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かくて機械屋の本領発揮

 詩音が救出され、脱出するということは、世間的にはザイオンサーバーが陥落するのとほぼ同義だ。難攻不落の大容量ネットサーバーとして、一流のサービスのみを取り扱っている詩音。急に全ての仕事を停止すれば、社会に与える影響は計り知れない。
 故に詩音は、風薫の用意した代替機へデータを転送し続けていた。最初は奏音の補助が必要だったその作業も、詩音自身に蓄積される負担が減ることにより、今やほぼ単独で進められるようになっている。
「今は十三号機に移しているところ。十二号機までの調子なら、あたしが見た感じは大丈夫そうかな」
「私が見た限りでも、大丈夫だと思います」
 詩音の報告に奏音も口を添え、風薫は頷いた。
「二人揃って大丈夫そうなら、問題ないわね。それにしても、詩音のいた場所に代替機をそのまま置いてくるって決めたけど、ちょっと多くなってきたような気がするわ」
 要はそれだけザイオンサーバーの容量が大きすぎたということだ。代替機を置けば向こうで何とかするでしょ、と風薫が提案したときに奏音は首を傾げたのだが、今ならその気持ちも解る。
「まあまあ。今は休憩する時間だろう」
 耀夜の指摘は尤もだったので、風薫は再度頷き、真理亜から水分補給のためのカップを受け取る。その間も奏音と璃音は天音の義躯の組み立て作業を継続中だ。機械人形たる二人は生身の人間ほどの休憩も必要なく、淡々と手を動かしている。精神的に疲れてきたときには雑談したりもするが、だからといって手を止める必要性はなかった。
「天音の組み立ても大詰めだな」
 耀夜は璃音にも声を掛け、璃音はやっと顔を上げた。
「ん、そうだな。天音にぃの注文が多すぎて、新規に造るのと同じくらいは掛かるだろうと予想していたが、その通りになった。むしろあの時、一ヶ月で造ったのがおかしかった」
 璃音は天音とはそれなりに長い付き合いで、絡繰子の制作も何度か見ているし、天音や奏音の制作に至っては手ずから組み立てにも参加している。あの時、と璃音が言うのは天音が絡繰子になった時で、一ヶ月しか猶予がなかったにもかかわらず、異常なまでに高揚した気持ちで手伝っていたら、何故か間に合ってしまった時のことを指していた。
「一ヶ月って凄いわね?」
 追憶に浸る璃音に、風薫が思い出話をせがむ。興味深そうな幾つもの視線に負け、璃音は訥々と当時のことを語り出す。
 休憩時間の予定を超えてしまったのは、仕方の無いことかもしれなかった。
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