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贄人形

 電子文字盤を接続してもらえたので、遣り取りが随分楽になった。元々、特定の病気の患者のために脳波を読み取るタイプの文字盤だったらしく、非常に動かしやすい。
 一番言いたいことは先に天音の口を使って言ってしまったので、文字盤を介しての遣り取りは一見、非常にあっさりと済んだ。天音が念を押して、璃音が心配してくれて、それでも共に在りたいと返事をしたら、天音が予想以上にさっくりと折れた。
 天音の指示で、璃音が何かの機械を取りに出て行く。監視カメラで見送っていたら、天音が未だ、自分の本体を覗き込んでいた。
「奏音、聞こえてるでしょ」
『はい』
「この際だから、色々と言いたいこと言わせてもらうよ。最初、ボクは奏音のことを、どう足掻いても助けられない状態にあると判断した。何故なら、奏音の魂と機械との親和性が未知数だったからだ。普通程度の親和性しかなかったら、たった数時間で全身を、それも脳まで含めて機械に置き換えたら、精神が崩壊してしまう。だから、ボクたちのように生き延びられるとは思えなかった」
『つまり、自分は親和性が高い?』
「その通りだよ、まったく。ボクが知る中でも一番だ。だからボクは、考えを改めた。逆に、協力してもらおうってね」
 天音の表情がいつになく真剣になった。
「璃音には内緒なんだけど、実はボク、不完全品でね。精神を機械に移し替えるときに、不備があったみたいで。精神プログラムにエラーが溜まりやすくて、一応今はロックしたりして対応しているけれど、油断すると色んな衝動に身を任せて大変なことになりそうなんだよね」
『なるほど、だから璃音より乗っ取りやすかったと』
「え、そうなんだ? まあ、そんな訳で、奏音にはボクたちのプログラムメンテナンスを手伝って欲しい。特に、ボクが暴走したら、強制停止でも何でもしてもらって良いから、止めてもらいたい」
 その分、奏音に使うコンピューター関係の部品は奮発するよ、と天音は言う。
「だって、璃音を悲しませたくないでしょ?」
『確かに』
 別の部屋の監視カメラに写る璃音が何かの機械を移動させ始めたので、電子文字盤の履歴を消した。
 ふと思う。詩音のことは、璃音や天音は、知っているのだろうか。
「知られてないよ。教えるかどうかは、奏音さんに任せるよ」
 相変わらず思考が隠せていないらしく、詩音が眉尻を下げながら、責任を丸投げしてくる。
 今、二人を動揺させるのは良くない気がする。だから、もし自分がきちんと生き延びたら、そのときは。
 詩音も頷いてくれた。だから、何が何でも生き延びようと、決意した。
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