このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

堕天使

 くらっと、目が回った。いわゆる立ちくらみというやつだ。
 実験の経過で避けては通れない有害事象だと、知っている。立ちくらみの頻度が増えて、記憶が曖昧になって、身体が動かせなくなって、永の眠りについたのかと思えば、何故か素体の中ですっきりと目が覚める。他の被験者は、そうだったという。
 頭には、機械が装着されている。周囲のノイズをなるべく拾わないように、機械は被験者の脳に近い場所にあるのが望ましいらしい。見た目的には、少しゴツいヘルメットだ。
 これを被るようになってから、既に……すでに?
 自分は、どれだけこれを身につけているのだろうか?
 ……既に、記憶も曖昧になってきているらしい。背筋がぞわぞわとするのを、気力で隠す。
 だって、今日は、天音にぃが来ている。幸崎博士として来ているのかもしれないけれど、久々に会っているのに、余計なことに気を取られてほしくない。
 幸崎博士の指示に従って、定められた制御装置に座り、素体を動かすよう意識してみる。
 身体が動かせなくなるのと反比例するように、素体を動かせるようになっていくのが通常、らしい。自分の場合は、今までなかった装置、翼が邪魔をしているのか、なかなか自力で自然に動かせるようにはなっていない。翼に限らず、素体の全身そのものも。
 幸崎博士が何か、指示を出している、気がする。でも、おかしいな。聞こえてきているはずなのに、何を言っているのかわからないよ。
 あれ、アマネにぃがリオンのもとに走ってきている。何かあったのかな。
 ……あ、上の上に、カケルにぃとシオンがいる。リオンのこと、呼んでる。行かなきゃ。
 オニーサン、離してよ。シオンが呼んでるんだよ。
 上の上は、きっと広くて……。
8/10ページ
スキ