爆豪勝己連載の番外編を置いていきます。
向日葵 番外編
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ヒーロー科のみんなはインターンで、普通科のみんなはテストとかで毎日忙しそうだ。先生達も、ヒーロー事務所との連携やテストの作成とか毎日の授業やらでいつも以上に忙しそうだ。
私は休学中ということで、他のみんなと比べて多少はゆとりのある生活を送っているような気がする。
テストは一応受けさせてもらえることになっているし、みんなが学校に行っている間は授業がなくて手の空いている先生に勉強を見てもらったり、今まで通り時々A組の授業を見学させてもらったり、勝己君達に個性訓練をしてもらったりはしてはいるけれども、他の子達に比べたら時間が沢山あるのは紛れもない事実。
そんな境遇だから私が適任だというのはよーくわかる。わかるん、だけ、ども…
「おい、歌歩擬き!俺を無視するんじゃねぇ!」
だけども無理だよ、この暴君の相手をするのは!!!
◇
それは昼休みのことだった。私は今日も今日とてエリちゃんと遊んでいた。最近小さい女の子達の間で大人気の戦隊ものアニメに登場する女の子と同じ髪型にしたいとエリちゃんにおねだりされてしてあげていたら、突然出久君から
『歌歩ちゃん大変なんだかっちゃんが個性事故に巻き込まれちゃった!!』
というメッセージが入った。その瞬間、すごく怖かった。エリちゃんに謝って通形先輩にエリちゃんのことを頼み急いで勝己君がいる保健室へ向かって
「勝己君!!!!!!」
と、勢いよく保健室のドアを開く、と…
「あ?誰だおめぇ」
そこには間違いなく私のよく知る、爆豪勝己の姿。なん、だけども…
「え…は…え…あ…か、勝己、君…?」
呆然と立ち尽くし名前を呼ぶ私を見て、「だから誰だよおめぇ!俺はおめぇなんて知らねぇぞ」と、怒ったようにキーキーと喚く。その姿は、とても…
「か、か、か、可愛いー!!幼稚園の頃の勝己君だー!!!」
「わっテ、テメッ、なんなんだよいきなり!抱き着くなよ気色悪ィ!!ショタコンか?!ケーサツ呼ぶぞ!!!」
可愛らしい、そう幼い頃の勝己君の姿なのだ。思わずぎゅーっと抱き締めると、小さな手で反抗されまくる。もうそれすらも可愛い…。あれ、勝己君てこんなに可愛かったっけ。なんかもっと人相悪くて口も悪くてあと目つきも悪くて態度大きくてふてぶてしくて愛想なくて生意気な可愛いとは対極の存在だったって記憶してたんだけどもそんなことはなかったんだ。
「あ、あの、歌歩ちゃん…いいかな?状況説明させてもらっても…」
と、遠慮がちに話しかけられて出久君と轟君がいることに気が付いた。2人共すごく気まずそうな顔をしている。
「あっ…!ご、ごめんなさい…お願いします…」
すごく恥ずかしい。慌てて勝己君を離し、何があったのかと聞かせてもらう。
「インターン中に窃盗事件が起きたんだ。で、その犯人が一般市民の人に危害を加えようとして、それに気づいたかっちゃんが一般市民を助けようとして庇った結果、その犯人の個性で…」
こうなっちゃったんだ…とのこと。記憶も身体と同じく幼少期の頃のものに戻っていて現在の記憶はないとのこと。だから雄英へ連れて来るにも誘拐だなんだと暴れ騒がれ、とても大変だったらしい。なんとかしてヒーローだということを理解してもらい、自分が保護される立場だということを理解させてなんとかここまで連れて来たのだとか。
「おじさんとおばさんには?」
「伝えてあるよ。ただ、今2人共遠方の親戚のお葬式で家にいないらしくてすぐには戻ってこれないんだって…」
それもあってヒーローが沢山いる雄英で預かることになったんだ、とのこと。
「そうなんだ…。元に戻すにはどうしたらいいの?」
「その辺はまだわかってねぇ。犯人はもう捕まえたから警察が取り調べしてるところらしい」
だからまぁ、戻す方法がわかるのも時間の問題だろうなと、轟君。
「そっか…。でも可愛いししばらくこのままでも…」
「ダメだろ」
「何言ってんの歌歩ちゃん」
このままでも良いのにねと言おうとしたら2人に真顔でつっこまれた。
「おい!俺のこと無視してんじゃねぇよ、デクのパチモンと半分野郎に歌歩擬き!!」
と、3人だけで話しているのが気に食わなかったらしく勝己君が怒鳴っている。そんな姿もいつもと違ってかわい…は?
「歌歩擬き???!!!」
思わずスルーしそうになってしまったが今、とても聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「おめぇ歌歩に似てっからな。だから歌歩擬きだ。で、こっちのやつはデクに似てっからデクのパチモンで、こいつは髪が赤と白で目がオッドアイだから半分野郎だ!」
ドヤ顔で私達3人のことを見ながら言う。…う、言ってることはなんにも可愛くないけど、なのにすっごく可愛く見える…!と言ったら
「無居はエリちゃんのことも可愛い可愛い言うよな。小さい子だったらなんでもいいのか?」
と若干不名誉なことを轟君に言われてしまったが気にしないでおく。
「それでね、歌歩ちゃんにお願いがあるんだ」
出久君が少し真剣な様子で口を開く。なに?と聞くと
「僕と轟君はエンデヴァー事務所に戻らないといけないんだ。だからその間あの、歌歩ちゃんにかっちゃんの面倒を見てもらえないかって、エンデヴァーや先生達が…」
という。あぁ、それで私が呼び出されたのね。わかったと言うとほっとしたような顔でお礼を言って、2人はいそいそとエンデヴァー事務所へと戻って行った。
そんな訳で、私は小さくなってしまった勝己君の面倒を見ることになった。の、だけども…
「おい!いつまでこんなとこにいりゃいいんだよ!!公園とか連れてけや!!!」
早くも心が折れそうだ。
「ごめんねー…外には行けないから公園もダメなんだー…」
「ハァッ?!ふざけんな連れてけよ!!」
連れてけ連れてけ!!と騒がれ続けて約1時間。ノイローゼになりそうだ。
おじさんもおばさんもすごいな、こんな暴君を高校生になるまで育てたなんて…。元々尊敬していたけどもまた更に尊敬しちゃう。
「おい、無視してんじゃねぇよ歌歩擬き!!」
…どこで覚えて来るんだろ擬きなんて言葉。さっきもショタコンとかオッドアイとか、この年頃の子とは思えないような言葉をたくさん知っていたし不思議。歳の割に賢い子だったのは確かだったけどもここまでだったっけ。
「ごめんねー…。あっそうだ勝己君。外には遊びに行けないけど代わりに、お姉ちゃんと一緒にオールマイトの動画見ない?」
そう聞いてみると「オールマイト?!」と目をキラキラさせた。と、すぐ恥ずかしそうに私から目を逸らしながら「ど、どうしても見てぇって言うなら、仕方ねぇから一緒に見てやるよ」と、赤くなった顔で言う。素直じゃないなぁ。
テレビをつけて動画サイトのページまで飛び、オールマイトと検索すると候補動画が沢山出て来る。サムネイルを見て勝己君はさっき以上に目を輝かせている。…小さい頃の私が、1番好きだった顔をしている。
どれが見たい?と聞くと
「これ!これがいい!この動画のオールマイトが1番かっけぇんだ!!」
そうはしゃぎながら言う。その動画は昔、近所の電気屋さんの店先のテレビで流されていたものだった。
動画を流すとさっきまでの大暴れっぷりが嘘みたいに大人しくなった。私の隣に座って、とても楽しそうに、時に心配そうに、嬉しそうにしたりして見ている。
…懐かしいなぁ。この顔だった。勝己君と出久君がこの顔をしてオールマイトのこと見ているのが、本当に本当に大好きだったなぁ。またこの顔を見ることが出来るなんて思わなかった。
「…おめぇ」
ふと、勝己君がテレビから目を離し私のことを見ながら口を開いた。
「ん?どうしたの?」
と尋ねてみると
「やっぱおめぇ、歌歩に似てんな。その顔特にそっくりだ。あいつ、俺とデクがオールマイト見てっとそんな風に嬉しそうに笑いながら俺らのこと見てくんだ。オールマイトのこと見ずに。変なやつだろ」
と答えられた。私、変なやつって思われてたんだ。数年越しに知ってちょっと衝撃。
「ねぇ勝己君。歌歩ちゃんてどんな子なの?」
こんなチャンス、恐らくもう2度と来ないだろうし、この際だから聞いてみよう。
「歌歩?」
「うん。さっきから沢山お話してくれるから、どんな子なのかなってお姉ちゃん気になっちゃって」
だから教えて欲しいなーと言うと、少しバツの悪そうな顔をされた。ひょっとして聞かれたくなかったのかな。ごめんね、話したくないなら話さなくていいよと言おうとしたら私の言葉を遮って、
「歌歩はすげぇバカだ」
と、いきなりの暴言が飛び出した。
「ば、バカ…?」
「あぁ、バカだ。んで、アホですっとろくて寂しがりやな泣き虫なダメなやつだ」
わっわー…言葉の切れ味が鋭い。さっすが勝己君…。
「そのくせあいつ、最近泣かねぇんだ」
勝己君の声が少し、暗くなった。
「あいつ、泣き虫なくせに、泣かねぇんだ。本当はすっげぇ泣きてぇくせに、大丈夫じゃねぇのに、大丈夫だっつって、すっげぇブッサイクな顔で笑うんだ」
悔しそうな顔で言う。
「ブッサイクな顔?」
「あぁ!すっげぇブッサイクなんだ!泣きそうな顔してんのに、無理矢理笑ってんだアイツ!!」
すげぇムカつく!!と、プンプンと怒っている。あぁ、そうか…
「勝己君は、歌歩ちゃんが大切なんだね」
そういうと「そ、そんなんじゃねぇよ!!けんとー違いなこと言ってんじゃねぇぞ!!」と怒る。顔が耳まで真っ赤になっている。勝己君はこの頃からずっと、ずーっと。私のことを大切に思ってくれていたんだ。
「大丈夫だよ、勝己君。歌歩ちゃんはまた、前みたいに泣けるようになるしちゃんと笑えるようになるよ」
「あ?なんでんなことわかんだよ」
おめぇになにがわかんだよ、とても言いたげな顔で見て来る。思わず苦笑してしまう。
「なんとなく…だよ」
「ハァ?根拠とかなんもねーのかよ…」
呆れたような顔で言われる。ほんとに難しい言葉よく知ってるな…。アニメで覚えた…のか…?でも私の記憶の限り、そんなアニメなかったよね…?
「でもまぁ、礼は言っといてやるよ…」
と少し、顔を赤らめながら言う。照れているらしい。
「うん、ありがとう」
抱きしめながら言うと「離せ!抱き着くんじゃねぇよ!!なんなんだよお前!!すりすりすんな!!!」と暴れられた。
勝己君が小さい頃からどれだけ私のことを思ってくれていたのかが知れたのが嬉しくて嬉しくて。抱き締めずにはいられないよ。とても幸せな気分だ。
◇
つ、疲れた…!幼稚園児の男の子の体力舐めてた…!やんちゃな子だったのは知っていたつもりだったけどもまさかここまでだったとは思わなかった…。
勝己君もすっかり遊び疲れたらしく、すやすやと気持ちよさそうに寝息をたてながらぐっすりと眠っている。寝顔がすごく可愛い。そっと頭を撫でると、「んっ…」とうめき声を上げながら手を払われた。そんなに嫌なのか…。苦笑してしまう。なんて思いながら眺めていると
「…歌歩さん」
エリちゃんが私の服の裾を引っ張りながら名前を呼んでくる。どうしたのー?と言いながらエリちゃんの方を見てみると頬を少しぷくっとさせながらじっと私のことを見つめている。珍しくご機嫌斜め…なのかな?
「エリちゃん…?どうしたの…?」
「明日は私とあそんで」
頬をぷくっと膨らませたまま言う。いつもの様子と違うエリちゃんに戸惑っていると
「エリちゃん、今日1日中ずっと無居さんが爆豪君の面倒見てたから寂しかったんだよねー」
ヤキモチ妬きさんだねーと、通形先輩がエリちゃんの頭をなでなでと撫でながら言う。それに対してエリちゃんが相変わらず頬を膨らませたまま「うん…」と頷く。か、可愛い…!思わずエリちゃんを抱き締めながら
「そうだったんだね、ごめんね!じゃあ明日いっぱい私と遊ぼうね!!」
と言うと、エリちゃんは嬉しそうに「うん!」と返事をして抱きしめ返してきた。抱き締めたら抱き締め返してもらえるのってこんなに嬉しかったんだ。今日1日中ずっと拒否されまくってたから忘れかけてた。
そういえば勝己君にかけられた個性ってどうやって解けるんだろう。まぁ明日にはどうにかなってるだろう。犯人はもう捕まったって言ってたし。明日はエリちゃんと何して遊ぼうかなーなんて考えていると、出久君から連絡が入って来た。なんだろうと思って確認してみると
『かっちゃんの個性は自動で解けるみたい。期間は4日だって。だからあと3日で戻るんだって。それでね、警察の人とかがあと3日間、かっちゃんのことを歌歩ちゃんに面倒見てもらえないかだって』
そう書いてある。何度も確認した。そして何度確認しても書いてある。あと3日、勝己君の面倒を見てくれ、と。えっ…今日1日だけでもこんなにヘトヘトなのに…?明日はエリちゃんと沢山遊ぶってたった今約束したばっかりなのに…?
ということは私、明日はエリちゃんと遊びつつ、勝己君の面倒も見るの…?あの暴君と、可愛い可愛いエリちゃんを一緒の空間にいさせるの…?そ、そんな…!
明日からの3日間は、私の人生の中で1番長い3日間になりそうだ。
「だ、大丈夫だよ無居さん!俺も手伝う!手伝うから!!爆豪君の相手は基本的に俺がするから!!ね!!2人で頑張ろう!!!」
スマホ片手に呆然と立ち尽くしている私のことを見ながら慌ててフォローするように声を掛けてくれている通形先輩が、神様のように見えてくる。
私、この人に一生付いて行く…!
私は休学中ということで、他のみんなと比べて多少はゆとりのある生活を送っているような気がする。
テストは一応受けさせてもらえることになっているし、みんなが学校に行っている間は授業がなくて手の空いている先生に勉強を見てもらったり、今まで通り時々A組の授業を見学させてもらったり、勝己君達に個性訓練をしてもらったりはしてはいるけれども、他の子達に比べたら時間が沢山あるのは紛れもない事実。
そんな境遇だから私が適任だというのはよーくわかる。わかるん、だけ、ども…
「おい、歌歩擬き!俺を無視するんじゃねぇ!」
だけども無理だよ、この暴君の相手をするのは!!!
◇
それは昼休みのことだった。私は今日も今日とてエリちゃんと遊んでいた。最近小さい女の子達の間で大人気の戦隊ものアニメに登場する女の子と同じ髪型にしたいとエリちゃんにおねだりされてしてあげていたら、突然出久君から
『歌歩ちゃん大変なんだかっちゃんが個性事故に巻き込まれちゃった!!』
というメッセージが入った。その瞬間、すごく怖かった。エリちゃんに謝って通形先輩にエリちゃんのことを頼み急いで勝己君がいる保健室へ向かって
「勝己君!!!!!!」
と、勢いよく保健室のドアを開く、と…
「あ?誰だおめぇ」
そこには間違いなく私のよく知る、爆豪勝己の姿。なん、だけども…
「え…は…え…あ…か、勝己、君…?」
呆然と立ち尽くし名前を呼ぶ私を見て、「だから誰だよおめぇ!俺はおめぇなんて知らねぇぞ」と、怒ったようにキーキーと喚く。その姿は、とても…
「か、か、か、可愛いー!!幼稚園の頃の勝己君だー!!!」
「わっテ、テメッ、なんなんだよいきなり!抱き着くなよ気色悪ィ!!ショタコンか?!ケーサツ呼ぶぞ!!!」
可愛らしい、そう幼い頃の勝己君の姿なのだ。思わずぎゅーっと抱き締めると、小さな手で反抗されまくる。もうそれすらも可愛い…。あれ、勝己君てこんなに可愛かったっけ。なんかもっと人相悪くて口も悪くてあと目つきも悪くて態度大きくてふてぶてしくて愛想なくて生意気な可愛いとは対極の存在だったって記憶してたんだけどもそんなことはなかったんだ。
「あ、あの、歌歩ちゃん…いいかな?状況説明させてもらっても…」
と、遠慮がちに話しかけられて出久君と轟君がいることに気が付いた。2人共すごく気まずそうな顔をしている。
「あっ…!ご、ごめんなさい…お願いします…」
すごく恥ずかしい。慌てて勝己君を離し、何があったのかと聞かせてもらう。
「インターン中に窃盗事件が起きたんだ。で、その犯人が一般市民の人に危害を加えようとして、それに気づいたかっちゃんが一般市民を助けようとして庇った結果、その犯人の個性で…」
こうなっちゃったんだ…とのこと。記憶も身体と同じく幼少期の頃のものに戻っていて現在の記憶はないとのこと。だから雄英へ連れて来るにも誘拐だなんだと暴れ騒がれ、とても大変だったらしい。なんとかしてヒーローだということを理解してもらい、自分が保護される立場だということを理解させてなんとかここまで連れて来たのだとか。
「おじさんとおばさんには?」
「伝えてあるよ。ただ、今2人共遠方の親戚のお葬式で家にいないらしくてすぐには戻ってこれないんだって…」
それもあってヒーローが沢山いる雄英で預かることになったんだ、とのこと。
「そうなんだ…。元に戻すにはどうしたらいいの?」
「その辺はまだわかってねぇ。犯人はもう捕まえたから警察が取り調べしてるところらしい」
だからまぁ、戻す方法がわかるのも時間の問題だろうなと、轟君。
「そっか…。でも可愛いししばらくこのままでも…」
「ダメだろ」
「何言ってんの歌歩ちゃん」
このままでも良いのにねと言おうとしたら2人に真顔でつっこまれた。
「おい!俺のこと無視してんじゃねぇよ、デクのパチモンと半分野郎に歌歩擬き!!」
と、3人だけで話しているのが気に食わなかったらしく勝己君が怒鳴っている。そんな姿もいつもと違ってかわい…は?
「歌歩擬き???!!!」
思わずスルーしそうになってしまったが今、とても聞き捨てならない言葉が聞こえた。
「おめぇ歌歩に似てっからな。だから歌歩擬きだ。で、こっちのやつはデクに似てっからデクのパチモンで、こいつは髪が赤と白で目がオッドアイだから半分野郎だ!」
ドヤ顔で私達3人のことを見ながら言う。…う、言ってることはなんにも可愛くないけど、なのにすっごく可愛く見える…!と言ったら
「無居はエリちゃんのことも可愛い可愛い言うよな。小さい子だったらなんでもいいのか?」
と若干不名誉なことを轟君に言われてしまったが気にしないでおく。
「それでね、歌歩ちゃんにお願いがあるんだ」
出久君が少し真剣な様子で口を開く。なに?と聞くと
「僕と轟君はエンデヴァー事務所に戻らないといけないんだ。だからその間あの、歌歩ちゃんにかっちゃんの面倒を見てもらえないかって、エンデヴァーや先生達が…」
という。あぁ、それで私が呼び出されたのね。わかったと言うとほっとしたような顔でお礼を言って、2人はいそいそとエンデヴァー事務所へと戻って行った。
そんな訳で、私は小さくなってしまった勝己君の面倒を見ることになった。の、だけども…
「おい!いつまでこんなとこにいりゃいいんだよ!!公園とか連れてけや!!!」
早くも心が折れそうだ。
「ごめんねー…外には行けないから公園もダメなんだー…」
「ハァッ?!ふざけんな連れてけよ!!」
連れてけ連れてけ!!と騒がれ続けて約1時間。ノイローゼになりそうだ。
おじさんもおばさんもすごいな、こんな暴君を高校生になるまで育てたなんて…。元々尊敬していたけどもまた更に尊敬しちゃう。
「おい、無視してんじゃねぇよ歌歩擬き!!」
…どこで覚えて来るんだろ擬きなんて言葉。さっきもショタコンとかオッドアイとか、この年頃の子とは思えないような言葉をたくさん知っていたし不思議。歳の割に賢い子だったのは確かだったけどもここまでだったっけ。
「ごめんねー…。あっそうだ勝己君。外には遊びに行けないけど代わりに、お姉ちゃんと一緒にオールマイトの動画見ない?」
そう聞いてみると「オールマイト?!」と目をキラキラさせた。と、すぐ恥ずかしそうに私から目を逸らしながら「ど、どうしても見てぇって言うなら、仕方ねぇから一緒に見てやるよ」と、赤くなった顔で言う。素直じゃないなぁ。
テレビをつけて動画サイトのページまで飛び、オールマイトと検索すると候補動画が沢山出て来る。サムネイルを見て勝己君はさっき以上に目を輝かせている。…小さい頃の私が、1番好きだった顔をしている。
どれが見たい?と聞くと
「これ!これがいい!この動画のオールマイトが1番かっけぇんだ!!」
そうはしゃぎながら言う。その動画は昔、近所の電気屋さんの店先のテレビで流されていたものだった。
動画を流すとさっきまでの大暴れっぷりが嘘みたいに大人しくなった。私の隣に座って、とても楽しそうに、時に心配そうに、嬉しそうにしたりして見ている。
…懐かしいなぁ。この顔だった。勝己君と出久君がこの顔をしてオールマイトのこと見ているのが、本当に本当に大好きだったなぁ。またこの顔を見ることが出来るなんて思わなかった。
「…おめぇ」
ふと、勝己君がテレビから目を離し私のことを見ながら口を開いた。
「ん?どうしたの?」
と尋ねてみると
「やっぱおめぇ、歌歩に似てんな。その顔特にそっくりだ。あいつ、俺とデクがオールマイト見てっとそんな風に嬉しそうに笑いながら俺らのこと見てくんだ。オールマイトのこと見ずに。変なやつだろ」
と答えられた。私、変なやつって思われてたんだ。数年越しに知ってちょっと衝撃。
「ねぇ勝己君。歌歩ちゃんてどんな子なの?」
こんなチャンス、恐らくもう2度と来ないだろうし、この際だから聞いてみよう。
「歌歩?」
「うん。さっきから沢山お話してくれるから、どんな子なのかなってお姉ちゃん気になっちゃって」
だから教えて欲しいなーと言うと、少しバツの悪そうな顔をされた。ひょっとして聞かれたくなかったのかな。ごめんね、話したくないなら話さなくていいよと言おうとしたら私の言葉を遮って、
「歌歩はすげぇバカだ」
と、いきなりの暴言が飛び出した。
「ば、バカ…?」
「あぁ、バカだ。んで、アホですっとろくて寂しがりやな泣き虫なダメなやつだ」
わっわー…言葉の切れ味が鋭い。さっすが勝己君…。
「そのくせあいつ、最近泣かねぇんだ」
勝己君の声が少し、暗くなった。
「あいつ、泣き虫なくせに、泣かねぇんだ。本当はすっげぇ泣きてぇくせに、大丈夫じゃねぇのに、大丈夫だっつって、すっげぇブッサイクな顔で笑うんだ」
悔しそうな顔で言う。
「ブッサイクな顔?」
「あぁ!すっげぇブッサイクなんだ!泣きそうな顔してんのに、無理矢理笑ってんだアイツ!!」
すげぇムカつく!!と、プンプンと怒っている。あぁ、そうか…
「勝己君は、歌歩ちゃんが大切なんだね」
そういうと「そ、そんなんじゃねぇよ!!けんとー違いなこと言ってんじゃねぇぞ!!」と怒る。顔が耳まで真っ赤になっている。勝己君はこの頃からずっと、ずーっと。私のことを大切に思ってくれていたんだ。
「大丈夫だよ、勝己君。歌歩ちゃんはまた、前みたいに泣けるようになるしちゃんと笑えるようになるよ」
「あ?なんでんなことわかんだよ」
おめぇになにがわかんだよ、とても言いたげな顔で見て来る。思わず苦笑してしまう。
「なんとなく…だよ」
「ハァ?根拠とかなんもねーのかよ…」
呆れたような顔で言われる。ほんとに難しい言葉よく知ってるな…。アニメで覚えた…のか…?でも私の記憶の限り、そんなアニメなかったよね…?
「でもまぁ、礼は言っといてやるよ…」
と少し、顔を赤らめながら言う。照れているらしい。
「うん、ありがとう」
抱きしめながら言うと「離せ!抱き着くんじゃねぇよ!!なんなんだよお前!!すりすりすんな!!!」と暴れられた。
勝己君が小さい頃からどれだけ私のことを思ってくれていたのかが知れたのが嬉しくて嬉しくて。抱き締めずにはいられないよ。とても幸せな気分だ。
◇
つ、疲れた…!幼稚園児の男の子の体力舐めてた…!やんちゃな子だったのは知っていたつもりだったけどもまさかここまでだったとは思わなかった…。
勝己君もすっかり遊び疲れたらしく、すやすやと気持ちよさそうに寝息をたてながらぐっすりと眠っている。寝顔がすごく可愛い。そっと頭を撫でると、「んっ…」とうめき声を上げながら手を払われた。そんなに嫌なのか…。苦笑してしまう。なんて思いながら眺めていると
「…歌歩さん」
エリちゃんが私の服の裾を引っ張りながら名前を呼んでくる。どうしたのー?と言いながらエリちゃんの方を見てみると頬を少しぷくっとさせながらじっと私のことを見つめている。珍しくご機嫌斜め…なのかな?
「エリちゃん…?どうしたの…?」
「明日は私とあそんで」
頬をぷくっと膨らませたまま言う。いつもの様子と違うエリちゃんに戸惑っていると
「エリちゃん、今日1日中ずっと無居さんが爆豪君の面倒見てたから寂しかったんだよねー」
ヤキモチ妬きさんだねーと、通形先輩がエリちゃんの頭をなでなでと撫でながら言う。それに対してエリちゃんが相変わらず頬を膨らませたまま「うん…」と頷く。か、可愛い…!思わずエリちゃんを抱き締めながら
「そうだったんだね、ごめんね!じゃあ明日いっぱい私と遊ぼうね!!」
と言うと、エリちゃんは嬉しそうに「うん!」と返事をして抱きしめ返してきた。抱き締めたら抱き締め返してもらえるのってこんなに嬉しかったんだ。今日1日中ずっと拒否されまくってたから忘れかけてた。
そういえば勝己君にかけられた個性ってどうやって解けるんだろう。まぁ明日にはどうにかなってるだろう。犯人はもう捕まったって言ってたし。明日はエリちゃんと何して遊ぼうかなーなんて考えていると、出久君から連絡が入って来た。なんだろうと思って確認してみると
『かっちゃんの個性は自動で解けるみたい。期間は4日だって。だからあと3日で戻るんだって。それでね、警察の人とかがあと3日間、かっちゃんのことを歌歩ちゃんに面倒見てもらえないかだって』
そう書いてある。何度も確認した。そして何度確認しても書いてある。あと3日、勝己君の面倒を見てくれ、と。えっ…今日1日だけでもこんなにヘトヘトなのに…?明日はエリちゃんと沢山遊ぶってたった今約束したばっかりなのに…?
ということは私、明日はエリちゃんと遊びつつ、勝己君の面倒も見るの…?あの暴君と、可愛い可愛いエリちゃんを一緒の空間にいさせるの…?そ、そんな…!
明日からの3日間は、私の人生の中で1番長い3日間になりそうだ。
「だ、大丈夫だよ無居さん!俺も手伝う!手伝うから!!爆豪君の相手は基本的に俺がするから!!ね!!2人で頑張ろう!!!」
スマホ片手に呆然と立ち尽くしている私のことを見ながら慌ててフォローするように声を掛けてくれている通形先輩が、神様のように見えてくる。
私、この人に一生付いて行く…!
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