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堕天使

「僕は幸崎天音。天音って呼んでくれたら良いよ」
 イヤなニンマリをするオニーサンは、アマネというらしい。今はニンマリじゃなくて、カケルにぃみたいにニコニコしている。
「さあ、呼んでごらん? 天音って」
「……アマネにぃ?」
「んーっ、璃音みたいにカワイイ子に名前を呼ばれるって、たまらないね!」
 ふわふわの布ごしにぎゅうぎゅうされて、思わずお腹を踏まれたときと同じ声が出た。
 そう、今、リオンはふわふわのふかふかな布にくるまれている。本当にこれを布と言ってもいいのか、わからないけれど。今までの布とは大違いだ。
 この布、シオンに持って帰ってあげたい。
 シオン。元気になっててね。シオン。
「ふうん?」
 ぞわっとして慌ててアマネにぃを見たら、ニンマリしていた。このニンマリ、イヤだ。
「この僕を差し置いて、何を考えていたのかなぁ、璃音?」
 カンガエテ、って、なんだろう。リオンが何をどうしたの?
 思ったことを言っていいのか、言ったら蹴ってくるのか、アマネにぃはどっち?
「……ふうん、なるほど。璃音には、教育が必要というわけだ」
 キョーイク。蹴られるときによく聞く言葉だ。目をぎゅっとして、蹴られるのを待った。
 ……。
 ……あれ?
 蹴られないな?
 そっとアマネにぃを見ると、片手をあごに当てて、おでこにしわができていた。
 何かぶつぶつ言ってるけど、わからない言葉が多すぎて、聞き取れない。
「よし、まあ、当分の間は読み書きの教育だな。この調子だと、会話もままならない」
 もう一回、キョーイクという言葉が聞こえて、びくっとした。アマネにぃは、そんなリオンを見て、ニヤニヤした。
「明日から忙しくなるぞー。実験内容を理解してもらえる程度になるまで、お勉強だからね」
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