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贄人形

「お疲れ様、璃音。まさか、本当に有楽部闇呪を消しにかかってくるとはね。なんて言うか、向こうも暇人だよね」
 天音がニンマリとした、あまり気持ちの良くない笑顔で言った。
 璃音は、不機嫌そうだ。
「今は、奏音だ」
「そうだったね。闇呪は廃棄されたから、もういない。ボクらが拾った子は、奏音だ」
 天音は一旦言葉を切ると、真面目な顔になった。
「ねぇ、璃音。わかってるでしょ。奏音はもう、助けられないって」
 やっぱり、それが一般論らしい。なのに、璃音は否定するかのように首を振る。
「だって、あんまりだ、天音にぃ。やっと、やっと表情が出てくるようになったんだ。これからだったんだ。なのにこの結末は、可哀想すぎる」
「璃音は優しいけれど、優しすぎるのが問題だよね。もう少し、現実を見て欲しいんだけどな~」
 璃音は咄嗟に天音を睨み付けたが、天音も真正面から璃音を見返した。
「例えばだけどさ、璃音。遅かれ早かれ、いつかは奏音にボクたちのことを説明する必要が出てくるだろうなとか、それに対して奏音がどう反応するだろうかとか、考えたことなかったでしょ」
「それ、は……」
「奏音は人間だから、成長する。そして、いつかは寿命を迎える。じゃあ、ボクたちはどうだい?」
 どこかで似た展開を見た気がする。
 つまり、自分の周りには、どうやら純粋な人間がいなかったらしい。証拠に、璃音が下を向いた。
「パーツを取り替えなければ成長しないし、適切なメンテナンス次第で寿命が伸び縮みする、その振れ幅が人間よりも大きい機械仕掛けの絡繰人形がボクらだ、璃音。奏音が全てを知る前に別れることができたのは、むしろ良いことじゃないのかな?」
「でも、だからって、こんな終わり方、嫌だ」
 顔を上げた璃音の目は、潤んでいた。泣いて、笑って、自分よりもうんと人間らしいのに、機械仕掛けの絡繰人形なのだと天音は言う。
 ふと、空間の密度が変わった。どうやら録画した分を見終えて、リアルタイムに追いついたようだ。
「イヤだよ、天音にぃ。奏音、泣いてた。悔しそうに、泣いてたんだ。同じ別れるなら、もっと違う顔であってほしかった」
 璃音の懇願に、天音が深く深く、嘆息した。
「璃音。いくらボクが元天才マッドサイエンティストだったとしても、できることとできないことがあるんだよ? 奏音を人間のまま延命するのは、数時間が限界だ」
「そんな」
「だから、奏音に聞いてみよう。このまま人間として一生を終えるか、それともその後をボクに囚われたいか」
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