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かくて騒ぎが持ち上がる

 奏音が天音のハッキングに成功し、瓦礫に埋もれる少し前。所変わって、龍神警備会社の社長室。
 緑なす黒髪の美女が、警告音に眉をひそめた。
 彼女の名は、龍神輝夜。龍神警備会社の社長にして、幾つもの会社を抱える龍神一族本家の、しかし妾腹の娘である。
 巷の治安が悪化する一方の昨今、警備業界は需要も多く、反社会勢力の隠れ蓑にもしやすく、魑魅魍魎の跋扈する蠱毒と化している。その中にありながら誠実に業務をこなし、弱者に寄り添う龍神警備会社は、異色の大手として良くも悪くも有名であった。
 さて、そんな輝夜が眉をひそめたのは、彼女の目の前のモニターに流れる特定の情報網に、見過ごせない書き込みが入ったからである。
「破壊テロ……ね。投稿者は、えーと、アンジェ?」
 どこかで聞いたことがあるような、けれど今ひとつ思い出せないような名前に、輝夜は背後に控える女性警備員を振り返った。
「真理亜、アンジェという名に聞き覚えは?」
「幾度かなら。そのハンドルネームを使う者は複数報告されていますが、何かありましたか」
 確かに単純で、名前被りを起こしそうな名前である。
「アンジェのもたらす情報は、正確か?」
「どのアンジェかにもよります」
「そうか。この掲示板に書かれた、破壊テロの……」
 そこで、先程よりも更に大きな警告音。別の情報網、今度は報道サイトにて更新された、ショッピングモールの被害状況。
 主従が顔を見合わせたのは、ほんの一瞬だった。
「現場に行くぞ!」
 社長室を飛び出す輝夜に遅れず、背後にピッタリと寄り添う真理亜。走りながらも、部下たちへの呼び出しは忘れない。
 社長が破壊テロの現場に行くことについては、誰も止める者はいなかった。輝夜がそういう人だというのは、もう皆が承知しているのだ。
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