うなれ体育祭
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私は今世紀最大に葛藤していた。
「お兄っ……兄……クソッ……雪っ……スノーマン……っ」
葛藤故の兄の呼び名の迷い。
「……どうした、奏」
「――た、体育祭までの二週間、仕事が暇なときでいいから……私に、訓練……つけてください……」
少しでも成長ができるように、少しでも経験をつけたい。
兄が私を見つめて逡巡する。
「だ、ダメ?」
兄はまだ黙る。
「……ダメなら、いいよ。勝己に付き合ってもらう」
「それはダメだ‼ 俺が相手をしよう‼ 安心しろ! 我が妹‼」
ここまでの反応をされると人選間違えたかと思っちゃうな。
『魚住雪斗の奏専用練習メニュー♡
一、体力強化!
二、歌声の使用範囲増大
三、歌声の使用対象増加
四、バリエーションを増やせ‼』
二十代半ばの成人男性が使うにしてはファンシーすぎる紙で引き裂きたくなったけど、抑えきった私はスゴイと思う。褒めてもらいたい。
そして、あっという間に体育祭までの二週間は過ぎていった。
訓練の成果としては、歌声の対象が増えた。調整をすれば、機械をショートさせることもできるようになった。理論上は回線バグみたいなものになるらしい。
体育祭当日がやって来た。
「皆準備はできているか⁉ もうじき入場だ‼」
体育祭の会場の控え室。各々がもうすぐやってくる入場に向けて精神を統一している。
「戦闘服着たかったなー」
「公平を期す為着用不可なんだよ」
「奏ちゃん、浮かない顔ね。寝られなかったの?」
梅雨ちゃんが心配して顔を覗き込んだ。
「……いや、寝たには寝たんだけど……朝からお兄ちゃんがうるさくって……それに、ホラ」
私は携帯のトーク画面を見せた。
「あら、一分に一度のペースでメッセージ」
隣にいた葉隠ちゃんも顔は見えないけれど、ドン引きしている。
「妹想いのお兄さんね」
「うーん、しつこくはあるんだけど……」
携帯の電源を落とした後、控え室の隅で話していた轟くんと出久の声が聞こえてきた。
「おまえには勝つぞ」
「おお⁉ クラス最強が宣戦布告⁉」
「急に喧嘩腰でどうした⁉ 直前にやめろって……」
切島くんが二人の間に入って止めに行く。
「仲良しごっこじゃねえんだ。何だっていいだろ」
「と、轟くんて、よくわからない人だね。あんまし喋らないし」
「奏ちゃんは爆豪ちゃん以外の男子とあまり話さないけどね」
「うぐっ‼」
痛いところをつくねえ、梅雨ちゃん……!
「――皆……他の科の人も本気でトップ狙ってるんだ。僕だって……遅れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で獲りに行く!」
「……おお」
出久が強い目で轟くんを見ていた。私が見たこともないような目だった。
「出久も成長したなぁ……」
ホロリと涙が出そうになった。昔の出久なら、絶対こんな風に言い返したりはしなかった。本当に成長したんだ。
そして、とうとう入場直前となった。
『ヒーロー科‼‼ 一年‼ A組だろぉぉぉぉ⁉』
会場でDJをしているマイク先生の持ち上げっぷりがヤバい。それに、人がスゴイ。多い、ヤベえ。
「奏ーーー‼‼」
プロヒーローたちのいる観客席から兄の声。旗を持ってぶんぶんと振り回している。予想通りだ。恥ずかしいことこの上ない。
「んのクソ兄貴ぃ……!」
「奏ちゃん、素が出てるわよ」
梅雨ちゃんの声で我に帰った。
B組、普通科、サポート科、経営科……と入場が続き、
「選手宣誓‼︎」
際どい衣装のミッドナイト先生が壇上に立つ。十八禁ヒーローのミッドナイト先生が今年の主審なのか。
「十八禁なのに高校にいてもいいものか」
「いい。静かにしなさい‼ 選手代表! 一年A組爆豪勝己‼」
ピシャァンといつも持っている鞭を叩く。
「え〜かっちゃんなの⁉」
「アイツ一応入試一位通過だったからな」
クラスの皆が何かと言いながらも、勝己は気怠そうに壇上へ登っていく。入試が一位通過なのは、事実だから気にもしないんだろう。あの下水煮込み。
「せんせー」
「やべぇ、一抹の不安しかない」
気の抜けた宣誓に長年の勘がそう告げていた。
「俺が一位になる」
「絶対やると思った‼」
切島くん……よくわかったね。これで君も勝己マスターだ。
心の中で切島くんに親指を立てて勝己を見た。
「調子のんなよA組オラァ」
「何故品位を貶めるようなことをするんだ‼」
「ヘドロやろー」
クラス内外から罵声が飛ぶ。
幼馴染を長年していてなんだけれど、敵を作るのが本当に得意だな、勝己。ヒーローよりも敵顔が似合っちゃうんだ。
「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」
「どんだけ自信過剰なんだよ‼ この俺が潰したるわ‼」
けど、残念なことにそういう訳じゃないんだよな……今の勝己の場合。出久と戦ってから、なんか違う感じがするから。
「さーてそれじゃあ早速第一種目いきましょう」
「雄英って何でも早速だね」
「わいゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ‼ さて、運命の第一種目‼ 今年はこれ‼‼」
正面モニターに映し出されたのは、
『障害物競走』。
「計十一クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアム外周四キロ! 我が校は自由さが売り文句! ウフフフフ……コースさえ守れば、何をしたって構わないわ! さあさあ位置につきまくりなさい……」
十一クラス分の人数がスタート位置につく。先頭に立って有利にスタートを切りたかったが、いい場所が取れなかった。
「スターーーーーート‼」
「ってスタートゲート狭すぎだろ‼」
スタートしてすぐ、到底この大人数が楽に通れるはずがないゲートが待ち受けて、もみくちゃにされる。
前方から音がして、地面が凍りついた。
轟くんの氷だ。
「あっぶなっ!」
凍ったらしばらく動けなくなるな。
「ごめんなさい、ちょっと足場になってもらいますね!」
足場代わりに歌で眠らされた人たちの上を走った。申し訳ないから、体重はかけてない。
『さぁいきなり障害物競争だ‼ まずは手始め……第一関門ロボ・インフェルノ‼』
マイク先生の実況が入った。
これは、入試の時の〇ポイント敵。デカいし多い! あと普通サイズの仮想敵もいる。
正面突破は無理。私は火力ないし。
さて、どうしようか。
「お兄っ……兄……クソッ……雪っ……スノーマン……っ」
葛藤故の兄の呼び名の迷い。
「……どうした、奏」
「――た、体育祭までの二週間、仕事が暇なときでいいから……私に、訓練……つけてください……」
少しでも成長ができるように、少しでも経験をつけたい。
兄が私を見つめて逡巡する。
「だ、ダメ?」
兄はまだ黙る。
「……ダメなら、いいよ。勝己に付き合ってもらう」
「それはダメだ‼ 俺が相手をしよう‼ 安心しろ! 我が妹‼」
ここまでの反応をされると人選間違えたかと思っちゃうな。
『魚住雪斗の奏専用練習メニュー♡
一、体力強化!
二、歌声の使用範囲増大
三、歌声の使用対象増加
四、バリエーションを増やせ‼』
二十代半ばの成人男性が使うにしてはファンシーすぎる紙で引き裂きたくなったけど、抑えきった私はスゴイと思う。褒めてもらいたい。
そして、あっという間に体育祭までの二週間は過ぎていった。
訓練の成果としては、歌声の対象が増えた。調整をすれば、機械をショートさせることもできるようになった。理論上は回線バグみたいなものになるらしい。
体育祭当日がやって来た。
「皆準備はできているか⁉ もうじき入場だ‼」
体育祭の会場の控え室。各々がもうすぐやってくる入場に向けて精神を統一している。
「戦闘服着たかったなー」
「公平を期す為着用不可なんだよ」
「奏ちゃん、浮かない顔ね。寝られなかったの?」
梅雨ちゃんが心配して顔を覗き込んだ。
「……いや、寝たには寝たんだけど……朝からお兄ちゃんがうるさくって……それに、ホラ」
私は携帯のトーク画面を見せた。
「あら、一分に一度のペースでメッセージ」
隣にいた葉隠ちゃんも顔は見えないけれど、ドン引きしている。
「妹想いのお兄さんね」
「うーん、しつこくはあるんだけど……」
携帯の電源を落とした後、控え室の隅で話していた轟くんと出久の声が聞こえてきた。
「おまえには勝つぞ」
「おお⁉ クラス最強が宣戦布告⁉」
「急に喧嘩腰でどうした⁉ 直前にやめろって……」
切島くんが二人の間に入って止めに行く。
「仲良しごっこじゃねえんだ。何だっていいだろ」
「と、轟くんて、よくわからない人だね。あんまし喋らないし」
「奏ちゃんは爆豪ちゃん以外の男子とあまり話さないけどね」
「うぐっ‼」
痛いところをつくねえ、梅雨ちゃん……!
「――皆……他の科の人も本気でトップ狙ってるんだ。僕だって……遅れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で獲りに行く!」
「……おお」
出久が強い目で轟くんを見ていた。私が見たこともないような目だった。
「出久も成長したなぁ……」
ホロリと涙が出そうになった。昔の出久なら、絶対こんな風に言い返したりはしなかった。本当に成長したんだ。
そして、とうとう入場直前となった。
『ヒーロー科‼‼ 一年‼ A組だろぉぉぉぉ⁉』
会場でDJをしているマイク先生の持ち上げっぷりがヤバい。それに、人がスゴイ。多い、ヤベえ。
「奏ーーー‼‼」
プロヒーローたちのいる観客席から兄の声。旗を持ってぶんぶんと振り回している。予想通りだ。恥ずかしいことこの上ない。
「んのクソ兄貴ぃ……!」
「奏ちゃん、素が出てるわよ」
梅雨ちゃんの声で我に帰った。
B組、普通科、サポート科、経営科……と入場が続き、
「選手宣誓‼︎」
際どい衣装のミッドナイト先生が壇上に立つ。十八禁ヒーローのミッドナイト先生が今年の主審なのか。
「十八禁なのに高校にいてもいいものか」
「いい。静かにしなさい‼ 選手代表! 一年A組爆豪勝己‼」
ピシャァンといつも持っている鞭を叩く。
「え〜かっちゃんなの⁉」
「アイツ一応入試一位通過だったからな」
クラスの皆が何かと言いながらも、勝己は気怠そうに壇上へ登っていく。入試が一位通過なのは、事実だから気にもしないんだろう。あの下水煮込み。
「せんせー」
「やべぇ、一抹の不安しかない」
気の抜けた宣誓に長年の勘がそう告げていた。
「俺が一位になる」
「絶対やると思った‼」
切島くん……よくわかったね。これで君も勝己マスターだ。
心の中で切島くんに親指を立てて勝己を見た。
「調子のんなよA組オラァ」
「何故品位を貶めるようなことをするんだ‼」
「ヘドロやろー」
クラス内外から罵声が飛ぶ。
幼馴染を長年していてなんだけれど、敵を作るのが本当に得意だな、勝己。ヒーローよりも敵顔が似合っちゃうんだ。
「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」
「どんだけ自信過剰なんだよ‼ この俺が潰したるわ‼」
けど、残念なことにそういう訳じゃないんだよな……今の勝己の場合。出久と戦ってから、なんか違う感じがするから。
「さーてそれじゃあ早速第一種目いきましょう」
「雄英って何でも早速だね」
「わいゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ‼ さて、運命の第一種目‼ 今年はこれ‼‼」
正面モニターに映し出されたのは、
『障害物競走』。
「計十一クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアム外周四キロ! 我が校は自由さが売り文句! ウフフフフ……コースさえ守れば、何をしたって構わないわ! さあさあ位置につきまくりなさい……」
十一クラス分の人数がスタート位置につく。先頭に立って有利にスタートを切りたかったが、いい場所が取れなかった。
「スターーーーーート‼」
「ってスタートゲート狭すぎだろ‼」
スタートしてすぐ、到底この大人数が楽に通れるはずがないゲートが待ち受けて、もみくちゃにされる。
前方から音がして、地面が凍りついた。
轟くんの氷だ。
「あっぶなっ!」
凍ったらしばらく動けなくなるな。
「ごめんなさい、ちょっと足場になってもらいますね!」
足場代わりに歌で眠らされた人たちの上を走った。申し訳ないから、体重はかけてない。
『さぁいきなり障害物競争だ‼ まずは手始め……第一関門ロボ・インフェルノ‼』
マイク先生の実況が入った。
これは、入試の時の〇ポイント敵。デカいし多い! あと普通サイズの仮想敵もいる。
正面突破は無理。私は火力ないし。
さて、どうしようか。