爆豪勝己連載の番外編を置いていきます。
向日葵 番外編
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敵連合から救出され3日過ぎた。命に別状はないとのことだが、未だに歌歩は目を覚まさない。医者の話によると心配はない、目を覚ますのは時間の問題だとのことらしい。
「勝己君また来てくれたの?ありがとね、きっと歌歩ちゃんも喜んでると思うわ」
そう笑いながら話すばあちゃんは、瘦せ細ってしまっている。たった1人の孫がヴィランに誘拐され、帰って来たが目を覚まさまさずずっと眠り続けているんだ。当然か。……もしも帰ってくることが出来なかったら、ばあちゃんはどうなってしまっていたのだろう。考えると怖くなる。
「歌歩ちゃん寝坊助で困っちゃうねー。いつになったら起きるのかなー」
そう言いながら歌歩の頭を撫でるばあちゃんのことをぼーっと見つめる。
「無居さん、少々よろしいですか?お孫さんのことでお話したいのですが…」
遠慮がちに掛けられた声に返事をし、俺に「ごめんね、ちょっとおばあちゃんお話ししてくるから勝己君歌歩ちゃんと一緒にいてくれない?」と聞いてくるばあちゃんにわかったと答えると、ありがとうと俺の頭を軽くぽん、と撫でてから病室を出て行った。……高校生にもなって頭撫でられるなんてな。ばあちゃんの中じゃ俺もデクも歌歩もずっとガキの頃のままなんだろうな。照れ臭く思いつつも少し、胸の辺りが暖かくなった気がして笑みを浮かべそうになった。
「ん……」
扉の方を見つめてぼーっとしていると、静寂に包まれている病室に歌歩の声が響いた。起きたのだろうかと微かに希望を抱き目を向けてみると、まだ眠ったままだった。ため息を吐きつつ、歌歩のベットの近くに椅子を置き、腰を下ろす。
「……ったく、どんだけ寝るつもりだよ。テメェは童話とかに出てくるお姫様かっての」
返事なんて返ってくる訳ないとわかってはいるが、悪態をつきながら頭を撫でてみる。
「かつ、きくん…」
名前を呼ばれ、思わずびくりと肩を揺らす。今度こそ起きたのか?いや、相変わらず。すやすやと寝息をたてたまま、穏やかに眠っている。なんてタイミングのいい寝言だ。苦笑しちまった。
『ねぇ、勝己君』
不意に、幼い日の歌歩の声が耳に響いてきた。
◇
『ねぇ、勝己君』
幼稚園での自由時間。クラスメイトの女子と話していると突然、俺の服の裾を引っ張りながら話しかけてきた。
『あ?んだよ歌歩』
そう言いながら歌歩の方を見てみると、目に一杯の涙を溜めながら上目遣い気味に俺のことを見つめていた。思わずぎょっとした。
『な、何泣きそうな顔してんだよ、どうした?!』
話していた女子がなんか言ってるが無視し、慌てて歌歩の目からあふれてる涙を拭う。
『ねぇかっちゃん!今は××とお話しようよ!歌歩ちゃんが泣くのなんていつものことじゃん、放って…』
『うるせぇ、あっち行けよ!』
そう怒鳴ってクラスメイトを追い払った。アイツ、ことある毎に何かと歌歩につっかかっててなんか不快なやつだったな。名前も顔も覚えてねぇけど。
『歌歩どうしたんだよ。誰かになんかされたのか?』
クラスメイトがどこかへ行ってから、改めて歌歩に尋ねると首を横に振った。
『じゃあどうしたんだよ。なんか嫌なことあったか?』
なるべく優しく質問すると、また首を横に振られた。
『白雪姫を読んでたら怖くなっちゃったの』
グスグスっと鼻水を啜りながら、ぽつりぽつりと話し出した。
『白雪姫?あれ怖いとこあったか?』
1度読んだ切りであまりよく覚えてはいなかったが、最後の結末はハッピーエンドだったはずだ。王子にキスされて、目を覚ますとかそんなだったよな?何が怖いのだろう。継母に殺されかけているとこが怖いと言ってるのか?そう思っていると、
『だって…!白雪姫、王子様が来てくれなかったらあのまま1人でずーっと、寝たままになっちゃってたんだよ…?』
そんなことを言っている歌歩はまた、涙を目一杯に溜めている。
『あ?お前そんなことで泣きそうになってんのかよ。ほんっとどうしようもねぇ泣き虫だな』
溜息を吐きながらそう言うと、『だ、だって…!』と更に泣きそうになりながら言う。
『なんでそんな泣きそうになってんだよ』
ずっと白雪姫が寝たままになったからって別に怖くなくねぇか?そう言うと、『だって…寝たままだと誰かとお話したり一緒に遊んだり会ったり出来なくなっちゃうんだよ…?歌歩だったら悲しいし怖くなっちゃう!』とのこと。想像力豊かな奴だ。
『ねぇ、勝己君』
未だに涙を浮かべたまま、少し真剣そうな様子で名前を呼ばれた。
『なんだよ』
じっと見つめてくる大きな目に、微かにドキドキとしながら返事をした。
『もしもね。もしも歌歩が…白雪姫とかお話の中のお姫様みたいにずっと寝たまま起きなくなっちゃったら勝己君、王子様みたいにチューして起こしてくれる…?』
…その言葉に俺は、どんな風に返したんだったっけな。覚えてるのはやけに心臓の音が喧しく、顔が熱かったことだけだ。
◇
窓の外から日が差し込んで来る。どうやら寝ちまったみたいだ。時計を確認してみると、見舞いに来てから1時間近く過ぎていた。歌歩のベットに顔を埋めて寝てた俺の肩にブランケットが掛けられている。ばあちゃんが戻って来て掛けてくれたのだろうかと思ったが、テーブルの上に置いてあるオールマイトのぬいぐるみを見て、ブランケットを掛けてきた人物の正体に気付き、思わず舌打ちをする。ぬいぐるみの近くに『起きたら食べてね!出久』と書かれた手紙と、クッキーも置いてある。やっぱデクが来てたらしい。俺が寝てるのを見て、何も言わずに帰ったというとこだろう。…ばあちゃんはまだ戻っていないのだろうか。医者との話、まだ終わらないのか。3日目を覚まさないことを考えるに、話すことも沢山あるのかもな。……気分転換に顔でも洗うか。そう思い椅子から立ち上がろうとすると、服の裾をひっぱられる様な感覚がした。視線を向けてみると、歌歩が掴んでいた。…未だにすやすやと寝息を立てながら。離れて行かないでくれ。そう言われているような気がした。苦笑しながら頭を軽く撫で、椅子に座り直しぼーっと眠ったままの歌歩のことを見つめてる。静まり返っている病室の中に、規則正しい歌歩の寝息だけが響き続ける。
『ねぇ、勝己君』
また、あの日の歌歩の声が耳に響いて来る。
『もしもね。もしも歌歩が…白雪姫とかお話の中のお姫様みたいにずっと寝たまま起きなくなっちゃったら勝己君、王子様みたいにチューして起こしてくれる…?』
沢山の涙を溜めた大きな目、じっと見つめて来る顔、今にも声を上げて泣き出してしまいそうなくらい震えた声。全部思い出せるのに、自分がどんな返答をしたのか。それだけが思い出すことが出来ない。
「……なぁ、歌歩。もしも俺が、白雪姫とか童話ん中の王子みてぇにキスしたら、お姫様みてぇに目覚ましてくれんのか?」
頬を撫でながら問い掛けてみるが当然、歌歩から返事は返ってこない。
「勝己君また来てくれたの?ありがとね、きっと歌歩ちゃんも喜んでると思うわ」
そう笑いながら話すばあちゃんは、瘦せ細ってしまっている。たった1人の孫がヴィランに誘拐され、帰って来たが目を覚まさまさずずっと眠り続けているんだ。当然か。……もしも帰ってくることが出来なかったら、ばあちゃんはどうなってしまっていたのだろう。考えると怖くなる。
「歌歩ちゃん寝坊助で困っちゃうねー。いつになったら起きるのかなー」
そう言いながら歌歩の頭を撫でるばあちゃんのことをぼーっと見つめる。
「無居さん、少々よろしいですか?お孫さんのことでお話したいのですが…」
遠慮がちに掛けられた声に返事をし、俺に「ごめんね、ちょっとおばあちゃんお話ししてくるから勝己君歌歩ちゃんと一緒にいてくれない?」と聞いてくるばあちゃんにわかったと答えると、ありがとうと俺の頭を軽くぽん、と撫でてから病室を出て行った。……高校生にもなって頭撫でられるなんてな。ばあちゃんの中じゃ俺もデクも歌歩もずっとガキの頃のままなんだろうな。照れ臭く思いつつも少し、胸の辺りが暖かくなった気がして笑みを浮かべそうになった。
「ん……」
扉の方を見つめてぼーっとしていると、静寂に包まれている病室に歌歩の声が響いた。起きたのだろうかと微かに希望を抱き目を向けてみると、まだ眠ったままだった。ため息を吐きつつ、歌歩のベットの近くに椅子を置き、腰を下ろす。
「……ったく、どんだけ寝るつもりだよ。テメェは童話とかに出てくるお姫様かっての」
返事なんて返ってくる訳ないとわかってはいるが、悪態をつきながら頭を撫でてみる。
「かつ、きくん…」
名前を呼ばれ、思わずびくりと肩を揺らす。今度こそ起きたのか?いや、相変わらず。すやすやと寝息をたてたまま、穏やかに眠っている。なんてタイミングのいい寝言だ。苦笑しちまった。
『ねぇ、勝己君』
不意に、幼い日の歌歩の声が耳に響いてきた。
◇
『ねぇ、勝己君』
幼稚園での自由時間。クラスメイトの女子と話していると突然、俺の服の裾を引っ張りながら話しかけてきた。
『あ?んだよ歌歩』
そう言いながら歌歩の方を見てみると、目に一杯の涙を溜めながら上目遣い気味に俺のことを見つめていた。思わずぎょっとした。
『な、何泣きそうな顔してんだよ、どうした?!』
話していた女子がなんか言ってるが無視し、慌てて歌歩の目からあふれてる涙を拭う。
『ねぇかっちゃん!今は××とお話しようよ!歌歩ちゃんが泣くのなんていつものことじゃん、放って…』
『うるせぇ、あっち行けよ!』
そう怒鳴ってクラスメイトを追い払った。アイツ、ことある毎に何かと歌歩につっかかっててなんか不快なやつだったな。名前も顔も覚えてねぇけど。
『歌歩どうしたんだよ。誰かになんかされたのか?』
クラスメイトがどこかへ行ってから、改めて歌歩に尋ねると首を横に振った。
『じゃあどうしたんだよ。なんか嫌なことあったか?』
なるべく優しく質問すると、また首を横に振られた。
『白雪姫を読んでたら怖くなっちゃったの』
グスグスっと鼻水を啜りながら、ぽつりぽつりと話し出した。
『白雪姫?あれ怖いとこあったか?』
1度読んだ切りであまりよく覚えてはいなかったが、最後の結末はハッピーエンドだったはずだ。王子にキスされて、目を覚ますとかそんなだったよな?何が怖いのだろう。継母に殺されかけているとこが怖いと言ってるのか?そう思っていると、
『だって…!白雪姫、王子様が来てくれなかったらあのまま1人でずーっと、寝たままになっちゃってたんだよ…?』
そんなことを言っている歌歩はまた、涙を目一杯に溜めている。
『あ?お前そんなことで泣きそうになってんのかよ。ほんっとどうしようもねぇ泣き虫だな』
溜息を吐きながらそう言うと、『だ、だって…!』と更に泣きそうになりながら言う。
『なんでそんな泣きそうになってんだよ』
ずっと白雪姫が寝たままになったからって別に怖くなくねぇか?そう言うと、『だって…寝たままだと誰かとお話したり一緒に遊んだり会ったり出来なくなっちゃうんだよ…?歌歩だったら悲しいし怖くなっちゃう!』とのこと。想像力豊かな奴だ。
『ねぇ、勝己君』
未だに涙を浮かべたまま、少し真剣そうな様子で名前を呼ばれた。
『なんだよ』
じっと見つめてくる大きな目に、微かにドキドキとしながら返事をした。
『もしもね。もしも歌歩が…白雪姫とかお話の中のお姫様みたいにずっと寝たまま起きなくなっちゃったら勝己君、王子様みたいにチューして起こしてくれる…?』
…その言葉に俺は、どんな風に返したんだったっけな。覚えてるのはやけに心臓の音が喧しく、顔が熱かったことだけだ。
◇
窓の外から日が差し込んで来る。どうやら寝ちまったみたいだ。時計を確認してみると、見舞いに来てから1時間近く過ぎていた。歌歩のベットに顔を埋めて寝てた俺の肩にブランケットが掛けられている。ばあちゃんが戻って来て掛けてくれたのだろうかと思ったが、テーブルの上に置いてあるオールマイトのぬいぐるみを見て、ブランケットを掛けてきた人物の正体に気付き、思わず舌打ちをする。ぬいぐるみの近くに『起きたら食べてね!出久』と書かれた手紙と、クッキーも置いてある。やっぱデクが来てたらしい。俺が寝てるのを見て、何も言わずに帰ったというとこだろう。…ばあちゃんはまだ戻っていないのだろうか。医者との話、まだ終わらないのか。3日目を覚まさないことを考えるに、話すことも沢山あるのかもな。……気分転換に顔でも洗うか。そう思い椅子から立ち上がろうとすると、服の裾をひっぱられる様な感覚がした。視線を向けてみると、歌歩が掴んでいた。…未だにすやすやと寝息を立てながら。離れて行かないでくれ。そう言われているような気がした。苦笑しながら頭を軽く撫で、椅子に座り直しぼーっと眠ったままの歌歩のことを見つめてる。静まり返っている病室の中に、規則正しい歌歩の寝息だけが響き続ける。
『ねぇ、勝己君』
また、あの日の歌歩の声が耳に響いて来る。
『もしもね。もしも歌歩が…白雪姫とかお話の中のお姫様みたいにずっと寝たまま起きなくなっちゃったら勝己君、王子様みたいにチューして起こしてくれる…?』
沢山の涙を溜めた大きな目、じっと見つめて来る顔、今にも声を上げて泣き出してしまいそうなくらい震えた声。全部思い出せるのに、自分がどんな返答をしたのか。それだけが思い出すことが出来ない。
「……なぁ、歌歩。もしも俺が、白雪姫とか童話ん中の王子みてぇにキスしたら、お姫様みてぇに目覚ましてくれんのか?」
頬を撫でながら問い掛けてみるが当然、歌歩から返事は返ってこない。