師団パーティまで
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使い魔召喚の騒動から数日後
位階(ランク)を評価するためのバビルス名物行事、『飛行レース』。それは悪魔たちが自慢の羽を広げ、その飛行能力と魔力を競い合う伝統的な試験だ。
当然、悪魔の羽などない私にとって、このレースはただの「障害物競走」でしかなかった。
カルエゴの掛け声で各々が翼を広げ、勢いよく飛び去る。
風圧によって崖際まで追い詰められた入間を容赦なく蹴落とすカルエゴを見て、陰湿悪魔だと再認識する。
「いつまでスタート地点でまごまごしている。貴様も蹴落としてやろうか」
嫌味たっぷりのカルエゴに対して結構です、と言い放ち叫び声をあげている入間を追いかけるように崖から飛び立つ。
「うわあああ!? 」
「…手のかかるお兄ちゃんです」
私はため息をつきながらサリバン様から貰った番傘『夜帷(よとばり)』を広げて限界まで軽量化した。そして、夜兎の爆発的な脚力で崖の斜面を直接蹴り、真っ逆さまに落ちていく入間の影を追いかける。
途中、入間が巨大な怪鳥の足に捕まって巣へと運ばれていくのが見えたので追いかけるも途中で見失ってしまった。
流石に魔界の地形はわからないため、ここがどこかわからない。
とにかく見渡せる場所へ、と影を登り見下ろしていると
――サブノック・サブロが、金剪の長の猛攻を受けてボロボロになっているのか見えた。
スタート前に金剪のコースは立ち入り禁止と言われつつもそのコースでは無いとダメだとごねていた男を思い出す。
「自業自得、と言いたいところですが……イルマまで巻き込まれるのは寝覚めが悪い」
私はブレーキをかけることなく、大馬鹿なクラスメイトを救うため、金剪の長の前へと躊躇なく飛び降りた。
空中で傘を開いて重力を制御し、衝撃を中和しながら綺麗に着地する。
そこには、怪鳥の攻撃に晒され、血を流して倒れ伏しているサブノックの姿があった。満身創痍のくせに、その瞳だけはまだ無謀な闘志を滾らせて武器を構えようとしている。
「どけ、特待生……! 我は、魔王になる男……! この程度の試練、退くわけには……」
「静かに、大男。死人に魔王は務まらないよ」
私は夜兎の怪力で、襲いかかってきた怪鳥の爪を番傘の盾でガギィン!と強烈に弾き返した。凄まじい衝撃波が谷底を駆け抜ける。
驚愕に目を見開くサブノックを見下ろし、私は冷徹な一瞥をくれた。
「勘違いしないで。無鉄砲に格上の相手に勝負を挑むのは、勇気でも何でもない。ただの無計画な『自殺志願』だ。貴方のやっていることは、己の価値を雑にドブに捨てる愚行よ」
私の戦場育ちの重みを孕んだ容赦のない一喝に、サブノックは一瞬呆然とした。
だが、彼は怒るどころか、自分の無茶を真っ直ぐに指摘されたことで、フッと武骨な顔を綻ばせた。
「……ぬぅ、至言。我が未熟、深く魂に刻んだぞ、特待生。我は魔王を目指すがゆえ、如何なる強者にも挑まねばならぬのだ」
真っ直ぐに「強さ」を求め、己の未熟さを素直に認めるその純粋な瞳。
私はその光の眩しさに、一瞬、息を呑んだ。
(……この大男は、神威とは、違う)
私の脳裏に、かつて春雨の戦場で出会った「男」の影が過る。
ただ己の乾きを潤すため、戦うためだけに身内を傷つけ、血の海へ沈んでいった修羅の男。あの男の強さへの渇望は、どこまでも孤独で、どこまでも狂気だった。
それに比べて、目の前の悪魔はなんと健やかで、可愛げがあるのだろう。
同時に、私の胸の奥に、ほんの少しのただ殺し合うだけの道しか知らず、こんな純粋な「強さへの誇り」すら持てなかったあの男が、今更ながら、少しだけ哀れに思えてしまったのだ。
「特待生? どうしたのだ、我が顔に何かついているか?」
「……何でもない。見た目に反してずいぶんと素直だと思っただけ。」
ふいっと視線を逸らし金剪の長に目を向ける。
もう一撃、仕留めるために爪が高々と振り上げられている。
サブノックも迎撃体制のため武器を構えていた。
「金剪の長は、身体が硬い!先程一撃を入れたが無に等しいぞ!」
「なるほど。なら遠慮しない方がいいかもね」
その言葉にサブノックが首を傾げるのも気にせず、番傘の重力制御を解除しようとした瞬間
「お〜〜〜〜い!!!サブノックくん、カンナちゃ〜ん!!!」
入間が金剪の長の雛と共に乱入してきたのであった
◇
「で、イルマ。なんでこうなったの?」
私たちは金剪の長の背に乗ってゴールに向かっていた。
入間からは金剪の長の雛を手当てをした、とは聞いているが異様に懐かれてる。
「あの、実は…」
サブノックに聞こえない程度にカンナへ耳打ちをする。
「血の効果で、完治…」
「うん、そうなんだ。思ったより魔界では人間の血は貴重なのかも…」
それも一滴で完治するほどの効能。
サリバン様が人間であることを隠すよう言われるのも納得だ。
ならば私、夜兎の血は?
使い魔召喚の日を思い出す。
我こそは、と言った殺気で群がる魔獣。
人間の血と同等、もしくはそれ以上なのか
なんにせよ
「魔界で生きるのも大変だね…」
「あはは、、、そうだね」
2人は正体を隠すことへの認識を改めるしかなかった。
そうこう話をしている間にクラスメイト達の姿が見え始めた。
「おい貴様ら……っ! なぜそんなもので戻ってくる!!」
カルエゴ先生が、目を見開いて呆然とする中、私たちは金剪の長に乗って堂々とゴールラインを越えた。
◇
入間が悪食の指輪をつけるなど騒動を起こしたあと、私のランク発表。
あんな騒動の後に引くのめっっっちゃ嫌だなと思いながらも不機嫌オーラ全開の教師が睨んでいるので梟に手を入れ掴んだのは、『2(ベト)』のバッジだった。
「2、か」
「カンナちゃん意外だな〜、もう少し上かと思ってたや」
リード達が少し驚く声を尻目にカルエゴは口を開く。
「確かに身体能力は抜群だった。が、それ以上でも以下でもない。2も貰えてることにありがたいことだと思え」
「……っ」
カルエゴの容赦のない一言だが、言い返せなかったのも事実だった。
事情知らない者からすれば羽を使って飛ばず、地上走り、地形を破壊して進むなどふざけているように思えただろう。
しかも魔力がないため本来なら評価できないところ2と判断されたのは有難いことだ。
だが、夜兎の身体能力が魔界で通用することが1ではなかった可能性もある。
「……確かに、そうですね。偏屈で老け顔のわりに、ずいぶんと的確な指摘、ありがとございます。2から這い上がれるよう精進いたしますね、先生。あとそんな顔ばかりしていると、余計にシワが増えますよ」
「貴様……ッ! あくまで口の減らない問題児め!」
私は笑顔で言い返すと、カルエゴ先生の眉間がピキリと割れそうに深くなる。
「フン、せいぜいそのランク2から、這い上がってみせることだな」
先生の言葉の裏にある、私の本質を誤魔化さずに見据える鋭い瞳。
その厳格な叱咤は、悔しさよりも先に、不思議なほどの高揚感を胸の奥に灯らせるのだった。
