師団パーティまで
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「――よし、作戦はこれで決まりだな」
バビルスの地下運動場。処刑玉砲の試合開始直前、私たちAチームは、コートの隅で円陣を組んで最終的な戦術を確認していた。
アスモデウスくんやリードたちが率いる、Bチーム。
Aチームのメンバーは、イルマ、クララ、ジャズ、エリザベッタ、サブロ、アガレス、そして私。
試合前、私はチームの面々に、自分の『体質』をあらかじめ普通に伝えておいた。
「……言っておきますが、私はBチームの連中が放つ『魔力が込められたボール』を直接手で掴むことはできない。魔力を拒絶する私の身体は、球に触れた瞬間に猛烈な拒絶反応を起こして全神経に激痛が走るから。なので、私のディフェンスは基本、すべて『避ける』か、番傘でのレシーブ。キャッチは100%無理だと思って」
私のその淡々とした言葉に、内野のメンバーたちが一瞬だけ目を見開いた。
「えっ、触ると痛いのかよ!? じゃあ絶対にカンナちゃんに直撃させらんねぇな……っ!」
ジャズが大真面目な顔で頭を掻くと、不敵にニヤリと笑った。
「だったらさ、カンナちゃんは最初から『外野』に回ってサポートに徹してよ。内野にいるとどうしても的にされやすいしね」
「外野、か」
「そう。俺たち内野のメンバーが相手のボールをキャッチして、『普通のボール』を外野のカンナちゃんにパスする。魔力が抜けた球なら、触っても痛くないんだろ?」
隣でサブロが武骨な拳を合わせ、我がことのように鼻を鳴らす。
「フハハハ!我ら内野の壁がBチームの魔球を毟り取り、魔力を完全に無力化してカンナへ繋ぐ! あとはカンナのあのデタラメな怪力で、外野からあ奴たちの首根っこを片端から撃ち抜けばいいというわけだな!」
「……なるほど。内野が前線で弾薬を補給して魔力を抜き、後方の私がスナイパーとして敵の陣地を壊滅させる。合理的な戦術だな。…私の身体への配慮、感謝する」
「うんうん、カンナちゃんが痛い思いをしなくて済むのが一番だからね! ゲームの作戦会議みたいでワクワクするよ!」
入間くんが本当に嬉しそうに微笑む。
私は重厚な番傘を肩に担ぎ直し、冷徹な琥珀色の瞳を、対戦相手であるBチームの面々へと向けた。
◇
『処刑玉砲、開始!!!』
カルエゴ先生の声と共に、魔界の処刑玉砲の本番が幕を開けた。
開始早々、Aチームは手癖の悪いジャズがボールを掠め取り、サブロからの攻撃からスタートする。
「ひえぇぇっ!」
入間くんが全自動回避で軟体動物のように弾道を躱し、クララが「ほいさーっ!」とトリッキーに大量のボールを量産。アガレスは家系能力で地面を砕くなど、さすが魔界のドッジボールが開催されていた。
「よっしゃキャッチ!! サブロ、そっちに回すぞ!」
「応よ! ――我がボール、喰らうがいい!!」
ジャズからパスを受けたサブロが、Bチームの内野へ向けて怒涛の一撃を叩き込むが、相手の防御に阻まれてボールが外野の私の元へと転がってきた。
魔力はラリーの応酬の中で完全に霧散している。つまり、今は『魔力の一切ない、ただのボール』だ。
「……お待たせ。お返しだよ」
私は転がってきたボールを片手で拾い上げた。
外野からBチームの横っ腹を捉える完璧なアングル。狙うは、さっきから「よっしゃ内野キープ!」と調子に乗ってステップを踏んでいるリードだ。
私は夜兎の本能を剥き出しにし、華奢な身体をバネのようにしならせると、その白い腕を容赦なく振り抜いた。
ドォォォォォン!!!
空気が一瞬で圧縮され、大爆発のような衝撃波が地下運動場中に轟き渡った。
私が外野から放ったのは、もはや投球などという生ぬるいものではなかった。風を引き裂き、コートの床を丸ごと抉り取るような『超剛速球キャノン砲』だった。
「えっ……? なにあの威力――!!!?」
正面から迫り来る絶望的なボールを前に、リードが生命の危機を察して涙目で絶叫し、全力で床にスライディングして回避した。
ボールはリードの黄色い髪の毛の毛先を数本焼き千切りながら通過し、そのまま、地下運動場の頑丈な壁にメリメリと音を立てて深くめり込み、クモの巣状のヒビを派手に刻みつける。
「「「うわあああ!?!? 嘘だろ、身内同士なのに殺す気かあぁぁ!!!?」」」
リードをはじめ、Bチームの面々が一瞬にして恐怖で顔を引き攣らせた。入間をどう支援するか思案していたアスモデウスすら「な、何という破壊力……! カンナ様を外野に置くにはあまりにも危険すぎる……!」と現実に引き戻され、冷や汗を流している。
内野から魔球を投げてもイルマにすべて避けられ、ようやく跳ね返ったボールを外野の私に拾われたが最後、当たれば確実に1人が消し炭(アウト)にされる。私のいる外野のエリアは、Bチームにとって一歩も近づけない完全な『死の領域』と化していた。
「すごーーーい! カンナちん大爆発!! ドッカーン!!」
「フハハハ! 見事なり! まさに我が目指す魔王の最終兵器!」
「いやいや、味方ながらカンナちゃんの外野、マジで心臓に悪いわ……っ」
ジャズたちが大歓声を上げる。
私は何事もなかったかのようにフゥと静かに息を吐いた。
「ジャズ、サブロ、ナイスパス。……さあ、リードたちの防衛線を一気に壊滅しよう。イルマお兄ちゃん、最後は貴方が決めてね」
「うん、任せて、カンナちゃん……っ!」
外野の支配者としてコートの後方を完璧に封鎖した私は、内野で頼ましく構えるイルマの後ろ姿を見つめながら、不敵にその唇を綻ばせるのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーー
試合は熾烈を極め、両チームの内野メンバーが次々とアウトになっていった。
私の外野キャノンも、さすがに警戒されてパスの供給路を遮断され、気づけばコートに残されたのは――Aチームのイルマと、Bチームのアスモデウスくんの、たった二人だけだった。
「イルマ様……! 私は、全力には全力で…本気で行かせていただきます!」
「うん……! 来て、アズくん。絶対に、捕る!」
二人の間に流れる、親友でありライバルとしての熱い火花。
アスモデウスの全身から、これまでにないほど激しい炎が立ち上る。彼がボールを構えた瞬間、地下運動場全体の空気がじりじりと灼かれるように熱くなった。
(イルマ……)
私は外野のライン際で静かにその瞬間を見つめていた。
魔界でただ怯えて逃げ回るだけだった少年が、サリバン邸の庭園で「みんなの隣に胸を張って立ちたい」と、私を、家族を、仲間を守るための『野望』を語ったあの横顔が脳裏に蘇る。
「――いきます、イルマ様ァッ!!」
アスモデウスの腕が強烈に振り抜かれた。
放たれたのは、巨大な炎を纏った、今日イチの魔力が込められた超剛速球。空気を爆破しながら、直線的にイルマの胸元へと突き進む。
普通の悪魔なら恐怖で竦み、以前の入間なら悲鳴を上げて避けていただろう。
だけど、入間は逃げなかった。
入間はオペラさんの言葉を思い出す。
「悪魔にとって恐怖は屈辱です。」
「恐ろしい時ほど前に出ろ」
(恐怖を興奮に変える、か)
カンナもオペラの言葉を思い出した同時に入間はアスモデウスの剛速球に前に踏み出した。
鋭くボールの軌道を見据えると、天性の危機回避能力を『ボールを捕るため』の完璧なステップへと変換した。
凄まじい風圧に顔を歪めながらも、入間はその身体を回転させ、炎の衝撃をそのままアスモデウスに投げ返したのだった。
ズガァァァァァン!!!
驚くアスモデウスの右肩へと吸い込まれるように真っ直ぐに飛んでいった。
『試合終了!! 勝者、Aチーム!!!』
静寂の後、地下運動場中に割れんばかりの大歓声が響き渡った。
◇
「――入間。貴様の処刑玉砲での厳粛な評価をする。よって、貴様の位階(ランク)を『2(ベト)』へ昇級とする」
試合終了後、腕を組むカルエゴ先生の口から告げられた厳格な宣言。先生の手から入間の手へと手渡されたのは、鈍く輝く『2』のバッジだった。
「やった……っ、やったよカンナちゃん! 僕、ランク2になったよ……っ!」
イルマはバッジを手に子供のように目を輝かせて、私に新しい見せてくれた。
「おめでとう、イルマ。……これでようやく、私の背中(ランク2)に追いついたね。あまり調子に乗っていると、すぐに置いていきますから」
私はフン、と口元を隠すように番傘を少し傾けた。けれど、その不器用な毒舌の裏で、私の唇が嬉しそうに綻んでいるのを、イルマは優しく見守ってくれていた。
これで、私たちは同じランク2の兄妹。
心を殺して戦うだけの世界から、大切な人の『野望』を支える世界へ。
イルマの嬉しそうな横顔を眺めながら、私は自分のポケットにある『2』のバッジをそっと指先でなぞる。
「早く帰ってオペラさんに報告しよう」
「うん!そうだね!」
2人で帰路に着いてオペラさんに感謝の言葉を告げるとドヤ顔のオペラさんと悔し泣きをするサリバン様というカオスな夜となったのだった。
