閑話休題 昔の話
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勝己も出久も小さい頃からずっと「ヒーローになる」が夢だった。二人に影響され
てなんとなくでヒーローを夢見た。
これは、そんな魚住奏が本当にヒーローを志した理由の話だ。
小学校中学年……高学年くらいの頃だったと思う。
年を重ねるごとに私は敵から狙われやすくなった。それに加えて、勝己のために伸ばし始めた青い髪が目立って目印になってくるようだった。
その日は出久が風邪で休んでしまい、勝己と一緒に出久の家へプリントを届ける最中だった。
この時期にはすでに出久と勝己の関係は拗れていて、私ではどうにも踏み込めずにいた。
「なんで俺までデクの家に行かねぇとなんだよ!」
「仕方ないよ、私帰り道は誰かと一緒じゃないとダメだってお母さんが……」
「俺はいつも一緒のデクの代わりか」
「違うよ‼ 勝己、いっつも指長くんとかと帰っちゃうじゃん」
別に勝己と私の仲が険悪になったわけではないけど、昔みたいに三人一緒でいることがなくなったことがどうにも受け入れられなかったんだと思う。
「最近、襲われたりしたのか」
「えっと……一週間前に一回……でも、その時はお兄ちゃんが来てくれたからなんとかなったよ」
「雪斗にーちゃんが来なかったらどうしてたんだよ」
「うぅ……個性使って逃げる……」
「奏が個性で倒せるか?」
「……無理、です」
「おまえは俺に守られてればいいんだよ。ヒーローになっても足手まといになるだけだぞ」
「そ、そんなことないもん。私の個性だって人の役に立てるもん。それに、私がどんなにピンチでも勝己は救けてくれるでしょ?」
勝己はすごいから。私のヒーローだから。
「それでも四六時中俺と一緒に言われるわけじゃねえぞ」
「大丈夫! 私は絶対勝己のそばから離れたりしないから。小さい頃に約束したじゃん。結婚するって」
「守ってやるとは言ったけど、結婚すると言った覚えはない」
「――それでも、勝己は私がどんなところにいても守ってくれるんでしょ」
「結婚は認めねぇからな」
「むー……」
私と勝己の関係はただの幼馴染で、この頃の私は勝己の特別になりたかった。
「魚住……奏……不死の人魚姫……」
話しているのに夢中で、背後からの人影に私たちは気づくことができなかった。
嫌な気配がした。
「どうした」
足を止めた私に勝己も立ち止まる。
「……勝己、後ろに誰かいる……!」
「何⁉」
「あーあー……気づかれちゃった」
路地の見えない所から男が出てきた。不気味だった。怖い、と思った。
「奏、下がってろ」
「やっぱ奏ちゃんにはいつもナイトがついてるなぁ……でも今日はひょろっちぃ奴とは違うね……」
「い、出久を馬鹿にしないで!」
「そこの坊主は強そうだね。失敗したな……奏ちゃんがあのヒョロいのと帰ってるときに狙えばよかったなかぁ?」
男は不敵に笑っている。初めて敵に狙われたときの男とは全然違う。
「うっせぇよ‼」
勝己の爆破が男の顔面に容赦なくお見舞いされる。
「爆破の個性か……へぇ……いい個性。でも――」
ザシュッと嫌な音がする。
見えたのは赤。血の色。
「勝己‼」
敵の個性はどうやら全身を刃物に変化させることができる個性。
小学生の勝己にとっては初めて遭遇する『強個性』だった。
残念なことに当時の私は無力で、勝己が一方的にいたぶられているのを怯えて見ているしかできなかった。
勝己が力尽きて倒れたとき、私の中の何かが壊れたような気がした。
「勝己‼」
「これで、心置きなく奏ちゃんと話ができるね」
男がニヤニヤと気持ち悪く笑う。勝己の返り血が付いた腕が私に触ろうと近づいてきた。
『私に触るな‼‼』
倒れたボロボロの勝己を庇うようにして私は叫んだ。
「⁉」
男が動きを止めた。私の歌声は人を操ることができる。でもときたま、今になっても感情が昂ったときくらいにしかできないけど、瞬間的に声だけで人を操ることができる、らしい。
「よくも、勝己を……!」
動きを止めることはできたけど、対抗手段なんて持っていない。声の縛りが解かれれば、また男は私を狙って動き出す。
膠着状態が続いた。
「奏ーー‼」
兄の声だった。もうすでにいつもの帰宅時間よりは遅くなっている。心配して探しに来たんだと思う。
「お兄ちゃん……」
「雄英の……! くそっ!」
雄英の生徒で、今はサイドキックをしているお兄ちゃんは、敵に名が知られていたようで、恐れをなした男は撤退していった。
「お兄ちゃん、勝己が……」
「なに⁉ 救急車呼ぶからな‼」
「勝己! 勝己‼」
私のせいで勝己が怪我した。私を守るために勝己が……
正常な判断でも、そうでなくても、私はこの時迷うことはなかったんだと思う。
自分の個性のもう一つの側面。私の血は怪我を癒す。これのせいで敵に狙われているんだから忘れることはなかった。
「勝己、私の血を飲んで……お願い……!」
ランドセルに入っていたハサミを取り出して腕を切りつけた。
痛いけど、勝己の痛みに比べたら一瞬。私はすぐに跡形もなく治ってしまう。
勝己は気を失っていて口を開けない。無理やり口を開かせて飲ましても、のどに詰まらせてしまうかもしれない。
「……ごめんね、勝己……」
自分の血を口に含み、勝己に口付けた。
しっかりと私の血が飲み込まれたことを確認する。祈るように勝己の手を握った。
「勝己……お願い、目を覚まして……!」
「――奏……」
勝己の目が薄っすらと開き、私を捉えた。
「勝己……! よかった……! よかった……!」
お兄ちゃんが呼んだ救急車が到着して、勝己は病院へ運ばれていった。
私の血を飲ませたから怪我もみるみると治って、次の日には普段に遊びまわっていた。
この時に私は決めたんだ。
守られているだけじゃ、きっとまた勝己を傷つけることになる。強くならなくちゃいけないって決めた。
いつか、勝己の隣で戦えるヒーローになるために、私は強くなる。
てなんとなくでヒーローを夢見た。
これは、そんな魚住奏が本当にヒーローを志した理由の話だ。
小学校中学年……高学年くらいの頃だったと思う。
年を重ねるごとに私は敵から狙われやすくなった。それに加えて、勝己のために伸ばし始めた青い髪が目立って目印になってくるようだった。
その日は出久が風邪で休んでしまい、勝己と一緒に出久の家へプリントを届ける最中だった。
この時期にはすでに出久と勝己の関係は拗れていて、私ではどうにも踏み込めずにいた。
「なんで俺までデクの家に行かねぇとなんだよ!」
「仕方ないよ、私帰り道は誰かと一緒じゃないとダメだってお母さんが……」
「俺はいつも一緒のデクの代わりか」
「違うよ‼ 勝己、いっつも指長くんとかと帰っちゃうじゃん」
別に勝己と私の仲が険悪になったわけではないけど、昔みたいに三人一緒でいることがなくなったことがどうにも受け入れられなかったんだと思う。
「最近、襲われたりしたのか」
「えっと……一週間前に一回……でも、その時はお兄ちゃんが来てくれたからなんとかなったよ」
「雪斗にーちゃんが来なかったらどうしてたんだよ」
「うぅ……個性使って逃げる……」
「奏が個性で倒せるか?」
「……無理、です」
「おまえは俺に守られてればいいんだよ。ヒーローになっても足手まといになるだけだぞ」
「そ、そんなことないもん。私の個性だって人の役に立てるもん。それに、私がどんなにピンチでも勝己は救けてくれるでしょ?」
勝己はすごいから。私のヒーローだから。
「それでも四六時中俺と一緒に言われるわけじゃねえぞ」
「大丈夫! 私は絶対勝己のそばから離れたりしないから。小さい頃に約束したじゃん。結婚するって」
「守ってやるとは言ったけど、結婚すると言った覚えはない」
「――それでも、勝己は私がどんなところにいても守ってくれるんでしょ」
「結婚は認めねぇからな」
「むー……」
私と勝己の関係はただの幼馴染で、この頃の私は勝己の特別になりたかった。
「魚住……奏……不死の人魚姫……」
話しているのに夢中で、背後からの人影に私たちは気づくことができなかった。
嫌な気配がした。
「どうした」
足を止めた私に勝己も立ち止まる。
「……勝己、後ろに誰かいる……!」
「何⁉」
「あーあー……気づかれちゃった」
路地の見えない所から男が出てきた。不気味だった。怖い、と思った。
「奏、下がってろ」
「やっぱ奏ちゃんにはいつもナイトがついてるなぁ……でも今日はひょろっちぃ奴とは違うね……」
「い、出久を馬鹿にしないで!」
「そこの坊主は強そうだね。失敗したな……奏ちゃんがあのヒョロいのと帰ってるときに狙えばよかったなかぁ?」
男は不敵に笑っている。初めて敵に狙われたときの男とは全然違う。
「うっせぇよ‼」
勝己の爆破が男の顔面に容赦なくお見舞いされる。
「爆破の個性か……へぇ……いい個性。でも――」
ザシュッと嫌な音がする。
見えたのは赤。血の色。
「勝己‼」
敵の個性はどうやら全身を刃物に変化させることができる個性。
小学生の勝己にとっては初めて遭遇する『強個性』だった。
残念なことに当時の私は無力で、勝己が一方的にいたぶられているのを怯えて見ているしかできなかった。
勝己が力尽きて倒れたとき、私の中の何かが壊れたような気がした。
「勝己‼」
「これで、心置きなく奏ちゃんと話ができるね」
男がニヤニヤと気持ち悪く笑う。勝己の返り血が付いた腕が私に触ろうと近づいてきた。
『私に触るな‼‼』
倒れたボロボロの勝己を庇うようにして私は叫んだ。
「⁉」
男が動きを止めた。私の歌声は人を操ることができる。でもときたま、今になっても感情が昂ったときくらいにしかできないけど、瞬間的に声だけで人を操ることができる、らしい。
「よくも、勝己を……!」
動きを止めることはできたけど、対抗手段なんて持っていない。声の縛りが解かれれば、また男は私を狙って動き出す。
膠着状態が続いた。
「奏ーー‼」
兄の声だった。もうすでにいつもの帰宅時間よりは遅くなっている。心配して探しに来たんだと思う。
「お兄ちゃん……」
「雄英の……! くそっ!」
雄英の生徒で、今はサイドキックをしているお兄ちゃんは、敵に名が知られていたようで、恐れをなした男は撤退していった。
「お兄ちゃん、勝己が……」
「なに⁉ 救急車呼ぶからな‼」
「勝己! 勝己‼」
私のせいで勝己が怪我した。私を守るために勝己が……
正常な判断でも、そうでなくても、私はこの時迷うことはなかったんだと思う。
自分の個性のもう一つの側面。私の血は怪我を癒す。これのせいで敵に狙われているんだから忘れることはなかった。
「勝己、私の血を飲んで……お願い……!」
ランドセルに入っていたハサミを取り出して腕を切りつけた。
痛いけど、勝己の痛みに比べたら一瞬。私はすぐに跡形もなく治ってしまう。
勝己は気を失っていて口を開けない。無理やり口を開かせて飲ましても、のどに詰まらせてしまうかもしれない。
「……ごめんね、勝己……」
自分の血を口に含み、勝己に口付けた。
しっかりと私の血が飲み込まれたことを確認する。祈るように勝己の手を握った。
「勝己……お願い、目を覚まして……!」
「――奏……」
勝己の目が薄っすらと開き、私を捉えた。
「勝己……! よかった……! よかった……!」
お兄ちゃんが呼んだ救急車が到着して、勝己は病院へ運ばれていった。
私の血を飲ませたから怪我もみるみると治って、次の日には普段に遊びまわっていた。
この時に私は決めたんだ。
守られているだけじゃ、きっとまた勝己を傷つけることになる。強くならなくちゃいけないって決めた。
いつか、勝己の隣で戦えるヒーローになるために、私は強くなる。