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かくて輝夜は白華を構う

 うっかりしていた、と白華が思ったのは、扉の外で物騒な音が聞こえるからだ。
 白華にとって電子機器への侵入は、それこそ息をするよりもたやすいことなので、扉の鍵を見つけたときについつい、いつもの癖で閉めてしまったのだった。
 通信端末が手元になければ、どこから通信したのかと勘ぐられることになるので、じっとしていることもできた。流石に、通信履歴は監視されているだろうと考えたので、璃音や天音にも連絡はしていない。
 けれど、あの後に天音が逃げおおせたかは気になっていたし、情報収集のためにニュースを確認してから電脳掲示板まで行って、端末に自分の情報を残さないように誤魔化して、といつもの行動を始めたものだから、その延長線上にある日常動作にまで気を回さなかった。通信端末経由での情報収集という、いつもと少しだけ異なる状態に、多少浮かれていたのも良くなかった。
「ああ、油断大敵ですねぇ」
 現実逃避に走りたくなるのは、扉の外の音が、本当に物騒だからだ。思わず、監視カメラを借りて確認したくなるほどに。
 ただ、鍵のことに即座に気付かれたので、監視カメラを借りても直ぐに気付かれそうで、借りてはいない。ここで新たな爆弾を投げるのは危険だと、白華は判断した。
「ですから社長、チェーンソーは止めましょう! 扉の修理費だって馬鹿になりませんって」
 輝夜にいつも寄り添うように立っていた女性警備員が諫める、怒鳴り声が聞こえる。
 輝夜は何か反論しているようだが、チェーンソーの音がうるさすぎて、扉越しの白華には聞こえない。
「白華さんも! 早く扉を開放してください!! 私たちも、いつまで社長を抑えておけるか判りません!」
「せ、せめてチェーンソーを一旦止めてくださいませんかぁ!」
 白華は涙目で訴えた。扉を開けた瞬間にチェーンソーとご対面とか、怖すぎて無理である。
 一方で、白華は扉に対する支配を意識して、というか相当に我慢して、少しずつ弱めていた。怖さの点から考えると支配を強化したいところだが、今後のことを考えると相手の強さを知っておいても損はないと思ったし、白華の声が扉の向こうまで届いているか不明なため、向こうの人に扉を開けてもらった方がチェーンソーと対面しなくても済むのではないかという目論見もあった。
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