師団パーティまで
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サリバン邸での数日間の療養中、私はサリバン様、オペラ様、そしてイルマに、自分の本当の種族――宇宙最強の傭兵部族『夜兎(やと)』の体質について、必要最低限の事実を話した。
人間ではなく天人という宇宙人であること
江戸時代に天人が侵略し、人間と天人が共生する世界であること
夜兎は通常の生物を遥かに陸駕する怪力と、自己再生力を持っていること。
臨戦態勢で一度火がつくと、殺戮本能が暴走しかねないこと。
太陽の光が苦手であること。
自分が戦場で多くの命を奪ってきた過去だけは伏せて話したが、サリバン様とオペラ様には私の隠し事は察しているようだった。それでも二人は何も追及せず、ただ私の体質を補うための方法を考えてくれた。
イルマは私の生い立ちを聞いて抱きしめてくれた。
「カンナちゃん、もう動いても大丈夫かい? ほら、君の話を元に作らせた、特注の番傘だよ」
登校前夜、サリバンから贈られた重厚な番傘。周囲の魔力を吸収・中和して私の身体への負担を最小限に抑え、傘自体の重力を制御し機動力を殺さないようにしてくれる、魔界での新たな命綱。
「ありがとうございます。サリバン様」
「んもぅ〜!おじいちゃん、って呼んでって言ってるでしょ!!」
プンスコと怒るサリバンにすいません、と眉を下げる。
命を救ってもらった人(悪魔だけど)におじいちゃんって呼べない…
「それとカンナちゃんの体質について学校側には【魔力拒絶体質(アンチ・マギア)】と伝えてるよ。僕らもどんな体質か詳細がわからないことも多いから何かわかればすぐ教えてね」
「わかりました。」
「学校、楽しんでね。」
おやすみ、と手を振るサリバンに頭を下げ窓を見る。
綺麗な満月が、魔界を優しく照らしているを見ながらベッドに沈んだカンナはそっと目を閉じた
◇
翌朝。私は傘を片手にイルマと共に、バビルスへと足を踏み入れる。
私が療養していた数日の間にイルマが入学初日に『禁忌の呪文を唱えて主席を投げ飛ばした』だけでなく、使い魔召喚の授業では『担任のカルエゴ先生をモフモフした鳥の姿で召喚した』という前代未聞の大不祥事を起こしていた。問題児(アブノーマル)クラス――通称『13組』への配属がすでに発表されていたのだ。
クラス発表の際、カルエゴ先生の口から「もう1名、数日遅れで合流する生徒がいる」とクラスメイト全員に事前に伝えられていたらしい。つまり、私は13組の『最後の1人』というわけだ。
「カンナちゃん、体は本当にもういいの? 無理しちゃダメだよ?」
「イルマ、同じ質問は今朝だけで六回目。少し鬱陶しい。私はもう元気だから前を見て歩いて。あと、学校中から白い目で見られている自覚を持って」
「うっ、面目ない……!」
私の容赦のない指摘に、イルマが分かりやすく肩を落とす。戦場ではあり得ないその情けない姿に呆れつつも、私の歩幅に合わせてくれる歩調の優しさだけは嫌いではなかった。
そこへ、前方から強烈な二つの気配が突進してきた。
「イルマ様―――ッ!! お迎えに上がりました!」
「イルマち〜〜〜! おっはよ〜〜う!!」
イルマの忠実な信者となった首席生、アスモデウス・アリス。そして、緑色の髪を振り乱して猛スピードで突っ込んできたウァラク・クララだ。
アスモデウスが一瞬でイルマの前で跪き、その鋭い視線を隣の私に向けるより早く、クララが私の顔の鼻先5センチまで顔を近づけてきた。
「んんん〜〜〜? だれだれ? ちっこくて白い! 美人さん!日傘さしてる! 」
「っ……!?」
いきなりパーソナルスペースをゼロにされ、私は思わず半歩身を引いた。戦場での癖で危うくカウンターの裏拳を叩き込みそうになり、慌てて理性を総動員して拳を止める。
「あ、クララ、アズくん! この子はカンナ。僕のい、妹なんだ!」
「な、何と……! イルマ様の、妹君!!」
「イルマちのいもうとー! 妹ちん! 妹ちんだー! ねーねー、それなーに? 傘? なんで差してるの? 降ってないよ? 触っていい? ねーえ!!」
アスモデウスが至高の王族を迎えるかのように大真面目にその場に跪く横で、クララは私の番傘の柄を掴んだり、私の服の袖を引っ張ったりと、目まぐるしく動き回る。
悪意が、1ミリも感じられない。ただ純粋な好奇心だけで、津波のように押し寄せてくる。
「……近い。ウァラクさんと言いましたか、少し落ち着いてください。私は珍獣ではありません」
冷徹に突き放そうとしたけれど、私の声など聞こえていないように、クララは「カンナちん! カンナちん! クララって呼んで!一緒に遊ぼう!」と私の周りをぐるぐると回り始めた。
完全に、圧倒されている。戦場のどんな手練れの奇襲よりも、この純真無垢な少女の予測不能な動きの方が、私にとっては遥かに恐ろしい。
(……苦手、だ)
人を疑うことを知らない、底抜けに明るい太陽のような輝き。血に汚れた世界しか知らない私にとって、クララのような存在は、眩しすぎてどう接していいか分からない。けれど、心のどこかで、そんな風に無邪気に笑える彼女が、ほんの少しだけ羨ましいと思ってしまう自分もいた。
「おいウァラク! イルマ様の妹君、カンナ様に何という不敬を! 離れんか!」
「アズアズうるさーい! 妹ちん、一緒に学校探検しよ!」
「……アスモデウスくん大丈夫です。あと探検もしません、教室へ行きます」
アスモデウスの畏まった態度と、クララの怒涛の絡みに挟まれ、私はイルマに助けを求めるような視線を送った。イルマは苦笑しながら「あはは、2人とも、カンナちゃんが困ってるから……」と間に入ってくれる。
ドタバタと賑やかな3人に引っ張られるようにして、私たちは『13組(問題児クラス)』の教室へと向かった。
けれど、そこで私たちを待っていたのは、教室の扉を開けた瞬間に部屋の温度を5度ほど下げるような、圧倒的な威圧感だった。
「――静かにしろ、問題児ども」
教壇に腕を組んで立っていたのは、紫の髪に鋭い三白眼、視線だけで生徒を殺せそうな悪魔。彼こそが、入間に使い魔にされて、怒りと屈辱の絶頂にいる担任――ナベリウス・カルエゴ先生だった。
「……チッ。特待生の身で数日遅れでノロノロと登校してきた不届き者は貴様か。」
カルエゴ先生の冷徹な視線が、真っ直ぐに私を射抜く。
「ノロノロしていたわけではありません。体調管理も学生の義務だとお聞きしたので、完璧に治してから登校したまでです。それと、私にはカンナという名前があります。教師なら、生徒の名前くらい正確に呼んだらどうですか、カルエゴ先生。イルマに不条理な目に遭わされたからって、私に八つ当たりするのは見苦しいですよ」
あまりにも敵意剥き出しすぎてカチンと来てしまった。
私の淡々とした、しかし一切物怖じしない辛辣な言い返しに、クラス中がヒッと息を呑んだ。
カルエゴ先生の眉間が、見たこともないほど深く険しく刻まれる。
「……口の減らない生徒だ。貴様が数日休んでいたせいで、次の工程を止めている。放課後、使い魔召喚の儀式を行う。……身の程を知れ、問題児」
「分かりました。ですが、先生。あまり眉間にシワを寄せていると、余計に老けて見えますよ。では、失礼します」
先生の鋭い視線を、私は冷ややかな一瞥で切り捨てると、自分の席へと向かった。
異様に存在感が薄い少年の隣に座る。
よろしく、というと少し驚いたような表情でよろしく、と返事が返ってきた
名前はプルソン・ソイ。と言うらしい
ここの人たち名前、どっちがファミリネームかわからん。ソイ君でいいか
カルエゴ先生の粛に、という声が響く。
放課後、行われる使い魔召喚。魔力を拒絶する私の身体が、この不機嫌な番犬と正面から激突する瞬間が、すぐそこまで迫っていた。
