。学校に用があったのだろうか。
広場に兄が走ってくる。隣で兄の姿を見た勝己は心底嫌そうな顔をした。
「奏! 大丈夫か⁉ 何もされてないか⁉」
兄は私の身体に異常がないかあちこちを触る。
「腕ぇ‼」
「先生と出久を治癒するのに使っただけだから……もう塞がってるから大丈夫だよ」
「そ、そうか……? ――ん、おーおー勝己くんじゃないですかぁ?」
「どーも“オニイサン”」
勝己が顔に似合わない笑顔を浮かべる。
「てめえにお義兄さんと呼ばれる筋合いはねえよ‼」
「んだと⁉ 雪斗‼」
「お、お兄ちゃん……勝己…! やめなって‼」
昔から私の兄、魚住雪斗と勝己は仲が悪い。顔を合わせれば、今みたいにケンカ腰で会話をしてしまう。
「てめえみたいなチンピラクソガキにうちのかわいい妹はやれねえよ‼」
「てめえぶっ殺して奪ってやらァ‼」
いつものことだから慣れているんだけど、人前でこういうのはやめて欲しいんだけどなぁ……
ギャンギャンと周りの目を気にせず言い合いを続ける二人。この様子を初めて見る切島くんや轟くんが困ったようにこちらを見ている。
「二人とも……――やめろって言ってんだろーが‼」
私が起因となった言い合い。白い目で見てくる周りの人たち。激昂するほかなかった。
「奏ぇ……」
「やめろってのが聞こえなかったのか? クソ兄貴?」
「ご、ゴメンナサイ……」
「勝己も勝己! んなクソ兄貴の挑発にのってんじゃねえよ」
「――おい、素が出てんぞ。奏」
ここで私はやっと周りの困惑の目が、自分にも向けられているのだと気づいた。
「あーやってしまった」
一度キレると口が悪くなる。私の悪癖だ。
我に返って赤くなった顔を隠した。勝己の前だというのに、こんなことやってしまうとは。
その後、警察も到着して事態は終結した。出久の個性の反動による重傷を除いて、クラス全員無事。先生たちは重傷だったが、三人とも命に別状はないと聞かされた。
のちに繋がる大事件を知らないで、私たちは息をついた。