爆豪告白大作戦
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
敵の去った十五分後、救急や消防が到着した。
生徒四十二名のうち敵のガスによって意識不明の重体が十五名、敵との交戦による意識不明が一名、重・軽傷者十一名。無傷で済んだのは十三名。そして、行方不明が一名。
完全敗北だった。
魚住は闇に消えた爆豪への悲痛な叫びの後に意識を失った。顔が真っ青になり、夏にも関わらず身体が冷え切っていた。
慣れない温度の調整を慎重にしながら左で彼女の身体を温め続けた。
駆けつけた救急隊に運ばれていく彼女には意識がないながらも涙が流れていた。
事件の翌々日、僕、緑谷出久はというと、あの後すぐ合宿所近くの病院に運ばれた。
二日間気絶と悶絶を繰り返し、高熱にうなされた。その間、リカバリーガールが来て治癒を施してくれたり、警察が訪ねてきたみたいだけど、何一つ覚えちゃいなかった。
同じ部屋に入院している奏ちゃんは特に外傷もないが、眠り続けていた。
クラスの皆がお見舞いにきてくれて、葉隠さんや耳郎さんがガスによってまだ意識が戻っていないこと、八百万さんも入院していることを教えてもらった。
二十一人だったクラスメイトの十五人。
――かっちゃんはいないから。
「僕は……手の届く場所にいた。必ず救けなきゃいけなかった……! 僕の個性は……その為の“個性”……なんだ」
奏ちゃんを押しのけてまで行ったのに、救けられなかった。絶対に、誰よりも救けたいと思っていたのは奏ちゃんだったのに。
「体……動かなかった……」
「じゃあ今度は救けよう」
切島くんと轟くんは八百万さんが敵に発信機を取り付けたということを聞いたそうだ。
八百万さんにその発信機の信号を受信するデバイスを作ってもらって、敵の本拠地に乗り込んでかっちゃんを救けに行こうと考えているらしい。
「オールマイトの仰る通りだ。プロに任せるべき案件だ! 生徒の出ていい舞台ではないんだ馬鹿者‼」
「んなもんわかってるよ‼ でもさァ! 何っもできなかったんだ‼ ダチが狙われてるって聞いてさァ‼ なんっっもできなかった‼ しなかった‼ ここで動けなきゃ俺ァヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ」
「切島、落ち着けよ。こだわりは良いけどよ今回は……」
「飯田ちゃんが正しいわ」
「飯田が皆が正しいよ、でも‼ なァ緑谷! まだ手は届くんだよ‼」
かっちゃんを救けに行ける道が示された。
「お話し中失礼するぞ」
コンコンと軽い音を立てて病室の扉が叩かれた。
「雪斗、お兄さん……」
「出久は容体落ち着いたか。あークラスの皆は初めましてだな。奏の兄の雪斗です。いつも妹から皆の話聞いてるよ」
オフの姿の雪斗お兄さんが立っていた。
「あの、魚住の容体は……」
「……気を失ったのは、貧血が原因だ。出久の腕治すのに血液使ったんだろ?」
「うん……僕は奏ちゃんのおかげでリカバリーガールの治癒も効きやすかったって。ありがとうございます」
「そりゃ奏に言え。貧血で体温も下がってたけど、轟くんのおかげで身体に支障は出ないらしい。ありがとうな。――ただ、精神的なショックで心に鍵を掛けちまった。だから身体が回復しても眠り続けてる」
精神的なショック……
「それは……」
「悔しいが、奏にとって勝己は唯一だ。目の前でいなくなられたらそりゃあショックだわな」
「目が覚めることは……」
「ちょっとしたことで起きる可能性もあるさ。まあ、確実なのは勝己がいることなんだろうな」
「……」
雪斗お兄さんの言葉にクラスの皆が口を閉ざす。誰もが一番にかっちゃんを想う奏ちゃんの姿を思い浮かべる。
「――んで、こっからはヒーロー・スノーマンとしての話。お前らの話、悪いが聞かせてもらった。俺は相澤さんではないからきつくは言えんが、行く必要なんてない。そりゃお前らはいっぱしのヒーロー志望だ。でもな、それだけなんだよ。資格も何も持ってない学生だ。この件については大量のプロヒーローが動く。お前らがいても足手まといになるだけだ」
ヒーローとして、大人として雪斗お兄さんの言っていることはとてつもなく正しいんだろう。でも、僕らにはどうしてもそうしていられない思いがある。
「俺として言えるのはそれだけだ。クラスの皆も気をつけてな。あんま外出はしないようにな」
お兄さんは、眠る奏ちゃんの頭を撫でて病室を去った。
その後お医者さんが診察にやって来てクラスの皆は耳郎さんや葉隠さんの様子を見に行くと言っていった。
「八百万には昨日話をした。行くなら即行……今晩だ。重傷のおめーが動けるかは知らねえ。それでも誘ってんのは、おめーが一番悔しいと思うからだ。今晩……病院前で待つ」
切島くんはそう言い残していってくれた。
奏ちゃんはかっちゃんのことが好きだった。
いつからと聞かれると正確には答えられない。付き合いの長い僕でもわからないほど、長い間奏ちゃんはずっとかっちゃんのことが大好きだ。
何でもできるかっちゃんの背中は僕にとってもかっこいいと映ったように、いつも奏ちゃんに降りかかる火の粉を払ってきたかっちゃんの姿は、奏ちゃんにとってヒーローだった。
かっちゃんにとっても奏ちゃんは大切な存在だ。どうでもいい女の子をいちいち守ることなんて普通はしない。
「勝己の考えてることがよくわかんなくて」
不安をこぼした奏ちゃんの顔を思い出す。かっちゃんはきっと告げようと思っている。ずっと奏ちゃんの想いに胡坐をかいていたかっちゃんが動こうとしている。
だからこそ、二人を離ればなれにはさせられない。
荷物をまとめて病室を去る直前、ベッドに眠る奏ちゃんの手の中に赤い髪留めが置かれていた。
奏ちゃんの宝物。かっちゃんがくれたもの。
恋心を一度忘れるために振り払ったもの。
二人の想いそのものだ。
正直言って、自分が行っても足手まといになるだろう。
規定を破ることになる。それでも何もしないわけにはいかなかった。
事件の夜、私は合宿所の中にいた。少し遅れた座学の授業を取り戻すための補習で肝試しには参加しなかった。
安全地帯で敵の襲来を知った。「かっちゃん」と「奏ちゃん」が狙われていると知った。
大好きな人の危機に私は安全地帯で何もできなかった。
敵が去れば、大好きな人の一番大切な人はさらわれて、彼女は真っ青な顔で気絶し、轟くんに抱えられていた。
気を失いながら涙を流していた。
彼女はどれだけ悲しんだのだろう。どれだけ辛かったんだろう。
どれだけ取り戻したいと思ったんだろう。
「あの」
「えっと、お前は……」
「B組の語部詠海です。ごめんなさい、昼間病院で聞いてしまって……あの、私も行かせてください」
奏ちゃんが行けないのなら、私が代わりに。
生徒四十二名のうち敵のガスによって意識不明の重体が十五名、敵との交戦による意識不明が一名、重・軽傷者十一名。無傷で済んだのは十三名。そして、行方不明が一名。
完全敗北だった。
魚住は闇に消えた爆豪への悲痛な叫びの後に意識を失った。顔が真っ青になり、夏にも関わらず身体が冷え切っていた。
慣れない温度の調整を慎重にしながら左で彼女の身体を温め続けた。
駆けつけた救急隊に運ばれていく彼女には意識がないながらも涙が流れていた。
事件の翌々日、僕、緑谷出久はというと、あの後すぐ合宿所近くの病院に運ばれた。
二日間気絶と悶絶を繰り返し、高熱にうなされた。その間、リカバリーガールが来て治癒を施してくれたり、警察が訪ねてきたみたいだけど、何一つ覚えちゃいなかった。
同じ部屋に入院している奏ちゃんは特に外傷もないが、眠り続けていた。
クラスの皆がお見舞いにきてくれて、葉隠さんや耳郎さんがガスによってまだ意識が戻っていないこと、八百万さんも入院していることを教えてもらった。
二十一人だったクラスメイトの十五人。
――かっちゃんはいないから。
「僕は……手の届く場所にいた。必ず救けなきゃいけなかった……! 僕の個性は……その為の“個性”……なんだ」
奏ちゃんを押しのけてまで行ったのに、救けられなかった。絶対に、誰よりも救けたいと思っていたのは奏ちゃんだったのに。
「体……動かなかった……」
「じゃあ今度は救けよう」
切島くんと轟くんは八百万さんが敵に発信機を取り付けたということを聞いたそうだ。
八百万さんにその発信機の信号を受信するデバイスを作ってもらって、敵の本拠地に乗り込んでかっちゃんを救けに行こうと考えているらしい。
「オールマイトの仰る通りだ。プロに任せるべき案件だ! 生徒の出ていい舞台ではないんだ馬鹿者‼」
「んなもんわかってるよ‼ でもさァ! 何っもできなかったんだ‼ ダチが狙われてるって聞いてさァ‼ なんっっもできなかった‼ しなかった‼ ここで動けなきゃ俺ァヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ」
「切島、落ち着けよ。こだわりは良いけどよ今回は……」
「飯田ちゃんが正しいわ」
「飯田が皆が正しいよ、でも‼ なァ緑谷! まだ手は届くんだよ‼」
かっちゃんを救けに行ける道が示された。
「お話し中失礼するぞ」
コンコンと軽い音を立てて病室の扉が叩かれた。
「雪斗、お兄さん……」
「出久は容体落ち着いたか。あークラスの皆は初めましてだな。奏の兄の雪斗です。いつも妹から皆の話聞いてるよ」
オフの姿の雪斗お兄さんが立っていた。
「あの、魚住の容体は……」
「……気を失ったのは、貧血が原因だ。出久の腕治すのに血液使ったんだろ?」
「うん……僕は奏ちゃんのおかげでリカバリーガールの治癒も効きやすかったって。ありがとうございます」
「そりゃ奏に言え。貧血で体温も下がってたけど、轟くんのおかげで身体に支障は出ないらしい。ありがとうな。――ただ、精神的なショックで心に鍵を掛けちまった。だから身体が回復しても眠り続けてる」
精神的なショック……
「それは……」
「悔しいが、奏にとって勝己は唯一だ。目の前でいなくなられたらそりゃあショックだわな」
「目が覚めることは……」
「ちょっとしたことで起きる可能性もあるさ。まあ、確実なのは勝己がいることなんだろうな」
「……」
雪斗お兄さんの言葉にクラスの皆が口を閉ざす。誰もが一番にかっちゃんを想う奏ちゃんの姿を思い浮かべる。
「――んで、こっからはヒーロー・スノーマンとしての話。お前らの話、悪いが聞かせてもらった。俺は相澤さんではないからきつくは言えんが、行く必要なんてない。そりゃお前らはいっぱしのヒーロー志望だ。でもな、それだけなんだよ。資格も何も持ってない学生だ。この件については大量のプロヒーローが動く。お前らがいても足手まといになるだけだ」
ヒーローとして、大人として雪斗お兄さんの言っていることはとてつもなく正しいんだろう。でも、僕らにはどうしてもそうしていられない思いがある。
「俺として言えるのはそれだけだ。クラスの皆も気をつけてな。あんま外出はしないようにな」
お兄さんは、眠る奏ちゃんの頭を撫でて病室を去った。
その後お医者さんが診察にやって来てクラスの皆は耳郎さんや葉隠さんの様子を見に行くと言っていった。
「八百万には昨日話をした。行くなら即行……今晩だ。重傷のおめーが動けるかは知らねえ。それでも誘ってんのは、おめーが一番悔しいと思うからだ。今晩……病院前で待つ」
切島くんはそう言い残していってくれた。
奏ちゃんはかっちゃんのことが好きだった。
いつからと聞かれると正確には答えられない。付き合いの長い僕でもわからないほど、長い間奏ちゃんはずっとかっちゃんのことが大好きだ。
何でもできるかっちゃんの背中は僕にとってもかっこいいと映ったように、いつも奏ちゃんに降りかかる火の粉を払ってきたかっちゃんの姿は、奏ちゃんにとってヒーローだった。
かっちゃんにとっても奏ちゃんは大切な存在だ。どうでもいい女の子をいちいち守ることなんて普通はしない。
「勝己の考えてることがよくわかんなくて」
不安をこぼした奏ちゃんの顔を思い出す。かっちゃんはきっと告げようと思っている。ずっと奏ちゃんの想いに胡坐をかいていたかっちゃんが動こうとしている。
だからこそ、二人を離ればなれにはさせられない。
荷物をまとめて病室を去る直前、ベッドに眠る奏ちゃんの手の中に赤い髪留めが置かれていた。
奏ちゃんの宝物。かっちゃんがくれたもの。
恋心を一度忘れるために振り払ったもの。
二人の想いそのものだ。
正直言って、自分が行っても足手まといになるだろう。
規定を破ることになる。それでも何もしないわけにはいかなかった。
事件の夜、私は合宿所の中にいた。少し遅れた座学の授業を取り戻すための補習で肝試しには参加しなかった。
安全地帯で敵の襲来を知った。「かっちゃん」と「奏ちゃん」が狙われていると知った。
大好きな人の危機に私は安全地帯で何もできなかった。
敵が去れば、大好きな人の一番大切な人はさらわれて、彼女は真っ青な顔で気絶し、轟くんに抱えられていた。
気を失いながら涙を流していた。
彼女はどれだけ悲しんだのだろう。どれだけ辛かったんだろう。
どれだけ取り戻したいと思ったんだろう。
「あの」
「えっと、お前は……」
「B組の語部詠海です。ごめんなさい、昼間病院で聞いてしまって……あの、私も行かせてください」
奏ちゃんが行けないのなら、私が代わりに。