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贄人形

 そして天音は本当に、璃音を引き連れて自分の寝ている部屋に来た。
「奏音。まだ生きてる?」
 あんまりと言えばあんまりだけれど、聞きたいことはよく分かるので、さて本体は何処がまだ動くかなと考えた。詩音の助けを借りた今となっては、自分の身体を動かすよりも、同じ部屋の機械を動かす方が楽だったりする。それはそれで人間の身体の限界を感じて辛いのだけれど、人間でない彼等に近付いているのであれば嬉しいなとも思う。
 全身全霊を込めて、なんとか一回だけ、瞼を持ち上げた。とても重くて、また直ぐに落ちてしまったけれど、通じたようだからそれで良い。
「そう。時間もあまりなさそうだから率直に聞くね。奏音、人間をやめてでも生きたい?」
 率直すぎて、きっと何も知らない状況で聞いたら尻込みしていただろう。天音は少々、偽悪的に振る舞うのが好きな気がする。
「機械人形になってでも生きたいか、人間としてこのまま死にたいか、選んで欲しいんだよね。ボク個人的には、無理に生きていても大変なんじゃないかなって思うんだけど」
 返事したいのは山々ながら、やっぱり身体が動かない。
「ほら、璃音。奏音も返事しないしさ」
 しないのではなく、本体ではできないのだけれど、意見を曲解されるのは気に食わない。
 部屋の中の機械で、意思表示できそうなのは。もう、いっそのこと。
「生きたい」
 天音が、バッと口を押さえた。
「私は、生きたい。璃音がお別れしない限り、頑張りたい」
 天音の口を動かすのは、思ったよりも簡単だった。璃音の方が、乗っ取りにくそうだ。
 一人芝居状態の天音に、璃音がオロオロしている。
「璃音。今は天音の口を借りているけれど、天音にずっと喋らせるのも気持ち悪い。医療用培養槽に、電子文字盤を接続して欲しい」
「わ、わかった」
 璃音がパタパタと部屋から出て行って、天音が恨みがましそうにこちらを見た。
 詩音がお腹を抱えて笑っているけれど、それは自分にしか見えていないのだろう。非常に残念なことだ。
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