企画参加 小説
夕方、授業終了後。
ノイシュ先生が廊下を歩いていると、ツィと後ろからローブを引かれる。
後ろを見ると、ノイシュのローブの裾を掴んでいるラザラスが佇んでいた。
「おや、ラザラス君。どうしたんだい?」
ラザラスはノイシュのローブの端を、ツイツイと弄りながら、
俯いている。
「ギャレット君待ちかな?
…見当たらないねぇ。
うーん、僕 今からお出かけしようと思っているんだけどなー。
ちょっとこのままだと困っちゃうんだなー…。」
ラザラスは、俯きつつ ボソリと呟いた。
「先生、どこに出掛けるんだ?」
「うーん、友人がやっているパブに行こうと
思っているんだけどねぇ」
その言葉に ラザラスは俯いた顔を上げた。
「先生、保護者同伴としてパブに連れて行って下さい。」
「…わぁ」
ノイシュはラザラスの突然の要求に
思わず声を上げた。
「うーん…じゃあ、パブに滞在する時間は一時間まで。
この条件でもいいなら、連れて行ってあげよう。」
ノイシュはラザラスが この言葉に首肯したのを見とめ、
行きつけのパブに向かった。
パブのカウンター席にラザラスを促し、
ノイシュはカウンターでグラスを磨いているガタイの良い店主に
「いつもの」と伝え、
ラザラスの注文を尋ね、それも店主に伝えた。
店主は「ハイハイ、いつもの…ねぇ。」
と苦笑しながら用意を始めた。
「ほい。坊主のエールといつもの“ハニーミルク”だ。あとこれも」
店主はラザラスに中くらいのジョッキ一杯のエールを、
そして、ノイシュには大ジョッキ一杯のハニーミルクと
大人の肘並みの高さの砂時計を置いた。
ノイシュに向かって「いつも通りほどほどにしろよ」と言い残し、
他の客の注文を受けに立って行った。
「ノイシュ先生、パブに来たのにそれって……」
パブ独特のざわめきに身を縮こませつつ、
ラザラスはノイシュの前にドンッと置かれた大ジョッキ入りハニーミルクを見つめる。
「うん。僕ね、お酒ダメなの。」
何か言いたげなラザラスの視線を受けつつ、
ノイシュはジョッキを嬉しそうに手元に寄せた。
「でもね、パブって情報が集まりやすいんだよね。いろんな人がいろんな話や噂を持ってくるし、
……お酒で気が緩んでいるから 口も軽くなりやすい。情報収集にはいい場所なんだ。ただ、長居すると 僕が酔っちゃうからね。
だから、滞在時間は一時間って言ったんだ。
まぁ、 でもせっかくだしラザラス君も楽しんでね」
懐からメモ帳と鉛筆を取り出し
時々 何か書き出しながら ノイシュはラザラスに向かって微笑んだ。
ラザラスはどこか腑に落ちない気がしつつも、エールに口付けた。
店主の置いた砂時計の上の砂が落ち切った。
それに気づいたラザラスが店の壁掛け時計を見ると、店に入ってから丁度1時間が経っていた。
「ノイシュ先生、一時間経ったぞ…」
ノイシュのローブを控えめに引っ張りつつ声をかけるが、
「うぅーん?どうしたのかなぁ?…あぁ、ラジャラス君ら……」
振り向いた顔は、にへらぁと緩んだ酔いどれのノイシュだった。
若干、呂律が回っていない。
困惑したラザラスは 思わずローブから手を離した。
ノイシュは懐中時計を取り出し
「あぁー…うん、時間かぁ」と呟き
カウンターにチップを置き、ラザラスを手招きしつつゆらゆらとした足取りで店を出ようとした。
したのだが…
ノイシュの行く先、柄の悪そうな連中のテーブルでグラスが割れた。横を通過してないにもかかわらず。
「おいよぉ、メガネの兄ちゃん。俺のグラスを溢しやがって。
どうしてくれるんだぁ。あァン?」
テーブル内でも顔に傷のある厳つい男がノイシュに絡んで来るが、
ノイシュは眠そうな目で
「んー?僕ら、貴方の机に触れてもいないですしぃ、どう見ても言い掛かりではないですかぁ」
と反論する。しかしソレが連中にカチンと来たらしく、騒ぎ出した。
とうとう傷の男がノイシュの顔面向けて右ストレートを叩き込んだ。ノイシュは足元に崩れた。ラザラスは困惑しつつ一歩下がる。
店主が見兼ねて止めようとするが、それを遮る様ノイシュが立ち上がった。
「酷いですねぇ。全く、言い掛かりも甚だしい…。
しかも我々に弁解もさせず拳を上げてくると来た…。では、私も正当防衛という事でよろしいですね?」
低い声でボソボソと呟き、左手の義手を少し触りながら、
ゆっくりと傷の男を見据えた。
ラザラスの耳に店主の「うぁ、ちょっと」
という慌てた声が入った瞬間、傷の男がよろめき、ノイシュの義手手に頭を掴まれテーブルの天板に叩きつけられていた。
どうやら、ノイシュが足払いをかけた後、男の頭を掴みテーブルに押し付けた様だが、そのテーブルは天板が無残にへし折れていた。
ノイシュは気が済んだのか、
呆然と様子を見ていたラザラスに向かってへらりと笑いかけ、
「ごめんねぇーラザラス君。
そろそろ行こっかぁー。」
と声をかけ、ユラユラとおっかない足取りで歩き始めた。
暴挙をしでかした酔いどれメガネに 店主が
「ほどほどにしろって言ったのにヨォ……
あぁ、もう机が……」
とぼやきつつノイシュの背中を強めに叩き、体勢を立て直させると、ラザラスに向かって申し訳なさそうに言った。
「せっかく来てくれたってのにすまんなぁ。酒の代金と諸々はこの赤毛メガネにつけとくから、これからもたまにうちの店に来てくれよ。サービスもするかんな。」
その後、ラザラスはベロンベロンのノイシュを支え引きずりつつ、
ノイシュ先生に奢って貰う時は
パブ滞在時間を45分以内に収めておこうと心に決めた。
《終わり》
ノイシュ先生が廊下を歩いていると、ツィと後ろからローブを引かれる。
後ろを見ると、ノイシュのローブの裾を掴んでいるラザラスが佇んでいた。
「おや、ラザラス君。どうしたんだい?」
ラザラスはノイシュのローブの端を、ツイツイと弄りながら、
俯いている。
「ギャレット君待ちかな?
…見当たらないねぇ。
うーん、僕 今からお出かけしようと思っているんだけどなー。
ちょっとこのままだと困っちゃうんだなー…。」
ラザラスは、俯きつつ ボソリと呟いた。
「先生、どこに出掛けるんだ?」
「うーん、友人がやっているパブに行こうと
思っているんだけどねぇ」
その言葉に ラザラスは俯いた顔を上げた。
「先生、保護者同伴としてパブに連れて行って下さい。」
「…わぁ」
ノイシュはラザラスの突然の要求に
思わず声を上げた。
「うーん…じゃあ、パブに滞在する時間は一時間まで。
この条件でもいいなら、連れて行ってあげよう。」
ノイシュはラザラスが この言葉に首肯したのを見とめ、
行きつけのパブに向かった。
パブのカウンター席にラザラスを促し、
ノイシュはカウンターでグラスを磨いているガタイの良い店主に
「いつもの」と伝え、
ラザラスの注文を尋ね、それも店主に伝えた。
店主は「ハイハイ、いつもの…ねぇ。」
と苦笑しながら用意を始めた。
「ほい。坊主のエールといつもの“ハニーミルク”だ。あとこれも」
店主はラザラスに中くらいのジョッキ一杯のエールを、
そして、ノイシュには大ジョッキ一杯のハニーミルクと
大人の肘並みの高さの砂時計を置いた。
ノイシュに向かって「いつも通りほどほどにしろよ」と言い残し、
他の客の注文を受けに立って行った。
「ノイシュ先生、パブに来たのにそれって……」
パブ独特のざわめきに身を縮こませつつ、
ラザラスはノイシュの前にドンッと置かれた大ジョッキ入りハニーミルクを見つめる。
「うん。僕ね、お酒ダメなの。」
何か言いたげなラザラスの視線を受けつつ、
ノイシュはジョッキを嬉しそうに手元に寄せた。
「でもね、パブって情報が集まりやすいんだよね。いろんな人がいろんな話や噂を持ってくるし、
……お酒で気が緩んでいるから 口も軽くなりやすい。情報収集にはいい場所なんだ。ただ、長居すると 僕が酔っちゃうからね。
だから、滞在時間は一時間って言ったんだ。
まぁ、 でもせっかくだしラザラス君も楽しんでね」
懐からメモ帳と鉛筆を取り出し
時々 何か書き出しながら ノイシュはラザラスに向かって微笑んだ。
ラザラスはどこか腑に落ちない気がしつつも、エールに口付けた。
店主の置いた砂時計の上の砂が落ち切った。
それに気づいたラザラスが店の壁掛け時計を見ると、店に入ってから丁度1時間が経っていた。
「ノイシュ先生、一時間経ったぞ…」
ノイシュのローブを控えめに引っ張りつつ声をかけるが、
「うぅーん?どうしたのかなぁ?…あぁ、ラジャラス君ら……」
振り向いた顔は、にへらぁと緩んだ酔いどれのノイシュだった。
若干、呂律が回っていない。
困惑したラザラスは 思わずローブから手を離した。
ノイシュは懐中時計を取り出し
「あぁー…うん、時間かぁ」と呟き
カウンターにチップを置き、ラザラスを手招きしつつゆらゆらとした足取りで店を出ようとした。
したのだが…
ノイシュの行く先、柄の悪そうな連中のテーブルでグラスが割れた。横を通過してないにもかかわらず。
「おいよぉ、メガネの兄ちゃん。俺のグラスを溢しやがって。
どうしてくれるんだぁ。あァン?」
テーブル内でも顔に傷のある厳つい男がノイシュに絡んで来るが、
ノイシュは眠そうな目で
「んー?僕ら、貴方の机に触れてもいないですしぃ、どう見ても言い掛かりではないですかぁ」
と反論する。しかしソレが連中にカチンと来たらしく、騒ぎ出した。
とうとう傷の男がノイシュの顔面向けて右ストレートを叩き込んだ。ノイシュは足元に崩れた。ラザラスは困惑しつつ一歩下がる。
店主が見兼ねて止めようとするが、それを遮る様ノイシュが立ち上がった。
「酷いですねぇ。全く、言い掛かりも甚だしい…。
しかも我々に弁解もさせず拳を上げてくると来た…。では、私も正当防衛という事でよろしいですね?」
低い声でボソボソと呟き、左手の義手を少し触りながら、
ゆっくりと傷の男を見据えた。
ラザラスの耳に店主の「うぁ、ちょっと」
という慌てた声が入った瞬間、傷の男がよろめき、ノイシュの義手手に頭を掴まれテーブルの天板に叩きつけられていた。
どうやら、ノイシュが足払いをかけた後、男の頭を掴みテーブルに押し付けた様だが、そのテーブルは天板が無残にへし折れていた。
ノイシュは気が済んだのか、
呆然と様子を見ていたラザラスに向かってへらりと笑いかけ、
「ごめんねぇーラザラス君。
そろそろ行こっかぁー。」
と声をかけ、ユラユラとおっかない足取りで歩き始めた。
暴挙をしでかした酔いどれメガネに 店主が
「ほどほどにしろって言ったのにヨォ……
あぁ、もう机が……」
とぼやきつつノイシュの背中を強めに叩き、体勢を立て直させると、ラザラスに向かって申し訳なさそうに言った。
「せっかく来てくれたってのにすまんなぁ。酒の代金と諸々はこの赤毛メガネにつけとくから、これからもたまにうちの店に来てくれよ。サービスもするかんな。」
その後、ラザラスはベロンベロンのノイシュを支え引きずりつつ、
ノイシュ先生に奢って貰う時は
パブ滞在時間を45分以内に収めておこうと心に決めた。
《終わり》
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