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かくて機械屋の本領発揮

 果たしてその三ヶ月後、奏音は精神的に疲労困憊していた。さっくり予定通りに終わったのは璃音のプログラムメンテナンスのみ。天音の義躯改造は細かい作業を要するし、デバッグは案の定難航するしで、根を詰めるような案件しかなかったためだ。
 だが一方で、想定以上の進捗を得られた案件もあった。
『そろそろ聖也さんと風薫さんは休憩の時間じゃないのかな』
 ふわっと枠に囲まれた文字が浮き上がったのは、天音のデバッグ作業を行っている画面の中。それを見て、聖也は凝り固まった背中を伸ばし、風薫は眼鏡型の端末を外した。二人の様子を確認した奏音は、その旨を文字の送り主に伝え、画面を切り替える。映し出されたのは、違法改造を施された医療用培養槽に眠る白髪の少女の姿。奏音がハッキングした、詩音を監視するカメラのリアルタイム映像である。
「詩音ちゃん、変わりないっすか」
 聖也が問い掛けると、スピーカーから少女の声が返る。
「うん。あたしの方は、いつも通りだよ」
 画面の中の少女はピクリとも動かないが、奏音が中継することで双方向の遣り取りが可能になった。音声に関しては、詩音がこうだと思った音声を奏音が合成してスピーカーに流しているため実際の肉声とは多少の乖離がありそうだが、今のところ確認する術はない。
 ただでさえ人外レベルであった奏音の処理能力が改造により大幅に強化され、化け物度合いを増したのが功を奏し、詩音の捜索は予想よりも早く終わった。更には、詩音の囚われている施設の幾つかの機器を乗っ取ることにも成功し、監視カメラの画像を中継したりしている。流石に詩音の眠る医療用培養槽は違法改造の影響で直ぐにはハッキングできる状態になく、奏音の無意識下で少しずつ解析を進めている状態だ。
「代替機の調子はどう?」
 今度は風薫が声を掛ける。詩音もまた、奏音に意識を支えられている裏で、密かに脱出のための準備を進めていた。
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