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かくて歯車は集う

 璃音の持ってきた部品でひとまずの応急修理を施され、奏音が意識を取り戻す。
「お前、本当は奏音というのか」
 開口一番、名前のことから切り出す輝夜に、奏音は困惑したように目を瞬かせた。
「その名前は、大切な、いただきもので」
「そうか。璃音がお前のことを、奏音と呼んでいたからな」
 璃音の名前に反応して、バネ仕掛けの人形のように寝台に起き上がる奏音。
「璃音兄さんはっ!」
「無事だから落ち着け、奏音」
 璃音の声で多少落ち着いたものの、室内を見渡して風薫の姿を認めると、奏音の眉間に皺が刻まれる。その容姿や職業から、最も璃音に接触させたくなかった少女に出会わせてしまった。
 唇を噛み締める奏音の肩に、輝夜がそっと上着を羽織らせる。その時になって奏音は、己の姿が気絶前よりも薄着になっていると気付いた。更に言えば包帯が全て解かれ、損傷の激しかった部位に至っては人工皮膚も剥がされて、新しい部品が見えている。その意味するところは明白だ。
 機械の躰を持つことが、ばれた。というか、強制シャットダウン前の暴走した己の行動を鑑みるに、自らばらしてしまった。事実を悟って、奏音の顔が一気に真っ青になる。
「むしろ無事じゃないのは奏音の方だ。結局、持ってきた部品だけでは足らなかった」
 璃音にたしなめられ、ますます縮こまる奏音の様子は、輝夜が拾った頃と比べると本当に感情豊かだ。身内が来て多少なりとも安心したのだろうと、輝夜は微笑ましく見守る。
「どうする。一旦、帰って、しっかり直してから改めてお礼に来るか? でなけりゃ、天音にぃもこっちに呼んでくることになるが」
 普段の奏音であれば、二重の意味で即答するだろう問いかけ。けれど迷う素振りの奏音に、璃音も笑みを浮かべた。
「奏音の好きにして良いぞ。我々の事情だって、無理に隠すほどのことでもない。言っただろう? たまにはワガママを言ってもらわないと困ると」
「で、でも、流石に天音兄さんを呼ぶのは、ちょっと、その、問題ありすぎると思うのです」
「そうか? 遠隔で見張るよりは良い案だろう」
 頭を抱えてしまった奏音をそのままに、璃音は輝夜を仰いだ。
「奏音がとても良くしてもらったようで、本当に感謝する」
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