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かくて都市伝説は現れる

 輝夜は頭を搔き毟りたい気分だった。もしくはいっそ、馬鹿みたいに叫びたかった。
 先程から、続々とトラブルの報告ばかりが寄せられてくる。しかも、通信がどこかからジャミングされている関係で、どれもこれも雑音が混じりすぎ、正確な内容が伝わってこない。
 聖也から受け取った、ショッピングビル破壊事件の最終報告書を読んでいただけの筈なのに、今や全くそれどころではなかった。やはり白華を追い詰めてしまったのが悪かったのか。通信電波ですら掌握できるほどに、彼女は優秀なハッカーだったのか。
 元々、最終報告書の内容が内容だったために眉間に寄っていた皺が、ますます深まっていく一方である。
 聖也ほどではないが、輝夜自身も多少は機械に強い自負があった。通信が不明瞭な時点で一通りエラーの原因となりそうな心当たりを調べてみたのだが、判ったことは、屋敷のセキュリティシステム、特に上空に対するそれが、制御を完全に離れていることくらいだった。
 そう、幸か不幸か、事が起こってからセキュリティシステムを確認した輝夜は見逃した。事が起こる前の、白華からのメッセージ。
『月の掌中の珠から呪われた子が堕ちた天使に迎えを請う』
 白華は迎えを請うていた。その事実を、輝夜は未だ知らない。彼女の手元にあるのは断片的な情報のみで、具体的には数点にまとめられた。
 先ず一つは、報告書の内容。破壊事件の犯人について、未だ手掛かりすらつかめないことから、関与を疑われる都市伝説の名前。
 二つ目は、その事件を事前に察知できるという白華の言葉。彼女の持つハッキング能力の高さ。
 三つ目は、ノイズ混じりの報告をつなぎ合わせて判明した、上空から飛来している謎の影。そして、上空に対するセキュリティシステムが乗っ取られているという事実。
 輝夜は、幾つか誤解していた。昼間の事件について、白華の部屋の扉の制御は聖也が取り返したと思っていたし、アンジェのハンドルネームを持つ人物と都市伝説の関係についても誤認していた。
 だから、断片的な情報から推測した内容に真っ青になって、慌てて白華の部屋へと走り出したのだった。
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