閑話休題 昔の話
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私の個性は人魚。水を被れば人魚に変身できて、歌声で人を操ったり、私の血液で傷を治すことができる個性だ。
これは父方の祖母からの遺伝らしい。
若々しい祖母曰く、副作用として不老長寿だそうだ。
不死ではないらしい。致命傷を追えば死に至る。ある程度の傷なら自然に治るらしいが。この個性はよく敵に狙われる。
昔話で人魚の肉を食べた尼さんが八百年生きたように、人魚の個性を持つ私の血肉は不老不死の妙薬になるらしく、私を誘拐して不死になろうとしている人が多くいた。
初めて敵に狙われたのは、個性が発現してからしばらく経った頃のこと。
幼稚園の帰り道。勝己と出久、迎えに来てくれてたお兄ちゃんと一緒に帰った時だった。
「進めー進めー爆豪ヒーロー事務所ー」
勝己が歌を歌いながらどんどんと進んでいく。
「待ってよぉーかっちゃん~」
「勝己、出久、あんま遠く行くなよ」
出久が追いかけるように走り出した。
「奏も早く来いよー!」
お兄ちゃんと手を繋いでいた私を勝己が呼ぶ。
「あ……待って!」
お兄ちゃんの手から離れて勝己の元へ駆けて行こうとした時、誰かに手を掴まれた。
「だ、誰……⁉」
おぞましい風貌。手入れのされていない髪。髭は清潔感の一つも感じない。何より、不気味に血走った眼は爛々と私を見ていた。
「お嬢ちゃん、魚住奏ちゃん、だね? その青い髪……」
がりがりの腕が私の髪に伸びる。
「うちの妹に何するんですか……! 奏、こっちに戻って来い!」
お兄ちゃんが男を警戒してこちらに手を伸ばす。
私はお兄ちゃんの元に戻ろうとした。
戻ろうと、した。
身体が動かなかった。
多分、恐怖で身体が動かない、みたいな感じじゃない。男の個性、だと思う。
「動けない……」
「奏……!」
「一緒に来てもらうよ……僕を不死にしてくれる? 奏ちゃん」
男が私を引き寄せる。蛇のような感じでひどく気持ち悪かった。
「いやぁっ‼」
この時、お兄ちゃんの個性は発動できたと思う。でも、地面を這わせて凍らせると、私が抱きかかえられていた所為で私も巻き込んでしまっていたらしい。動いて肉弾戦に持ち込もうとしても私がどうなるかわからなかったそうだ。
一番年上だったお兄ちゃんが動くことができず、周りにも人通りが少ない。
絶望的だった。
「誰か……助けて……!」
誰か、ヒーロー! と願ったとき、私の後ろで爆音がした。
それは、聞き慣れ始めた勝己の個性の音。
「奏を放せ‼」
「かっちゃんだめだよ! 危ないよ‼」
「バカ野郎! 勝己やめろ‼」
出久やお兄ちゃんの制止する声が聞こえる。
「うるっせぇぇぇ‼」
制止する声なんて耳も傾けずに男の顔面に爆破を浴びせる。凄いことに私には一切火の粉すらかからなかった。
存在は脅威だったけど、ヒョロヒョロガリガリの男は、四歳の勝己の爆破数発でダウンした。
「うわっ!」
男が倒れたおかげで、私は男の腕からなんとか抜け出した。
「出久、交番行っておまわりさん呼んで来い」
「はい‼」
お兄ちゃんが出久を交番に走らせた。男は気絶しているみたいだけど、押さえつけておくらしい。
「かっちゃん……」
私に駆け寄ってきたかっちゃんの顔を見たら、私は緊張していた糸が切れてしまって、一気に泣き出した。
「うわぁぁぁぁぁああぁぁこ、こわ、怖かったぁぁぁ」
「泣くなよ、奏」
「うっうぅ……かっちゃん、ありがと……」
泣きながら勝己に抱き着いて一通り泣くと私は疲れて気を失った。
「――雪斗にーちゃん、奏寝た‼」
多分、この事件がきっかけだと思う。私を救けてくれたヒーロー。勝己を好きになった。いや、それよりももっと前から好きだったかもしれないけれど。
明確に勝己を好きな人と認識したのは、この時だった。
これは父方の祖母からの遺伝らしい。
若々しい祖母曰く、副作用として不老長寿だそうだ。
不死ではないらしい。致命傷を追えば死に至る。ある程度の傷なら自然に治るらしいが。この個性はよく敵に狙われる。
昔話で人魚の肉を食べた尼さんが八百年生きたように、人魚の個性を持つ私の血肉は不老不死の妙薬になるらしく、私を誘拐して不死になろうとしている人が多くいた。
初めて敵に狙われたのは、個性が発現してからしばらく経った頃のこと。
幼稚園の帰り道。勝己と出久、迎えに来てくれてたお兄ちゃんと一緒に帰った時だった。
「進めー進めー爆豪ヒーロー事務所ー」
勝己が歌を歌いながらどんどんと進んでいく。
「待ってよぉーかっちゃん~」
「勝己、出久、あんま遠く行くなよ」
出久が追いかけるように走り出した。
「奏も早く来いよー!」
お兄ちゃんと手を繋いでいた私を勝己が呼ぶ。
「あ……待って!」
お兄ちゃんの手から離れて勝己の元へ駆けて行こうとした時、誰かに手を掴まれた。
「だ、誰……⁉」
おぞましい風貌。手入れのされていない髪。髭は清潔感の一つも感じない。何より、不気味に血走った眼は爛々と私を見ていた。
「お嬢ちゃん、魚住奏ちゃん、だね? その青い髪……」
がりがりの腕が私の髪に伸びる。
「うちの妹に何するんですか……! 奏、こっちに戻って来い!」
お兄ちゃんが男を警戒してこちらに手を伸ばす。
私はお兄ちゃんの元に戻ろうとした。
戻ろうと、した。
身体が動かなかった。
多分、恐怖で身体が動かない、みたいな感じじゃない。男の個性、だと思う。
「動けない……」
「奏……!」
「一緒に来てもらうよ……僕を不死にしてくれる? 奏ちゃん」
男が私を引き寄せる。蛇のような感じでひどく気持ち悪かった。
「いやぁっ‼」
この時、お兄ちゃんの個性は発動できたと思う。でも、地面を這わせて凍らせると、私が抱きかかえられていた所為で私も巻き込んでしまっていたらしい。動いて肉弾戦に持ち込もうとしても私がどうなるかわからなかったそうだ。
一番年上だったお兄ちゃんが動くことができず、周りにも人通りが少ない。
絶望的だった。
「誰か……助けて……!」
誰か、ヒーロー! と願ったとき、私の後ろで爆音がした。
それは、聞き慣れ始めた勝己の個性の音。
「奏を放せ‼」
「かっちゃんだめだよ! 危ないよ‼」
「バカ野郎! 勝己やめろ‼」
出久やお兄ちゃんの制止する声が聞こえる。
「うるっせぇぇぇ‼」
制止する声なんて耳も傾けずに男の顔面に爆破を浴びせる。凄いことに私には一切火の粉すらかからなかった。
存在は脅威だったけど、ヒョロヒョロガリガリの男は、四歳の勝己の爆破数発でダウンした。
「うわっ!」
男が倒れたおかげで、私は男の腕からなんとか抜け出した。
「出久、交番行っておまわりさん呼んで来い」
「はい‼」
お兄ちゃんが出久を交番に走らせた。男は気絶しているみたいだけど、押さえつけておくらしい。
「かっちゃん……」
私に駆け寄ってきたかっちゃんの顔を見たら、私は緊張していた糸が切れてしまって、一気に泣き出した。
「うわぁぁぁぁぁああぁぁこ、こわ、怖かったぁぁぁ」
「泣くなよ、奏」
「うっうぅ……かっちゃん、ありがと……」
泣きながら勝己に抱き着いて一通り泣くと私は疲れて気を失った。
「――雪斗にーちゃん、奏寝た‼」
多分、この事件がきっかけだと思う。私を救けてくれたヒーロー。勝己を好きになった。いや、それよりももっと前から好きだったかもしれないけれど。
明確に勝己を好きな人と認識したのは、この時だった。